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W・E s ワールド・エンカウント ストーリー  作者: ムラツユ
銀糸を纏いし訪問者
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恩師

「ああ、そうだルーエ、今日もちょっと出かけるけど、今回は連れてけないから留守番頼む。」

「?は、はい。別にかまいませんけど、どちらに行かれるんですか?」

「一寸病院にね。」



「ええ!?どこか具合が悪いんですか!?」

「落ち着いて、落ち着け!今はどこも悪くないから、いたって健康体だから!」


 早めに、余裕を持って出ようとしたものの、同居人にものすごく心配されて出発時間が遅れてしまいましたとさ。



 病院へと続く道を気持ち早足で向かう、今朝のトラブルで多少遅れたものの、時間的にはそこまで急ぐ必要はないのだが、これから会う人は自らの恩師と言っても過言ではない人なのだ。

 彼のおかげで今の自分があるといっても過言ではない。

 昔の自分は、それはもう酷いありさまだった。周りからは疎まれ、遠ざけられた時期が自分にもあった。

 ―まぁ、それは、病気のせいでもう一つは自業自得なんだけどな―

 先生は、そんな自分に救いの手を差し伸べてくれた恩人で、あこがれの人なのだ。

 そんなわけで医者を目指す、という意味でもわざわざ難関大学の医学校を受験して遠路はるばる都会まで来たのだ。この町に先生がいたというのも大きい。

 考えごとしているうちに、目的地である小さな町病院に着く。あの人がなぜこんなこじんまりとしたところで職に就いているのか、はなはだ疑問ではある。

 しかし以前、彼が自分の城を持つことが人生で一番幸福なことだ、と力説していたこと思い出し。なるほどそう考えれば確かに立派な建物に見えるな、と思い直した。


「て、そんなこと考えている場合じゃないな。―お邪魔します。」


 中に入ると、助手、だろうか。自分と同じ齢に見える、いまどき珍しいおかっぱ頭の女性が受付で退屈そうに、飴をなめながら診断書らしきものを眺めている。



「…ん?患者かい?いらっしゃい、こんな時間に珍しいね。」


 彼女は一応客人でもある自分に、ずいぶんと不遜な態度でこう返す。さすがに、その対応はどうかと思うが…


「受付…ですよね?勤務中にその態度はどうかと…」


 つい口に出してしまった。

 それでも彼女は眉ひとつ動かさず眠そうにあくびをかみ殺している


「すいませんね、ちょいと徹夜明けでして、あとついでに此処の人間じゃないですよ。用事で寄った時に、手伝わされただけだから」


 一応敬語で謝罪を述べてくるのだが、誠意がまるきり感じられない。わざわざ彼女みたいな人は雇おうとするひとはいないだろう。


「一応、受付なわけだから。仕事はちゃんとしますよ。それで名前と約束の時間は?」


 彼女の態度はやはりそこまで改善した気がしなかったが、時間の無駄と判断して先へと進める。


仲秋(なかあき)だ。約束のほうは、急だったからしてないんだが…無理か?一応恩師、知人ではあるんだけど」

「うーん、ホントは拙いんだけど、見ての通り暇だからね、大丈夫じゃないかな…うん?ナカアキ?」


 丁寧語も長く続かなかったらしくすぐに口調が元に戻る。

 最後に自分の名前に何か引っかかったのか、怪訝な表情をして読んだ後すぐに考え耽ってしまう。


「てオイ、案内は」

「おや、久しぶりだね。仲秋君。ざっと3年ぶりかな?」

 

 突然第三者のこえが聞こえる。その声音は昔よく聞いたものでとても懐かしく感じた。急いで振りかえれば、そこには目当ての人物が立っていた。




「先生!久しぶりです。すいません、なかなか時間が作れなくて…」

「いや、そこまで気にしなくていいよ、それになんたって花の大学生なんだ。こんなところに来るくらいなら、友達誘って遊んだほうが…ああすまない、まだこちらに越してきたばかりだったね。」

「そんなことはありません。とても有意義ですよ。」

「そうかい、何か用があってここに来たんだろう?立ち話もなんだし奥で話そうか、―木之元くん、そちらは宜しく頼むよ。」


 そういうと、了解、といった具合で彼女―貴之元さんというらしい―が手のひらをひらひらさせて、また手元に視線を移す姿が見て取れた。…本当にやる気が見られないな。


「先生、あの子を受付にするのは拙いですよ。品が疑われますって。」

「まぁ、自分のとこの子じゃないから強く言えないんだよね。人手も足りないし、それに彼女、意外と優秀なんだよ。と、着いたよ」


 扉が開け放たれ、中へと招待される。

 そこはどうやら院長室のようで、そこそこ広さもあり外見の割にはとても気品があふれる内装をしていた。


「さて、それじゃあ、話を聞こうか。今日はいったいどうしたんだい?挨拶するためだけに来たんじゃないんだろう?」


 部屋に備えてある来客用のソファに腰かけ、眼鏡の曇りを払いながらも、本題に切り上げてきた。

 今までのことを話すのは少したばかれたが、話さなければ進まないだろうと、意を決して打ち明ける。


「実は…」




「なるほどね、それで病気が再発したのか心配で、こちらへやって来たというわけか。」

「はい、あの、あれってぶり返すものなんですか?」


 子供のころ散々悩まされていたあの症状、あれがまた再発するとなると、正直生きた気がしない。せっかく一からスタートしようとしたときにこれでは、元も子もないじゃないか。


「結論から言おう、その可能性は―ある。」


 時が、止まる。そのまま奈落の底へ落とされるような錯覚さえ覚えた。


「ああ。早とちりしないでくれ、そういった前例も見られるだけで、君がそうだとは限らないよ。」


 それにまた直せばいいだけだ、と付け加える姿を見て、いくらか落ち着きを取り戻すことに成功した。


「しかし、面白い話だ、パソコンから異国風の少女が湧き出るとは、…フム」

「どうしました?」


 ルーエのことを話すと、先生は何か発見したのか突然黙り込んで考え込んだ。


「用事がなければ、君のお宅にお邪魔しようかなと思ってね、もしかしたら原因がわかるかもしれない。」

「ええ!でも病院のほうは」

「今日くらいは開けても大丈夫だろう。さぁ、行こうか」


 そう言って先生と僕は自宅へと向かうのだった。




 あの後、木之元さんを家に帰して、そして雑談をしながら帰路に就く。その時間はとても有意義で、すぐに自宅へと到着した。


「ここです、先生」

「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな。」


 そう言って、なかへと入る。


「ただいま、ルーエ。」

「お帰りなさい、そちらの方はご友人ですか。」


 そういっていつものように出迎えてくれる。ルーエ、先生はどうしたのか黙り込んでいた。


「先生、紹介します。こいつは件の処女で今同居中の子です。ルーエ、この人は」

「仲秋君」


 先程まで黙っていた先生が、突然口を開いて話に割って入ってきた。

 ルーエも、自分も頭の上に疑問符を浮かべる。


「どうしました、先生?」

「すまない、ここまで状況がひどいとは思わなかったんだ。」


 そう、口にだして、話を続ける。


「僕には、何もみえない、ここには君と僕以外、誰もいないはずだよ。」


 一番最初に考えた、もっとも聞きたくない現実を、いの一番に叩きつけられる。

タグ追加した割には、いまだにそこまでいけない、作者です。

多分、この章は戦わないかと思います

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