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W・E s ワールド・エンカウント ストーリー  作者: ムラツユ
銀糸を纏いし訪問者
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違和感

 パソコンから出てきた少女との奇妙な同居生活もかれこれ一週間が過ぎようとしていた。まあ、かといって何事もなく、無事に過ぎ去って行ったのだけど。それはどちらかというと、どこにも出かけなったのが理由の一つだと考えられる。



 いろいろとお金を使いすぎた。それが彼女とであって三日目の最初に考えたことの一つだ。でも仕方ないだろう。女が化粧をして周囲に見てもらおうと必死になるのと同じで、男はその懐のでかさで女に惚れてもらおうとする生き物なのだから。

 少なくとも田舎ではそう教わった。だから実行したのだが、出費が嵩張り財布に閑古鳥が舞い降りたかのようになっている。


 そのおかげもあり、ルーエとは絆が深まったのはよしとする。

 結果は上々、財布の中身は素寒貧。それがあらかた済ませたあとのありさまだった。

 さすがにこれは拙い。そう思ったときにはすでに、臨時のバイトを毎日のように入れて、その中からいくつか頼み込み、前借して何とか都合つけたりと、以前よりも金策に走る日々が続いた。

 それでも毎日が充実していたのが言うまでもない。

 くたくたになりながら家に帰ると、そこには綺麗な銀髪の髪をした少女が出迎えてくれるからだ。最近は料理を教えてほしいといわれ、拙いながらも自分のために料理をふるまってくれるのだ。

 拙いとは言ってもそれは器具になれてないからであって、単純な技量では元から勝負にならないくらいだと思っている。



 とにもかくにも、おそらくだが、世界で一番幸せなんじゃないかと思うくらいの生活が一週間続いた。唯一の心残りと言えば、いまだに二日目以降彼女と出かけていなく窮屈な思いをさせているんじゃないか、という独善的なものだけだ。

 ―これ自体も要は遊びに行きたいだけなんだよな、おれが。―

「ほらそこ、ぼーっとしない。まだ勤務中よ。」

「あ、すいません」

 今は給料が割とよかったユニクロでアルバイトとして働いている最中だ。ここは二日目に来た場所でもあり、先輩として以前接客を担当していた福井さん(23)が指導に当たっている。

「それにしても、私も見てみたいなぁ。君の彼女。すごい可愛いんでしょ?」

「可愛いのは否定しませんけど、彼女じゃないですってば。」

「照れちゃってもー、まぁでも自分がコーディネートした服をどんな人が着るのかって気になるもんだよ。普通は。―だから一度でいいから仕事場に連れてきてお願い!」

 最後、まくし立てるように、頭を下げて嘆願する。その勢いたるや、周りが引いていくほどのモノだった。

「いや、邪魔にならないんでしたら、別にかまいませんけど…」

 ふと、違和感を覚える。

「ていうか、福井さんは一度見ているじゃないですか。この店にやって来た時に」

 その疑問を目の前の先輩に吹っかけてみると、頭に疑問符を浮かべて、不思議そうにこう返してきた。

「え?あの時は確かあなた一人で来店したはずよ。少なくとも女の子が同伴してたなんてありえないわ」

 それなら一番に気づくもの、わたしが。と自信満々に胸をそらす先輩を見て、違和感がまた大きくなる。それは心にしこりを残して、バイトが終わってからもいいようのない不安が漠然と残るのだった。




 バイトが終わり、急いで自宅へと帰る。まるで先ほどの違和感を確かめるためにか、若しくは逃れるようにか。息を切らして、それでも疾く走ろうと努力する。

 今は、自分の吐息でさえ、煩わしかった。

 ようやく、自らの自宅の前まで辿り着く。そのまま、勢いに任せドアに手をかけようとしたところで、考える

 ―もし、この仮説があたっていたとして、どうする?

―いや、その時は自分が狂っていただけだ、一笑に伏せばいい。

―その夢から冷めてもいいのか?

―言い訳がない。でも、夢はいつか覚めるものだ。なら早いうちのほうが傷は小さい。

―自分が元から狂っていたと、そう思いたくないだけだろう?

―嗚呼、そうだ、それの何が悪い。

頭の中で目まぐるしく思考が廻る。機械でもないのに回路がショートする寸前のように熱く、痛かった。

―やーい、オオカミ男―

―ちがわい、ホントのことだもん!―

 昔の記憶が蘇る、子供の頃の誰にでもあるような、そんな記憶が。

 何を馬鹿な、先生だって言っていただろう、あれは一過性の病気のようなものだって、それが今更ぶり返すなんてありえない、ありえちゃいけないんだ。

 あの子はただの外国生まれの女の子、それ以上でも以下でもない。

 そう、自分に言い聞かせて、意を決するようにドアを開く。




「お、おかえりなさい。ご飯で来てます、よ?」

 そこには、一週間ずっと変わらないで自分と一緒にいてくれたルーエの姿があった。

 構わずたまらず、彼女にベタベタと触れてみる。

「あ、え、な、なに、ひゃあ!」

「体温ーある、呼吸-よし。脈‐正常。人間、だよな。」 

 手首から始まり、額、そして、首筋と触っていたからか、ようやく安心したように吐息をもらし、緊張で凝り固まった体をほぐす。

「なな、何をするんですか!?」

「へ?…あ、スマン!ちょっと気が動転してて…」

 いきなり何も言わずに、全身触られたら女性じゃなくても、誰だって、怒る。というか完全に変質者のそれじゃないか。

―何やってんだ、俺…。

 よほど、焦っていたのか、周りの物音や自らの状況も鑑みないほど前後不覚に陥っていたようだ。

 彼女はこれでも起こってます。といった表情で、こちらを見ていたたが、なにかに気付いたのか、すぐに個室の奥へと向かい、あるものをとってきて、こちらに手渡してくる。

「汗、すごいですよ。何かあったんですか?」

 まだ、春のうららかな気候の、さらには日もくれたころなのに全身からはいやな汗が滝のように流れていたようで、今更川にダイブした後のような服の張り付き具合に不快感を感じる。まぁ、つまりはタオルを持ってきてくれたのだ。

 「ありがとう、いやー、風が気持ちよかったから、つい全力疾走して帰って来たんだよ。」

 咄嗟に嘘をついて、その場はごまかすことにした。

 正確に言うと、嘘五割、歪曲まがいの真相五割だ。

「そ、そうですか。でしたら、先にお風呂でもいかがですか?」

 こちらを気遣ってかそれとも見苦しかっただけか、先に汗を流して来いと言われてしまった。いや単純にありがたい話ではある。

「ああ。そうさせてもらう。すぐ済ますから」

 そう言って話を切り上げ、風呂場へ向かうことにするのだった。




「ふぃー、生き返るぅー」

 汗を流して、よく洗ってから、桶に満たされた湯船の中に静かに入る。

 少し熱めの温度がバイト疲れの体には沁みるように心地いい。

「いやー、ホントに何考えてんだろ?自分で考えときなから馬鹿馬鹿しい。」

 あんな生き生きとした子が幻覚だなんて、ありえないじゃないか。

 見てきたやつだってあれの数倍落ち着いていたり、おどろおどろしかったり、今思い出してみれば、見るに堪えないものがほとんどだったじゃないか。

 まるで正反対、だからこそ―

「―これ以上入ってたら、のぼせるな、確実に。さっさと出よう。」

 長い間考え込んでいたようで、思考が緩くなり、体の感覚がなくなっていくのを感じる。

 ―そうだ、明日は久しぶりに検診に行ってみようか、もう大丈夫だって言ってたけど。いつ来てくれても構わないって言ってたし―

 明日の予定も考えながら。ふらつく足で風呂場を後にするのだった。



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