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W・E s ワールド・エンカウント ストーリー  作者: ムラツユ
World Examiner begining ~異なるモノ達~
41/46

NOとは言えない日本人

「…わかった、俺は手伝うよ。」

「本当か!?」


 というか、ここまでされてNOと言える日本人がいるだろうか、いや、いない。

 それにしても、家族、か。

 …爺さん婆さん元気にしているかな…。


 それと、どうやらこれに関しては、みんな異論は無いようで俺がやるならついていくそうだ。

 ただ一つだけ言うならリーダーになった覚えはないからな?みんな。


「ただし!いくつか条件がある。」

「な、なんだ。」


 無事に協力者を得られたことで武士娘が安堵の息を吐いたのも束の間、畳み掛けるように最低限わかってほしい譲歩というものを突き付ける。


「まずは一つ。正直命を擲つとか一生仕えるとかそういう重い話話はなしだ。」

「しかし、それでは拙者の気が」

「それはまあ追々考えるさ。まだ目的を達成したわけじゃないから、時間はいくらでもある。」

「む、むう。」


 武士娘はいまだ納得の言ってない表情を見せたが渋々と頷く。

 一般学生が人一人の命を預かるとか狂気の沙汰に近い、少なくとも現代日本ではそういうのは緊急事態に陥った時くらいで、それ以外は勘弁してほしかった。


 一つは単純に養えるほどの経済力がないのとまあ、あっちに連れていけないということも混ざっている。

 幼児誘拐の犯人でタイーホとかいやすぎる。


「それともう一つ。どちらにせよ次に手伝えるのは今から一週間後になる。俺たちにもやることはあるっていうことは理解してほしい。」


 これが一番呑んで欲しい事項の一つだ。


 もともと俺たちの本分はしがない学生の身であり、ここにきているのも一時的に仕事で雇われているからに過ぎない。

 あちらの生活というものもあるし、何より周りに心配かけることは極力避けたかった。


 この条件に件の武士娘はどうしたかというと、さすがにいったん考え込んでいた。

 やがて、意を決したようにこちらを見上げる。 


「それだけでも助かり申す。こちらも一つだけよろしいか?」

「うん?なんだ」

「せめて、名前だけでも預かってほしい。信頼と感謝の標として」

「その行為がどういうことかわかっていっているのか?」

「無論、それぐらいは承知の上」

「…そうだな、これから互いに協力するんだし。互いにし自己紹介でもしとこうか」


 そうして、次々と自己紹介するうちにふと、まだ一つ問題が生じた。

 -あれ?そういや俺、自分のニックネーム、もしくはハンドネームを考えてないぞ?―

 いやそもそもの話、ルーも普通に名乗ってたしそれに最初のころ俺も本名を名乗ってなかったか。あれ、結構拙い状況じゃ…

 

「どうしました?次はツナギさんの番ですけど…」

「ウェイッ!お、おお。俺は…ツナと呼んでくれ。」


 すでに手遅れな気もしなくもないが、即行で考えた名前を出す。

 言い淀んだことを訝しまれたが、武士娘はすぐに気を取り直したように高らかと、それでいて誠意をこもった名乗りを上げた。


「拙者、名を矢吹(やぶき)燈花(とうか)と申す。トウカ、と呼んでくだされば問題はありませぬので良しなに」

「そっか、よろしくなトウカ」 


 ガッシと互いに手を出し握手をする。

 これでひとまず決着はついた

 …思えたが。



「なんかいい話にまとまっていたところ悪いんだが」

「店主、どうなされた?」

「お前さんら、忘れてねぇだろうな。さっきまでたらふく食った飯代のことを」

「う゛。」


 あえて、俺もトウカも言及を避けた話題を直に突きつけられる。

 店長に至っては死活問題なので彼を咎める者はいない、というより今回はどう考えても悪いのは俺たちで、しいて言うなら主犯?はそこで汗を滝のように流している幼女で…。

 何を思い至ったのかいい笑顔でこちらに振りむいてきた。


「ツナ殿、此処の支払いは任せてもよいだろうか?」


 そんなことをのたまう幼女にこちらも目一杯の良イイ笑顔で宣言する


「フザケンナ☆」

「そんな殺生な!?確かこういう場合代金は助けた人が持つと相場が決まっているではないか!」

「そんな話聞いたことねぇよ!?いやもちろん最初はこっちで持とうと思ったけど限度があるだろが!」


 そんなこんなで代金をめぐる仁義なき戦いが始まる。

 ちなみに今回の飯代を払おうとしたら全員分の給料が軽く吹っ飛んで、そのまま借金こさえてのスタートになる。それだけは阻止せねばなるまい。


「あ、そうだ店長。この子雇えばいいんですよ。飯代払い終えるまでただ働きで」

「へ?あの、ツナ殿?」

「おお、その手があったな、ちょうど人でも足りなかったことだし。ま、こんなちびっこでもできる仕事はあるしな」

「失礼な!拙者はもう元服をすましている、今年で一九だ!」

「ほうほう、なら仕事にも差し支えなさそうだな。良しこっちこいや早速給仕服の採寸とらなきゃな」

「あ、いや、ちょ」


 その後、あれよこれよと武士娘-トウカは店長に連行されていった…南無。

 ついでに今持っているこの国の通貨を全てランに預けて、代金の足しにしておいてほしいと言付けしてついでに別れの挨拶も済ませてその場を後にするのだった。




「結局関わるんデスネ。お人よしさん?」

「う、仕方ないだろうあんな話聞かされたら。それより、もうそろそろ帰らないとみんな心配するんじゃないか?連絡が取れないんだし」

「転送装置も、重要だ、だが通信機も、欲しいな」

「そうすればどこにいても連絡が取りあえますからね。」


 思い思いに話しながら、転送装置が置かれていると聞いた町長の家へと向かう。

 この町は一体となって日本の調査に協力しているらしい、ただそれが武力によるものかそれとも平和的な話し合いの元なのかは、詳しく聞かされていない。

 少なくともここに初めて乗り込んだ時には衝突があったことは確実で、ついでに言うと以前此処で町長を務めていた人は今、息子に座を譲って自らは日本との外交に執心しているとのことだ。

 いったいどのような外交になっているかは知る由もないが、そのバイタリティは見習いたいものがある。


 とそんな前情報のおさらいをしているうちに目的の場所に着いた。

 あとは、行きとと同じように、装置を使えば-





「や、みんなおかえり~、遅かったね。」

「怪我がなさそうでなにより」


 視界が暗転して数秒も経つと聞きなれた。それでいてすこし懐かしい声音が聞こえてきた。

 そこには予想通りの、性格がまるで正反対の二人が出迎えて…


「ってクーさん、その傷はどうした!?」


 否、もう一人の銀髪美少女が上半身をさらけ出して、そこにおかっぱ少女がテーピングやら手当をしているところだった。

 そして上半身のいたるところに擦り傷や打撲の跡が残っている。


「やん、エッチ」

「ッとスマぶぅるぉぉぁぁ…」

「いつまで見てんデスカこの変態ぃぃ!」


 カミュさん、最近アグレッシブになってきましたね…自分の身体持つかどうか心配です。

 そして意識が暗転する…ことはなくすぐに復帰した。

 代わりにクーさんの治療が終わるまでカミュに目隠しされてしまう。

 …できれば、ルーにやってほしかった。ボリューム的にm


「あ゛ゝ゛ん゛」

「オーケー落ち着こうか、というかヒノはいいのか?」

「ヒノさんはすでにイオリサンの手で隠されてるからモーマンタイ。」


 あれ、さっきまでいなかったよな…。

 あ、でもそんな深く考えたら負けなきがしてきた。


 まあ、道理にかなってはいるので治療が終わるまで目をつぶったままでいようそうしよう。

 

「おっし!終わったよみんな。男子連中ももう大丈夫だよ」

「とか言いつつ、実はまだ服着てないだろ。衣擦れの音がしなかったぞ」

「それは本当かツナギ」

「おおっと、ばれたか。というか衣擦れの音で気付くとか、なかなかのむっつりですなぁ?」

「しまったぁ!!あづぁ」


 だって仕方ないだろ、うちは手狭なおんぼろアパートだから風呂とか着替えの時にこう、ごく小さな音が漏れてくるんだもの。

 だから俺は悪くないイタタタタ。


 カミュにアイアンクローをかけられているうちにホントに着替えが済んだらしく、今度は五織さんの口からOKサインが出た。彼女なら信用ができるからそのまま目を開ける。

 お約束の展開なんてあるわけがなくちゃんと服を着ているクーさんの姿がそこにはあった。


「イタタ、それでその傷はいったいどうしたんだ?」

「問題ない、ただのかすり傷。」

「いやそうじゃなくて」

「まあこっちにもいろいろあるわけで、クーちゃんの射撃能力見たでしょう?それが買われて一寸危ない仕事もしているのよ」

「…大丈夫なのか?」

「もう慣れた、それにこれは私が私のためにやってることだから」


 その、クーさんの有無を言わせない鋭い視線に言葉が詰まる。

 それは、自分の意志でここにいて誰にも邪魔はさせないと固く決意している目だった。


 さすがにこれ以上は野暮だろう、木之本さんも気を効かせて話題を切り替えたのでそれに乗っかることにしたのだった。



 今回分かったことを口頭でできるだけ詳しく説明した後、木之元さんはそれらを紙面にまとめて情報を整理する。

 といっても今回は基本的な情報が多くを占めていたけど。


「ふんふん、とりあえ行方不明者一人の居場所はわかったようで何より。あと個人的には種族間の伝承なんかも調べてくれるならうれしいかな?」

「別にかまわないが何に使うんだ?」

「イヤイヤ、結構重要なんだよ。例えば戦の理由がわかれば、余計な摩擦を生まなくて済むし。」

「なるほど、それと、頼まれた奴だ」


 そう言って、ヒノが木之本さんに何かを手渡していた。

 そして二、三言言葉を交わしているのも見えたが

 小声だったために何を話しているのかわからない、それが少しもどかしい。


「―うん、ヒノくんお疲れさま。ごめんねこんなこと頼んで」

「気にするな、これも承知のうえ、だ」

「そう言ってくれると助かるよ、さてと!一応一回目は無事終了てことでみんなお疲れさん。初っ端からずいぶんとヘビーなことしてたみたいだけど、もう一回聞いておこうかな、君たちはこの件に関わるのか関わらないのか。」


 ここでわざわざ聞くのは、彼女なりのやさしさだろう。


「もちろん、あっちで協力することになった子の話も踏まえて、ね。もし少しでも忌避感持ってたら遠慮なく言って。もし無理だっていうならこの件から外れてもらうし、あっちの子への説明も、…適当にやっとくから」


 最後だけ本当に適当な感じで言ってのけると、あとはこちらの言葉を待つように黙って見守るだけになった。

 別にこれが最後通告、というわけではないだろう。

 ただ、こうやってじかに聞くのはこれがおそらく最後だ。

 要はここから先は自己責任、と言うこと。


 最初に動いたのは、当たり前ではあるがルーだ。


「私は最後まで関わらせてもらいます、と言っても私自身あちら側の住人ですし」

「お、ありがたいね。というよりルーちゃんはそうしてもらうほかないんだけど」

「アハハ」


 お互いに顔を合わせて苦笑しているのを尻目に今度は俺が前へ出る。


「俺も関わらせてもらうよ、というか先陣切って約束したのも俺だし、少なくとも何らかの決着がつくまではそうするつもりだ。」

「なんというか、君も物好きでお人よしだねぇ。」

「それカミュにも言われたよ、自分でも定まってないって思ってる。」

「わかってるならよし。自覚がないの一番怖いからね、で件のカミュちゃんは…」

「もちろん、私だって行くデスヨ!一人ほっとけないのが紛れ込んでることデスシ」


 カミュはこちらを見ながらそんなことを言っている。

 それは俺か?俺が最弱だとそう言うことか。

 …わかってるともそれくらいのことは、別に涙なんて貯めてない。


「ふんふん、それじゃリュウ以外のみんなはそのまま続行ってことね。あ、ヒノくんは聞くまでもなく強制だからよろしく。」


 あくまで事務的に、それでいてどこかうれしそうな顔で木之元さんが話を締めくくる。

 ただ、一つだけ気がかりなのは唯一この場に姿を見せなかったリュウのことだ。

 五織さんの話だと今日の朝方には戻ってきて、そのまま帰っていったらしい。

 五織さんも他のみんなも心配するなとは言っていたが、仲間外れにされた、なんて思ってはいないだろうか…。



「ああ、それとナカアキ君」

「ん?どうした。」


 あとは形式上の、事務的な話を済ませたあとに唐突に声をかけられる。

 改めて声の主に視線を戻すと、そこには怪しい笑みを浮かべた、木之元さんがいた。


「君さ、今回ナニカ変なもの見なかった?」


 そんな彼女の曖昧な問いだったが、笑みを浮かべているものの張りつめた空気が充満しているかに思えた。

 咄嗟に、何も返しができなかったこともあり、口をつぐみそのまま今回のことについて振り返ってみる、しかし頭をひねってみても何も思いつかなかった。

 二日間ファンタジーの世界にいたからそういった常識が消えているのかもしれない。

 そこでふとあの時見た幻覚を思い出す。

 そのあまりのリアリティに、自分の事ではないただの幻覚といえど今更ながらに背筋にひたすら悪寒が走る。

 あれは、子供のころ見た幻覚(モノ)よりおぞましく、何よりも恐怖が段違いだった。


「ナニカ、見たんだ」


 いつの間にか木之元さんが自らの手前にまで移動してこちらを覗き込むように見つめていた。

 それは、ナニカを探るような、もしくは忘れているナニカを思い出させるような-


「―ッ。いや、何も見なかったよ。それより聞きたいことがあったのを思い出したんだけど」

「うーん、そう?ま、いいや。何でも聞いてよ」


 咄嗟に話題をそらして話を切る、そうでもしないとナニカ知りたくもないものまで思い出してしまいそうだったから。

 それに尋ねたいことも一応あった。


「そういえばさ、おれあっちで最初から本名で名乗ってたんだけどさすがにまずいよな…ルーはなんてことの無いように名乗ってたけど。」


 そう、自分の名前の問題だ。

 もし仮に隷属魔法なんてものに当たってしまったら目も当てられない結果になる。

 しかしなんてことなさそうに「君は心配ない」と木之元さんは言ってのけた。


「いやいや、どうしてそんなこと言えるのさ。さすがに『君には隷属魔法がかからない加護があるんだ』とか言われても納得しかねるぞ。」

「そんな大それたもんじゃないよ、確か君の実家って青森県の神社のはずだよね?」

「あ、嗚呼、なんでそれを知ってるんだ」

「これから国家機密プロジェクトに協力してもらう人の出自くらいは調べるよ。それでね君の家はとても古家みたいで、まあいろいろとしきたりが残っているわけだ。」


 確かにそうだ、それはもう覚えきれないほどのしきたりはあった。

 そのうち簡略化されてゆるんでいったけど


「日本には昔、本名とは別にもう一つ名前を考える習わしがあった、その名前は親以外の誰にも知られてはいけないもので、その名前を知られてしまったら命を差し出すに等しい行為と言われるほどにね。ま、いまはもちろんそんなものが一般家庭に残っていることはないんだけど、ときどき古い家だとその習わしを今でも続けているところもあるわけ。」

「俺の家がそうである可能性はあるが、確実じゃないだろ?」

「いーや、君のうちは確実に残ってるよ。断言する。ルーちゃんについては…たぶん偽名、いやこの言い方もおかしいか、本当の名前じゃないんじゃないかな?」


 やけに自信たっぷりに自らのお家事情を断言するものだ。

 しかし今更あっちに行って名前の変更ができるわけでもないから、少し安心したのも事実だ。

 だが 


「ルーが偽名?まさか」

「そればっかりは本人に聞きなよ、私がどうこう言う問題じゃないし。あくまで仮説だからね」


 また一つ、新たな疑問が残る結果となるのであった。

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