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W・E s ワールド・エンカウント ストーリー  作者: ムラツユ
World Examiner begining ~異なるモノ達~
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starving tiny little girl

 当初死体と思われたうつ伏せで倒れている少女だが、かすかながら身じろぎをしたことでまだ生きているかもしれないことが分かった。

 背丈は140もしかしたらそれよりも低いかもしれない。

 そしてその腰には二本の刀剣が差されていた。

 一先ず腐りかけの死体を視界にいれないよう努力しながら、カミュを助け起こして待機させ、件の少女に近づいてみる。


 身長から察するに10歳前後の少女が墓地の、その中でも腐りかけの死体の前に立っているのだろうか。

 何が起こるかわからない、ここはファンタジーの世界なのだ。

 もしゾンビだとしたら、近づいた瞬間ガバリと起き上がってこちらに襲われかねない。

 うつ伏せになっていて見えない部分が実はでろでろになって腐敗していました、とかだと一気に正気を持っていかれる自信がある。


 さすがにこれを女性陣にやらせるわけにはいかない。

 しかしヒノやみんなが合流するまで待つわけにもいかないだろう。

 意を決して少女に近づき様子をうかがう、それにしてもどこかで見た服装だな。


「お、おーい…。大丈夫かぁ…?」


 気持ち小さく声をかけてみる。

 びび、ビビってなんかないんだからね!


 その一言が少女の耳に届いたのかひときわ大きく痙攣するよう体をのけぞった。

 突然のことにこっちも反射的に後ろへ下がっていつでも逃げれる姿勢をとる。

 こうなると次にリアクション待ちなのだけど、少女はまたしおしおと華が枯れるように元の体勢に戻るのみだった。…否、何か小声でつぶやいている?


 危険がないことを確認してから、もう一回ゆっくりと少女へ近づく。

 一歩一歩歩み寄ると、だんだん何を言っているかが鮮明になって-


「誰ぞ、握り飯と水を…」


 あ(察し)

 状況は未だにつかめないが、この少女が倒れている原因については嫌というほど理解できてしまった。

 そしてとどめと言わんばかりに、盛大にお腹の祝砲が鳴るのだった…。


 てそうじゃない!?


「ちょ、しっかりしろ!?おーい皆、こっち来てくれぇ!」



 腹ペコ幼女をおんぶして一先ずどこか休めるような場所を探しながら、他のメンバーと合流していく。

 これ以上は何も見つからないだろう

 字面だけだとなんて犯罪的なんだろうか…、後俺はロリコンではない。

 話を戻そう。


「なぁカミュ、今なにか食べ物持ってる?」

「携帯食料とお茶だけなら…与えてみるデス?」

「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!ほら、これ食べて。」


 ルーが自らの昼食であるサンドイッチと水筒を女の子の前に差し出す。

 すると女の子は勢いよく起き上がり、差し出されたサンドイッチにがっつく。

 もともと小食だったルーの昼食だけでは足りなかったのかまだ食い足りないといった感じに、女の子はまたパタリと倒れてしまった。

 しかし今度は腹の音が一段と元気良く鳴って、まるで猛獣の唸り声の様に聞こえているからいくらか回復したとみていいだろう。

 

 ただ今度は腹の音がやかましく鳴り続けるのでうっとうしくて仕方ない、食べれるかどうかは別としてカミュは携帯食料を、俺は店長に頼んで作ってもらったハンバーガーを差し出した。

 女の子はそれもまるでピンク色の悪魔を彷彿とするような速度で完食してしまったが。

 それでも未だ食い足りないようで控え気味になっても腹の音が収まらなかったが、今度は自らの力で起き上がって体面に座すくらいはできるようなったようだ。


 そしてこちらに向かって恭しく頭を下げてくる。


「あいやすまない。あと三日遅れていたらさすがに死ぬかと思ったでござるよ。かたじけない」


 あの状態であと三日持つのかという純粋な疑問は置いておいて、一つ言いたいのは-


「武士っ娘?」

「侍ガール?」


 なんて俗な考えだった。ちなみに前者が俺で後者がカミュだ。


「いかにも、拙者は武家の出で、所用で各地を旅してまわっている次第。貴殿らは命の恩人でござるよ」


 女の子はそう言って、こちらに手を合わせて「ありがたや、ありがたや…」と拝んでいる。


 どこかで見た衣装だと思ったらそう言うことか、まさか異世界で日本の伝統衣装に似たものを見ることになるとは…

 そういえば、日本刀を持った冒険者がそれに関することを言っていたような。

 

 それよりも


「嗚呼、うんそこまで崇めなくていいから。ところでここで何をしていたんだ?」


 もしもこの武士娘がこの惨状に関していれば速やかに距離をとるべきだろうか、いやその確率は極めて低いから心配なんてミジンコほどしかしてないし、何より杞憂だったようだ。


「実は、旅の途中で食料がなくなってしまい、風のうわさに聞いた獣人族の集落に寄ることになったのだが…その時にはもうこの状態でな」

 

 それで彼女はこのままにするのもいけないと思い、たった一人でこの村全員の墓を掘っていたのだという。

 すでに村に備蓄してあった食料もとても食えるものではないほど腐敗していて、それでも一口試しに口に運んだ結果は…まあ、言わなくてもわかるだろう。


 結局最後の一人分の墓を掘る最中に意識を失ってしまった、そういうことらしい。


「おっとすまぬ、命の恩人をほったらかすのは悪いが、まだあと一人分の埋葬が終わっておらなんだ。だから」

「それに関しては大丈夫だ、今―と、お帰りヒノ。お疲れ」

「ああ、ただいま」


 止めている最中、ちょうどヒノが作業を終えたのか家屋へと入ってくる。

 その手は土と埃が付着していて、その手にはスコップが握られている。


「起きたのか、それはよかった。彼女の埋葬は、俺がやっておいたから、心配するな」

「命の恩人達にやり残した仕事まで片づけさせてしまうとは、本当に申し訳ない…!」

「いや、そんな地面に頭をなすりつけながら謝らなくてもいいデスカラ、ホラ。頭を挙げてあげて!」


 周りの必死な説得の末、ようやく頭を挙げた武士娘さん(小)。いちいち義理堅いというかなんというか、此処まで行くとさすがにうっとうしいものを感じる。


 何でも故郷では礼を失するものは末代まで祟られるという謂れがあるらしく、それ自体は立派な考えではあるが何事もやりすぎはよくないといういい一例になったと思う。


「ところで」

「どうした武士娘?」

「一連の騒ぎで余力を使い果たして候。なに…か、食べ…物を…」

「衛生へーい!?いや兵站係ぃ!」


 それだけを言い残し、武士娘は崩れ落ちるように床に突っ伏す。

 ただただ無情にもなり続けるお腹の音だけが、その場を支配していたのだった…。



 ではなくて、

 その後突然倒れた武士娘に周りは騒然。

 ルーは慌てて何か食べれるものがないか家捜しを始め、カミュは普段見せない-なんか最近よく見ている気がしなくもない-弱気な顔でおろおろと視線をさまよわせ、かくいう俺も必死に武士娘に呼びかけている。

 結局、唯一冷静をたもっていたヒノの『一旦戻ったほうがいいんじゃないか』という提案を呑んで一路、大急ぎで町へと戻る流れに相成ったとさ。






 道中空気を読まずに出没する魔物を無双(俺以外)しながら一直線に町にある拠点『茶熊亭』へと向かう。

 店長にわけを説明してありったけの料理をふるまい、それをすべて、料理のにおいにつられて起きた武士娘が暴食の名もあわやと言わんばかりの速さとすさまじさで完食していった。


 ようやく一息ついた頃には多めに作ってあったはずの料理は跡形もなくなっている。

 これには店長とそのウェイトレスも苦笑い、ついでに俺たちも苦笑いと胸やけを起こした。


「本当に、ほんっとうにかたじけない。この恩はいつか必ず…!」

「恩を返す前に、食事代の心配をしたほうがいいと思うぞ。」


 今回の給料を使って賄おうとした結果がこれだ。

 正直、予想のはるか頭上を越えていった大食漢、いや娘だ。


「それと重ね重ねで申し訳ない、一つ頼まれてほしいことが」

「あっと、ゴメンそれは無理だ」

「へ?」

「これから帰らないといけないし。」


 何より今日で終わりにしようと思っているところだ。


「ほかに頼れる人がいないんだ。せめて話だけでも!?」

「いや、それ聞いたら絶対深みに入るタイプの話だよね?それはちょっと…」


 これ以上こっちにしがらみができたらホントに最後まで関わらないと気がすまなくなる、出来ればそのまま解散の流れに運びたいのだが

 武士娘はとんでもない行動に出た。

 ひざを折り五体投地、そして頭を地に擦り付けようとする、すぐに何をするのか理解できた面々は急いで彼女を取り押さえた。

 何をやろうとしたかといえば、土下座である。

 別に危ないことじゃないが女の子にそんなものやらせるわけにはいかない


「お、落ち着けって。そこまでするほどの事なのか?」

「拙者の身命を預けまする…だからなにとぞ、なにとぞ!」

「…嗚呼、もうわかった。話くらいは聞くよ、みんなもそれでいいか?」


 このままでは埒が明かない、仕方なく話しだけでも聞くことにする。

 ドツボにはまってるな、と誰かがこぼした。


 一先ず店長とランちゃんには一旦席を外してもらい本題に移る。


 「拙者には妹が一人いるのだが、一年前から行方が分からないんだ。」

「一年前!?」

「正確に、知り合いの家を訪ねると言って出てった日からだと、それ以上にもなる。」

「それは…」


 正直そこまで時間が開きすぎると諦めたほうがいい、なんてことは言えない。


「いや、その知り合いの家まで海を跨ぐから、旅の時間を合わせれば片道二週間はかかるんだ、だから…」


 そうは言いつつも声は段々と萎んでいっている。本人も、もしかしたらという思いがあるのかもしれない。


「せめて、妹の安否が、いや最後にどこに行ったのか分かればそれでいいんだ。だから協力してくれ…!できることなら何でもする。すでに拾われた命、妹のためなら擲ってでもいい…!」

「待て、待ってくれ。」

「たった一人の、家族なんだ。」


 真摯に、家族のために頭を下げる姿に、俺は―

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