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W・E s ワールド・エンカウント ストーリー  作者: ムラツユ
銀糸を纏いし訪問者
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お出かけ

「今のあんたに足らないものがいくつかある。それは何か?」


 出だしでルーエに問題を出す。彼女ははいきなりのことで頭が回らないようだ。首をかしげて「な、何でしょうか?」と質問を投げ返してきた。

 その問いに、不敵に大胆に返して見せる。


「それは―これからの着替えと、常識、そして周りの地理の把握だ!!」

「前の二つはわかりますけど、最後のはそこまで重要ですか…?」

「ある。最終的にはここから出ていくかもしれないが、できればその後も変わらず会いに来てくれるとうれしい、って何言ってんだ俺!?」


 いや、確かに人恋しさが半端ないことになっていたり、できればお付き合いしたいなとか思ってなくもない、でもそうじゃない。ほら彼女も唖然としているじゃないか。


「んん!さっきのは冗談で、そうだな。日本に慣れてきたあたりで、お使いとか頼むかもしれないからそのためかな。」

「そ、そうですか…そうですよね。分かりました。少しでも役に立てるように頑張ります!」


 雰囲気が暗くなったかと思いきや、すぐ立て直して彼女は意気込む。

 その姿をみて思わず和んでしまったのは。どうでもいい蛇足だろう。



 ともかくだ


「それらを踏まえて、これから外に出かけてショッピングとしゃれ込もうと思うんだけど、どうだ?」

「しょっぴんぐ?」

「英語なんだけど…まぁいいや要は買い物行こうってこと。」

「ぜ、是非ご一緒させていただきます!」

「じゃ、じゃあ、すぐにいこうか。お金は…こっちで何とかしよう。」


 勢いよく返事をする彼女に鼻白んでしまうも何とか言葉を続ける。

 ふと、心の友であるマイパソのことが頭をよぎるがすぐに考えを切り離す。許せ、友よ…。無機物より血の通った人とのつながりのほうが大事なんだ。

 心の中で黙とうをささげながら、ルーエと一緒にアパートから出発するのだった。




「わぁ!すごいです!あ、あれは何ですか?」


 まるで子供の用にはしゃぐ彼女の傍ら、縮こまるように歩いている。


「ルーエ、少し落ち着こうか。目立ってる目立ってる。」

「え…あ、ご、ごめんなさい…」


 いまの自分のの状況を悟ったのか、顔を真っ赤にして落ち着きを取り戻した。

 幸い、道行く人々は一瞬怪訝な表情をしただけですぐに興味を失いわれ関せずを貫いている。その心遣いが、ここまで助かるものだと、また逆に心に刺さるものだということはその時始めて知った。



 それからは比較的静かに、あまり話をしないで目的地であるユニクロを目指した。最近は女性の進出が著しいため女物をより多く取り扱うことが多くなったが、今は感謝するべきだろう。


「いらっしゃいませお客様、今日はどういったご用件でしょうか。」

「こ、こんにちは」

「彼女にあった服を探しているんですけど。いいの有りませんか」

「そうですね、どのような服をお探しでしょうか」


 どのようなって、呉服屋の店員の割にはそういった目利きが苦手なのだろうか。ああ、もしかしていまはどんな人にでも一から思い通りのコーディネートしてくれるのか。それはありがたい。

 なんとなしに今なお様々な服を物色して満面の笑顔をこぼしているルーエを見る。

 彼女に任せるのが一番だが、まだ流行や常識に疎い状態で選ばせたら、どんな奇抜なものになるかわからない。自分のお金でもあるんだしこちらで決めてしまおう。


「ふむ…じゃあ、なんかこう、ふわっとした感じの可愛い系の服はありませんか。こう森ガール?みたいな、明るい色の」


 そこまで聞いて店員は「少々お待ちください」と残してどこかへと消えた。しかし、ものの数分もしないうちにその手にいくつかの服を引っ提げて現れた。



「お待たせしました、こちらになります。どうぞご覧ください。」


 どうやらルーエも気に入ったようで先程からこちらにやってきて目を輝かせている。

 持ち込まれた服たちは、確かに先程の条件と合致していて、とてもかわいらしいものばかりだ。そのうちのいくつかを選んで、ルーエを連れて試着室へと向かった。


「お、お客様。お待ちください!商品を持っていかれたら困ります!」 


 踵を返したところで店員に慌てた声で呼び止められる。もしかして、結構高い衣装なのかと思うが、自分にはそういったセンスがないため、詳しくはわからない。まあでもすぐに皺ができそうな感じだったから下手に扱えないのだろう。さすが都会は格が違う。


「すいません…それじゃこれとこれと、これをお願いします。」

「え、そ、そんなにはもらえません。いいですってば!」


 彼女が抗議を始めるが、先程の往来のようにわれ関せずを決めつける。日本人のスルースキルをなめないでもらいたい。


「かしこまりました。合計額がこちらになりますお確かめください。」


 値段を確かめてみた。確かに高い。高くはあるがまだ良心的な値段ではあるだろう。女性服の相場はわからないが、妥当なところだろうと思い、そのまま勘定を頼む。

 後はそのまま店を出るだけ、そう思っていたのだが、店員は何か作業をしている。


「あの、わざわざ包装紙に包まなくても手提げ袋が…」

「彼女へのプレゼントなんでしょう?でしたらこれくらいのサービスは当たり前ですよ、はいどうぞ。」


 そこまで言われて意見の食い違いにに気づく。

「かかか、彼女じゃありませんよ!えーと、そう。友達です友達!」


 慌てて間違いを正そうとしても、店員は笑みを絶やさずこちらに向けているだけだ。おそらく誤解したままだろう。


「はい、そういうことにしておきましょうか。―ここからは独り言なんですが、次のご来店の際は今日買っていただいた服を着ていただいてくださると嬉しいです。またお越しくださいませ、お客様。」

 

 結局、店員さんの誤解は解けることなくそのまま店を出ることになった。だけど、収穫はあった、のかもしれない。

 そうか、人によってはそういう見方されるのか。納得はしたもののやはり顔が熱くなっているのを感じる。

 ちなみに当のルーエ本人はおそらく意味が分かっていなかったのだろう、のほほんとした、ゆるみきった顔で先程買った服を両手で抱きしめていた。

 こいつ、世間知らずというか、箱入り娘というか一周回って馬鹿なんじゃないかと思えてくる。

 隣で、幸せそうな顔をしている少女はいったんおいといて、腕時計を見てみる。今日起きたのが昼過ぎということもあり、そろそろ夕刻に迫ろうとしているところだった。


「時間もちょうどいいな、ルーエ、あと一つ寄ったら家に帰るぞ」

「あ、はい。分かりました。」


トリップしかけていたところを引き戻し、ついいてくるように促す。彼女は少し距離が離れいることに気づき、早足でこちらについてくるのだった。



「ラッシャーせー」


 先程とは打って変わって気の抜けているようで、それでいて活発な返事が出迎えてくれる。

 吉野家へと入っていく。中は帰りのサラリーマンや今から夜勤勤めの学生やらで繁盛していた。

 窓際の席が空いていたのでそちらへと彼女を誘導して自分も席に座る。

 やはりまだ見るものすべてが珍しいのか、暗闇に光る街灯に興味津々といったところだ。

 とりあえず今のうちに注文を決めてしまおう。店員を呼んでそうそうに注文を頼む。


「これと、同じものをもう一つお願いします。」

「こちらの二点で、本当によろしいですね?」

「はい」


 牛丼並盛二つ―、と大きな声で読み上げ厨房の奥からも活きの良いへんじが返される。

 この店は早さが売りの一つというだけあって、すぐに目の前に丼が置かれる。いつもながら見事な手際だった。早速いただこうとして、違和感に気づく。

 彼女は目の前に置かれた丼を見て目を白黒させていたのだ。


「あ、あの、これって」

「今日の夕飯。あ、もしかして牛肉食べれなかったりする?宗教上の理由とかで」


 そうだとしたらマズイ。宗教混在国である日本にはそういった人のためのメニューもあるのだが、家で食事した際は何も言われなかったので、ついつい忘れてしまっていた。こういうものはデリケートだとよくテレビでやっていたのに。


「い…いえ、大丈夫…です。わたし…逝きます!」

「ちょ、おい!?」


 ―そこまで悲壮な覚悟しなくても、というか『いく』のニュアンスが昇天のほうに聞こえたが本当に大丈夫か。そう言葉をつづける前に、彼女は意を決してスプーンを使い丼の中を一気に口に運んだ。

 一瞬世界が止まる、否。そう自分が錯覚しているだけだろう。周りはせわしなく動く中でとある一席だけが静寂に満ちていた。

 ここまで来たら成り行きを見守るしかない。止まったまま動かない彼女を緊張した面持ちで見つめる。

やがて、スプーンと丼が極めて静かにテーブルに置かれる。彼女の口から少しだけ吐息がこぼれてそして、


「お…」

「ヲ?」


「美味しい…」

「そ、そうか…よかった。どんどん食え。何なら俺の分もいいぞ。」

「はi、いえいえそこまではさすがに恐れ多いです」


 とりあえず、お気に召したようで何よりだ。緊張の糸がほどかれ、ほっと息を吐く。なんだか最近こういうのが多くなった気がする。

 それでもただあくせく働くだけの生活よりは充足感はましましだった。

 そんなこと考えていると、突然彼女の目元から涙がこぼれてくるのが見えて、焦りながら言葉をかける。


「ど、どうした、どこか痛むのか?」


 今度はこっちがどもってしまうが、そんなことは関係ない。もし食材が合わなくてお腹を壊しでもしたら一大事だ。

 しかし彼女は「違うんです」と一言だけ否定して涙をぬぐう。


「そうじゃないんです。嬉しくて、嬉しくて、こんなに楽しい日は本当に久しぶりで」


 そこまで聞いて、昼時の、起きてすぐの会話を思い出した

 ―こ、故郷には、帰りたくありません。いえ、おそらく帰れないと思います―

 ―わ、わたし、村の人たちに嫌われているみたいなんです。理由は…わかりませんが―

 そんなことを言うくらいだ。地元ではさぞかしひどい目に遭ったのだろうことが推測できる。ここまで感極まるのも理解できた。そして、いまだに古い習わしにとらわれている村に強い反感も抱く。いや最後の習わし云年は完全にこちらの創作ではあるけど。

 それでも、彼女を一人しておけないと、もっと笑ってほしいとも思うようになった。そこには多分の同情も含まれているが、まだあって一日もない仲だけど、偽りない本心だと断言できる。

 ―まぁ、真心5割、下心5割という微妙なラインではあるけど。

 それにこっちに来て初めて仲良くなった子なんだ。その子に笑ってほしいと思うのは当たり前だろう?―

 そう、自問自答する。


「ほらほら、泣くなって、これからいつでも食べさせてやるから。」


 今なお涙をぬぐう女の子に気さくに話しかけるのだった。

今回で、日常パートは一旦おしまいです。

それとタグを増やしますが、正直うまくかけるかわかりません

そんな拙作ですが楽しんでいただければ是非にゆっくりして行ってください

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