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W・E s ワールド・エンカウント ストーリー  作者: ムラツユ
World Examiner begining ~異なるモノ達~
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unexpected encounter

 町を早朝に出て東に進み太陽がさんさんと顔を出したころ、道中魔物を(俺以外で)軽くあしらったり、朝早くからレベル上げでもしていたらしい同僚に援護()してもらったりして、ついにお目当ての場所へとたどり着いた。

 たどり着いて、しまった。

 つい最近まで集落があったであろう場所に

 現場は思っていたよりも整然としていた、まるでつい最近まで人がいていきなりどこかに消えてしまったかのようにも思えたが、ところどころおびただしいほどの血液が残っていたりと、どこかちぐはぐな印象を持つ。


 想像とは違っていたことに、腑に落ちないものが残ったが、彼女たちに凄惨なところを見られなくてよかった安堵した。

 今の状態でも、血の気が引いたように真っ青に染まった顔をしながら、それでも懸命に目をそらすことはしなかったのだ。

 これで死体が野ざらしの状態にあったら今頃失神したり吐くものが出ていたのは自明の理。

 本当にリュウが来なくてよかった…


 ただ、血痕が残っていて、それでいて生活用品もまばらに残っているのに死体どころか人影もないのは明らかに異常だ。

 その事実だけでそう遠くない過去にここで異変があったことだけは如実に表しているであろう。


 追剥か、それとも兵士の誰かが残って処理をしたのか。


 極めて冷静に、周りの状況を把握するそうでもしないと、時が過ぎてもまだ残る死臭に気を当てられてしまいかねない。




 ほら、今にも焼き殺さんばかりの、真っ赤な赤が-


「え?」



 赤、紅、朱。

 それは命の水だったり、人がもたらした文明の源だったり、それらがいま、目の前いっぱいに広がっている。

 鉄のにおいをまとった朱い水がだくだくとこぼれ出ている、

 -何から?

 -たくさんのヒトの死体(カラダ)から。

 見たくもない現実が煌々と照らされ逃げるなと、目をそらさせまいと訴えかけているようだ。

 空はあんなに真っ黒なのに、この一帯だけは夕焼けを思わせるかのように明るい。

 -周りが轟々と燃えているからだ。


 遅れて、鼓膜をつんざかんとするほどののけたたましい悲鳴や怒号が耳に届く。

 ここにきてようやく、思考の力が回復した。

 それでも今の状況がまるで理解できない。


 -そうだ、みんなは-


 周囲を見渡す、しかし知り合いの一人の姿も確認できない。

 突如一人だけこんな地獄のような場所に置き去りにされる、原因も意図も不明の中、誰を思うことも許されず。

 状況は尚も動いていく。

 いつ現れたのか、騎馬にまたがり集落内へと我が物顔で入ってくる兵士たち。

 鋼鉄の鎧をまといその手には騎乗槍だったり剣だったりが握られていた。

 よく見れば先程見た景色とは打って変わって夜の帳が堕ちる前の本物(・・)の夕日が真っ赤にあたりを染め上げていた。


 それはまるで、先程の光景を連想させるような、どこか不吉な逢魔が時の光景。


 兵士の先頭に立つ、ひときわ位が高そうな壮年の男が声を張り上げるように口を大きく開いている。

 それはわかるのに、肝心の話の内容がワカラナイ。

 まるで自分一人が異物になったかのような気分だ。


 ひとしきり口上、のようなものを述べると、他の兵士に合図を出すように片手を挙げた。

 それだけで整然と並んでいた兵士たちは自らの武器を構え、今にも突撃しかねない迫力だ。


 今度は後ろから年を重ねた老人が現れる。

 周りに屈強な男たちを従えて、何かを口走っていた。

 やはりその言葉も理解することができない。


 なにがしかの言い合いの末、交渉が決裂したのか一人の勇敢(むぼう)な若者が兵士の一人を切り伏せた。

 そこから、泥沼の如き闘争のすえひとつ、また一つと死体が積み上げられていった。

 そして目の前に表情の見えない兵士が立ちふさがり、その手にある獲物で―


「しっかりしてください、ツナギさん!」



「え、…ルーか、いったいどうしたんだ」

「どうしたって、何も言わなくなったから心配してたんですよ。反応もなかなか帰ってきませんでしたし」


 あたりを見渡すと、さっきは姿を見なかったみんながこちらを心配そうに見つめている。

 先程まで真っ赤に染まっていた視界は、今では朝日の温かい光をとらえた。


 …嗚呼、そうかただの幻影か。


 大丈夫だ。と自分にも言い聞かすように明るく振舞う。

 安堵の息をもらすとともに、自分がここまで精神的に弱いとは思わなかったと、内心で危ぶんだ。

 まさか、自分が殺される幻を見るとは、これは本当にやめることを考えるべきかもしれない。


 といけない、こんなことで時間をかけていては拙い。

 もともとここにはちゃんとした用があって訪れたのだ。

 

 用、というのは悪くいってしまえば追剥に近い、ただこれからのことを左右するなら情報がまだ残っているかもしれない。それを探すためにここまで来たのだ。



 以前情報共有のためタクミのパーティーといろいろと話し合っていた時のことだ


『本当に帝国がやったのか?』

『なんだ、疑うのか、この耳でちゃんと聞いてきたことだぞ』

『いや…ただ今の時期にそこまで過激なことをするものなのか、と思っただけだ。戦争を早まらせるように』

『そう考えると確かに可笑しいかもな、その帝国が根っからの戦争屋だったり、首相がヒトラーみたいな性格じゃなけりゃ。』

『集落一つ滅ぼす必要があるほどのことがあったんじゃないか、何があった、とは言えないけど』



 それはただの妄想かもしれないし、それともヒノの情報が間違っているのかもしれない。

 しかし跡地を訪れてみれば、血痕や家捜しをした後は残っているもののところどころに腐りかけの食料が残っていたり、高価そうな装飾品が地面に放り投げられて見るも無残に壊れていたりもした。


 確かに誰かが荒らして言った形跡が残っているものの、何か一つのモノを固執して探していたような荒れかただった。

 

 ひとまず手分けして手掛かりになりそうなものを探すことにする。

 といってもお互いが見える範囲までではあるが。


「あれ…?」


 あたりをくまなく探すこと半刻、民家の一室にてルーが何かを見つけたようだ。


「何かあったのか!」

「ツナギさん…、見間違いかもしれないんですけど、あれをどこかで見た、気がするんです。」


 そう言って、荒らされた部屋の一角に飾られているA4ほどのタペストリーを指さす。

 ただ、荷物が山のように積み重ねられていてその半分が埋もれてしまって見えない。

 少し骨だがかき分けて取りに行くしかなそうだ。


「一寸待ってろ、今とってくる」

「気を付けてくださいね。」


 彼女の言葉を背に、解体するように慎重に、積み立てられた荷物をどかしていく。

 箪笥の後ろに隠されていたようで最後に一苦労することになった

 そして全部どかし終えると、ようやくその全貌が明らかになった。


「なんデスカネ、これ」

「シンボルマーク、みたいだ、この集落のモノ、だろうか」


 そこにはヒノの言う通り何かのシンボルマークが描かれている。

 その中には狼をかたどったものあとは剣の形をかたどったものがあった。


「…けど…」

「ルー?」

「あ、はい。…すいません、やっぱり見間違いかもしれません。形がとても似てますけど…」

「?そうか、でも一応もらっておこうか。…すいません、家主さん。お借りさせていただきます」


 手を合わせながら一言、謝罪してタペストリーを拝借する。

 この際小さなものでも何かの手掛かりなるなら持っておくべきかもしれない。


 その後ひとまず民家を中心に家捜ししてみたものの、これといった手掛かりになるものは置いてなかった。

 当たり前だ、ただの略奪行為が目当てならそんなもの元からないし、理由があったならその証拠を押さえて持ってかれているだろう。


 あとは集落の外に何か落ちていないかくまなく探すだけとなり、入り口から反対方向へと順繰りにみてまわる。


 まぁこれは単なる悪あがきだ。ここまで来てタペストリーだけとか徒労に終わるののだけは避けたい。

 それに、これを最後にやめてもいいかと思ってもいたのも後押しした。

 最後くらい、何か大きい成果を上げて締めくくりたい、そんな意地にも近い考えで手あたり次第見て回る。

 ここまで行くともうやけに近かった。


「キャアアアア!?」


 突如、カミュの悲鳴があたり一面に響き渡る。

 彼女だけ遠いところまで行ってしまったのか、声のほうを向いても姿が見えない。

 すわ野盗か、それとも魔物か。

 最悪なのは帝国の軍隊に見つかるパターンだ。

 彼女ならよほどのことが無い限り、後れを取ることはないと思うが不意を打たれればその限りではないし、それに合わせてこんな場面で軍隊に鉢合わせしたら怪しまれかねない。


 彼女の無事を祈りながら駆け足で声の元へとむかう。

 すると、途中で坂になっているようでその麓に彼女が一人でへたり込んでいる姿を発見した。

 

 駆け寄って彼女の様子をうかがうと震えた指で何かを示している。

 その方向を見据えると、即席の墓地、だろうか盛られた土の上に簡素な木の棒が刺さっているものが幾多も密集していて

 さらにその先には腐りかけた死体の前で木の棒をもって倒れている少女の姿があった。

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