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W・E s ワールド・エンカウント ストーリー  作者: ムラツユ
World Examiner begining ~異なるモノ達~
38/46

I want to be with you

「なーにやってるんデス?こんなに夜遅くに、明日早く出ようって言ったのはアンタじゃないデスカ。」

「うっひゃあ!?」


 人っ子一人いなかったはずの店先の大通りに、情けない悲鳴が響き渡る。

 すぐに近所迷惑になりそうだと判断して、口元を抑え音量も抑えて、件の原因を作った犯人を捜した。


「フフ、うっひゃあって…クスクス」

「おまえ、さすがに意地が悪いぞ。」

「普通に話しかけて、勝手に驚いたアンタが悪いデスヨ」


 それを言われると反論できない。

 ただ一言言わせてえもらえば、寿命が縮んだかと思ったといいたい。

 これ以上は本当に情けないから言えないがな!

 この話題は都合が悪いからすぐに話を切り替えようか。


「別に、一寸夜風に当たってただけだ。そろそろ戻るところだったんだよ。」

「フーン、そうなんデスカ。じゃあ私もそういうことで」


 そういうことでって、何かとテキトーな返しすぎる、おちょくってるんじゃないかとひねくれた考えが起きてもおかしくないぞ、腕輪のせいで何も行動に移せないが。


 まあ、邪魔するのも悪いし先にお暇させていただきますか、カミュも明日のことで思うことがあるだろうし。

 そっと気づかれないように店内、ひいては男子部屋へと戻ろうとする。


「わざわざ戻らなくていいデスヨ。一寸話したいこともあるし」

「…話?いったいなんだ、明日は早いんだから早めに」

「その、明日の話デス、行く必要があるの?わざわざトラウマ作ることもないデスヨ。」

「-その話なら、日が出ているうちに話し合ったじゃないか。本当に理解するにはやるべきだ、行く必要があるって」


 そう、あの後リュウとカミュが猛反発してそれをなだめるのに一苦労したものだ。

 でも、彼らの言うことは的を射ているし何より子供が、彼女たちが率先して見るべきものじゃない。

 だから-


「お前らは無理して見に行かなくてもいいんだぞ?ただ、その場合はどっちにしろこの仕事は降りさせてもらえ。今のうちにな。」


 これは、ただ俺が、唯一彼らと違って大した戦闘能力を持たない自分が、せめて咄嗟の判断で足手まといにならないためのいわば、決意表明だ。

 度胸試しと罵ってもらっても構わない。

 少なくともここでギブアップするなら、そう遠くないうちに同じ運命を、もしくはそれよりひどい運命をたどるだろう。


 俺はともかくさすがにほか二人は嫌だといえばすぐに外してもらえるはずだ、木之本さんといえど。

 逆に俺の場合はルーのためにも残ってくれって止められそうだけど。

 彼女は仕事よりも、人を、友達を大事にするタイプだ。

 浅い付き合いだが、それくらいはわかる。人をおちょくるのが何よりも大好きな人だけど、それは好意の裏返しだろう、たぶん。


 だから、人のことは言えないけど、子供(おまえたち)は無理しなくていいんだ。


「…未練はないんデスカ、たった三日だけどここの店長には世話になったはずデスヨネ?」

「そりゃ、店長にはお世話になったのは確かだし、恩義だって感じている。」

「なら、此処に残るんデスカ?」

「それでも、明日の結果次第だ。俺だって状況如何では一生トラウマになるのを覚悟して見に行くんだ。早くて、今回限りで抜けさせてもらうかもしれない」


 今なお自問自答していたところだったのだ。結局のところ明日にならないとわからない、なんて女々しい結果で終わったのだけど。


「なら、私たちが残る決断をしても、デスカ」


 彼女は、振り絞るかのような、それでもか細い声で問いかけてきた。


 この『私たち』というのはヒノやリュウの事を言っているのだろう。

 年少組はもし見に行けたとしてもそこで心が折れるかもしれない、いやその可能性が一番高いしそのほうが彼女たちのためでもある。

 だが、ヒノに関しては如何とも言い難い、彼は唯一ひと言目から行くべきだと賛成したのだ、つまりすでに覚悟ができている、ということの裏返しだともとれた。

 それに彼はもとからこの計画の参画者で、すでに組織で一定以上の仕事をこなしてきているはずだ。

 元から想定の範囲内だったのかもしれない、本人に聞いてみないとわからないが。


 そうすると、おそらくその後もヒノだけはこちらに訪れては危険なことへと突っ込んでいくだろうし、下手すればカミュたちも老いていかれるのを嫌ってそれに続くかもしれない…か。


「そうだな、お前たちの様子が心配なさそうなら、そのまま抜けさせてもらうし、ダメそうだったら首根っこ捕まえてでも一緒に帰ってもらおうか。」


 それでも強情る時は、他の奴らにも手伝ってもらってな、と付け足しながら努めて明るく笑う。

 先程から、彼女の様子がおかしいのはわかるのだが、その原因が皆目見当がつかない。

 いや、不安な気持ちを抱いているのはわかるものの、それはみんな同じだろうし、彼女はそれ以外のなにかに怯えているかのようにも見えたからだ。


 今も彼女は顔を俯かせまま、微動だにしない、否、何かつぶやている…?


「…よ」

「え?」

「-ここに来なくなったら、みんな離れ離れになっちゃうじゃないデスカ。」


 彼女の口からついて出たものは、俺たちの別れを惜しむような一言だった。

 いつも通りなら絶対に言わないだろう弱気なそれに、思わず笑いがこぼれそうになる。

 こらえはしたものの、目ざとく察して、すぐに食い掛かってきた。


「な、なんデスカ。私がこんなこと言うのがおかしいっていうんデスカ!?」

「お、落ち着け。別に可笑しくて笑ったわけじゃないから」


 そのうちえぐり込むようなアッパーが襲い掛かりそうで実際こわい。

 まあ、そんな悪ふざけはそろそろやめにして、顔を真っ赤にして詰め寄る少女を宥めることに専念した。


「いや、そんな風に思ってくれたのが分かって嬉しかったんだって。」

「エ゛」

「友達だと思ってたのが俺だけじゃないってわかったからな」

「ア、あゝそっちですかそうデスカ…」


 壊れかけのラジオをみたいにだんだんと俯かせながら声がかすれていく様を見て、なかなか珍しい姿が見れたものだと内心驚き、微笑う。


 それと、一つつけ加えておこう。


「別にさ、此処に来なくなったくらいでどうこうなる間柄でもないし、それにあっちのほうが時間の都合をつけて遊びに行けるだろ?ケータイさえあれば連絡付くんだからさ」

「-なら、あっちに帰っても、遊びに付き合ってくれマスカ?」


 何をそんなにためらっているのかはわからないけど、その誘いを断る理由もなければ鬼でも鬼畜でもないわけで。


「もちろん、よろこんで。」


 笑顔でそう返すのだった。


 それだけ聞いて安心したのか、一言「お休み」とつぶやいてカミュは眠そうに眼をこすりながら先に自室へと戻っていった。


 結局のところ一番最後に残ったのは俺だけで、人っ子一人見えない大通りにて先程まで感じなかった静寂が身を包む。

 それは、現在では考えられないほどのあたりの物音や明かりの無さからかそれとも、さっきまで一人じゃなかったからか。

 詮もないことを考えるまで、心の平静を取り戻したから、でもあるだろう。

 それは彼女のおかげでもあるわけで、心の中でありがとう、と礼を言っておくことにした。面と向かってはさすがに恥ずかしいものもあったのだ。


 詮のない、といえばこれからのことを考えすぎるのも、意味のないことかもしれない。

 別に行き当たりばったりのほうがいい、というわけではない。たしかにそれはそれで気楽で面白いものだけど。

 それでも、このまま悶々と夜を過ごして寝過ごすことのほうが一大事だ。


 明日の事を言えば鬼が笑う、つまりはそういうこと。



「やっぱりおかしいっすよ。なんで、見に行く必要があるんすか。何かあるわけじゃないんすよ」


 早朝、寝過ごすなんてこともなく出発の準備を整え、人のまばらな大通りにでる。

 ただ一人、リュウはその場で立ち尽くしたのだ。


「無理なら、来なくてもいい、誰も、責めない」

「そうじゃなくて!…いくこと自体オカシイって言っているんす…そう、倫理に反するっすよ!」


 どうしても、行きたくない、行かせたくないようだ。

 あの手この手で俺たちを止めようとする、それはもうだだをこねる子供と一緒にも見えた。

 でも


「反する行為かもしれないしお前は正しいよ、でもこの世界で生きていくためには、俺たちは知らなきゃいけない、感じなきゃいけないんだ。だからお前は悪くない、当たり前の事をみんなに自覚してもらうためにわざわざ止めてくれたんだから。」


 そこまで言い切って、みんなを見る。


「カミュ、お前も残っていいんだぞ?」

「ハン、これくらいで物怖じしてたまるもんデスカ。それより、わかっているんデスヨネ」

「ずいぶん気の強いこって、わかってますよっと。ルーは」

「私も同じです、それに此処は私の世界ですから。」


 何とも肝の据わった女性陣で安心したような逆に心配したような。

 まあ、大丈夫だと仮定しよう。


「俺は?」

「いや、ヒノはもうとっくのとうに覚悟完了しているものだと思ってましただから別にのけ者にしてたわけじゃないんだ元気出せ!」

「あ、ああ。そうかよかった、もちろん、俺も行く、ぞ」


 そして男性陣が変なところでメンタル弱い、と変なバランスが取れているなぁ。


「…すいません、俺は、いけません。行きたくないっす。」

「そうか、よく言った。だから、一人で帰れるな?」

「…はい。すいません、俺、意気地なしで、弱虫で」

「いいんだ。」


 それだけ言ってヒノは悔しそうに、申し訳なさそうに肩を震わせている少年の頭を優しくなでる。

 リュウは、はっきりと拒絶の意を示した。

 それをとやかく言うつもりはない、いやむしろ褒めてやるべきだろう、周りに流されず自分で決めたことだから。


 こうして一人だけかける結果になったものの予定通りに様子をうかがうことになった。

 帝国が荒らしていったとされる村落の跡地へと。

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