reality
お金の尊さと資本主義という怪物の巨大さに、泣き寝入りすることはや数分。
こうしていてもらちが明かないので気分を一新するのもかねて町内を散策することにした。
あの時は状況に流され、周りをよく見る余裕がなかったからゆっくり回ってみれば何か新しい発見もある、はずだ。
先程のバイトの駄賃ということで小遣い程度にはお金ももらっている。買い食いぐらいならできるんじゃなかろうか。
何人かで集まって町を散策しながらの買い食い、じいちゃん、俺いまちゃんと青春しているよ…周りがファンタジー一色とかいう異常事態だけど。
「うわ、何泣いてやがるんデス、気持ち悪いなぁ」
「いや、ちゃんと青春してるなぁって、てか気持ち悪いは言い過ぎだろ…」
「こうやってみんなで出歩けるなんて、夢見たいです…」
「アンタらはどんな生活を送って来たんすか…」
どんなって、ルーが来るまではバイトに追われて不安と希望にさいなまれることさえできないほど疲れて眠る毎日だけど、あ、聞きたくない?そう…。
いや、そんなつい最近の暗黒時代の話は置いといて、異世界青春ライフを満喫しようそうしよう、もちろん仕事もするさ。
やれることは限られているけどな。
「なあ、あそこに、面白い屋台がある、見に行かないか?」
「へぇ、どれだ…げ」
ヒノにつられるままに視線を移すと、そこには以前世話になった3人組がいた。
といっても世話になったのは後ろにいる二人で、先頭にたっていかにも主人公然としたたたずまいの奴にはできれば会いたくなかった。
先程の声で両者気づいたらしく、隣でヒノは顔をしかめているし、ルーは彼らに嬉しそうに走り寄っている、オウフ。
「みなさんもこちらに来てたんですね」
「うん、こんな面白いこと首突っ込まなきゃ損でしょ!」
小柄な少女、メイナが元気はつらつと言った具合で答えている。
やっぱり女の子同士の会話って見ててホッコリする、えっ裏の顔?今の彼女たちにはないと思いたい。
「その、なんだ、元気だったか?」
「あ、ああ。そっちこそ無事でよかったよ」
そして、このぎくしゃくした感じでいかにも気まずい雰囲気を醸し出しているのが、俺ことツナギと、以前に誤解というか一寸したすれ違いの後会う機会のなかったマサトだ。
いや、別に俺は仲間外れになった件に関してはもう納得しているし仕方ないとは思っているけど、その後すぐに鞍替えするかの如くヒノ達と仲よくなったのには、少なからずの負い目が…仲良くなったことに関しては後悔はしてないもののまさかあそこまで仲が悪いとは思わなかったんじゃ…あとついでにタイミングも悪かった。
ともかくして、油の刺さってない機械のごとき会話はそう長く続かないものですぐにお互い何を話せばいいのかわからなくなってしまった。
え?タクミとヒノ?ああ、彼らなら隣で剣呑な雰囲気醸し出してますが何か?
正直めっちゃ離れたいです、二重の意味で。
寒気と汗が同時に来る怪奇現象に今なお同時にさいなまれています。異能二人組はすでにガールズトークに避難…おいこらリュウ、お前男だろ。こっち来い。こっちは無意識に能力発動しているのか寒気がおさまんないんだよ、なんか急に暑くなるし。
体調崩さなきゃいいなぁ。
「それで、君たちの進展はどうなんだ?」
「それを、お前に言う必要があンのか?」
「情報交換位はしとこうと思っただけだよ、任務に差異はあれど情報は必要だろう?」
「…そうだな、情報は大事だ、情報は」
どうやら二人とも納得のいく着地点でも見つかったのか、先程よりは張りつめた空気が緩和されたようで、ほっと息を吐く。
すぐに、腹痛耐久レースが持久戦へとシフトしたことに思い至り、つい遠い空に思いをはせたのは蛇足である。
…嗚呼、空はあんなに澄み渡っているのに、俺の周りだけ曇天模様だよ。
◆
はい、ということで機械的な質疑応答および情報共有も終えて何とか班別行動にこじつけることができた。
そうでもしないとルーと目の前でいちゃつこうとするわヒノといちゃつこうとする(暗喩)わで胃がマッハです。せめてどっちかにしてほしかった。
そんな彼らから得た情報といえば、まだこの世界には未開拓な土地があるらしく、まだ見ぬ大陸があるのは確定しているとのこと。
「ん?そういえばルーの故郷ってどこらへんなんだ?」
本当に忘れていたことだがルーも異世界人であって、この世界のどこかに彼女の故郷があるはずなのだ。
ただ興味本位で聞いただけなのだがルーはビックゥと擬音が出てきそうなほど体をけいれんさせていて、見るからに動揺隠せないでいた。
「ど、どうしてそんなこと聞くんですか?」
「え、いや一度行ってみたいかなーって」
「それはいいかもしれないな。お互いのことを知るのはいい機会だ」
ゴメンねぇタクミ君。今は茶々入れないでくれるかな?
「えっと、そうですね…ここら辺の地名は見たことも聞いたこともないのでさっぱり…」
そう言いつつも彼女の目は右へ左へ忙しなくおよいでいたのが一番印象に残っ、どうでもいいね。
「こっちは奴隷の扱いが変わっていることと、後は東の集落が略奪されて消えたってくらいかね。」
「略奪?盗賊にも襲われたのか?」
「いや、隣の帝国に、徴収された、らしい」
「-それは本当かい?」
その後、ここ最近で東の国で没落貴族が成り上がったというどうでもいいような話を聞いた。
余談ではあるが、前回集められて見事採用となった人は意外に多く、それぞれの能力に合わせた任務を請け負っている旨も初めて聞かされたことだ。
彼らは冒険者として紛れ、魔物(仮)のサンプル採取を仰せつかったとのこと。
…こちらは二倍の人員なのに諜報と融和政策って、いや大事なことだけども。
彼らはその後も任務を全うするべく素材狩りへと旅立った、その後、一人の青年だけが帰ってくることはなかった、らいいのになぁ
閑話休題
こちらも時間の都合上と雰囲気的にも街の散策はお開きとなり、食堂へと戻る前に誰もいない路地裏で翌日の予定を決めてしまおう、という流れに相成った。
「セオリー通り、というよりは、安全と確実性をとるなら、今日と同じ手段にする、べきだ」
「さすがに連続で話を聞いている姿が見られると警戒されないか?特に国や情勢に関する話を聞くわけだし」
「敵国のスパイだー、とか言われそうっすね。もしかしたら」
よほどのことが無い限りそんなことにはならないだろう、が今は二国とも緊張状態にあるからありえなくはない話だった。
というよりスパイ云年は間違ってはいない、正しくは第三者の、とつく。
どうせなら、少し間をおいたほうがいいかもしれない。そのほうが新しい情報も出てくるだろうし。
「じゃあ如何するんデス?やれることといってもそんなないんでデスヨ?」
「たった一日では遠出してしまっては帰れなくなってしまいますし…」
そう、それが今の俺たち最大のネックになっていることだ。
もともとバイトということで派遣された身で、さらにはルーを除く全員が学生なのだから早くて明後日には学校が始まる。大学生の俺自分で時間割を決めれるからまだしも、高校生のカミュと年下のリュウは間違いなく週明けには学校が始まるのだ。
前回のように多少の融通は効くことはわかったもののあまり休むと復帰するのがつらくなる。
だから、延長は最終手段だ。
ならどうするんだと言われたら、一つだけ案があった。
あまり褒められることではないし、これから行ってくると宣言していいようなものでは絶対ない。
それを言葉に乗せて、みんなに伝える。
反応としては予想通りの、忌避勘と嫌悪感を伴ったものが帰ってくる。
カミュは馬鹿じゃないのかと罵ってきた、リュウはいっても何もないと断言している。
ルーは…ただ何も言わずにうつむいてしまった。
一つだけ安堵したことは誰一人として率先していこうといわなかったことだ。
何故なら、最後のボーダーラインだから。
それでも、これだけは早めに感じておきたかった、それは後々に後悔しないためでもあれば、もしかしたら好奇心も混ざっているかもしれない。
いつかは向き合うことなのだ、それに今ならまだ戻れるだろう、いつもの日常に。
ここは俺たちの世界ではないし、未練も本当に大事なものもないから。
「俺は、行くべき、だと思う」
突如、ヒノが口を開ける。
彼は真剣な眼差しで俺たちを見据えて続けた。
「このままいけば、絶対に後悔する、それも、後戻りができなくなったころに、だ」
「なら早いうちにこれからどうするか決めたほうがいい。調査じゃない、此処に関わるかどうかだ」
その判断材料として行くべきだと、言わなくても理解できてるだろう。
だから-
◆
「はあ、全くどこが割のいい仕事なんだか」
みんなが寝静まった深夜すぎ、寝付くことができなくて一度夜風に当たっていた。
そよそよと凪いでいる夜風が少し肌寒い、それは今ここが現実であるということを如実に表している。
住み込みで宿も食事も自己負担、拘束時間も含めて約一日半、これだけ聞けばいったいどこのブラックだといいたくなる。
ただ、保証やサポートもばっちり(?)で週一、二日で日給2~3万だったか、確かに割にはあっているかもしれない。
「現場が、戦争待ったなしの二国の緩衝地帯じゃなければな…」
確実に羽振りの良さの裏側には危険手当なんかも入っているだろうが、正直全然足りない、いやいくらつぎ込まれようとそうやすやすと首を縦には降らないだろう。
明日の結果次第では即やめる算段もあった。
ただそうなると、ルーのことが気がかりだ。彼女のことはその体質含め以前自分で明かした、ハーフエルフであること以外は何もわかってはない。
故郷についても、最初に地名のみ聞いただけでそれ以上は口を割らなかったし…
あれ、そういえば何か、大事なことを忘れている気がする。確か最初に…
…駄目だ、思い出せない。まあでも差し迫ったものではないはずだ、きっと。
どちらにせよ、この世界と同じでルーのこともまるきり分かってはいないんだ。
だから少しでも彼女のことが知りたい気持ちも後押ししてこのバイトに入ったというのに、初日から前途多難すぎた。
それに、もし俺がこのバイトをやめたとしても彼女はこの計画から抜けることはしない、いや出来ないだろう。
それは感情云年の話ではないから余計に絶望的だった。
仮に、この調査が国家公認ではなかった場合、いや、どちらにせよ悲惨なことになりかねない。
もし彼女が仕事を放棄しても否応なしに関わらせるだろう。最悪…考えないほうがよさそうだ。
彼女のためを思うなら、せめて最後まで自分がそばについてやるべきだ。
タクミ?アイツ自体組織の人間だし何よりアイツに任せるのだけは断固拒否する。
そうなると-
「bet or fall、か。つい最近も同じことで悩んだ気がするな。答えは、決まってたはずなのに」
-また、ぶれ始めた。もしかしたら、この手を汚すかもしれないと考えると-