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W・E s ワールド・エンカウント ストーリー  作者: ムラツユ
World Examiner begining ~異なるモノ達~
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stroke point

 あれから少しして、太陽が真上に昇りつつある頃、情報収集に向かったヒノとルーの二人が帰ってきた。


「お帰り、二人とも。何かいい情報聞けたか?」

「いいか悪いかは、わからない、それでも、情報は聞けた。」

「それはいいんですけど…」


 ヒノはわかりづらいが、ルーはけもみみ少女-名をランというらしい-のほうをみて言いづらい雰囲気を醸し出していた。

 …ランがいない時を見計らって聞いてくれ、そんな意味合いも含まれているだろう。


「じゃあ、後で聞こうか?ヒノもそろそろ準備しないと。あ、そうだ。ついでにルーもやってみようか?」

「え?いや私は迷惑になるかもしれませんし…」

「大丈夫ダイジョブ。店長、あまりの服有りますよねー!」


 確認をとると、まだ予備の服が余っているようでどうせならみんなでやってみようかという話になった。

 人出が増えれば回転率も上がる、それが見目麗しい少女なら男どものハートをがっつりキャッチだ。

 


 さて、そんな打算だらけの久しぶりの異世界バイトではあったが、見事に今回も大繁盛となって店内の席は埋め尽くされている。

 ラン含むその他の臨時従業者、いわゆるルーや異能者組は拙いながらも懸命に働いているのが見える。

 手伝ってくれればその分は給金を出すといった店長の鶴の一声もあってのことだろう。

 前回のような修羅場にはなってないのが個人的には嬉しいことだ。

 あの時は厨房二人に対して客引き一人、給仕一人だったからな

 …ん?何やってるんだランの奴


「あ、あの、やめて下さい。」

「そうは言ってもほんとはこういうのが好きなんだろ?」


 まあ、こういう不埒な真似をする奴も出るかもしれないと思ってはいたが、此処まで典型的だと…しかもまあ昼だぞ。

 ともかくこのまま捨て置くのは拙いだろう、早く仲裁しないと。

 

「申し訳ありませんが、店の子に手を」


 すべて言い切る前に、頬をかすめてフォークが不埒を働いた男の手へと、まるで吸い込まれるように突き刺さった。

 顔には仄かに一閃赤いスジが入って、タラリと赤い液体がしたたり堕ちる。


「イッテェ!おい誰だ!こんなもん投げた奴は、お前か!」

「落ち着いてください、お客様!店の中で暴力はやめてください!」


 逆上した冒険者のオッサンを何とかなだめながら、自分の後ろの下手人の姿を探す。

 後ろには首をブンブンと降っているルーとすまし顔で注文を取るリュウの姿があった。

 ちなみに彼の担当の席に座っている人があり得ないものを見たという感じで顔が固まっていたから十中八九リュウが原因だろう。

 ていうかなすりつけやがった…!

 そんなことよりも早く、この状況を脱しなければ…


「他のお客様の迷惑にもなりますから、此処は穏便に、何卒、なにとぞ…!」

「へえ、じゃあ店の外ならいいんだな?」

「そう言うわけでは」

「うるせえ!黙ってついて来い!」


 必死の説得もむなしく、肩をつかまれそのまま店の外まで引きずられていく。

 ちらっと少年の様子をうかがってみると、こちらを舌を出しながら「ドンマイ!」とでも言ってるかのような顔で見ていた。

 おのれ、リュウ…!後で見てろよ…!生きて帰れたらな!

 俺、ここで死ぬのかな…


 扉の前まで連れていかれると、外へ乱暴に投げ出される。

 その時に元から往来を歩く人々に何事かとこちらを見てくる。

 そして先程こちらを投げ飛ばした冒険者のオッサンもずかずかと往来に姿を現す。

 それだけで察したのか大半の人々が興味を失い、ごく少数が野次馬として残り、楽し気な顔で成り行きを見守っている。

 こっちは今でも肝が冷えっぱなしなのに…


「とりあえずお客様、ひとまず落ち着きましょう。暴力では何も生みませんから」

「ハン、すかしやがって。その態度も気に食わねえんだよ。ごちゃごちゃ言わずにさっさと構えろや」


 あちらはもう腰から剣を抜いて臨戦態勢に入ってしまった。

 野次馬たちは今なお「早く始めろ」とヤジを飛ばす、うるさい。

 

「私には、あなたと戦う理由がございません。ですのでどうか矛をお納めくださいまし」


 さもないと首が飛びます、こっちのが物理で。


「ステゴロでやろうってか、いいだろう、そっちも見たところ丸腰だしな。」


 どうしてそうなった。

 いや、確かに剣で切りかかられても困るが素手に代わっても正直勝てる気がしない。

 片や腕にそこそこ自信があるといっても平和な国の一般学生、片や現役バリバリでしかも今がおそらくノリに乗っているファンタジー世界の冒険者。

 勝てると思ったほうが頭がおかしい。

 それでも、今味方をしてくれそうな人は店の中だ。

 誰でもいいから早く騒ぎを聞きつけて助けてくださいいやマジで。

 そんな内心をあざ笑うかのように、しびれを切らした野次馬どもが懐からコインを取り出して「これを合図に始めようぜ」的なことを言い出した。

 すぐに待ったの声を上げてもそんなことはどこ吹く風と、すぐに多数決によって可決される。

 そしてついに試合の火ぶたが切って降ろされる。


 本当にどうしたものかと恐怖に染まる頭で出来うる限り、考えつくそうと努力しても処理能力が低下して追いつかない。

 

 嗚呼、マズイ。しびれを切らした奴さんがこちらにまっすぐ向かってくる。

 油断しているからか、それとも血がのぼっているからか頭部をねらっていると丸わかりな大振りで、しかも直進的だ。

 当たりたくない一心で体をねじる、まだ油断しているうちに何とか打開策を―

 瞬間、衝撃が腹部へと走る

 どうやら、腐っても冒険者ということか、冷静に、しかも油断を装った二段構えの攻撃が見事にクリーンヒットする。

 グワンと脳が揺れる感覚とともに、意識がブラックアウトした。

 


「ハァ!?あのバカ戦えもしないのに冒険者に喧嘩を吹っ掛けられて連れかれたんデスカ!?」

「それはもう見事にテンプレみたいな流れで連れてかれたっす。」

「どどど、どうしましょう!?このままだとあの方が大けがしちゃいます」


 休憩室で休憩をとっていた三白眼の少女には寝耳に水だったのは間違いない。

 さすがに拙いと判断したのか一部始終を見ていた一人が仕事を中断してその中でも一番の責任者に判断を煽りに行った。

 報連相は何事にも優先されるといったとある青年の指導のたまものである。

 まあ、今回は完全に裏目に出てしまい時間のロスにつながった、というのは悲しい誤算だろう。

 それは置いておいて、この場にはひとまず最低限店が回るための人員だけ咲いて現場責任者と残りのスタッフが集まっていた。


「…私のせいで、…代わりに連れてかれちゃったんです…ひっく」


 犬耳の少女が先程の様子を思い出したのか、それとも責任を感じているのか目には涙が蓄えられている。

 そもそもな話、原因は昼間から盛った冒険者を窘めようとしたところをどこからか食器が飛んできて命中、近くに居た青年が濡れ衣を着せられたといったあらましなのだが。

 遠因を作ったであろう少年は口を割らずじまいなので真相はヤミの中である。


「ああ、別にアンタのせいじゃないデスヨ。…それでも拙い状況だし、一寸様子を見てくるデス」

「でも、あの時の実力ならたぶん大丈夫じゃないすかね、あの時カミュを助けたのアイツっすよね?あ、ちょっ、カミュさん!」

 

 少女は、少年の制止を振り切り現場へと向かう。

 ちょうど、そんな時だ。

 向かう先から、ひときわ大きい歓声が上がったのは。

 その歓声を耳にした少女ははやる気持ちに呼応するかのように足を速めるのだった。



 そんな少女が目にしたのはふらふらといつ倒れてもおかしくない体の青年とそれに相対するガタイの良い冒険者然とした中年。

 そしてそれを観戦している野次馬の存在だった。

 目の前の二人を止めようと一歩踏み出すと周りの野次馬がそれを体を使って制す。

 いいところだから邪魔するな、といったところだろう。

 少女の目にはどう見ても、ただの弱い者いじめにしか見えない。

 そして、それを肴に楽しんでいる最低の連中だと、少女は心の底から思ったようだ。


 しかし、彼ら、いわゆる野次馬たちはそんな思いで見ていたわけではなかった。

 先程、冒険者のきつい一撃を受けた青年が這う這うの体であってもなお立ち上がり、立ち向かおうというその心意気に心を動かされていたのだ。

 それを、今しゃしゃり出てきた女子に邪魔をされてはたまらないと、この決闘を最後まで見守りたい一心で少女を止めたのだ。


 もちろん両者そんなことはあずかり知らぬことではある。


 と、そんな男女の確執とは別に試合の流れも動いていった。


「なあ、本気でかかってこないのか?嗚呼なるほど、さっきのが本気だったわけね」


 青年はまるで相手を虚仮にするかのような態度で向き合い、嘲笑っている。

 先程綺麗に一発食らったとは思えないほどのハッタリだ。

 それでも青年は聞いているのが嫌になる笑い方で相手を挑発する。


 それでも相対する冒険者は依然冷静をたもったままだ。

 彼もこれが自分のペースを乱すためのブラフであると察しているからだろう。

 今度も、油断はせずに余裕を保ちながら彼我の青年へと接近してコンパクトなスイングで青年を打ち据えんとする。


 交錯する二つの陰、物理の法則にしたがった結果か、単純に膂力の問題か二度目の交差も青年が後ろへと勢いよく飛ばされる結果で終わった。

 そのことに落胆する野次馬、冷や汗を浮かべながら見守る少女。

 しかしその中で冒険者は不可解な表情を浮かべていた。


 そして、少年はまた起き上がる、はたから見れば不気味に見えるほどに機械的な起き方だった。

 その手には、いつの間にか男が持っていた剣が収まっている。

 そこで違和感の正体に気付いたのか冒険者は自らの腰に目を向ける。

 もちろんそこにはあってしかるべきものが今はない、それも当然だろう、今自らの武器は青年の手の中にあるのだから。


 青年はわざわざすり取った冒険者の剣を投げ渡す。

 その行為が冒険者の勘に障ったのか、憤りを隠さずに自らの剣を抜き放ち勢いに任せて突進する。


 決着は一瞬でついた。


 我武者羅で突進する冒険者を青年は半身をずらして、切り殺さんとして突き出した腕をつかんでその勢いのまま投げる、見事な一本背負いだった。

 未だ何が起こったかわからない冒険者の腰から一本の短剣をかすめ取り首元へとあてる。

 この時点で続行は不可能、その動きをしたい時点で青年は無駄なく動脈を裂くだろう。

 周りは驚きと歓声の二つで沸き立つのであった




「…、一寸、聞いてるんデスカ!」

「はい!聞いております!ちゃんと起きておりますとも!」


 突如として耳元に届いた怒鳴り声に、条件反射で返事を返す。

 どうやら自分は少しの間意識を失っていたようで、周りの環境が微妙に異なっていることに気付いた。

 あれ、なんでカミュさんここにいるの?ていうかなんで野次馬の皆さんもそんないい笑顔でこっちに歓声を飛ばしてきているん?


「あんちゃんなかなかやるじゃねぇか!最初見たときゃあただの貧相なガキかと思ったが妙な技も使いやがるし、アンタ最高だよ!」


 はて、なんの話だろうか。

 本当に覚えがない、そっと目の前をも見てみればなぜか片膝ついて悔しそうに俯くチカンのオッサン。

 本当に意識を失っている間に何があったのだろうか。


「まったく、心配ばかりかけて、ほらさっさと業務に戻るデスヨ!さぁ他の奴らも帰った帰った!」

「お、おう?あ、ちょっいたいいたい!なんか全身が、主に腹部がイタイ!?」


 遅れてくる痛みと有無をいわさずに引っ張るカミュ、いまだにさっぱり状況が分からないのだがいいのだろうか。

 …あ、そういえば自衛用のスタンガン使ってないや。




 まあ、それで店内に戻ればランさんに謝罪をもらうわ、宣言通りリュウにげんこつかますわ、ルーに回復魔法かけてもらいながらヒノと一緒に心配されるわで状況に流されている感が否めない。

 店長には一応、ということで休憩をもらいまして突然やることが無くなり申したわけで、休憩室の番になっているカミュと待機中である。

 しかし、困った。さすがにこの状況は心臓に悪い、気マズイ的な意味で。


「大声出しすぎて、喉が渇いたデス。なにか持ってきてくれマセンカ?」

「はいただいま。」

「…やけに素直デスネ。」

「ああ、いえ?そんなことはないですよ?」

「…それにさっきからずっと丁寧語デスヨネ、なんデスカ?そんなに話しづらいデスカ?」

「そ、そんなことはないさ。まあさすがに女の子と二人きりっていうのは些か緊張するけど」


 マズイ、店長の話を聞いてからどうも彼女に対して受け身の姿勢で接しすぎたようだ。


 ちなみにどこからか、お前女の子と同居してるだろ、と突っ込みが聞こえた気がするが、あえてそれを説明するなら『慣れ』というものだ。

 最初は俺だっていろいろと苦慮した、失礼。今もである。


 ある意味奴隷根性ならぬ役者根性が発揮してしまった瞬間か、どうしてもなりきろうと行動に出てしまう。

 この『隷属の腕輪』もなかなか優秀なようでできると判断した主の要望なら命令と判断して即座に行動できるように体を統率するのだ。

 先程のカミュの発言は一した、世間話程度の意味合いでもこちらには順守すべき命令になることもしばしば、というか当初はそんなこともよくありました。


 それは置いといて、どちらにせよ本当に気まずい。

 それではどうするか…そうだ。


「この時間の間に客に話を聞いてみようと思うんだけど、どうかな?」

「話を聞こうにも、言語が不自由じゃ意味ないデスヨ。」

「なら、俺だけでも言っておこうと思うんだが、カミュはここに残っててもいいぞ?」


 情報収集にこの時間を当てれば、作業もはかどりこの鬱々とした場ともおさらば出来る。

 これほどの名案はあるだろうか、いやない。

 カミュは少し考えて、迷いながらも自分もついていくことにしたらしい。


 まあ、それはともかくまずは店長に許可をもらいに行かなければならない。

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