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W・E s ワールド・エンカウント ストーリー  作者: ムラツユ
World Examiner begining ~異なるモノ達~
32/46

異世界調査するにあたって

 平日の間にちょっとしたドタバタがあったものの、可も不可もなく異世界調査初日まで日が進む。

 今、どこにいるのかというと、最初にこの話を聞かされた喫茶店『エンクエントロ』だ。

 待っている間暇なものだから軽くサンドイッチとロシアンティーを頼む。

 お冷最初に出されているので、届けられたロシアンティーとジャムをルーに渡して、二つでワンセットのサンドイッチは半分こということで一つずつ食べる。

 朝飯も食ってきたから量はちょうどよかった。

 スプーンでジャムを掬って一緒に飲むという北国の異国情緒あふれる楽しみ方はルーにとっても初めてだったようで驚きとともにそのおいしさに舌鼓をうっていた。

 こういった文化の触れ合いはいいものだとつくづく思う。

 それはさておき木之本さんから『以前とは場所が変わったから添付された地図の場所に集合』というメールを受け取ったのだが、今この場には俺とルーだけしかいない。

 そもそも喫茶店の許容人数的にあの人数は入らないからそれぞれ別の場所に集まっているのだろうと当たりを付けて、時計とついでにもう一回地図を流し見る。

 うん、ここで会っているようだ。


「や、ゴメンゴメン。一寸講義が長引いちゃってさ、-今回はルーちゃんも来ているね。」


 少し時間が過ぎたころ、ようやく主賓のご到着といったところだ。

 挨拶を交わして、本題へと入る。


「ちなみに聞くけど、ここからだとどれくらいかかるんだ?」

「嗚呼、大丈夫すぐそこだから、マスター!」

「あいよ、ちょっと待ってろ」


 木之本さんがマスターを呼ぶと、彼は注文を取らずに控室へと入っていく、数分後戻ってきて何かを木之元さんに手渡した。

 そのまま彼がカウンターまで戻るといつも通りの業務に戻っていく。


「それじゃいこっか。二人ともついてきてね」


 促されるまま、彼女の後をついていこうと席を立った、のだが…


「あの、木之本さん、店の出口は反対なのですが…」


 そう、ルーの言う通り木之元さんは喫茶店の奥へと足へと進めていく、しかしかのじょはどこ吹く風とずんずんと最奥へと進みそこで立ち止まった。


「ふふん、まぁ見ててよ」


 そう言うと彼女は得意げに鼻を鳴らして壁を入念に探る、目当てのモノが見つかったのか今度は先程手渡されたものを取り出して、差し込むように突き立てた。

 するとかちゃり、と音が鳴りそのまま彼女が手で押すとスぅ、と壁が後ろへと引いていった。


「うそぉ…」

「わぁ…!」

「どうよ、驚いた?ま、それは置いといてようこそ、私の研究室(ラボ)へ」





「この研究所は喫茶店の後ろ、その一軒の平家を丸ごと改修して作ったんだけど、立地の都合上一寸狭いのが難点だね」

 建物と建物の間に門があるという謎使用、そういえば裏側にはなかったけどまさかこんな仕組みになっているとは。

 …それとは関係のない話だが妙に肌寒い、日陰にいるからだろうか。

「それは抜きにしても、一軒丸ごと借りれる上にこんな改修までするとかそんなに儲かっているのか?」

「儲かっているのは事実だけどこの家はそこまで高くなかったよ、訳あり物件らしいから。」

「ワケアリ?あのワケアリ物件ってなんですか?」

「ふふふ…それはねルーちゃん、此処…出るんだ、お化けが」

「えええぇぇえ!?」


 木之本さんが仰々しく説明すると、ルーは悲鳴のようなものを上げながらおれの後ろへ回った。

 さりげなく盾にしようとするなと言いたいが、まあ可愛いものかと状況に甘んじることにする。


「お化けねぇ…そんな非科学的なものいるわけないじゃないか」

「それを君がいうかい…ああ、そういえばそういう風に説明(・・)されたんだっけね」


 木之本さんは「厄介だなぁ」とぼやいた後また門の窪みに鍵を差し込んでガラガラと引き戸を開ける。

 靴を脱いで、持ったまま入ってくるよう指示を受けてまた彼女の後へとついていく。

 

「一応中の説明をすると一回は居住スペースで、地下に研究設備やら整った私の研究所があるって感じね」

「ちなみに地下にある理由は?」

「趣・味。」


 その一言だけで理解できる、コイツ、ロマンを追い求めるタイプの科学者だと…ある意味マッドサイエンティストより厄介な。

 まあでも、地下にある研究所というものも秘密基地の香りがなんとなくあって面白いのだけど。

 地下へと続く階段を下りその先にある扉をくぐると、近未来然とした感じや今風のラボとは別の、どこかゆったりとした部屋に着く、どちらかというとループモノの作品でみた感じのモノに近い。

 その中にはヒノ達異能者三人組とクーさんが先に中で待っていた。


「やぁやぁみんな、待ったかな?」

「待ってはないけど後で話がある、逃げたら『ウィリアム・テルとリンゴ』の刑だから」

「お、落ち着こうかクーちゃん、一寸したお茶目だったんだ。」

「博士、クー、その話は、後にしてくれ」

「…わかった」

「ほ、じゃあ始める前に一寸した講義をするから、各自準備よろしく」


 ちょっとした茶番(自業自得)の後、なぜかそれぞれで椅子と机を用意させられる。

 そして木之元さんは部屋の隅から引っ張り出したホワイトボードの前で眼鏡をかけて教師然とした風貌で佇んでいる。

 ホワイトボードには『異世界調査の諸注意』と書かれていた。

 みんなが席について話を聞く体制になったのを確認して木之元さんは口を開いた。





「さてと、それじゃあ今からボートに書かれている通り、これから異世界に行くにあたっての諸注意を離させていただきます、質問がある場合は挙手してね。」


 その一言に、すぐに一人が手を挙げた。


「はい、リュウ君」

「その話って長いんすか?あまり長くて難しい話だと途中で眠っちゃいそうっす」

「できるだけ手短にはなすから、ちゃんと聞いていようね?後で『聞いてません、ごめんなさい』じゃ通らないから」


 いきなり問題発言をかますリュウだったが、木之本さん人を射殺すような威圧感にやられて力なく返事を返す。


「じゃあ続けるよ?まず一つ目、『異世界では必ずあのゲームの時に使ったニックネームで呼び合うこと』。」

「木之元さん」

「先生とお呼び!ナカアキ君。あと挙手!」

「…はい先生」

「よろしい」


 木之本さんが形から入るロマン主義者だということが分かったところで早速疑問の甲斐性に移る。


「なんでわざわざニックネームで呼び合うんだ?別に名前でも…」

「その問いには二つ理由があるんだけど、その一つは先週のあの試験だ。」

「あ、そういえば一応ゲームと言っても本当の異世界へ飛んだんデスヨネ。もしかして現地の人にややこしくしないためデスカ?」

「そう、正解だよカミュちゃん。あともう一つは…ルーちゃん、お願いできるかな」

「は、はい。…私たちの世界では奴隷というものが一般的で、それら専門の技術や魔法が発展しているんです。その中に高位のモノではありますが名前で相手を縛り隷属させる魔法があるそうです…」

「そう言うこと、わかった?」

「なるほど、さすがファンタジー何でもありだな」

「…まあその類の呪術もこっちにあるみたいだけどねぇ…」


 最後何かを言っていたみたいだが、よく聞き取れなかったしわざと声量を抑えて言うものだから聞かないほうがいいのだろう。

 ちなみにカミュがこちらにドヤ顔を見せてきたが華麗にスルーする。


「さて、じゃあ二つ目。『基本的に法やマナー、いわゆるTPOは現地に合わせること』、要は郷に入っては郷に従えってことね。はいはいヒノ君どうぞ?」

「具体的にはどうするんだ?」

「そうね、地方にもよるけど一番わかりやすい例は、さっき出た奴隷の話かな。とくに人に関わるモノはかなり難しい話だからできるだけ関わらないようにすること。いい?」


 木之本さんは念を押すように約束させた。

 まあ最後に「何があるかわからないから『できるだけ』なんだけどね」と付け足したことからそこらへんも臨機応変に対応するべきところだということがわかる。


「最後の三つめ、『異世界から物資をこちらにもたらすことを禁ず』、禁止とは言っているけどこれも臨機応変。ただこっちはかなり厳しいからそのつもりで。はいはいルーちゃん」

「どれくらい厳しいんですか?」

「そうね、毎回調査が終わって、帰宅する際にボディチェックをするくらいかな。一応、やむを得ない場合持ち出した理由を書いた書類を提出して審査の後、かなり低い確率で許可されることはあるみたい。これはできるだけ秘匿しておきたいというのと、下手に経済をかき回さないためね。」


 これについても理解はできた、下手に手に入ったもの(例えば黄金や貨幣)が市場に回ればそれだけ経済的な混乱に見舞われて最悪、極端なデフレだったりインフレだったりを引き起こしかねないための配慮だろう。




「さて、質問もないみたいだし今度こそ業務内容に移ろうか」


 そう言って木之元さんはホワイトボートを一回転させる。

 そこには『これからやってほしいこと』と書かれていてその下には箇条書きで


 ・異世界で生活し、しきたりや風習の把握および現地住民との交流。

 ・民衆に紛れて市井の調査をする

 ・行方不明者の捜索


 と三つがでかでかと書かれていた。


「大きく分けて、この三つね。じゃあ質問を受け付けるよ」


 正直、以外ではあった。

 もっとこうファンタジーじみた。ドラゴンを倒せ、とか何々財宝をとって来いとか言われるかと思ったが、漫画の見すぎだなと自分に苦笑した。

 まあ、いろいろと聞きたいことは増えたので素直に手を上げようとしたら、周りのほとんどがあげていることに気付いた。


「おお、こんなに手が上がるなんて先生嬉しいよ…じゃあまずカミュちゃん」

「何かモンスターとか戦わされるんじゃないかと思ったんデスケド、ちがうんデスカ?」


 先程、自分が考えて却下した疑問がすぐに出されて思わず吹き出してしまった。

 そのおかげですごい迫力で睨み付けられたので全力でそっぽを向く。


「まあ、そういうのを期待してた子もいるだろうね、基本そこは自由、やりたい人はお好きにって感じかな、ただし自己責任で」

「じゃあ、一つ目と二つ目の違いはなんすか?」

「はいリュウ君、これはねいわゆる作戦の違いなんだよ。」


 リュウが間髪入れずに質問を投げかけるもすぐに対応して説明を続ける木之本さん、ふむ作戦の違いとな?


「どういった違いなんだ?」

「一つ目は融和政策、二つ目は異世界での諜報活動だね。両方難しく考える必要はないよ、ようは嫌われないように気を付けながら世間話をするくらいの心意気でやってくれればそれで充分」


 「そこまで期待してないみたいだし」と最後つぶやいた。

 まあ当たり前だろう、相応の訓練をしてないのにプロと同じ成果を期待されても困りものだからだ。


「あ、あの、じゃあ最後の行方不明者の捜索というのは何でしょうか?」


 最後の疑問にはルーが手を挙げる。おそらく一番の大きい疑問点だろう。


「最後のこれは、君たちに一番励んでほしいものなんだ。行方不明はまあよくある事なんだけど大体は何かしらの決着がつく、無事に見つかったリもしくは無残な状態で発見されたり様々だけど。」

「もしかして、その何割かは、異世界に飛ばされている、ということか?」

「そうだねヒノ君、まさしく『神隠し』と言ってもいいくらいの出来事がごくまれに起きているんだ。今回はその行方不明者達を探し出して欲しい。」

「いや、それはさすがに無茶だろ?未だに地図が完成していないのに広大な範囲から一人の人間を探すなんて」


 まさしく砂漠から砂金を見つけるかの如く無理難題だといえる。

 しかもだ、その行方不明者は何人がそちらに飛ばされているかわからない上に、最悪すでに死亡している可能性のほうが高いのだ、無茶苦茶すぎる。

 しかし木之本さんは顔をゆがませながらも、心配するなと言い切った。


「彼らはたぶん、情報の一つや二つならすぐに見つかると思う…うん」


 いつにもましてどことなく歯切れが悪く何かと心配せざるを得ない態度で木之元さんが言った。


「センセー、そこは断言するところデスヨ。それじゃ心配になりマスッテ」

「いや、その、必ずすぐに情報は手に入るよ。ただ…まあ一寸めんどくさいことになりそうかな、て」


 カミュの質問にやはり苦笑しながら答えている。まるでその話にはあまり触れたくないかの様だ。

 だが残念なことに何も情報がないままじゃ探しようがないので、あえて追い打ちをかけるように声をかけた。


「木之元さ、いやさ先生。具体的な情報がないままじゃ捜索の仕様がないんだ、なんでもいいから」


 本当に情報の重要さと言ったら、つい最近いやというほど思い知らされた、いや私事なんだけど。

 そのため妥協は一切する気はない。

 するとやっと踏ん切りがついたのか、木之元さんが重い口を開いた。


「そうだね…まあ言っちゃえば、大体の人たちが自制をせずにどこそこかの重要な役割についてたりするんだよ」

「そんなにすごいんですか?この世界の人たちは」

「ふむん、一般の人たちに混ざって学者の卵なんかも飛ばされている可能性があるからね、それに」


 先程の話で大体理解できたと思ったのだがまだ続きがあるようだ。


「これが一番厄介なんだけど…その、あっちに飛ばされる段階で何かしらの施しを受けるような術式を組み込まれるみたいなのよ、えーと最近よく聞く『異世界召喚でチートもの』みたいな感じね。」


 その言葉に周りのムードが白けたものへと変化する。

 いきなり創作でよく見るようなそんなご都合主義の話をされても信じがたい。


「そのさ、木之本さん。悪かったよどうも負担かけすぎたみたいで、だから病院逝こう?俺の先生ならきっと直してくれるさ」

「博士…さすがに信じられないデスヨ。も少しマシな法螺を吹きまショウ?」

「みんながやけに優しいのに嬉しくない!だから言いたくなかったんだよー!」


 そこで先程まで黙っていたクーさんが見かねてフォローに入った。


「みんな待って。この話は本当だからちゃんと聞いてほしい。」

「クーちゃん…!」

「それに雅紀菜の頭の中は誰にも理解不能だから医者には直せない」

「可笑しい…嬉しさと悲しさが同居している…」


 さめざめと涙を流す木之本さんとそれを無表情で眺めるクーさん、だから本当親y(ry

 まあその後、ヒノも同じ事を別の上司に聞かされていたようで、木之元さんの心に多大なダメージを与えただけで話が進む。


「ま、まあだから、情報はすぐに得られると思う。『どこそこの領地がやけに豊かだ』、『どこそこに勇者が現れた』なんて話があれば十中八九それがあたりだから」


 まあ、先程の話が本当ならまだ難しいかもしれないが難易度は格段に下がったということにしておこう。

 その様子なら飛ばされてすぐに死体になる、なんてことはそうそうないだろうし。

 これで、だいたい聞きたいことは終わった。


「ようはあっちに留学する形で、スパイ活動しながらもお互いの遺恨をなくしていきましょう、て感じかな。だから住民とのいざこざもご法度だからね、今のところはこれでおしまい。じゃあちょっと待ってねそろそろ準備ができるはずだから。」


 周りももう無いようで木之本さんがぱんっと手を叩き話を締める。

 ちょうどそのころ、コンコンと研究所のドアがノックされる音がした。

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