彼と彼女の恋空模様 上
閑話は一つといったなあれは本当だ、しかし何話とは言っていな…ごめんなさいすいません一寸長くなりましたのでわけることになりました
それでは、どうぞ
さて、すでに日が暮れて久しい真夜中の商店街、その中にあるファミリーレストランの入り口。
そこには俺こと仲秋ツナギ大学一年生と先程知り合ったとある少女、…と俺の背中で寝息を立てているお子…もといカミュ。
「ホントにゴメンね?私が背負ってあげればいいんだけど、非力でさ…」
申し訳なさそうにこちらを見てくる。
「イヤイヤ、これくらいどうってことないさ」
とはいったものの
―いったいどうしてこうなった!-
時は当日を悠々とさかのぼりその一週間前、無事、ゲームの世界から帰って来たところから始まった、…気がする。
◆
「今までの検証でわかったことはね、ルーちゃんを一度認識して視認した人はその後も視認が可能になるってことと、機械を通すと見やすくなるってことくらいかな?」
「はぁ。なるほど」
いま、俺たちはルーエの体質についての講義?を木之元さんから聞いている最中だ。
と言っても原因は何一つわかっておらず、その場の鎬の解決法のみだった。
「ん?まてよ、機械ってことはカメラで撮れば写るのか?」
「そうだね、少なくとも監視カメラにはバッチリ写っていたしその可能性はあるかな。…ただ何も知らない人が見たら軽い心霊写真に見えるだろうねぇ…」
もし、気づかぬまま合宿だったり旅行だったりで写真とってたら下手すれば全国放送されていたかもしれないのか『激写!寂しそうにこちらを見つめる外国人の幽霊!』みたいな。
ただでさえ現実離れした容姿をしているものだから写真写りによっては完全にそれだな。
それでも他人に見せれる可能性が出たということは嬉しいことだ、アルバイト先の先輩の約束も守れそうだ。
「で、でもということは、今回一緒に冒険してくれた方にはちゃんと見えている、ということですよね!?」
「理論上そうなるね、実際一度も会ってないクーちゃんは未だにこっちを訝しい目で見てくるし」
「…私だけ仲間はずれ。ヒノも見えているのに」
「俺を睨まれても、その、困る」
この場で一人だけ、ルーの姿を見る機会のなかったクーさんが恨めしそうな目でヒノと木之元さんを交互に見ている。
「まあ、クーちゃんにはまだやってほしいこともあるから、当分そのままね」
そこに追い打ちをかけるような一言が銀の少女を襲い、その場の空気が一段と冴えた気がした。
…ヒノさん、能力使ってますン?(震え声)
「能力は、使ってない、別段気温は、下がってないぞ?」
こちらの言いたいことを察したのか律儀にも返してくれる、くれるのは嬉しいけど一寸聞きたくなかったかなあ。
これが場の空気が凍るってことか、できれば知りたくなかった…。
その空気に気付いた木之元さんも慌ててフォローに入る。
どうやら見えない人を使っての実験をやりたいらしく、それには君の力が必要だから、いや君しかできないことなんだとか口八丁手八丁でなんとかその場は濁せたようだ。
そこまで話して、時間が圧していることに気付きその場は解散となった。
やってもらいたいことは後日話すとのことで、若干不安になりながらも帰宅という流れになる。
帰り道にヒノルーとで今回のことを語らいながら時に謝罪が飛び交うも緩やかに楽しい時間を過ごした。
と、此処まではよかったんだ。
「ああ、君たちも戻って来たんだね、お疲れ様。」
「…タクミか」
どうやら誰かを待って行ったらしく、待機組のリーダーをやっていたタクミと呼ばれた人物が帰り道-と言ってもまだ研究施設の中の廊下なのだが―の窓際に腰かけこちらに話しかけてきた。
個人的には、ゲームの件で結果的に彼の誘いを無視してしまったことで負い目を感じていたこともあり、出来れば会いたくない人物の一人でもあった。
しかしそんなことは気にした様子もなく彼は清々しい笑顔で挨拶をしてくる。ヒノのほうを向いた途端二人とも一瞬固まった気がしたが気のせいだろう、あえて追及しないし、したくない。
「さてと、一寸した自己紹介も済んだことだし、用事を済ませちゃおう。ヒノ、ルーさんも彼を借りてくけど問題ないかな?」
俺を指さしながら言っていることを察するに用があるのは一人だけらしい、出来ればサシで話したいということか、もしや件の件についてのナシを付けようって魂胆なのか…!
できれば御免こうむりたいがここで拒否すれば後々まで禍根を残すことになる、ならいっそのこと。
「べ、別にいいぞ、なんならここでやるか?」
思わずファイティングポーズをとって目の前の青年を威嚇する。
ここでやればヒノやルーもこっちの味方してくれるに違いない、なんてげすいことを考えたわけではない、決して。
しかし当の本人は事情を呑みこめてないような顔でこちらを見て、しばらくすると合点が行ったのか、「ああ」と生返事をして話をつづけた。
「別に、戦いに来たわけでも君に報復することがあるわけでもないんだ。一寸お話がしたいだけさ」
「…ホントに?後ろからバッサリといかない?」
「一体君の中での俺はどうなっているんだい…」
少なくとも、そこまで親しくなかった相手には気を許すなと爺さんが言っていたのが原因だ、ただし女性は除く。
暴力沙汰ではないのが分かったのでヒノには一言断りをいれて、ついでにルーのことを送ってもらうことにする。
どれくらい時間がかかるかわからないが、出来れば先に帰ってもらって夕飯の支度をしてもらったほうがいいと判断したからだ。
ついでにヒノも夕飯に誘ってみたが今回は仕事が残っているそうで断られた、残念。
◆
「さて、それじゃあ本題に入って良いかな?」
「…ああ。構わない」
場所も移動して、誰にも聞かれなさそうな建物の陰にまで来た。
一応いつ襲われてもいいように出口方面は確保済みである。
「そうか、じゃあ言わせてもらおう。先程のやり取りをみて聞かねばならないと思ったんだ。君は―」
そこまでいって、途中で言葉を濁した。
しかし意を決したように彼は言葉を紡いだ。
「君は、ルーエさんと同居しているのかい?」
「お、おう?」
予想だにしなかった問いかけにやや肩透かしを食らったものの律儀に返すことにした。
別段困ることではないはずだし。
「ま、まあそうだな。唯一の友人だし身を寄せるところもない上になに一つわからなかったみたいだから、なし崩し的に、な」
それだけ聞くと、彼は「そうか」と一言だけこぼして何事かを考え始める。
そしてすぐに答えが出たのかこちらを見据えてきた。
「なら、そろそろ別居するべきだろう。もうすでに政府で把握しているんだ。住居の都合くらいはつくし優遇もされるはずだ」
「へ?あ、嗚呼なるほど…」
瞬間、思考が止まる。
確かに国に彼女の存在が認められたうえでこの国の住人、ないし滞在者と認められるならそれに考慮して、住居やら補助やらがつくだろう。
ならご厚意に甘えて負担をなくすために彼女と離れて住みたいと思うかは、それはまた別の問題であった。
「…でも、今のところは生活には無理はないから。大丈夫だ、問題ない」
内心で今はカツカツで無理をしていることはあえて伏せて、問題ないぞ笑って見せる。
しかし、彼はえぐり込むように切り返してきた。
「君のことを言っているんじゃない、彼女の身を案じているんだ。まだ成人してない男女二人が狭いアパートに二人でだなんて絶対によくない。いつ君の多寡が外れて襲うとも限らないじゃないか」
「いや、それはない。絶対に」
それこそ先程の言葉をそっくり返したい気分になった。お前はどういう目で見ていたんだと。というかそもそもなんでアパート住まいだと知っている?
別にルーエのことが嫌い、というわけでも意識してないわけでもないが、やはりそういうのは両者が合意の上でゲフンゲフン。
それを置いておくにしても、今の彼女にはどうもそういう気が起きないのだ。
こう、神聖なものに対する気後れとか、そんな感じのモノに近い。
そもそも下手を打つと友達の関係すら壊しそうなので下手に突っ込めないのが現状なのだが…。
もちろんそんなことは口に出すことはない。男には、なめられてはならない時があるからだ、それがいまなのかは神のみぞしる。
「それを抜きにしても、異性と一緒にいるということは余計な心労を重ねるんじゃないか?特に付き合っているわけじゃないんだろう?」
「それは…」
「少なくとも今の生活よりはゆとりをもって彼女は過ごせるはずだ。もし一人暮らしが不安だというのなら俺の隣の部屋が空いているからそこに移せば、彼女のためにもなるんじゃないか?」
怒涛の理詰めでこちらの判断力を奪ってくる、危うくそのまま流されかけたところで一つ、聞き逃せないワードが飛び出た。
「待てよ、なんで最後、お前の隣に住むことになった?おかしくないか」
「別に可笑しいことは何もないよ、彼女とはこの三日間でずいぶん仲良くなったからね。気軽に接する友人が近くに居たほうが安心するだろう?」
「友人の話は大いに賛成だが、そこは普通同性の友達だろう。特にお前である必要はない!」
今まで言い返せなかった分の憤りも合わせて若干語尾が強くなる。
だが、この沸き立つ感情と言葉に偽りはなかった。
「何を言っているんだ、彼女に不埒な輩がいい寄るかもしれないだろう、確かにボディーガードを付けることも可能だがそれじゃあ、別居させる意味がない」
「なら」
「それなら、周りに気の知れた戦闘力の高い友人の近くに住まわせたほうがいい、一番に合致するのは俺だった、ただそれだけなんだよ。それに、もし襲われた際に絶対に守り切る自信があるのか?-俺はある。」
そこまで言われて、口をつぐんだ。
男としてならここは一も二もなく肯定するべきなのはわかっているし、自らの気持ちにも素直に答えるなら一言「ある」言うだけでいい。
でも、今の自分の実力を鑑みて、なおかついままでの過去を振り返ってみるとそうやすやすと頷くことは、出来なかった。
その姿を見て彼は嘆息をこぼす。まるで「この程度か」と嘆いているような、もしくは呆れられているようにも見えた。
「自分の分事態は弁えているようだね。次で最後にしようか」
「…なんだ」
最後の意地で受け答えだけはしようと力のない声で相槌を打つ。
帰ってきた答えはさらに追い打ちをかけるようなものだった
「俺は、市之瀬巧は、ルーエが好きだ。-付き合うことになったからよろしく、まぁただそれだけだよ、じゃあね」
「…は?」
彼はその一言だけを残し、去っていった。
最後に残ったのは、いつまでも思考がまとまらない一人の男だけが取り残されるのだった。