ようこそ異常な『世界』へ
今回は一寸長いです。
後半から黒ーくなってきますが個人的には陰謀論大好き人間なんでどんどん盛り込んでいくと思います
目を開けると、そこは何もない真っ白な空間だった。
先程助けたはずのカミュの姿もこの場にはいなかった。
ここに来る直前に『congratulation』という言葉が聞こえたような気がしたが、あれが本当なら―
突然、後ろから拍手の音が聞こえた。
振り返るとそこには木之元さんが手を叩きながらこちらを見つめている。
「おめでとう」
一言、ただ簡潔に述べる彼女に、今までの鬱憤が爆発して掴み掛る。
彼女はそれでも無表情でこちらを見ていた。
「おまえッおめでとうってなんだよ!いきなり連れてこられて、ルーは無事―」
「おめでとう」
また声が聞こえた。ご丁寧に拍手付きだ、なぜか自分の後ろからである。
振り向くと―
「ハァ!?」
後ろにも同じ顔をした木之元さんが手を叩きながら突っ立ている。
混乱する頭の中をさらにかき乱すように状況は混沌と化す。
いつの間にか、周りに木之元さんが増えていて皆が皆手をたたいている。
気が、狂いそうだ。
「や、やめ」
「おめでとう」
「オメデトウ」
「「「「オメデトウ」」」」
「ぎ」
◆
「お、お早うナカアキ君、いい悪夢見れたかな?」
「ギャァァァあゝ!?」
目を醒ました俺を出迎えたのは、白衣に着替えた木之元さんだった。
無様にも身を投げ出しながら距離をとる。
先程の夢がトラウマになったとかそういうことでは、断じて、無い。
「あやや、ちょっとやりすぎちゃったかな?メンゴメンゴ」
「やりすぎたって、あれお前の仕業か!我は求め~てか!?」
「いやー、私蛇年だからアリかなって?」
それ以上はさすがに拙い、慌てて彼女の口をふさぐ。
「て、そうじゃない!ルーは、みんなは無事なのか!?」
「もごもご、落ち着きなさいって、そろそろ-」
彼女に詰め寄り彼らの安否を問いただす。
もし、自分だけが生き残ってしまったのなら…
そんな中、屋外から、複数の先を急いでいるような足音が聞こえてきた。その音は確実にこの部屋に近づいてきている。
そして、勢いよくドアが開け放たれた。
「ツナギさん!大丈夫でした…か?」
「…それはこっちのセリフだよ」
その先にいたのは、今まで安否が危ぶまれながらも、逆にこっちを心配しているお人好しな少女-ルーエだった。
そんな様子を木之元さんが悪戯の成功した子供の様な顔でみていた。
「最初に言ってたでしょ?危険なことは何もないって」
◆
あの後情けないことに腰が抜けて、ついでに数分魂が抜けたように頭が働かなかった。
これがいわゆる魂消たというやつか、なるほど違う気がする。
そんな馬鹿らしいことも考えられるようになったころ、木之元さんからことの顛末を聞くことになる。
「さて、まずは異世界調査体験版、クリアおめでとう、ナカアキ君」
「体験版?どういうことだ。確かにゲームだったけど、というかバグだらけすぎるだろうあれ!」
今思い出しても、腹の立つバグの数々だった。
半ば人間不信が再発しかけたといっても過言ではない。
「ああ、たぶん君たちの言ってのはバグじゃなくて、ただの仕様そうあるべくしてあったものだから。」
その言葉を聞いて、唖然とした。あれが、仕様?
なんだ、開発者は差別を促進させたいのか?
「あ、あの、なんで私たちだけほかの人たちと違ったのでしょうか?」
「いや、ルー聞こえ―」
「いやー、いいところをつくね、ルーちゃん!バッチし聞き届けたよ」
どうやら、木之元さんにもルーの声が聞こえていたようで元気の有り余る返答が帰ってきた。
嗚呼、そういえば門前でちゃんと聞こえていたな。
「さて、その問いには簡潔にいっちゃうと『君たちは今、特別な状況に陥っているから』とでも言っておこうか、詳しい話は順番に言っていくからちょっと待っててね。」
「詳しい話?順番?」
「そうそう、これにはマリアナ海溝よりも深くエベレストよりも高い、今の人間社会よりもこじれた話があってだね」
どこから話そうか、そんなことをのたまいながら、頭に人差し指を置き思案顔で部屋の中を右往左往している。
そんなに厄介な話なのだろうか、本当に受けなければよかったと、今更どうにもならないことを後悔する。
いやそれよりも
「それよりも今、何曜日だ?もしかしてもう平日なのか?」
「ああ、それは気にしなくていいよ」
その言葉に、安どのため息がこぼれる。どうやらゲーム内時間とはリンク―
「君は公欠ってことになってるから」
「はぁ!?どういうことだよ?」
していたようで、今は普通に月曜日、完全に授業日だった。
「まあまあ落ち着きなって、ちゃんと公欠届ももらってきてるからさ。嗚呼そっか先に自己紹介しちゃおっか、そっちのほうが理解も早まるでしょ」
一人で合点がいったように尚も話を続ける木之元さん、そもそも自己紹介たってすでに名前も所属学科も割れてるのに今さら何を言うことがあるのだろうか。
彼女は、わざとらしく咳払いをして、言葉を紡いだ
「私は、国家開拓技術省所属、木之元雅紀菜だよ、今後ともよろしく!」
「…へ?」
「その顔は信じてないね。まあでもすぐには無理か、一応国家クラスの後ろ盾があるってことは理解してね」
理解してね、てそんな馬鹿な話があってたまるか。それでもこの話を信じたほうが納得のいくものもあるのは事実だった。
「さて、自己紹介も終わったし少しずつ、話していこうか、いま、君たちがどんな状況に陥っているかそれをじっくりとね」
木之元さんはこちらをを睨み付けるように、挑戦的な目で見てくる
知らず、息を呑んだ。
「君たちは数週間ほど前から、政府の監視を受けていた。理由はまだしも、時期的な意味は分かるよね?あの、宗教組織の一斉検挙の前後だ。」
宗教組織、あのいかれた奴らのアジトに殴り込みをした時から、すでに監視されていた?
「それで理由なんだけど、まあ君たち両方にマークがかかっていたんだけど、一番動向を気にしていたのは君だよ、ルーエちゃん。」
「わ、わたし何も悪いことはしてません」
「悪いことっていうと、まあ不法入国なんかが当たりそうだけど、そもそも見える人がそうそういないし論点からずれるから今は置いとこっか、君にはね日本お偉方のみんなが注目しているんだ、いろんな意味で」
「だから、なんでだよ?確かにこいつ少し変だけど」
「そうだねナカアキ君、あの喫茶店での話覚えてるかな、わたし最初に結構変なこと言った気がするけど」
喫茶店で言ったこと…、たしかバイト関連の話と―
「-『異世界って信じる?』だったかいやまさか」
「えっとあのう…どういうことですか?」
未だに状況を呑みこめてないルーエは置いといて、もっとも馬鹿げた一つの推論に達した。
目の前の少女はただただ哂って言葉を紡ぐ。
「そう、彼女は異世界人で、しかもエルフなのさ!ビバファンタジーってやつだね!」
木之元さんは答え合わせをする子供の様な雰囲気でころころと笑って言いのけるのだった。
◆
「そんな馬鹿な!?異世界人てだけでもワケが分からないのにエルフ?そんなファンタジー小説じゃあるまいに―」
「イヤイヤ本人に聞いてみなよ?まあでも正確にいうとエルフではなくそのハーフかな?耳もそんなとがってないし」
「それにね、別にエルフは耳がとがっているのはデフォってわけじゃないよ、後の創作でそうなっただけ―」
最後のうんちくは無視してルーエに視線を向ける、彼女は、少しためらいつつも答えてくれた。
「は、はい。わたしは人間の父とエルフの母の間から生まれた混血、ハーフエルフです。…軽蔑しますよね」
無理に笑ってみせる彼女だが、どこかおびえているようにも見えた。
「てかお前、エルフだったのか、気持ち耳がとがってなくもないけど全然気が付かなかった。」
鈍感すぎるだろう、と言われるかもしれないが、それほど変わった雰囲気はしなかったのだ。
完全に負け惜しみではあるが。
おびえる理由は、ハーフの部分だろうか、差別がなくなりつつある今でもハーフというのは奇異の目で見られことは少なくないらしいから仕方ないことかもしれないけど。
「あー、ナカアキ君?たぶん君が考えていることはなかなかに的外れだと思うけど、話を進めるよ?」
なぜか考え事が分かったかのように指摘されたが、今は彼女を宥めるのが先か。
「おいこら、まあいいや―エルフってとこも大事なんだけど今は『異世界』という単語に注目してほしい話の冒頭にそんな下りはなかったかな?」
そういえば、先程のゲームの名前が『異世界調査』だったはずだ。
「さっきのは、ただのゲームじゃなくてね、君たちの有用性を図るものだったのさ。特に、緊急時における一人一人の判断力その他戦闘力を見るための、そのためにわざわざ『異世界』の一部に特殊な結界はって、君たちの精神だけあちらに飛ばした、というわけ」
「それは非科学的すぎないか?」
「そう、君たちはそんな非科学的な世界を、精神だけで体験したんだ。わざわざあのゲームに国内最高峰の技術者たちと、魔術師たちを集めてね。」
私も頑張ったんだよー、と何でもなさそうな顔で言ってのける木之元さん。
オカルト抜きで考えても、あのVR技術は完全に時代を先取りしすぎていたのはわかる。
「もし、異世界云年が本当だとしても、なんで学生ばかりなんだ?大人、しいて言うなら自衛隊の人たちはどうなんだ。」
「それに関しては、具体的に三つの答えを返そう。」
「まずひとつ、すでに自衛隊は派遣している。でも、状況は芳しくない。理由としては現地住民との衝突と突然隊員が不調を訴えだした。」
「二つ目、見たと思うけど異能者が学生、正確には未成年に多く見られるということ。これについては話が長くなるから後で聞いてね。」
「三つめ、これ言ってて悲しくなるんだけど、君たちを雇ったほうが軍を派遣するより安価で、ポテンシャルも発揮してくれるから。」
かっつかつなんだよねー、と渋い顔をしながら木之元さんは言った。
「もう一つは―まあ、それは後で言うよ業務関連は後回しってね」
「いろいろと言いたいことはあるんだが…体調不良?それは俺たちも拙いだろ」
「大丈夫、見当はついているんだ。簡潔に言えば環境の急激な変化が原因さね」
「真っ先にに、一番の年配が体調不良を訴えた。そして次に職務に実直な隊員が、そこまで人員が減らなかったのは不幸中の幸いってやつだね。じゃあ、どうしてこうなったのかな?」
答えてみろ、と満面の笑を向けてきた
「…何か、地球にはない成分が含まれているから、か?」
「あたりに近いはずれだね、確かにそれも含まれているけど、一番はストレスかな」
「地球での常識がまるで通用しないんだ生活面においても、戦闘面においても。たとえば当たり前のように奴隷なんているし、常識が一週間もしないうちに代わっているなんてこともあるそうね、戦場に出れば戦闘機を使っての制圧戦では通用するけど、歩兵戦では竜騎兵なんてものに翻弄されるなんてよくある話だそうよ。」
そこまで一気に話すと、さすがに疲れたのか一息はいて呼吸を整えている。
「一つ目に関してはこんなもんかしらね、他はある?」
「じゃあ、三つめだ。大人並の働きを期待されても正直無理だぞ?」
「それは、あのゲームについてのこともあるんだけど…おーい、そこで立ち聞きしてないで入ってきなよー」
その声に呼応するように、ドアの外から物音が聞こえた。ついで、静かにドアが開く、そこには―
「ツナギ、その、無事だったか」
「お。おうそっちも健勝そうで何より?てあれ、依頼人さんも…?」
「や、さっきぶり」
そこには、ゲーム内でずいぶんと世話になった、ヒノと依頼人がたっていた
「ヒノくんクーちゃんお疲れ~、おかげでいいデータ取れたよ」
「それほどでもない」
「え?え?」
依頼人―クーちゃんというらしい―は木之元さんとずいぶん気軽な態度でじゃれあっている。
その様子から結構長い付き合いであることが推察できた。
片やヒノは申し訳なさそうにこちらを見ていた。
と、突然何かを思い出したかのように木之元さんは備え付けられていた机をガサゴソとあさり、それを頭上に掲げる、そこには―
『ドッキリ大成功!!』
と銘打った木版が
「ハァあゝアアあぁぁ!?」
「ナイスリアクション、いいもん見れたわナカアキ君。さて答え合わせだ。なんてことはないよ、彼らには君たちの保護と監視を同時に行ってもらってた、それだけさ。」
「本当に、騙して、すまない」
今の心境を端的に表すとすれば、そう。『やられた』その一言で済みそうだ。
それと木之元絶許。
こっちの気も知らずに、話を続ける。
「理由としては、まぁあまり無茶はしてほしくはないから、これからの調査に支障きたしちゃ本末転倒だからね。」
確かに理に適っている。いきなり、見知らぬ場所に連れられた人たちが自暴自棄にならないとは限らないし、ある程度は管理したほうがいい、というのも理解できた。
まさか自分がやられるとは思わなかったが。
「さて、じゃあ質問に答えようか。あのゲームはとある実験も兼ねていたんだ。」
「待て待て、俺たちは実験台にされていたのか?」
さっきから驚きすぎて、もう何を言われても条件反射で流しそうになったが、聞き捨てならないワードが出てきた。
実験?しかも不特定多数の一般学生に対しての?
「そう、実験。それだけ調査が切羽詰まっているともいえるんだけど、まあ口だけだね。本当はやりたくてしょうがないみたいよお偉方の皆さんは」
彼女は、また渋い顔を作りながら語る。
どうやらこの話題は彼女の鬼門のようだ。
「それで結局どんな実験なんだ?何が目的なんだ?」
「目的、ね。簡単にそのプロジェクトの名前を言っちゃうと『人類経験数値化計画』っていうの。このネーミングはなんかアニメの影響みたいね」
「…一気に現実味がなくなったな。」
これもドッキリか。そんな都合のいい実験があってたまるかと、先程までの緊迫した雰囲気が台無しになった。
少なくとも俺とルーだけが。
しかし、当の本人は至って真剣な顔でこちらを見つめていて、さらにヒノやクーさん(仮)もどこか暗い表情だった。
「残念なことにね、これホントなの。今回集められて、無事合格採用ってなった子にはあとで正式に処理を受けてから、異世界調査に駆り出される手はずよ」
なんだそれは、それじゃぁまるでホントに実験動物みたいじゃないか。
「安全はすでに確保してある、ついでにその効力もね。だから今回はその有用性を実践で試して知らしめるのが目的、だそうよ。要はテスターだね」
「危険はないのか、じゃあ学生ばかりを集めているのは?」
「ステータス化はどうも大人と子供だと上がり幅が違うみたいなんだ、特に20代半ばがピークみたいでそこからどんどん幅が狭くなるみたい、…たぶん精神的なものもあるだろうね、大体わかったかな?そろそろ業務内容の確認をしたいんだけど」
どうやら、このまま彼らに組み込まれるのは確定なようだ
多分ここでしか聞けないだろうし何か……あ
「そう言えば、俺とルーだけステータスが見れなかったのはなんでなんだ?」
「ああ、とそれは…」
珍しく言い淀んでいる。何か不具合でもあったのだろうか。
「それね、私がわざととったんだごめんなさい!」
まくしたてるように木之元さんが話をつづけた。
「君とルーちゃんは原因がわからないけどつながっているみたいででもステータス化の装置は日本人限定でどんな不具合があるかわからないから勝手に外しちゃったの!」
「お、落ち着けって。事情は分かったから、そうかそれなら仕方ないな」
今にも土下座しそうな勢いで謝り倒してきたものだからこっちが悪いみたいに思えてしまった。
「わかってくれたようで何よりだよ…最悪一発殴られるかと思ったから。コホン、じゃあ改めて聞くようなことでもないと思うけど、私たちに協力してくれるかな?給金も弾むし、それにルーちゃん、君のその体質についても何かわかるかもしれないよ?」
「おれは…」
◆
「イヤー良かったよ、二人とも了承してくれて。」
あの後、結局二人はその誘いを受けることにした。
なぜかと言われれば、少女が普通の生活を送れるようになるきっかけを得られるかもしれないという一点が決め手になったのだろう。
正直助かったといえる。
もし拒否されようものなら、上の命令で少女のほうを無理やり拉致するしかなかったからだ。
まあ、ちらちらと脅したから、というのも否めないが
「ホントによかったよ、あんまり手荒な真似はしたくなかったし、せっかくできた学友に嫌われたくもなかったしね」
ともかく、これでようやく準備は整った。
あとは全力を尽くすのみだ。
「マキナ」
「うん、どうしたんだいクーちゃん?」
おっと、まだ親友の一人が残っていたみたいだ。
何か用があるのだろうか
「どうして、二人に間違ったことを教えたの?」
「え?なんかまちがってた私?」
わざとらしく、右手をグーにして頭を叩くいわゆるドジっ子アピールだ。
まあおそらく御見通しなんだろうけど
「ステータス化に人種の制限はついてない、だよね。仮に異世界人だとしても対応可能だって前聞いたよ、なんで?」
なかなか鋭い質問だ。
でも今はまだ誰にも言う気はない。その時になるまでは…
だから私は精一杯に無邪気な笑顔を作って言うのだ。
「さあ、なんででしょ?」
次から閑話に入って、その時に人物紹介と用語説明をやりたいと思います