rebellion war
前後編に分けてのバトルパートもようやく終幕でございます
―物語の中心には、可能性を秘めた勇者とそしていまだ姿を見せぬ魔王。
多少の例外はあるもののスポットライトが当たるのはいつも彼らだ。
そして彼らに群がるように人が集まる、様々な思惑を胸に秘めて。
ただの天才が、彼らにかなうはずがない
それでも光の当たるところに行ってみたい
だからボクは―
◆
とはいっても、相手は今出たばかりで開幕ブッパもかましたものの未だに余裕がありそうだ。
対してこちらは、先程強敵を無事討伐したものの、連戦による疲れは隠せない。
どう見ても、こちらの劣勢だった。
それでも刻一刻と、状況は変わる。
地面に突如現れた黒い泥は、今なお異形の怪物を生み出し、その数は20を超えたところでようやく止まる。
そして、それらが軽く身震いすると、その時と同じ速さで得物を追いつめるようにゆっくり、ゆっくりと四散していった。
「拙いね、あのへんなのこっちに気付き始めてる。」
依頼人の少女の言う通り、少しずつではあるが二手になって隠れている物陰へと集まってきている。
襲われるのは時間の問題だろう、その前に何をやるのか最低限の作戦を決めなければならない。
「あれは一体、なんなんだ…?」
「詳しいことは知らん、けど絶対に触れるなよ?それだけでアウトだ」
「なら―」
作戦は、決まった。
そもそもの話、あの黒い泥人形に攻撃が効くかどうかは誰にもわからない。
ぶっつけ本番でやるにはいささか心もとない。
なら、狙うは本体、中心で微動だにしないあの黒づくめの仮面を狙うしかない。しかし近づくと先程のように光の奔流に呑まれてしまう、逆に躊躇した途端にあの泥に捕まりジエンドだ。
だから、囮を用意する。
「おーい、泥人形やーい!こっち来てみろ、バーカ!」
先程の発破が効いたのか、それとも単純に物音に反応したのかは不明。
一斉にこちらに向いたとき、悪寒が走ったのは仕方ない。
囮は不肖私、仲秋常義が務めさせていただきます。
なんて、カッコつけたはいいものの一番攻撃力が低いということ、そして一度あれに追われた経験を買われただけである。
一番の問題の光の絨毯爆撃は来ないようだ。存外に射程距離が低いのか?
ともかくあとは彼らの邪魔をさせないように逃げ回るだけだ。
◆
下僕―ツナギがあの泥人形の注意をひきつけることに成功した。
アイツが遠くまで敵をひきつけた後、作戦が始まる。
未だに中心で悠々自適に佇んでいる変質者への反抗戦だ。
「―よし、そろそろだ、行くぞ、みんな」
「合点承知っす!」
「今度は活躍するんだから!」
ちみっこはそこまで動いてないからわかるけど、リュウも活力を取り戻したようだ。リュウはなかなか回復力が強い。
かくいう私は、まだ全快というわけにはいかないようで、まだ息を整えていたい欲求に駆られていた。
「大丈夫か?カミュ、無理なら」
「大丈夫デス、まだリュウたちには負けられないデスから」
心配ないと自分にも言い聞かせるように、空元気を作って見せる。
本当にこの体は脆弱で困る。
たとえて言うならば、高性能なレーシングカーにわざと普通のエンジンと取り換えた、そんな感じだろうか。
ただ速さを追求するために、軽くかつそれに耐えられるように進化してしまった私の身体は、その分持久力というものが退化してしまったようだった。
だけど、今はそんな泣き言は言ってられない、歯を食いしばってでも前へ進まなければいけない時なのだ。
「それじゃあ行きまショウ、ヒノさん」
「…ああ、依頼人も、頼む」
「了解、援護射撃は任せて。」
さぁ、ここからが本番だ。
完全に引き離されたの確認して、まずはリュウとメイナが動く。
小さな少女の手には、身の丈に合わない大槌があった。
それを軽々と振りかぶり身近に突出した大岩に向けて叩きつける。
大小の礫が飛び散る中、その中でも大きな岩塊がひとりでに浮かび上がったまま仮面の男に向かっていった。
今のリュウには直接てきな攻撃手段がない。
先程の戦いで武器という武器を使い切り、全て凍らせてしまったからだ。
だから、別のモノで代替する。
別に人工のモノである必要はない、たとえそれがただの岩であってもあの子にとっては武器になりうるからだ。
もちろんその分、使いやすさや攻撃力も市販のモノとは段違いに劣る。
ただの雑魚相手には過ぎたるものだが、やつには聞かないだろう。もともとそこには期待していない。
ただ、攪乱になるしそれに視界も大きく制限できる。これが一番の狙いだ。
あちらも迎撃態勢で何かしらの呪文をつぶやいている。
だけど、もう遅い。
すでに、跳ぶ岩陰に隠れるようにヒノさんは敵の眼前に移動を開始している。
彼の能力は対象に触れることで真価を発揮する。
その手にはペットボトル、ではなく水風船とタオルが収まっている。もちろん中には先程まで使っていた剣を作れるほどの水分は残っていなかった。
それでも十分と、彼は敵の顔面に風船を押し付ける、すると針穴に通すような的確な射撃が、水風船に直撃した。
中に詰まった水が勢いよく溢れて顔面と手袋を勢いよく濡らす。
そのまま飛び散ることなく、手袋と一緒に口元に付着したまま凍結した。
運よく仮面と皮膚も同時に張り付いたようで、うまく呪文を唱えられずにいた。
これなら反撃を考えることなく渾身の一撃を決められる。
ここまでくれば残るは私のみ、クラウチングスタートの構えから一気に仮面の男まで疾走して手前でジャンプ、回転を加えての最大威力のかかと落としを奴に―!
◆
少し遠い場所から爆音が鳴り響く。光の奔流が無いところを見ると、無事に作戦通りに決まったみたいだ。
しばらくすれば、この気持ち悪い泥人形たちも鳴りを潜めて静かに崩れ落ちるだろう。
…完全自立型じゃないことを願うとしようか、そろそろ限界ですよ精神的に。
「キャアアア!」
遠くから、悲鳴が聞こえた。あわてて振り向いてみるも離れすぎたために事態が把握できない。
あの声は、おそらく主人―カミュのモノだったはずだ。
此処からでは戻るにしても時間がかかる。いったいどうすれば―
ピーピー
「嗚呼うるさいな!この警…報、そうだ」
この腕輪を使えば、もしくは…
思い立ったが吉日と、彼らとは真逆のほうへと向かい走りだした。
◆
私は、確かに奴にきつい一撃を叩き入れたはずだ。
最悪、そのまま再起不能にしてもかまわないレベルのモノを、遠慮なく。
なのに、目の前の仮面の男はそれでも憮然と佇んでいるではないか。
こいつは、いったい何なんだ。
仮面の一部が、衝撃ではがれる。常識的に考えればその先にあるのは彼のものの素顔だ。
正直言って、そいつの素顔には興味があった。つまり、ちょっとした思い付きだったのだ。
「―な!?」
しかし、見ることは叶わなかった、否、仮面のその先には何もなかったのだ。
見るだけで吸い込まれてしまいそうな黒、そこにときどき垣間見れる不可思議な1と0の数列。
まるで世界の裏側を見てしまったような、言葉にできない不快感が全身を襲う。
その一瞬がいけなかったのだろう。
「―カミュ!」
「へ?」
注意を促された時にはすでに遅く、いつできたのかわからない黒い、どす黒い何かでできたナマモノがこちらに襲いかかってきている。
咄嗟に腕を交叉して防御の姿勢をとっては見たが、もろとも吹っ飛ばされた。
そのまま何かにぶつかった衝撃で肺にたまっていた吐息が漏れ出る。
全身がイタイ、それにしても私はいったい何に当たったのだろうか。
ふと、上を見上げてみれば、そこにあったのは
―大きくグロテスクな形をした異形の化け物だった。
ぬちゃり、湿った不快な音を立てながらそれは歪な顔で笑う、その時よくワカラナイ粘着質の液体が顔にかかった。
「…キャアアアアア!」
柄にもない、女の子らしい悲鳴が喉から飛び出る。
眼前にいるそいつは見るだけで気を失ってしまいそうな醜悪さを持ったそいつは今も私を面白そうにこちらを見ている。
いつ、お前を食べてもいいんだぞと脅して楽しんでいるようにも思える。
このままじゃ、喰われる。誰か―
「うわわ、とォ!?」
突飛な、間の抜けた声がその場に響き渡った。
◆
目論見通り、カミュの目の前にワープすることに成功した。
『隷属の腕輪』にあった機能のうちの一つが無事作動したようだ。
これで転送ではなく停止だったら見るに絶えない状況に堕ちいっていただろう、…本当に成功してよかった。
「大丈夫か、ご主…なんじゃこりゃあ!?」
改めて状況を確認して見たら、なんかよくわからない物体がカミュをがっちりホールドしているのが見て取れた。
見た目はそれはもう見るに堪えないものではあったが、これくらいなら昔、いやというほど見てきたからそこまで恐怖は感じなかったのは幸いか。
ともかくこのままではマズイ、早く誰か救援に呼ばなければ大変なことになる。
しかしあちらでも巨躯の化け物と対峙しているため、そんな余裕はなさそうだ。
俺だけで、この局面を乗り切らねばならない。でも一番の役立たずだぞ、俺は。
―そんな前評判、覆しちまえよ―
そんなの、出来るならやっている。だが、手元には護身用のナイフしかない。
―それだけありゃあ十分だ、距離を詰めてザックリ切りとりゃあ一発さ―
無茶を言うな、その前に有り余っている腕に阻まれてこっちが先に一突きだ。
―じゃああの女は見殺しにするんだな、それが安全確実な利口なやり方ってやつだ。だろう?あの、お前の女を取り残した奴みたいにな―
それは…
―なあ、今行かなきゃいつ行くんだ?卑屈にならないで、もっと楽しめよ。手始めに英雄になろうぜ、誰が、一人しか英雄になれないって言った?たった一人のための英雄、面白いじゃないか―
―どうせ人生なんてギャンブルみたいなもんだ。0と一以上の、な。何もしなくてもぽっくり行っちまうんだ。なら、懸けろよ、オールベッドだ―
よくワカラナイ思考が、頭を埋め尽くす。まるで自分以外の何かが頭に棲み着いているようだ。
アイツの時は間に合わなかった、でも今は―
「たす、けて…」
声が聞こえる。
助けを呼ぶ、少女の消え入りそうな声だ。
そもそも目の前で見捨てるなんてできはしない、なら一歩踏み出すだけだ。
今まで悩んでいたのが馬鹿みたいだ
―そうそう、後は俺の言う通りにすりゃ楽勝さ―
『「さぁ、英雄になろうか」』
「…下僕…?」
一歩前に出る、続いてまた一歩。
奴もこちらの動きに合わせて臨戦態勢に入った。
それを気にせずナイフを構え直し、前かがみに倒れるように奔る。
当たり前だが、奴も軟体動物ような間接を無視した動きで腕と思わしきものをしならせ襲い掛かってきた。
気にせず前へと突き進み、根元からバッサリと一閃、それだけで腕が一本飛んで行ってしまう。
同じように、もう片方の腕を切り飛ばす。なかなかに、爽快で滑稽だ。
ただ、やかましく喚き散らすのが難点だな。おとなしく捌かれてしまえばイイノニ。
今、何を考えた?楽しいだって、そんな、はずは
―いいから先に助けてやれよ、これに絡みつかれるのって、なかなか酷だぜ―
考えに至れば、すぐに行動に起こす。
先に今も胎動を続ける心部に深々とナイフを突き刺して息の根を止めてから、
様子をうかがってみれば彼女も相当気が滅入っているようで、精神的にも虫の息だった。
すかさず彼女に巻き付く肉塊を一閃、それだけで拘束が解かれ前へと体を傾けていた。
何とか倒れる前に抱き上げる。
どうやら恐怖で体が震えているようだ、ここはひとつ安心させるべきだろう。
「おっとと、大丈夫ですかご主人。不肖私、奴隷一号めが助けに参りましたよ?」
「お…」
「お?」
「遅いんじゃボケェ!」
「ゲボラ!?」
どうやら、不手際に怒りを燃やしていたそうです。
何もそんな顔を真っ赤にして怒らなくても…
そんな、どこか締まらない状況の中、化け物が突然光だし、あたり一面が光に包まれた。
congratulation!
次回、第二章エピローグデス