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W・E s ワールド・エンカウント ストーリー  作者: ムラツユ
出逢いと再会と遭遇の、春
24/46

psychic vs magic

 今はまだ日が出かける未明のこと、六人の少年少女たちが町はずれのとある高台に足を運んでいる。

 その中の一人、やけに荷物を背負っている最後尾に位置する人物が俺、仲秋常義だった。


 別に罰ゲームというわけではない、いや半ば強制も入ってはいるが本心としては率先して彼らの荷物を背負っている。

 これは戦闘に出ることはない自分がせめてもの助けになると信じて任せてもらったのだ。

 なぜか荷物の量がひどいことになっているが、おそらく戦闘に使う秘密兵器といったところか。

 ヒノも現地に行ってから能力も合わせて説明をするといっていた。

 普段なら手前で今なお楽しみにしているメイナのようにできたのだろうけど、いまは―


「―いた、情報通りみたい」


 目的地までまだ距離もあり、依頼人である少女以外は何を言っているのかさっぱりといった感じだ。

 それでも彼女にははっきりと見えるらしく、一先ずここであらかたの準備を済ませることになりそうだ。


「計画通り、異能者おれたちが前衛で、他は後方でサポートを頼む、それと」

 そう言って、ヒノは荷物の中からペットボトルを一つ取り出した。



 ついに、手配書にあった魔物と対峙することになる。

 そいつは、全身を固い鱗に覆われていて、生半可な攻撃では通らないだろう。

 全長おそらく10メートルほどで、その大きな体躯を支えるために4本の力強い足が地を踏みしていた。

 何よりも特徴的なのは背中に生えたそれは大きな翼だ。大きさはあるものの推力やら揚力といった飛行に必要な力を得られるだろうかといった疑問点が浮かぶそれは、まさしく幻想の申し子と言っても過言ではないだろう。

 ―ぶっちゃけいうと、目の前には若干太り気味のドラゴンが強烈な威圧感をもってこちらを出迎えている。

 正直に言おう、これを目の前にしてあまりにも現実離れした風景に見蕩れてしまい、一瞬思考蜂起してしまう愚行さえ犯した。

 しかし、目の前の()はそれでも悠然とまるでこちらの行動を待つように見ていた。

 それはまさしく、王者の余裕、といったところか。


「ほらそこ!ボートしてないで早く物陰に隠れるデス!」

「あ、嗚呼!わかった。」


 カミュに言葉をかけられ、ようやく動き出す。

 我ながら、本当に情けない。


「凄いねすごいね!本物のドラゴンだよ!一寸でっぷりとしているのが残念だけど」

「んなこと言っている場合か!早く物陰に隠れてサポートに徹するぞ!」


 呑気に驚いているメイナを抱えて少し離れた場所にある物陰に隠れる。

 ここは以前建物が建っていたらしく遺物がごろごろと転がっているため身を隠すにはちょうどいい。

 すでに異能者達(かれら)が使うものはすでに渡してある。なかなかユニークなものが多かったがいったいどうやって戦うのだろうか。




 その答えが今目の前に広がっていた。

 最初に動いたのは、ご主人―カミュだ。その足にはいつもはいていた靴ではなくローラースケートが身につけられている。

 ローラースケートなんて、子供のころに一度使ってみようと思って痛い目にあってから使うことはなかったのだが―

 そこまで考えていると、突然彼女の姿が視界から消えた。

 いったいどこに、と思ったのも束の間、ギャリィ、と耳に残る音がドラゴンの佇む場所から響き渡る。

 視線を移してみると、そこにはドラゴンの体躯に跳び蹴りを食らわせている彼女の姿が見えた。


「なかなか固いデスネ…!イオリさんからもらったこれでも…ッとォ!」


 いくらか拮抗して見せた彼女だが、物理法則にしたがい反発するようにその場から離れる。その際に鱗が一枚剥がれ落ちたように見えたがそれほど高威力だったのだろう。


「カミュさん、気を付けてくださいっス!今動き止める最中っすよ!」


 そう言って少年―リュウがその場にとどまりながら両手を少しづつ掲げる、すると周りに配置されている鎖やら安物の武具類がまとめて宙に浮いた。

 そして一斉にドラゴンに向かっていく、その数は10個、しかもどれもが重量の多い得物ばかりで勢いよくぶつかった後、ドラゴンの動きを制限するようにまとわりついた。

 それだけでは、彼の物の動きは収まることはないだろう、それに加えて別の力で押さえつけられるかのごとくドラゴンの動きが目に見えて鈍くなる。


「カミュさん!ヒノさん!今っす!」


 それを合図に少女は突撃を再開する。

 高速、というよりはもはや瞬間移動に近いそれをもって勢いよくまたぶつかれば、鱗が何枚か零れ落ちるのが確認できた。

 先程とは違い標的が固定されたのもあって威力が一点に集中しているようだ。


 そして彼らのリーダーであるヒノが動いた。

 その手にはキャップのはずされている、液体の入った一リットルボトルがある。

 おもむろに、中身をぶちまけると液体は地面に到達することなく凝固する。

 その形はあたかも一振りの剣のようにかたどられていた。

 それを手に一気にドラゴンへと駆け寄り、その片腕に突き刺す。

 ドラゴンは悲鳴の如き雄叫びをあげ振り払おうとする。しかしそれをさせじと周りに絡みつく金属類が彼の物を地へとしっかり押し付けていた。

 ヒノが突き刺した皮膚の周りに異変が起こる。少しづつだが着実に熱を奪い、凍らせてきているではないか。

 彼の持つ氷の剣は逆に、まるで元から生えていたかのごとく深々と刺さったまま動かない。かけるどころか、溶ける様子も微塵に見せなかった。


「カミュ!いったん下がれ!」

「りょーかいっデス!」


 少女をいったん下がらせると、まるで本領発揮といった具合にヒノは力を込める。

 途端、こちらにまでほとばしる冷気が届く。

 隣でメイナはあまりの寒さに震えているほどだ。

 そしてついにドラゴンの片腕が完全に凍り付く。

 出番は終わったとばかりにヒノは急いで後方に避難、

 次いで、待ってました言わんばかりにカミュが地面を疾走

 文字通り。目にもとまらぬ速さでドラゴンに急接近して凍った部位へ慈悲のない一撃をかます。

 ただでさえ凍結して脆くなった部位へと一点に注ぎ込んだ威力に耐えきれなくなり、その片腕は粉々に砕けちるのだった。




「すっごーい…」

「…」

 物陰へと隠れた一般人二人は、その常識からかけ離れた攻防戦につい見蕩れてしまっていた。

 一応弁明しておくが、その中でもちゃんとサポートはしている。

 ときどきこちらに戻ってくるカミュに回復薬のようなものを持たせたりとか普通の飲み物持たせたりとかさまざまである。

 …うん、その、なんだ。

 わかっている。完全に彼らの独断場であることは疑いようのない事実だ。

 カミュがこちらに戻ってきているのも回復薬等をほか二人に効率的に分配するためだったり、時折休憩を入れるためで近くで警戒するためであったりだから、本当にやることが無い。

 すごいといえば、依頼人の少女もすさまじいものがあった。

 彼らのように目立った働きはないものの、ボウガンを使った的確な射撃で時に攪乱、隙ができたときは確実に急所へ一撃入れている。

 まるで一流のスナイパーのようだ。


「この様子だと、私たち出番なさそうだね…」

「…そうだな。」


 やや元気のなさそうなメイナの声を背に、此処でも自らの非力を呪うことになりそうだった。


 ―本当に?

 ―本当はあんなところに巻き込まれなくて良かったって思っているだろう?

 ―それとも、自分もあそこに混ざってみたいとかか?

 ―あの時もぶん殴ってやりたいと思ってたんだろ?目の前にちょうどいい仇があるじゃないか?

 ―素直になれよ、欲望をさらけ出してみろよ。


「…黙れよ」

「ツナ兄?」




 その後も、危なげなく敵の機動力をそぐことに成功。

 時間はかかったが、いまでは後ろと前の片足が欠損、そしてバランスを崩したところで背中に回り込み翼を凍結させている最中にまで到達していた。

 なんというか、ここまで来るともはや虐待を通り越してドラゴンの解体ショーを見ている気分になってきた。

 異能者三人組は平然と攻撃しているし依頼人は淡々と作業を繰り返すようにボウガンを撃ち続ける。

 彼らの神経の図太さに感嘆する傍ら、気分が悪くなっていないか心配になって隣の少女を見てみるとやや ドン引きしつつもそれ以外はいたって平時の時と変わらない表情をしている。

 …最近の都会っ子は神経図太いなぁ。

 気のせいかドラゴンも涙目になって助けを求めている気がしなくもないが、あえて目をそらす。


 そして、ついに凍結された片翼が粉々になって砕け散った。

 ここまで行けば、もう自力で動けまい。

 万が一に備えて、リュウがいまだに押さえつけてはいるが、三人ともはたから見ても疲労困憊、といった具合だ。

 ここら辺で勝負を決めるほうが無難だろう。

 ヒノも何本使ったかわからないボトルの中身をぶちまけて、先程からするように氷の剣として凝固させる。

 そしてドラゴンの腹へと突き刺した。

 低いうなり声を上げるだけでもう動く気力すらないようだ。

 そして、ゆっくり、ゆっくりと熱が奪われ、最後には満身創痍の元王者の亡き骸だけが残った。


「これで、終わりだな。」

「お疲れっす!ヒノさん!」

「ああー、早く帰って湯船につかりたいデス。」


 まるで凱旋する戦士のように三人はこちらに歩み寄ってくる。

 彼らを迎えるように、物陰に残っていた俺たちもそこから出ていく。








「―早く隠れて!何か、来る―!」


 別の物陰に潜む依頼人から、注意を促す声が届く。

 突然、蒼天の青空が曇り始め、否太陽が、神隠しにあったように隠れはじめている。

 空の一点に、渦を巻いた光の塊、そこからどこかで見た光の波がこちらへ寄せてきている。


「走れ!早くあの物陰まで!」


 誰が言ったのか、もしくは自分で言ったのかもしれないその言葉を皮切りに、一斉に駈け出そうとする。

 しかしリュウとカミュは先程の疲れが取れていないのか、その場から動けずにいた。


「メイナ、リュウを担いでいけ!スマンがカミュ、我慢してくれよ!」


 元気が有り余っていて、筋力的にもブーストがかかっているメイナに、3人のうち一番年少なリュウを担がせて、自らはカミュを背負いその場を離脱する。

 ヒノは自力で動けるようで、一緒に離れることに成功する。

 そしてつい先ほどいた地点には轟音と爆風がこれでもかと言わんばかりに轟いていた。


「ななな、なんデスカいったい!?」

「こっちが聞きたいよ!」


 耳元でやかましく騒ぐ彼女の声を聴きながら、やっとこさ物陰へと隠れる。


「ホントに、なんであいつがいるんだよ…!」


 改めて状況を確認すれば、春休みに嫌というほどお世話になった黒づくめの仮面野郎が、そこにはいた。





「うへぇ…出鱈目っすあんなの…」


 お前が言うなと言いたくなるが、そう言うのも無理はないと思う光景が今繰り広げられている。

 突然、前触れもなく現れたそいつは、開幕ブッパともいえる光による絨毯爆撃を行い、周囲を更地にしたあとまるで降臨した神のようにゆっくりと降りてきた。

 一泊置いたと思ったら今度は地面からどす黒い粘着質の塊が現れ胎動する。

 それも俺には、とても見覚えがあるものだった。


「ど、どうしたの?いきなり震えだして」

「あれには、絶対に触れるなよ、絶対だぞ…!」

「お、おうわかったデスけど、そんなにヤバいんデスカ?」


 隣でいまだに状況が呑みこめていないであろう彼女たちにきつくいって聞かせた後、この場にいない二人がいるであろう物陰へと飛ぶように移動する。彼らもまだ理解が及ばないようで身動きができな状況に陥っていた。


「ヒノ!」

「…ツナギか、なんだあれは」

「一度だけあったことがある、とにかくヤバいんだ。早くここから出よう。」

「それは無理みたい。」

「どうして!?」


 おもむろに依頼人が指さした先には、いつの間にか薄い膜上の壁が張られている。

 それがあの仮面男の周囲をぐるっと回るように、そして俺たちと外を隔絶するように張り巡らされていた。


「多分、広範囲の魔法結界だと思う、中と外を分けて鑑干渉させなくするタイプの。ここまで来ると大魔法使い、歴史に残るレベルだね」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!?ここから出なきゃ―」

「―無理、なんだろう。アイツを、倒さない限りは」

「Exactly、ほら来るよ?」

「ウソだろ…!?」


 こうして、前回と打って変わって物静かな因縁の相手との二度目との遭遇、そして第二ラウンドのゴングが鳴る。

用語説明

異能

 いわゆる超能力、割とこの地球には多くの異能者、超能力者が存在する。

しかしそのほとんどが微弱で、持っていることを知らないまま一生を終えるものが大半を占めている。

 また中にはもちろん強力な使い手も存在するが、海外ではそのほとんどがすでに国お抱えのエージェントだったり囲われていたりするので普通は会うことができない。

 今なお彼らの能力についての研究は盛んであり、もう一つの研究と二分する勢いである。


魔法結界

 その名の通り、魔法使いが使う結界術の一つ。巨大なものになればなるほど魔力だけではなく綿密な計算も必要になり対外は何人もの術者で共同して行われる。

今回のレベルのモノは本来は大体普通の術師10人でやっとこさ作るものである。


以上、誰得用語集のコーナーでした

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