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W・E s ワールド・エンカウント ストーリー  作者: ムラツユ
出逢いと再会と遭遇の、春
22/46

mixed feelng

 さて、ノリと勢いで隷属宣言を受けた俺こと仲秋常義だが、今は住み込みで、カミュと呼ばれる世話をしている。バイトのほうは休業した状態で、だ。

 とりあえずメイナには店長のところに帰ってもらい、事情を説明してもらうことにした。

 今日の自分のバイト代と合わせれば、明日の宿代くらいにはなるだろうから心配はないだろう。

 

「下僕~、飲み物持ってくるデス。」

「少々お待ちくださいませ、ちなみに何かご希望はございますでしょうか」

「コーヒー」

「かしこまりました、―どうぞ、お嬢様。」


 ただいま営業モード全開でお送りしております。

 反抗的な態度をとって関係が悪化するのは避けたい、というのもありますが何より執事(バトラー)の真似事もせっかくだからやってみたかったということもありまして、せっかくなのでなりきってみることにしました。

 今、執事喫茶なるものもあるということなので、そのバイトを受ける前の予行演習としてやるのもいいかもしれませんね。


「ん、ご苦労。イヤー楽で良いデスネー。美味しい料理も出せると願ったりかなったりなんデスガ」

「申し訳ございません、料理は何分不得手なもので食材を無駄にするわけにはいきませんし」

「わかったから下がって良いデス。」

「それでは失礼いたします」


 退出の命令が出たので部屋を後にする。ふぅ、と息をはいて、姿勢を楽にした。

 ずっとかしこまっていたら、それだけで気がめいる。せめて誰も見ていない間くらいは気を緩めていても罰は当たらないだろう。本職はもっとメリハリが聞いているのだろうか。

 ふと、前から誰か近づいてくる気配がする。


「ツナギ、大丈夫か?」

「ん、ああヒノか。大丈夫大丈夫、あの子なんだかんだでちゃんとしているみたいでさ、あの店よりはやること少ないよ。」

「そうじゃない、奴隷になったこと、後悔してないのか」


 ああ、そっちか。いや普通はそっちを心配するものだろう、誰だって一時的に隷属することになればいい気分はしない。


「大丈夫だって、この腕輪だって無茶な命令には反応しないし、明後日のうちには終わる契約なんだから。」


 腕輪、というのは彼女が持っていたドロップアイテムの一つで『隷属の腕輪』と呼ばれるもの。

 何でも装備者は所有者に逆らえなくなるといういわくつきのアイテムだそうで、大体の命令もできる。

 たとえば身の回りの世話をさせたり、一緒に闘わせたりなどだ。

 無理な命令というのは、自殺、自傷等の行為を指すらしい。


「いや、しかしな。」


 それでも彼は、何かを言いたそうな、言えないようなもどかしさを感じさせる顔で、こちらを見ている。

 本当に、友達思いのできた人だと思う。


「それにさ、人間いつかは奴隷になると思うんだ。その予行演習だと思えば」

「?どういうことだ」


 少し間をおいて、もったいぶるように言葉を放つ


「―社会に奉仕する、社畜という名の奴隷にな」


 その言葉を聞いた彼は、一瞬ぽかんと口を開いて動くことをやめた。

 理解が及んだのか、すぐに復帰して、盛大にため息をこぼしているところを見ると、完全に滑ってしまったようだ。

 …個人的には面白い言葉遊びだと思うんだけどなぁ。


「何を、馬鹿のことを、言っているんだ、お前は」

「いやー、そのうち嫌味な上司とかに当たるかもしれないじゃん?小太りな人だったり、それに比べればましだって。」

「心配した、俺が馬鹿だった。その様子だと、心配ないな」

「ああ、だからきちんと準備整えて明後日に備えようぜ」


 彼は苦笑いをしつつも、取り合えずは納得したのか二、三言葉を交わした後、自分の部屋へ帰ってゆく。今日から同室なので一緒に行ってもよかったのだが、角でリュウ、と呼ばれた青年がこちらを見つめていたこともあり、ヒノには先に行って、今は何か言いたそうな角の青年に向き合ってみようと思った。


「えっと、何か用かな?」

 

 彼は、今なお警戒しながら角のほうから顔を出す。そこまで経過される理由は俺には分からないが、あえて聞くような話でもないだろう。

 ある意味、切迫した状況ならなおさらだ。


「…カミュとヒノさんじゃ態度まるで違うんすね」

「まあ、主人と友達の関係だからね、身分が変わったからっていきなり口調も変わるのもどうかなって、あ、ちゃんとヒノには聞いたから」

「狂っているっす。自ら奴隷になるなんて。」


 リュウはこちらを得体のしれないものを見るような目で見てきた。

 しかしそれは、大変な誤解である。いや目は生まれた頃から狂っているかもしれないけど。


「―そうだな、狂っているのかもな。」

「は?」

「いやさ、昔から病気持ちでな。見えないものがよく見えるんだ、それでうそつき呼ばわりはよくされてたな…」

「…それって病気なんすか、本当に?」

「さぁ?」

「さぁってだまされてるんじゃないんすかそれ…」

「まぁ、ちゃんと治ったんだしそれに関してはいいんだ。」


 いきなり、こんな話を聞いたからかリュウと呼ばれる青年、いや少年は「えぇ…」とこぼしている。

 先生には当時病気だと教えられたものの、それが本当なのかは最近になって疑問を持つようになった。

 でも、そんなことを言いたいんじゃない。


「でも、結局治ったんじゃないすか、うらやましいすよ…『普通』になれたんすから」

「ところがぎっちょん、人生そううまくはいかないんだなぁ。」

「え?」


 ここまで言い切って少し間を置く。彼も話に夢中になったのか身を乗り出して次の言葉を待っている。


「レッテルていうのは、そうやすやすとはがれないんだ、中高一貫だったのが災いしてさ、噂が噂を読んで、最後には尾ひれもついて見えなくなった後も当初はいろいろと言われたよ。」


 一番最後に言われたのは何だったか、『呪い子』だったかな。関わったら不幸が訪れるって割と真剣に言われていたらしい。

 実際、何人かちょっとした被害に遭ったそうだ。

 そんなことをあっけらかんと言うものだから、目の前の彼は唖然としている。


「なんで、そんなことを言うんすか、今日初めて会ったばかりの俺なんかに」

「そうだな、なんか思ってたのと違ってんだよ、」

「何かすか?」

「もっと、我が物顔で自己中心主義で自らにできないことはないって、そんな感じだと思ったんだよ」


 微笑いながら少年を指さす。

 ―あの後、じっくりと話す機会をヒノからもらえはしたが、カミュのほうは逆らうことが無いと判断していろいろと言いたい放題だったが、逆にリュウは一言も話さなかった、正確にいうとヒノに言われて話そうと努力はしたものの、といったところか。

 どうも、ここに集められた超能力者集団は話す、といったことが少し苦手らしい、人のことが言えないが―

 それだけで理解したのか少年はふくれっ面をしながら視線を背けた。


「悪かったすね、想像と違くて。」

「そんなことはないさ、ただ懐かしいなって思っただけなんだ。」

「懐かしい?」

「昔の自分に似てる気がしてさ、もしかしたらこの話も理解(わか)ってくれるんじゃないかって思っただけだよ。」

「…残念すけど、ワカラナイすよ、そんなこと」


 それだけを残して、彼は去っていく。


「嗚呼、わかってるさ。人のことを理解できないくらい」


 本当の理解者なんて、人生の中でも一人いれば幸いだろう。それは彼にも、生物すべてに言えることだと思う。

 それでも、人は誰かに理解してほしいと、そう願わずにはいられないのだ、たぶん。


「下僕ー、飲み終わったから片付けるデス。」

「承知いたしました、お嬢様。」


 ―さて、一先ずは自堕落なわが主(仮)の世話でも焼くとしましょうか。

 これも明日と今日ばかりと思えばまだ役得でしょう。

 こうして、主人の世話を焼きつつ、今日も日が暮れるのでした。…


 事態が急変したのは、夜が明けてしばらくした、人通りも多くなったころだ。

 この時はちょうど主人の命で外を出て日用品を買いあさっているときのこと、偶然にもルーやマサトといった、茶熊亭を出ざるを得なかった面々と再会してしまったのだ。

 隣には、ついでに所用でついてきたヒノと金魚の糞のごときリュウが待機していた。

 どうやらあちらのメンツにこの二人の顔を覚えているものがいたらしく、あわや一触即発の危機に陥る。

 片や、喧嘩別れではないのに気まずい雰囲気、そしてもう一方は持つもの持たざるものの仁義なき戦いが、今始まろうとして―

 いませんでした。

 すぐに両方のリーダー格がとりなして事なきを得た、のだがどうもその二人もそこまで仲がいいわけでは無いようで、端々で睨みあっている。

 ホントに、一方には元仲間として、もう一方には現友人として両方から熱烈な視線(無言の圧力)を受ける羽目になるおれは嬉しいデス…。


「つ、ツナギさん…その、腕輪は…?」


 仁義なきにらみ合いのど真ん中に立たされた中、ルーに話しかけられた。

 これ幸いにとその場から抜け出そうとするも、両わきからがっちり固められて動くことができなかったで御座る…解せぬ。

 仕方ないので、そのまま話すことにしよう。


「この腕輪か…その、イカスだろ?」

「ツナギさん!そんなこと―」

「そんなこと言っている場合じゃねぇだろ!お前、なんでこいつらといんだよ!?」

「ああと、それは…」


 言葉に詰まる。

 別に悪いことはしていないのだが、それでも結局のところ勝手に話を進めたわけで、これを裏切りととられても文句は言えないだろう。

 もともとは、自らを仲介人として少しでも関係を良好にできたらいいな、程度だったのだが蓋を開けてみればその前に孤立無援になってしまい完全に頼る形になってしまった、というものだ。

 

「悪いが、彼はもう、こっちの人間だ」

「残念だけどこっちにも彼を心配する人もいるんだ。その話は聞けないなあ…!」


 爺さん、婆さん、俺、今モテキです、たぶん。

 うれしい悲鳴を心の中で上げつつもどうしようかと考えていると、意外なところから助け船が出る。

 その意外なところというのは、元待機組の一人のからだ。


「リーダー、もういいでしょう、そんな足手まとい。いてもいなくても変わりませんって。」


 その言葉に、空気が凍った。

 凍ったのは一部だけで、一人がそんなことを言ったのが呼び水となったのかそれはどんどんと波及して、仕舞いには彼らの総意に近いものであることが口々に出ていた。


「そうよ、ルーちゃんもこんな奴いつまでも気にする必要ないわ」

「そうだそうだ、逆に居なくなってせいせいしたぜ。」


 俺は彼らに、何かしたのだろうか。

 それを知るすべはなく、ただ言われるがままにするしかない。

 一番弱いのは、俺で。最初に裏切る形になったのも俺だからだ。

 実力主義の世界で何もできないというのは、それだけでも罪に値するのだから。


「―アンタら、それでもこいつの元仲間かよ!ツナギも何か言い返せよ!」


 いきなりの大声に吃驚して、その声の主を見てまた驚く。

 それが最初に自らを足手まといと罵ったリュウその人だったからだ。


「さっきから黙って聞いてれば、そんなに一人の人間けなすのが面白いか!?寄ってたかって落とすのがアンタらの流儀なのか!」

「落ち着け、リュウ!」

「…ッ!でも」

「ヒノの言う通りだ、俺は大丈夫だから。」


 俺とヒノに窘められ、納得はしてないまでも、矛先は収めてくれたことに一先ず安堵の吐息をこぼす。

 それと同時に彼には感謝してもいた。


「…時間を取らせせた。悪いが先に行く。リュウ、ツナギ。」


 ヒノはそれ以上何も言わず、ついて来いと、背中で語りながらも先へと進むあちらに残してきたルーが心配ではあったが、好待遇を受けているのはわかったので、大丈夫だろうと判断した。


「ツナギ君、俺たちは今日の昼からこの世界を出る最後の戦いに出る。その場に君もいてほしい」


 そんな言葉を背中に受けながら、何も返せずにヒノの後をついていくのだった。





「遅いデス!飲み物買ってくるだけで何時間かかってやがるんデスカ!」

「申し訳ございませんお嬢さばb」


 帰った私を出迎えたのは、主人の華麗で優美な、ドロップキックから始まる連続攻撃でした。


「ツナ兄ー!?」


 おっと、どうやらメイナもこちらに来ているようです。

 ちなみにすでに従者モードに入らせてもらってからのスタートになっております。


「これはこれは、メイナ昨日ぶりですね、元気にしてましたか?」

「なにそのじゃべり方!?ていうか大丈夫なの!?」

「今は勤務中ですので、あと怪我はそのうち治るでしょう戦闘職じゃないゆえモーマンタイです。」

「そ、そう…」


 メイナはなぜかこちらから引くように見ています。何故でしょう。


「てそんなことしている場合じゃないよ!あいつら自分たちだけで先にこの世界出るつもりだよ!」


 アイツら、というのは元待機組一行のことでしょう。

 なるほど一応メイナにも一声かけるだけの温情は持っていましたか、それだけわかれば一安心です。


「でしたら、あとはあなたの自由にしてくれて構いません。彼らのところに戻るのも、こちらに残るのも」


 結局、彼女は私に振り回されただけなのですから。

 ですのでこれを機によりを戻すというのも―

 しかし彼女は、私を馬鹿を見るような目で見てきます。はて?


「ツナ兄は、蹴られすぎて可笑しくなったのかな?すぐに蹴ったよそんな話」

「はい?」

「だってツナ兄のことは見捨てろとか言ってきたんだよ!?助ける余裕もあるくせに、そういうのが一番むかつくの!」


 いや、ムカつくのってたしかに彼らの言い分に思うところはありますけど、それは私個人の話であってあなたは関係ないはずじゃ‐


「私はね、曲がったことが大っ嫌いなの!大体抜け駆けするなって言っておいてあっちもする気満々だったんだもの、一昨日言われたことそのままそっくり返したわよ!」


 彼女は根も芯も強かったようでない胸を張ってしてやったり顔をしています。とても晴れやかな顔でした。

 それは、個人的にも嬉しいことです


「そうですか、それでは改めてよろしくお願いします。」


 照れ隠しも含めた恭しい態度で彼女にこう返すと、すると彼女もそれをわかっているのか悪戯っ気のある顔でこちらを見つめてきます。一寸、顔が煩いです。

 とりあえず彼女は放っておいて、リュウを探します。

 彼には面と向かってお礼を述べたい、ただそれだけのこと


「嗚呼、見つけました。リュウ」

「…なんすか、というかどうも違和感がついて離れないすねそれ。」

「少々お待ちを…よし、さすがに主人がいる前で言葉崩せないからさ『役作り』した後は特に」

「なんすかそれ、」

「ただの処世術だよ。ま、それは置いといてありがとな。」

「あれは…ただ昔の自分と重なっただけで、別にアンタのためじゃないッす。」


 そう言ってそっぽを向く。彼もいろいろとあるのだろう。

 でも、踏み込まないほうがいい、そう簡単に聞くような話ではないだろうし。

 今は少しでも味方と思ってくれている、それだけで十分だった。


「下僕ー、」

「はいただいま!…それじゃリュウ。明日はよろしくな」


 彼は返事を返してくれなかったが、きっと大丈夫だろう。

 それよりも今は一日お姫様なお嬢のところに行かねば。


「何の話をしていたんデス?」

「少しばかり交流を、みんないい人ばかりですね。」

「アタシの自慢の友達デスヨ?」


 ふふんと、鼻を鳴らす彼女をみて、微笑ましくなったのは秘密です。




「大変タイヘンタイへ~ン!」

「…どうした?」

 太陽が沈もうとしているそんな時だった。今はまた主人である少女から暇をもらって休憩をしている最中だ。

 メイナが慌てた様子で、こちらに駆け寄ってくるのをみて、ヒノが対応している。

 ただ何となく気になったのでそちらに駆け寄ってみると衝撃の事実を聞くことになった。


「―アイツらが、待機組の連中が全滅したって!」

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