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W・E s ワールド・エンカウント ストーリー  作者: ムラツユ
出逢いと再会と遭遇の、春
21/46

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―爺さん婆さん先生、音羽、それに福井さん、今をどうお過ごしでしょうか。

 俺は今、仮想現実の世界?で新しくできた友人とアルバイトに勤しんでおります。

 いつそちらに顔を出せるかわかりませんが、もし帰ることができたら、温かく迎えてくれると嬉しいです。

 それと木之元、絶許。―



「いらっしゃーい!そこの冒険者さん!ご飯食べてかない!すっごいおいしいんだから!」


 店先には。明朗快活なかわいらしい少女が客引きをしている。それにつられて老若男女問わず何事かと一度立ち止まり、見るだけならと中へと入っていく。


「いらっしゃいませお客様。3名様でございますね。ただいま席にご案内しますので少々お待ちください。」


 店に入れば、給仕(ウェイトレス)の恰好をした青年に懇切丁寧に席へ案内され、これまた恭しい態度でメニュー表を手渡された。

 その所作はまるで一流の使用人の様、中へ入った人々はまるで自分が一介の富豪にでもなったような気分に浸る。

 時折、魔法が解けたかのように失敗をすることもあるものの、その時は誠心誠意謝り、いつも笑顔を絶やさない、それが青年の売りだった。

 メニュー表には、お手頃価格(リーズナブル)な料理が数々乗っている。

 そういえばちょうど昼時だったなと、独り言ちつつ、ついでと言わんばかりに彼、もしくは彼女は仲間とともに注文を頼むことにした。

 間もなくして給仕の青年は舞い戻り、軽やかに注文を復唱した後一言断りを入れて、出来るだけ無駄を排した動きで厨房へともぐって行く。

 さぁ、ここからは裏方(シュジンコウ)たちの出番だ。

 厨房そこには筋骨隆々の、いかにもこの店の名前を体現したような男と、これとは正反対な線の細い青年が自らの戦場に身をやつしている。


「ヒノ!砂鳥の串焼き6つと、琉麺3つ頼む!」

「心得た」

「ほらツナ坊!追加の料理だ、もってけ!」

「合点承知!」


 いつものように口数の少ない線の細い青年だが、身にまとう雰囲気は鬼気迫るものだ。闘気、と言い換えても差し支えはないはずだ。

 彼もまた、厨房に立つ戦士として比類なき精神と手腕で戦場に君臨していた。

 だがそんな青年よりも一歩も二歩も、もしくはそれ以上先へと進んでいるのは、この店を始めて3年、下積み期間を数えれば優に10年以上もその道をただ走ってきた料理一筋、筋骨隆々のこの男。

 とはいっても最初の五年は冒険者として世界を旅する傍らに、というのがつくが、のちに良き師に出逢い弟子入りして本格的に料理を始めることになる。

 その鉄腕は宮廷料理のような美麗さはないが、温かさと懐かしさを併せ持つその身に似合わない優しい料理を作ることを是とした。

 そんな彼のプレッシャーを全身に受けながらも青年は懸命に腕を振るい続ける。ここは一人の戦場ではない、チームが協力し、それと同時にしのぎを削りあう。炎の戦場なのだ。



「お待たせしました!こちらが料理と飲み物になります、ごゆっくりどうぞ!」


 こうして客の前に、一つの料理が届けられていくのだが、その反応はあえて割愛させていただこう。

 ここは大衆食堂『茶熊亭』、アットホームな雰囲気と、心にやさしい料理が売りの第壱號店。

 あなたも是非、立ち寄ってみてはいかがですか?


 さて、そんな販促じみた前置きは置いといて、昨日よりも繁盛している店の対応に追われて、右へ左への奔走がやっと落ち着く午前二時、もしくはそれに近い時刻に差し掛かっていた。


「いやー、ホントに助かったぜ!アリガトさん!」


 店長はまだまだ余裕の表情で豪快に笑っている。

 それを見ている俺たちはというと、それはもう死屍累々と言ってもいいぐらいの疲れ具合だった。

 その幼い体にはきついものがあったのか、メイナはさっきから息を切らしながら机に突っ伏しているし

 ヒノは燃え尽きたボクサーよろしくただ静かにたたずんでいた。

 俺はと言えば昨日の二倍以上の回転率に目を回しながらも見事やり終えたのだが、さすがにもう精根尽き果てかねない。


「ところで、俺たちはなんで、こんなことを、していたんだ?」

「そりゃあれだよ、…なんだっけ」

「ウガー!情報収集なら酒場が定石って、ツナ兄が言ったからでしょうが!」


 嗚呼、そういえばそうだった。こういうものの鉄則として酒場が一番って話になって、より多くの人に尋ねるなら客寄せが必要だなということで一番容姿の整ったメイナが客寄せに、ヒノは料理ができるということでホールのほうにまわってもらったんだっけ。

 予想以上に客が来るもんだから目的が達成できなかったが。

 こういうのを何て言うんだったか、ああそうだ。『勝負に勝って試合に負ける』だっけ?何か違う気がする。




 疲労困憊のスタッフをよそに、また新たな客が訪れる。

 ―それは果たして、俺たちにとっての掬いか、絶望か―

 そんなことはおくびにも出してしまえば接客業なんて成り立たない。少なくとも客の前では優雅に、が信条なのでいつも通りの、さわやかな笑顔で対応する。


「なかなかの接客、70点。案内宜しく」

 

 褒めてるのか微妙に判断しずらい点数だ。臨時雇用アルバイトの身では上々、といったところか。


「ありがとうございます。今日はおひとりですか?それとも後ほどいらっしゃいますでしょうか」

「自分一人、だからカウンターで構わない。」

「かしこまりました。」


 そういって少女を手前のカウンター席まで案内する。


「ふわぁ、すっごい美人だよあの人。いかにもクールビューティって感じ」

「そうだな、恰好からして、冒険者のようだが」


 一先ず自らの仕事に区切りがついた二人は一つの席を占領して軽く休憩をとっている。

 ―まあ店長が楽にしてもいいっていうから、別に何も言わないけど先に休んで少しうらやましいなと思わなかったり―

 それでも自分の選んだ役だから文句は言えない。横目で恨めしそうに眺めるだけでさっさと仕事に戻るのだった。


「ところで君たち、ここら辺の人じゃないけど、どこから来たの?」

「何故そうお思いになられたのでしょうか?」

「髪と目の色が今まであまり見られなかった色をしているから、少なくともこの辺りの人じゃない」


 それを聞いて、なるほどと納得した。

 そういえば、もともと情報収集という名目で始めたのを唐突に思い出し、それとなく探りを入れてみることにする。


「実はですねお客様、あちらで休憩をとっているのも含めて、私たちは突然飛ばされてしまいましてその際にお世話になった店主にご恩を返せるようにと、ここで働いているのです。」


 そこまで言って、少女の反応を見る。彼女は無表情ではあるが、ちゃんとこちらの話を聞いているようだ。

 ―この子、何処かで見たような気はするんだよな―

 そこまで考えて、今は不要なことと切り捨て、改めて話を続ける。


「ですが私たちは、一刻も早く故郷に帰らなければなりません。何か情報があれば教えてくださると助かるのですが…」


 そこまで聞くと、少女はこちらに向き直り重々しい口を開く


「その方法を、わたしは知っている。でも、あなたに教えて何の得があるの?」


 つまりは、何かしらの対価を要求する、ということだ。

 無一文というわけではないが、それでもふさわしいものを持っているわけでもない。

 ならどうすればいいか、答えは一つ。


「―あちらの休んでいる二人は、あれで一端の冒険者でして実力は申し分ないです、それでどうでしょうか?」

「…あなたは計算に入っていないの?」

「うぐ、…いえ、私は不甲斐なくもただの一般市民ですので、そういった荒事に向かないのです、申し訳ございません。」


 その返事に満足したのかしないのか、彼女は「そう」とだけつぶやき何かを考えるように頬杖をついている。

 基本表情を動かさない少女なのか、感情が読みにくく何を考えているのかわからないため、ただただ彼女の次の言葉を待つことしかできないのがもどかしい。


「じゃあ、教えてあげる。そこの二人もこっちに来て」

 

 どうやら、彼女のお眼鏡にかなったようだ。心の中で安堵の息を吐いて二人をこちらに呼び出すのだった。






「私も、故郷に帰るために旅をしているの。それで情報を集めていたんだけど、ようやくその手がかりを見つけた。それがこれ」


 そう言って、俺たちの前に紙片を取り出し見せてきた。


「これってモンスターだよね?」

「正確には、モンスターの手配書、だな。」

「このモンスターを倒せば、元の世界に戻れるのか…?」


 三人とも、その手配書をじっくりとみる。確かに強そうだが、そこまで特別なモンスターには見えないからだ。

 少女も先程の問いに深くうなずいているところから、これで間違いない、はずだ。


「こいつを倒して、お金を手に入れれば必ず。」

「ってお金かよ!?」


 すまない、だがどうしても我慢ならなかったんだ。だからその白けた空気をどうにかしてくれ。

 そもそもそこの少女が予想外のことが行ったのがいけないのであって、故に俺は悪くない、はずだ。


「でもお金でどうにかなるなら、別にこれを倒さなくてもいいんじゃない?」

「この額丸ごと使わないと、帰れないからダメ」


 至極まっとうな疑問がメイナの口から出てくるのだが、それにこたえるようにすぐ返答がかえってくる。

 その手配書に書かれていた額は、確かにまともに働くだけでは到底届かない額だった。

 正確にいうと、このバイトに換算して言うと最低10年分の働きをする必要があり、それも生活費を抜いたうえでの話だ。

 ゲームの中でもお金に悩まされることになるとは思わなかった。


「貴方たちに頼みたいのは、このモンスターの討伐の手伝い。請け負ってくれれば異世界でも何でも渡らせてあげる。」


 そう言って少女は初めて嗤うのだった。






 さて、結局どうしたのかというと俺たちは結局、彼女の誘いを受けることにした。

 理由は単純、それ以外に方法はないとそう思ったからだ。

 彼女はその言葉を聞き届けると、明後日未明に此処に集合して発つ、とだけ言い残してその場を後にした。これでひと段落、一応の目途はついたところで、もう一つの案件を進めることにする。


 正直な話、これについては憂鬱の一言だ。

 何故、というなら、俺は、どうも初対面相手だと馬鹿みたいに緊張して、口数が少なくなるからだ。

 先程から問題なく人と話せているのなんなんだ?という問いには、こう返そう。役ができてるものをただ演じているだけだと。

 自分、というものがいまだに定まっていないのか、人と話していて自分が薄くなっている感覚をよく覚える。


 これから行うのは、元、攻略組との談合。コミュ障というほどではない、と思いたいが、最悪人前に立ち、話す、というのはなかなか堪えるものがあった。

何を言っているのかというと、話すことは好きでも、話すことが苦手、そういった矛盾の話だ。



 仕事に暇をもらい、ヒノに先導されて歩く。

 その隣にはこれまた面白半分についてきたメイナの姿もある。

 これから行くところは、もしかしたらつらいところであるかもしれないというのに…。


 そして、ついに彼らの拠点である宿の前までつく。

 鬼が出るか、蛇が出るか。出てくるのは人間だろうけど、きっと俺たちには想像がつかない人種なのだろう。

 ―いや、この考えは先導してくれたヒノに悪い、ホントに何を弱気になっているんだか―

 本心では、わかっている。

 いつもよりも緊張するのは、自分が認めてもらえるかのただ一点のみ。

 それは常時考えていることではあるが、特殊な力を持つ彼らに対し畏怖の念と、何もできない自らの劣等感が余計に増幅しているのだろう。

 それでも進むしかない。

 気合を入れ直し、中へと足を踏み入れた。



「おかえりなさいっすヒノさん…誰っすかそいつ?」


  帰りを出迎える青年が、こちらを認識した途端警戒心を顕わにする。


「ただいま、彼らは、協力者だ。」

「よろしく~!」


 ヒノが紹介するとメイナは気負いすることなくいつもの調子で、快活に答える。

 遅れて挨拶しようとして、声を被された。


「何を考えてんデスカ!?ヒノサン!こんないかにもボンボンな男と、ちゃっちい女の子に協力を頼むなんて!?」


 どこから来たのか、いつの間にかに目の前には三白眼の少女がこちらを睥睨しているではないか。

 しかも何かと言葉がきつい。確かにそこそこ裕福な出だけど、ボンボンと言われたのは初めてだ。


「落ち着け、少なくとも、彼らは大丈夫だ。」


 何が大丈夫なのかと、疑問には思ったがあえて口には出さない。今はそんなことより本題のほうが先だ。

 息を呑んで、自己紹介も込みで入らせてもらおう。


「初めまして、俺はツナギ。今日はあなたたちにお願いがあってきた。」


 控えめに、それでいて主張を忘れないように声を張る。


「お願い、ねぇいったい何をお願いするんすか。」

「俺たちに、その力を貸してほしい。」


 その言葉を聞いて、愉快そうに目の前の青年は嗤う。


「断るっす。なんでわざわざ足手まといを助ける必要があるんすか」

「リュウ」


 目の前の青年―リュウは当たり前のように言い放ち、それをヒノが窘める。

 しかし彼は軽い様子を見せながらも、その言葉を曲げようとしなかった。

 

「そもそもなんでこんなやつら連れて来ちゃったんデスカ、こいつらのせいで―」

「彼らは関係ない、言ったろう、カミュ。」


 三白眼の少女はこちらを親の仇のように睨み付ける、まぁ、こっちのちっこいのもすごい形相をしているからお相子か。

 そもそも、一度だけで信頼を勝ち取ろうなんて虫のいい話だ。それにそんな時間もない。

 深く息を吐いて頭を下げる。

 

「な、なんデスカ、頭下げても、やな物はやデス」

「それでも、今の俺にはこれぐらいしかできないんだ。やれることならなんだってするから。」

「…何でもデスカ」

「何でもだ。」

「フーン…じゃあ奴隷になれって言えばなるんデスカ?」


 何を言っているのだろうかこの少女は、嘲笑するかのようにこちらを見ている。

 いや、それもあるがどちらかというとこちらを見定められているようにもおもえた。

 その鋭い目つきの先に、いったい何を見ようとしているのかはわからない。


「カミュ、何を言っている。」

「別にずっとってわけじゃないデスヨ?ここにいる間だけデス。それぐらいならできマスヨネ?」


 ハッタリだろうか、いやもしかしたらゲームの世界に来た影響で少し現実感がつかめてないのだろうかもしれない。

 それに、最悪明後日には元の世界に帰れる。そこらへんも考えていると信じたい。

 ここは乗ったほうが吉か、否か。


「-本当にここにいる間だけでいいんだな?」

「や、やりやがるのデスカ」

「ここにいる間なら、な。どうせそこまで長い時間いる気はないし」

「その間まで、こき使ってやってもいいんデスヨ」

「望むところだ」


 半ば意地と意地のぶつかり合いで、ノリとノリが合わさった結果である。

 ここに、一時的にはなるが一つの関係が生まれた。


 後に、これがとんだ波瀾を生むことは露とも知らずに

今回は加筆修正が入る、かもしれません

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