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W・E s ワールド・エンカウント ストーリー  作者: ムラツユ
銀糸を纏いし訪問者
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御見合い

続けて投稿です

 光がやむと目の前には、銀色の綺麗な髪をした顔の整った少女が自分の胸にすっぽりと収まっていた。

 おもわず目をこする。件の少女は、眠っているのか規則的に呼吸音がするだけで目立った動きはしていない。

 奇妙な沈黙のあと、とりあえず、少女を出しっぱなしの布団に寝かせすっと立ち上がる。



「よし、勉強でもするか、予習は大事だよな。、大事大事。」


 それは見事な現実逃避だった。

 流れるように、机へと向かいあらかじめ買った教材を取り出す。

 ふと、どこからか異臭を放つのを感じた。それは自分の右のほうから…



「ギャー!マイパソー!?」


 異臭の発生源は、今なおプスプスと嫌な音を発しながら、黒煙を吐き出すデスクトップパソコンだった…。

 完膚なきまでに破壊されたパソコンを見て不覚にも涙がこみ上げる。


 まだ、ローンが残ってたのに…。


「なにが…ですか。」


 …更に追い打ちをかけるがごとく、件の少女が目を覚ます。

 先ほどの叫びで気がついたのだろうか、

 いまさらながら大声を出したことを後悔した。今はもう深夜に近い時間帯だ。

 隣の人にイチャモンつけられても仕方がない。


「ここは、どこですか?」



 嗚呼、またダメだったよジョニー。現実からは、逃げられない。


「あなたは、誰ですか。わ、私をどうするつもりですか」


 彼女はこちらを見て、震えながら問いかけてきた。

 そんなに怖い顔しているだろうか。一応故郷のほうでは町一番のイケメン()で通っているんだが。

 …ああ、いきなり知らないところにいて、そこに見知らぬ男性がいたら女性なら普通に警戒するか


「いったん落ちこうか、もし警察に電話しようと思うならそれは誤解だから、な?」


 なんとか落ち着かせようと試みる。

 傍から見れば見れば、誘拐されてパニックに陥る少女とそれをなだめる犯人に見えなくもない、というか完全にそれだった。

 ―ここは、彼女が落ち着くまでの数時間は省略させてもらおう。




「…それじゃぁ、なんでここに来たのかまるで分らないんだな?」


「は、はい。手紙に名前を記したと思ったら、いつの間に…」


 そう言ってこちらに一片の紙切れを手渡してきた。


「なになに…『三日以内に、この手紙を6枚写して誰かに届けるか、もしくはここに自分の名前を書かなければあなたは不幸になります』…」


 これって、多少違うけど『不幸の手紙』だよな。今もあるのか、というか引っかかるやつがいるのか。

 先程のことを棚に上げて逆に感心してしまった。


「わ、わたしほかの人に迷惑かけちゃいけないから、名前書くだけなら問題ないと思ってそれで…」


 そこまでいうと、彼女はまた涙目になっている。


「ああ、ほら落ち着いて。君のせいじゃないから、たぶん、きっと。」


 もしくは自分の…いや、みなまでは考えまい。心当たりはあるが、突拍子がない上にそれだと本当に誘拐犯じゃないか、オレ。

 もちろん故意も他意もない、完全に事故のようなものだが、いつだって被害者のほうが法の立場上では強いのだ。

 とりあえずは保留にしておこう。


「はぁ、こうしていても仕方ないし、一先ずは家族の人に連絡しなよ。電話番号は?」


 ここまで言っておいてなんだが、行動がまるで、金銭目当ての誘拐犯みたいじゃないか。

 …身代金要求するわけじゃないから警察沙汰には、ならないよな?

 ただ家に帰すだけ、ただ家に帰すだけ、と自問自答している中で彼女は驚くべきことを言い放った。



「デンワバンゴウ?なんですか、それは。」


「いや、『電話』くらいはわかるだろ?なに、お前そんなものもないくらいの弩田舎からきたのか」


「い、一応『伝話』くらいはできます。馬鹿にしないでください。」


 何かがおかしい。決定的な部分が食い違っているかのようだ。

 髪色から察して少なくとも、日本人ではなさそうだ。彼女に待つように指示した後、物置へと向かいあるものを持ってくる。


「お前の住む地域ってどこら辺?大体でいいからさ指さしてくれ。」


 大きめの世界地図を広げて彼女に見えるように床に置く。


「たぶん、このあたりです。」


 そう言って示したのは、ここから見てはるか遠くにある、ユーラシア大陸の西端に位置するところだった。


「んな馬鹿な、ここからどんだけの距離があると思ってるんだ。」


 詳しくは知らないものの、およそ8000kmくらいはあるんじゃなったか?

 その言葉に首をかしげる彼女に現在地を教えると、ひどく驚いていた。


 …ン?

「日本を知らないのか?その割には言葉が達者、というよりはわかるのに。」


「?わたしは普通に話しているだけですけど。何かおかしいでしょうか。」


「うん、日本語が母国語なのか…?珍しい国があるもんだな。」


「い、いえ、ニホンゴといったものが何かはわかりませんが。ルルド語という民族語なはずです。」


 ますますもってわからなくなった。言語が違うはずなのに、なぜか通じる会話。そもそもそんな言語聞いたことない。



「すまないが…名前と出身地を聞いてもいいか?」


 このままではらちが明かない、そう思い突っ込んだ情報を聞いてみることにした。…別に容姿が可愛いとかそんな疚しい理由ではない、少しだけ、少しだけだから


「あ、えと、私は…ルーエ・アルル・ブラン、ていいます。アルスガルドの東の森の生まれ…です。」


 少女―ルーエは一瞬口ごもったが、何か諦めた様子で名前と出身を名乗る。

 東の森なんて抽象的なものは別として、アルスガルド…聞いたことありそうな名前ではある、しかしやはりこれといった覚えはなかった。


「えーと、ルーエ?でいいのか」

「は、はい。」

「ok。ルーエはこの辺りにあるそのアルスガルド、ていう場所にいたんだよな。」

「それであってます」

「そうか」と独り言ちてまた考えをめぐらす。


 この辺りにそんな国があったなんて話聞いたことが無いが、それに関しては自分が情弱なだけだといえばそれで済む話だ。微妙に話が通じているようでかみ合わないのも、育ちの違いもあるだろう。言語の不一致についてはわざわざぶり返す話でもない。話が通じればいいのだから。

 目下、気にするべきところは…


「どうして、こんな状況になったか、だよな…。」


 いきなりパソコンから異音がなって発光したかと思ったら、自分の胸に銀髪美少女が収まってましたとか、与太話でもありえない。ありえていいのは小説の中だけだ。

 その言葉を聞いたルーエは、顔を青くしていきなり頭を下げてきた。


「ごごg、ゴメンナサイ!私が浅慮だったせいで巻き込んでしまって!」

「イヤイヤいや、謝らなくてもいいよ!こっちにもたぶん非はあるから。」

「え?」

「あ」


 しまった、そう思ったときにはすでに手遅れ、しっかりと耳に入ったようで彼女は不思議そうにこちらを見つめていた。

 このままはぐらかすのもありだけど、今からそれをやるには幾分か良心が痛む。

 ならいっそのこと、こちらのいきさつを簡単に話すことにした。


「えっと、つまりあなたのほうも似たような手紙が来て、それに同意したらこうなった、ということですか」


「まあ。うん。そうなんだ。だからこっちのほうこそゴメン!」


 先程とは立場が逆転、騙っていた負い目もあり本当に申し訳ない気持ちいっぱいになる。

 今なら日本人最終奥義『土下座』も敢行できるだろう


「あ、頭を上げてください!別にあなたのせいじゃありませんから」

「それでも、俺があれを見なければこんなことには」

「だったら私だってあの手紙にサインしなかったら」

「オレの」

「私の」


 話は平行線を辿るかのようだった

 しかし突然彼女が笑みをこぼす。


「ごめんなさい、お互いに謝りあってるのが、可笑しくって可笑しくって。」


 確かに、非を擦り付け合うのは当たり前に起こるけど、取り合うというのはなかなかに滑稽だ。コントでもやっていたかのような気分になり、口から息がこぼれる。

 途端に笑みへと変わり、部屋の雰囲気がガラッと変わる。お互いの笑い声が部屋に満ち満ちていた。





「うっせーぞ!夜中だぞ!静かにシィや!」

「スイマッセーン!お隣サーン!以後キヲツケマース!」


 ―途端にバンバンと壁をたたく音と同時に怒声を浴びて反射的に謝罪の言葉を口にする。

 いくらなんでも騒ぎすぎたようだ。

 隣で彼女は委縮したように怯えているのが分かった。


「す、すいません、私のせいで怒られてしまいました。」

「ああ、いや気にしなくてもいいよ。騒がしくなったのは俺も悪かった。だから『痛み分け』な?」

 そういうと彼女は首を傾げたあと理解したのか微笑んでこういった。

「わかりました、そ、それじゃあ今回の件も『痛み分け』ですね。」


 つまり、彼女は誘拐まがいになったこの件を許すといっているのだ、自らにも非はあるから。

 これでひとまずはひと段落といったところか。


「そう、だな。こんなことやっているぐらいなら、対処法の一つ考えたほうがいいし、その前に」


 そこまで言うとぐらりと視界がぐらついてきた。


「今日は、とりあえず、休ませ…て…」


 時刻で言うと午前三時、昨日の朝からバイト三昧の身にはなかなか堪えるものがあったとさ。

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