invite trial world
俺の名前は仲秋常義!幻覚症状に日々悩まされていた大学一年生!
ある日突然、パソコンの中から銀髪美少女が現れたんだ!
そこから俺の日常がだんだんと崩れて来た。
先生には末期症状だといわれるわその女の子は突然さらわれるわ生活費がカツカツになるわ俺の相棒がヴァルハラへ旅立つわでさぁたいへん!
途中人の良かったお坊さんを不意打ちしたり、仮面のオッサン?をブッ飛ばしたりしたもののなんやかんやで元の生活プラス少女との同居生活を勝ち取った俺!しかしお金が余計に嵩張りまたピンチに!?
そんなとき大天使木之元マキフェルが現れて―
「…ナギさん。ツナギさん!おきてください、戻ってきてください!?」
「はッ!俺はいったい何を…てかここどこだ!?」
あたり一面緑一色、否ところどころ茶色の地面が見え隠れしている。
動くものと言えば、自分とルーの二人だけ、先行していたはずの人たちの姿はまるで見えなかった。
いったい、何があったというんだ。
「ツナギさん、大丈夫ですか?」
「あ、嗚呼。ルー俺はもうだめかもしれない。目が、腐ってやがる。」
「お、落ち着いてください。幻覚じゃありませんから、わたしも見えていますから。」
一つ深呼吸して、心をおちつかせる、
ルーはすでに平静を取り戻しているようで、周囲の確認をしている。
女性のほうが突発的な出来事に強いとは言うけど、本当かもしれない。
「わからないと思うけど、あえて言わせてくれ。ここはどこだ?」
「ここは…」
彼女は何かを言いかけたように思えたが、そこから黙り込む。
「…すいませんわたしにもさっぱりです。」
「そっか。」
いきなり連れてかれたもんだから頭が混乱しているんだろう。そう判断してそこで話を切る。
状況の把握が何よりも優先されるが、正直ここではのどかな光景だな、程度しかわからない。あ、ウサギだ。ともかくここから移動して人がいるところまで行こう、…どの方向かなぁ。
「ツナギさん、あっちのほうに人里があります。そこに行ってみませんか?」
「お、おう。てかよくわかったな、どうやったんだ」
いきなり文字通り路頭に迷っていた俺を先導して先へと進むルー。
あまりの頼もしさに眩しすぎて直視しずらくなるものの素朴な疑問が口をついて出る。
「魔法、です。」
その問いに彼女ははにかみながらそう答えたのだった。
時は移ろい、可もなく不可もなく俺たちはルーが言っていた人里へとたどり着く。
辿り付いたものの目の前に広がる光景に、目を瞬かせた。
行きかう人々が皆時代錯誤というか、現実離れしていた。大きな刀剣を背負って世紀末な衣装(偏見)をしていたりやけに動きずらそうなローブを着ていたりとありていに言えばゲームでよくある冒険者の町のようだ。
「ツナギさん、こっちです。こっちに先程の人たちがいるそうです。」
さっきから主導権がルーにわたっているが、他になすすべがないのはわかっているのでおとなしく従う。
「おめぇさんらで最後だな。ようこそ『茶熊亭』へ。お仲間さんがあっちで待ってるぜ。」
そう言ってこの店の店長が先へ案内されるがままについていくと、確かに先程見た面子がいくつか揃っていた。
「…チ、女づれかよ。いいご身分だな」
「わぁ、綺麗な髪!」
「君たちで最後みたいだね、身近いつきあいになるかもしれないけどよろしく」
うち三人が三者三様の反応を示す。
ただ待ってくれ、先に誰か状況の説明を…
「えっとつまり?ここはゲームの中で、起きるためにはにはさっきの人から出される課題をクリアするか休日丸々潰すか選べと、そういうことなのか?」
その言葉に、先程挨拶を返した青年が頷く。
その横で女子たちがキャッキャウフフとはしゃいでそれはもう、目の保養になるような、否断じてい否、かしましい雰囲気を醸し出していた。
「ねね、髪触ってみてもいいかな?」
「ええ!?…い、いいですけど」
「ありがとう!触り心地もいいなぁ、うらやましいなぁ。」
「そんな、わたしよりもあなたのほうが綺麗で、可愛いですよ。」
「ほんと!?ありがとう~。」
「ひゃあ!?急に抱き着かないでくださいぃ。」
うん、神様どうもありがとうございますこんな光景が見れて私は幸せです、てそうじゃない!?
「待て、待って。こいつの姿が見えるのか?ホントに」
その言葉に元気の塊のような少女は首を傾げた。ほかの青年二人も何を言っているんだという顔でこちらを見ている。
「変なことを言うねお兄さん。自分の彼女のこと幽霊みたいに言うなんて。」
「ちゃうねん、彼女ちゃうねん…」
何度でも言おう、彼女ではないのだ。こう、友達以上彼女未満の関係がルーの頭の中で続いている様で全然意識されていない。さすがに裸で歩くとかそういうことはしないが、飲み回しとか臆面もなくするものだからこっちの心臓が持たない。
―はぁ、一世一代の告白のつもりだったんだけどな、あれ―
もう一回すればいいじゃないかと言われてしまうだろうが、場の雰囲気とかいろいろとあるだろう。
それにこの関係を壊すのも忍びなかった。
いけない、話がそれた。
「いや、そのなんて言うかな…」
どうも次の言葉が見つからない。どうやって話せば納得してもらえるのだろうか。
そんな中まさかの助け舟が出された。
「もしかして、君たちも超能力者なのか?」
「「はい?」」
二人そろって、首を傾げた。
「今回集められた人たちの多くは、そういった一癖ある学生を予め集めていたらしいんだ。」
「んな馬鹿な、超能力なんてありえないだろう?」
「少なくとも、ここを出て行った人の多くはそうらしい、一番先に入っていった奴等だよ。」
そんなことを真面目に、真剣な顔で言うものだから信じる信じないは別として、ひとまずは頷くしかなくなる。
とは言っても、やはりすぐには納得できないものではあった。
それになんとなくではあったが、ルーのそれは彼等が言っていたものとは別のものではないかとおもっている。
「ん?じゃあ、ここに残ってるのは…」
「ここには残ってんのは、いわゆる巻き込まれ組ってわけだ。怖くなって震えてるやつと単にめんどくさいってやつばかりだ。」
「おい、それはさすがに言い過ぎだ。」
ガラの悪そうな青年が辛辣な言葉を言うのを先程挨拶を返してきた、勇敢そうな青年が窘める。
「てことは、アンタらもその口なのか?」
素朴な疑問が、口からこぼれる。元気な少女はまだしも、青年二人に関しては、怯えているようには見えなかったからだ。
「ハ、俺を他の奴らと一緒にしてんじゃねぇよ、確かに何も聞かされずにつれてかれたが、要はゲームなんだろ?俺だって、ついていきたかったさ。でもな」
「彼には残ってもらったんだ。もしかしたら不測の事態でも起こるかもしれないから、その時残った人たちだけでは対処しきれないだろうからね。」
「そう言うこった。ッたく、やり切れねぇよ。」
話すことは話した、といった体で片やこちらを一瞥してそれ以降そっぽを向いてしまった。
「それで、君たちはどうするんだ?」
もう片方が、これからの予定を聞いてくる。
正直な話、休日を丸々潰されてしまうのは勘弁願いたいのだが、何があるかわからないまま先に進むのは無謀だろう。だったら―
そこまで考えて、また新たな疑問が浮かび上がった。
「―ところで、ここって無料で一泊できるの?ここの通貨持ってないんだけど…」
「それだったら、メニュー画面を開いてみればいくらかあるはずだ」
「へ?メニュー画面?なぁルー、そんなのあったか?」
「め、めにゅー画面?」
「は?」
どうやら、始まりから前途多難である。
「出ろー、出るんだ…来い、メニュー画面!!」
「んー…!」
そして今、基本的な開き方ではあかない天邪鬼なメニュー画面を必死こいて出そうとしている最中だった。天岩戸もかくやと言わんばかりだ。
「何故だ…なんでなんだ!というか無一文でどうしろっつーんだ!木之元ぉ!」
とりあえず、このやりきれない気分をここに誘導した一人の少女の名前に乗せて発散させる。
気のせいか件の少女は今のこのありさまを見て腹を抱えて爆笑している気さえした。
「落ち着こう、ここまでやって何もやって出ないんだ。もう可能性は皆無に等しい。」
「メニュー画面どころかチュートリアルもなかったなんて、とんだバグだね、ドンマイ!」
嗚呼、二人の言葉がやけに心に刺さる。だれか、優しさを、バファリンをくれ。
「だ、大丈夫ですって。わたしもできませんから。」
「ルー、それは逆に拙いぞ四面楚歌、いや八方塞がりだ。」
二日飲まず食わずで生きられないことはないが、宿屋に泊れないと何されるかわからない。このゲームがどこまで忠実に作られているかは知らないが女の子が野宿なんて精神衛生上悪いに決まっている。
「できれば貸してあげたいのはやまやまなんだけど、どうやらみんな一人一泊分の通貨しか持っていないみたいなんだ。」
つまりはほかの人から借りるわけにもいかないという。どうしようもない事態になったわけだ。
どうにかするには先程のオッサンから出される課題をクリアして出るほかないのだが、そもそもこれといった戦闘手段がないのだ。
あの時のような、自分の身体ではない感覚が戻れば、いや、あれはきっと夢だったのだろう。でなければ今ここで元気に巻き込まれているはずがない。まだ病院か土の中だろう。
しかし、どうしたものか。この際ルーだけでも…
「ツナギさん、大丈夫です。私が何とかします。」
「いや、なんとかってどうするつもりだ、お金も何もないんだぞ?」
やけにルーが自信に満ちた顔でそう宣言するが、この状況でか弱い少女が一人何ができるわけでもない。
「いつも、お世話になっているお礼を返したいんです。無茶はしませんからお願いします。」
真摯に嘆願する彼女の姿を見て、俺は―
今俺とルー、そしてガラの悪い青年―マサトと名乗った―は人里のはずれに来ていた。
何をしているのかというと、薬草を摘みに来ているのだ。
ただ、ここはいつ襲われるかもわからないいわばセーフティゾーンの外。故に神経をとがらせながらがむしゃらに草を摘む。
「ツナギさん、それはただの雑草です。」
「あ、はいすいません…」
ただこの薬草、その辺に生えている草とそこまでの差異はないのだ。だから、早さを重視してがむしゃらに摘むと確実に雑草が混じる。そうなると値段が安くなるのだ。地道に、一つ一つ確認しながら積んでいくしかない。
…ファンタジー世界なんだから、もっとわかりやすいデザインにしてほしかった。
マサトはあたりを警戒して作業ができないので、実質として俺とルーで薬草を地道に摘んでいる。
なぜか彼女はとても手慣れたように、てきぱきと選別していた。速さで言うとこちらの二倍である。正直自分が情けなくなってくる。
「それは毒草ですよ。」
「あい…」
彼女の必死の願いに、自分も同行するという条件で許可することにしたのだが、その内容がオッサンからファンタジー宜しく依頼をもらってそれでお金を稼ごうというものだった。
これしか方法はないとは思ったが、さすがにバグか何かで戦闘ができないであろう二人で外に出すことはできないということで、この中で荒事になれているマサトが一緒についてくる流れとなった。
―まぁ、それはいいのだ。
なんだかんだで、マサトはいいやつだった。いわゆるツンデレというやつだ。最初はルーと一緒に入ってきたことから目の敵にされていたものの、彼氏彼女の関係ではないと懇切丁寧に話すと納得はしてくれたし。彼も何も事情を聞かされずに知り合いから誘われたということで境遇が一致していることもあり意気投合もできた。ゲーム世界初日としてはなかなかのできだろう。
問題はここからだった。
外に出れば否応なくエネミーと遭遇する。マサトはもとからこの世界を楽しむ気満々だったらしく勇み足で敵と相対、初期装備として入っていたらしい拳当てを使って見事勝利を勝ち取る。
どうやら多少の補正が聞いているのか彼は手こずることはなかった。
俺はと言えば、たとえゲームだろうと死にたくない一心で敵の攻撃を避けることを念頭に野を駆けずり回りたまに一撃ないし二撃を入れるだけにとどまった。こちらはどうもそういった補正が適用されていないようだ。バグっている時点で望み薄ではあったのでそこまで落胆はしなかった。
そんな中、ルーエは怪しい呪文を唱えたかと思うと、突風が吹き荒れ、水流が敵を襲い、傷がみるみると治っていった。
そのことに最初唖然とした男二人だったが、これは即戦力になるということで深く考えず諸手を挙げて歓迎した。
そうなると、この中で唯一戦闘に参加できないのは俺一人、ということになる。
それは拙いと、奮起して果敢に挑むのだが、返り討ちにあい余計に手を煩わせるだけに終わるのだった。
そこで先程の薬草むしりにまで話が進み、少しでもいいところを見せようと空回りしているところだ。
「それにしても。ルーはすげぇな。まるで魔法じゃねぇか」
「い、いえそれほどでは、まるで、ではなく魔法ですけど。」
「へぇ、てことは魔法使いってことか、本当に居るんだなぁ。世界は広いな仲秋!…どうした?」
「どうしました、ツナギさん?」
「俺は薬草摘み機、俺はロボット。おれは効率的…ん、嗚呼ゴメン作業に夢中になってて聞こえてなかった。」
―ああ、そんな面白そうな話は聞こえなかったさ。仲良くしている姿を見て、疎外感なんて―
そこまで考えて首を振る。こんな状況で嫉妬なんてそれこそ無様、惨め以外の何物でもない。尚も心配する彼らに一言大丈夫と告げ、作業に専念する。
「―ここまでにしましょうか。」
「へ、いやいやまだ行けるって。」
「大丈夫ですよ。これだけあれば一泊する分のお金にはなると思います。」
「それに、そろそろ帰らねぇと日が暮れる。夜になれば奴らも凶暴さを増すって言われたからな。さすがにきついぜ」
「…そうだな。帰るか。」
これ以上迷惑はかけられない。そのまま、来た道を3人で帰るのだった。
「お疲れさん、首尾は…こりゃぁたまげた。これだけあれば十分だ。二人とも今日は個室で泊まっていきな」
「マジかうらやましい…なぁおっちゃん。俺も手伝ったんだ。個室にしてくんねぇか。大部屋で雑魚寝とか簡便だぜ。」
どうやら持ち帰ったぶんで事足りたらしく他とは別に計らってもらえるようだ。待機組は大部屋にまとめて泊められるそうだ。
隣でマサトがオッサン相手に交渉している姿が見える。しかし如何やら状況は芳しくないようだ。
「オッサン。代わりに俺が大部屋でいいよ。俺そんなに働いてないし」
「え、マジでいいのか。それなら構わねぇよな!おやっさん!」
どうやら交渉成立していたようで隣で熱い握手を交わしていた。
まぁ、大部屋で雑魚寝は正直あこがれていたからちょうどいい機会だったし。マサトも喜んでいるようで何よりだ。
それに今一人でいると、余計に鬱なほうへと考え込んでしまいそうだ。無理にでも人といるほうが余計なことを考えずに済むだろう。
そう思って大部屋へと移動したものの、大部屋もやけに雰囲気が暗く誰もかれもが話すことをしなかったので、結局一人で悶々と過ごすことになるのだった。