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W・E s ワールド・エンカウント ストーリー  作者: ムラツユ
出逢いと再会と遭遇の、春
17/46

怪しいバイト先

 木之元さんに渡された書類には、以下の3つのことが書かれていた。



・次の土曜日指定された時間に遅れることなく到着すること。

・その際に別途用意した書類にも目を通したうえで、そこに署名すること

・同居者を必ず連れてくること



 二番目の書類に関してはこれから働くうえで了承してもらうべきことが書かれており、仕事中の事故に関する怪我等の保障、またみだり情報を流布することを禁ずる誓約書等が収められており、見た感じでは肉体労働かつしかもそこそこの危険を伴うものであることがうかがえた。

 また、3番目に関してはー


「こ、これってもしかして、わたしのことを言っているんでしょうか?」

「いや、まさか…そんなことは」


 ない、とは言い切れなかった。

 ただ、ルーを指しているとしたら個人情報の漏えい…、いやそんなことより彼女のことが認知されている、ということのほうが重要だ。

 先程の事件で、見える人がいるのはわかっていたが…まさか団体レベルで知られているとは夢にも思わなかった。

 まあ…別に隠していたわけではないから、心当たりが多すぎて逆に分らないだけなのだが。


「もし、お前のこと指していたとしたら、問題なのはなんで指名したのか、だな。」

「どうしてですか?」

「どうしてって…そりゃ下手したら、実験台(モルモット)とか?」


 それを聞いた彼女は短く悲鳴をもらしてそのまま後ろに倒れそうになる、それをみて慌てて支えたおかげで頭は打たなかった。

 ありうる一つの結末を語っただけではあるが、それをただの妄想で片づけるにはいささか現実離れしすぎた。

 とにかく一度彼女を起こすことにしよう。


「ルー、起きろー。今寝たら夜眠れなくなるぞー二重の意味で。」


 一つは寝すぎ、もう一つは悪夢で決まり。小心者の彼女のことだ絶対見るだろう。


「ハッ…。すいません、気絶してしまいました。」

「いや、俺も悪かったよ。すこし脅しすぎた。ただそれも視野に入れて考えてほしかったんだ。どうしたい?」


 彼女がいやだというのなら、木之元さんには悪いけど今回の話はなかったことにしよう。カツカツではあるが、まだ猶予はある、と思うし。


「―私は、それでもいってみたいです。もしかしたら、わたしのことを見てくれる人がいるかもしれませんし。」

「そっか、じゃあ今度の土曜はここに行くってことで決まりだな。」

「はい。」


 彼女の意見も汲んで、来週の土曜はこのバイトの試験とやらを受けることにする。

 その前に木之元さんにも話を聞くべきだと、大学内で彼女の姿を探す。


 しかし大学の、連絡先もわからない他学科の人物を探すのはむずかしく、眠気と戦いながら必死に探したものの結局、一度も会えずに試験当日と相成ってしまうのだった。



 以前渡された封筒には書類以外にも、目的地までの地図とそこまでの切符が準備されていたため、比較的スムーズに移動ができた。

 その大盤振る舞いっぷりに、よほど大きな会社なのだろうかと幾分か緊張が走る。

 隣では、電車の車窓から変わりゆく風景を楽しげに見つめるルーエの姿があった。

 いつもとは違って、以前にプレゼントしたヘアバンドをつけていた。


「それつけてるのは初めてだな。てっきり気に入らなかったのかと思ってた。」

「い、いえそんなことは。…ただ初めてもらったプレゼントなのでちょっと気後れしちゃいまして」


 そう言ってこちらにはにかむ彼女はなかなか堂に入っていて、一枚の絵にでもなりそうな光景だった。

 似合っているでしょうか、と問いかけられてようやく現実に戻ってくる。


「そ、そうだな、似合ってるんじゃないか?うん出かけるときは毎日つけとけよ。すっごい綺麗だからって今のなしな!」

「ど、どうしたんですか!?」


 ―何言ってんだ俺!?今からバイトの試験だぞ遊びどころかデートに行くんじゃねぇんだぞ!―

 ルーが心配してこちらに声を声をかけるも、その声は微妙にこちらに届かない。

 周りに奇異の視線で見られようがお構いなしに両手で顔を覆いつつ上を見上げて、真っ赤になった顔を必死に見せないようにするのだった




「あ、あの、大丈夫ですか?」

「嗚呼、大丈夫だとも。平常心だとも」


 その後、電車を乗り継ぎバスを乗り継ぎとかれこれ数十分したころ、ようやく試験会場へとたどり着く。

 その際ずっと顔を真っ赤にしていたものだからルーは周りの人からも心配されて、挙句お年寄りの方からいろいろともらったりもしたものだから途中申し訳ない感じがした。

 ともかく心を入れ替えその会場を見やる。

 都心部の高層ビルの一つでその前には二人の強面の守衛さんがこちらを訝しげに見ていた。

 そのあまりの荘厳さに住所を間違えたかと二度見するもここであっているようだ。

 一応守衛さんにも尋ねてみることにした。


「すいません、この住所の場所はここであってますよね?」

「そうですが、ここにはいかほどのようで?」

「実は、ここでバイトの試験があると聞いたんですけ…ど」


 そこまで言うと、一人が守衛室から書類を持ってきて何かを確認していた。おそらくリストだと思われる。


「仲秋…常義さんであってますか?」

「あ、はいそうです。」

「…君一人かね?あと一人一緒に来る予定だと書かれているのだけど…」

「えっと、それは」


 目の前にいます、とは言えない。そもそも見えてないものをどう説明すればいいのだろうか。

 口をつぐんだ姿を怪しまれたのか二人の目つきが鋭くなる。冷や汗が出てしまいそうな威圧感にそのまま逃げ帰ってしまいそうだ。後ルー、人を盾にするんじゃない。

 その時だ。


『ああ、ガードマンさん方、そこまでにしてね。彼等(・・)はれっきとしたお客様なんだから』


 最近よく聞く声がスピーカー越しに聞こえた。


「しかし博士、彼は」

『彼等ね。大丈夫、ちゃんとこっちでは見えているから。ほらほらお二人さんあがっちゃって』


 それだけを残して、通信が途切れる。

 守衛の二人はいまだに納得がいかない様子ではあるが、しぶしぶと中へと案内した。





「先程の声って入学式の時、前で話していた人ですよね?」

「あ、ああ。間違いじゃなければ、な。」


 正直間違いであってほしい気もしなくはない。一つは彼女と関わってはいけないと囁く勘と、今までの経験則からだ。

 別に木之元さんが何か直接手を加えたというわけではない、無いのだが彼女が現れた矢先に重大なことが発覚したり事件に発展したりしていたからだ。

 単なる偶然である可能性もあるけど、どちらかというと彼女が好んでそういった予兆のある場に姿を現しているように思えてならない。

 どちらにせよ今から帰るわけにはいかないのでただ案内されるがままについていくと、およそ中心部にある大広間へとついた。そこに他に何名かの学生と思わしき人がたくさんいて、守衛さんにはここで待つようにと指示を受ける。

 その指示通り待っているものの、手持ち無沙汰なものだから周りを見渡してみると、学生といっても多様な種類の人が集められているようで、見目麗しい少年少女や筋骨隆々のいかにも格闘技やってますといったもの、果てには集めてどうするというのかみすぼらしい外見のいわゆるオタク、と言った人種まで揃っている。

 それらは当たり前といえばそうなのだが、周りと歓談したりといったなれ合いをするような雰囲気がまるで一切ないようだ。…本当に、何をやらされるのだろうか。




それからしばらくして、前方に据え付けられていたモニターに一人の男性が映し出された。


『やぁ諸君、今回は集まってもらって感謝の極みだよ。この場にはこれから一体何をやらされるかわからなくて不安なものが多々いるだろうが、安心して欲しい。漫画なんかでよくあるようなデスゲームをやらせるとかそういうものではないからね。』


 そこまで一気に語られたおかげか、何割かの学生たちは安堵の息を吐く。正直、木之本さんから割の良いバイトしか聞かされてなかったから、さっきから周りにおいていかれている気がする。

 そして、彼はこう続けた。


『ただ、仕事に本格的についた際には命の危険がある部署に配置される可能性もあると考えておいてくれ。もちろん、書類にも書いてあるとおり保険やその他の待遇もきちんとしているから心配はないだろう。』


 なかなか本題にはいらないのにしびれを切らした、勇敢そうな青年は、手を上げて口を挟んだ。


「それで、一体何をさせるつもりなんだ?俺はここに来れば実力を十全に発揮できると聞いたんだがな」


 その言葉に他の何名かも同意して声を上げるが、その他はなんのことかまるで理解できていないように首を傾げる。

 人によって情報量の差異が見受けられる。中には自分の願いが叶うとか悩みが解決してもらえるだとかそんなことを言っている人もいた。…認めたくないが一番情報を持っていないのは俺達らしい。


「なぁ、ルー?」

「ど、どうしました?」

「帰ろっか。」

「え、ちょ」


 いまだに状況に流されたままの彼女の手を引き出口を目指す。

 すでに出口前には同じことを考えていたであろう人たちでごった返していた。


『あー、すまないがもう少し話を聞いて行ってくれないか?本当に試験では危ないことをさせるつもりはないんだ。』

「ふざけんな!こんな意味の分からない話聞いてられっか!」


 スピーカーからの静止の声に誰かが条件反射のごとく吠える。

 会場はモニターの男に詰め寄るもの、ただ静観するもの、ここから出ようとする者の3つにわかれた。


『OK、わかったそれじゃ、一つだけやってもらったら今日はそのまま帰ってもらっていい。もし何か聞きたいことがあればその時に聞こう。今から開ける扉の奥に進みたまえ。』


 そう言って扉が開かれたものの、先程の騒ぎが嘘のように静まり返り、すぐに奥へ進もうとする者は現れない。

 少ししてから先程質問を投げかけていたメンバーが勇み足で進み、次に出口へと行こうとしたメンバーが我先にと続いていった。

 それらが完全に中へと入ったころ最後のひと固まりが自らのペースで中へと入っていく。

 そんななか俺たちはと言えば完全に二の足を踏んでいる。

 最後に、一つだけ聞いておこうと思った。


「…出口から出ていけませんかね?」

『無理だ。中から開けられない仕組みになっていてね。どのみちあそこからしか出れないよ?』


 その言葉にため息ひとつ吐き、重い足を扉の前へと進める。

 正直嫌な予感しかしないが、隣を歩くルーのためにも少しかっこいいところでも見せるつもりで、奥へと進むのだった。




『彼等が、マキナ君が言っていた子達か、少女のほうは確かに異質だったが、青年のほうは―まあいい。がんばってくれたまえ』




 扉の先は、太陽がまぶしいあたり一面何もない原っぱの只中でした。

 …なんだこれ。


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