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見える彼と見えない彼女のその日暮し

閑話です。この後簡易的な登場人物紹介をして第二章が始まります。

 今回は一先ず無事に元の生活に戻れた彼等の、ちょっとした小咄をしようー


一、見えない女の子と同居生活するに至って

 ここはとある大学病院の一室、そこには眼鏡をかけた温和そうな二十代半ばの青年と、まだ、垢抜けていない大学生の青年が入院生活を送っていた。


「先生、一つ相談に乗って欲しいことがあるんです。」


「どうしたんだい仲秋くん?そんなに改まって、僕で良ければ相談に乗るよ。」


 暇を持て余したところだしね、と眼鏡の青年は気楽に請け負う。

 しかし、学生の方―次からは少年と言おう―が真逆のとても真剣な表情で見つめていたため、青年も気を引き締めて少年の質問を聞く体制になる。

 

 どこか、緊迫とした状況の中ついに少年の口から『相談事』が打ち明けられる―。







「―ルーの分の家賃って払ったほうがいいんですかね?」


「…、は?」


 先ほどの空気はどこへやら、シリアスといったものは途端に雲散霧消し、その場にはなんとも形容しがたい空気だけがのこる。


 しかし青年は何とか取り繕うことに成功して、自らの教え子に対応することができた。


「そ、そうだね…。払わなくてもいいとは思うよ。どうせ見える人は少ないんだし…。」

「でも、自分にとって彼女は今のところ、唯一の親友ですし出来ることなら、人として扱ってやりたいんです。でもそのためにはお金も必要でしてそれに大家さんに嘘ついているみたいで―、」


 その後、少年の弁明ないし持論の展開は、件の少女がお使いから帰ってくるまで続くことになり、それを青年は乾いた笑みで聞き続けることになる。

その間、心の中で―まるで重度のオタクが自分の嫁をリアルと同一視で見ているかのようだ、いやホントにいるし見えてるんだろうけどさ―なんて青年は思っていたとかいないとか

おしまい ちゃんちゃん。




二、幼い頃の憧れ

 それにしてもまさか、たったの二日間で退院できるとは思わなかった。入院していた理由も怪我のせい、と言うよりはどちらかというとこの一週間の疲労と無茶なアルバイト生活を咎められたというのが一番の理由だったりする。

 まあ、自分でも日勤と夜勤を同時に入れていたのはやりすぎたかな、とは今更ながらに感じてはいた。

 退院はできたものの、医者からドクターストップが掛かっているため当分の間はバイトに行けない。仕事先にはすでに連絡がいっていたようでお大事に、という一言と早めの復帰お待ちしておりますとのことだった。

 そのため今は自宅待機である。


「まあ、でもようやく元に戻った、かな。」


 寝床県居住スペースにはいまだ故障したマイパソが、その日の状態のままに鎮座していてそれが何とも言えない郷愁を感じなくも…ない。

 そんな相棒の無残な姿から全力で目をそらしつつ、さてこれからどうしようかと考えていると、ルーが突然話しかけてきた。


「ツナギさん。これから本格的にお世話になりますけど、一先ずは寝るときのことを考えましょう。さすがにずっと布団を占拠するのは悪いですし…。」


 そう言ってどこか気まずそうにこちらを見る。

 今まではお客様扱いとして彼女にベッドを譲って、自分は押入れの中に布団を敷いてそこで寝るという方法をとっていた。


「まあ、別にそのままでいいんじゃないか?そこまで窮屈ではなかったし。」


 もともと荷物は少なめで、スペースが余っていたということもあり少しつめればそこまで息苦しいということまなかった。

 先の一週間である程度慣れたこともあり、今ではあの閉塞感もなかなかいいものだと思っている。


「で、でもやっぱり家主の人が隅に追いやられるなんておかしいと思います。本来なら私が」

「いいって。女性には優しくしろってじいちゃんに口酸っぱく言われてたし、それに子供のころのあこがれだったしな」

「憧れ、ですか?」

「引き戸の向こう側はまるで異次元ってね、子供のころは思ってた時もあったんだ。」


 その言葉に、まだよくわかってない感じではあったが「はあ」と生返事が返ってきた。

 未だに彼女は不思議そうに首をかしげているが、まぁ文化圏が違えば考え方も変わるか。ちょっとしたジェネレーションギャップ?いや違うか、それと似たようなものを感じて苦笑いをしつつこれでいったん話を切り上げる。

―一番は有名な某アニメの影響ではあるけれど、いつか時代は追いつくのだろうか。―




三、あなたの手料理が食べたい

「ホントにうまくなったよな。いやもともと手馴れていたのか。」

「あ、ありがとうございます。」


  昼時になり、ルーとおれは温かいご飯に舌鼓を打っていた。


「やっぱり、誰かが自分のために作ってくれた料理ってのはあったかくていいな。ここに移ってからは自炊するしかないと思ってたし」

「…あ、あの、一つお願いしてもいいでしょうか」

「できることなら構わない。何でも言ってみてくれ」


 ただし無理なものは無理と断言させてもらうが。そこまで言うと彼女は意を決したかのように口を開く。


「あ、ああの私もまたツナギさんの料理をまた食べたいです!」

「…はい?いや正直俺のは料理って言えるようなものじゃないよ?」


 大体は冷凍食品やら文明の利器をふんだんに使ってごまかしごまかしで作っているようなものだ。彼女の作るそれと比べるおこがましいどころか、下手すれば憤死するレベルだ。

 以前彼女に出したものと言えば、簡単な朝食と、やはり冷凍食品等を使ったちょっとしたアレンジ料理もどきだった。

 そのアレンジも、ネットで面白そうだとあらかじめ書き留めておいたものだ。ちなみに今ではその技術を彼女はほぼ自分のモノにしている


「私も最初に出された朝食をいただいたときは、本当にうれしかったんです。あの時の味が忘れられないというわけではありませけど、それでもやっぱり食べたいなって…」


 そこまで言うと、無理なお願いだと思われたのか彼女は俯かせてしまう。

 …別に無理だというわけではない、ただ自信がそこについてこないだけで。できることはできる、はずだ。


「―わかった、今日の夜は俺が作ろう。」

「ほ、ほんとうですか!」

「漢に、二言はない。」


 そこまで言い切ると、彼女は花を咲かせた様に笑ってくれた。その笑顔を見てよかったと思う反面、どうしようと内心焦るのだった。




 時は過ぎ去り、日暮れとなる。

 初めて、というわけではないが、なかなかやる機会のなかった本格的な料理ということで気を引き締めて厨房へと立つ。

 せめて笑われない出来にしなければ、その一心で自らの手腕をふるう。



「ほら、今日の夕飯だ」


 わざとぶっきらぼうに相手の顔も見ずに言い放つ。

 というよりは相手の顔が見れなかったというのが正しい。

 ちゃぶ台の上に置かれていたものは、豆腐の味噌汁に実家から送られてきた漬物、ほかほかの白米そして少し、本当に少し見た目の悪い肉野菜炒めである。

 少し焦げているとか、味付けが濃そうとか言ってはいけない。


「あの、食べてもいいですか?」

「どうぞご自由に」


 人に作ったものを吟味してもらうということは、かくも辛きものなのか、そう感じてならない。

 彼女が炒め物を口へと運びゆっくりと咀嚼する。おもわず凝視してしまうほど次に出てくる言葉がやけに怖かった。


「一寸。しょっぱいですね。」

「ぐふ!」


 痛恨の一言が心に刺さる!

 …嗚呼、少し焼き肉のたれをかけすぎたか、と自らの失敗を悔やむも時は戻らない。


「無理に食わんでもいいから」

「でも、」


―捨ててくる―と言いかけたところで、彼女が口をはさんだ。その手にはしっかりと炒め物がよそわれたお皿がつかまれている。


「おいしいです。わたしだけのために作ってくれて、ありがとうございます。」


 ただ、その一言だけではあったが、それだけで掬われた気持ちになった自分は単純なのかもしれない。

 それでも彼女の笑顔が見れただけで、よかったと心の底から思うのだった。





四、わたしたちのお家事情

「それにしても意外です、てっきり料理が得意だと思ってました」


 本当に意外そうにルーは言う。

 そこまで以外だろうか?一人暮らしだとしても、インスタントや外食で済ます人はそこそこいると思うのだが。


「前だしたのはすでにできているものあっためたりするだけだからな、これから一人暮らしに合わせて練習しようかと思っていたんだ。」


 ただし予定は未定である。割とやる気が出ないものだということはここに移り住んでから3日目で思い知った。


「そういえばさ、ルーはここに来る前、どんな風に過ごしていたんだ?…あ、言うのがつらかったら無理しなくていいから」


 気になったことがついに口出た後に、それが彼女のタブーのようなものだということに思い至りしまったと内心こぼした。

 それでも彼女は、少し困ったような笑顔で、答えてくれる。


「そう、ですね。人とのかかわりが少なかったことを除けば、普通の暮らしをしていたと思います。動物たちはみんな優しくていつも一緒にいたおかげで寂しい思いもまぎれましたし。」


 動物たちと一緒に、という言葉に妙に納得してしまいその光景をつい幻視してしまう。叶うものならその目で見てみたいとも思った。


「私は、ツナギさんの話も聞きたいです。ここに来る前はどんな感じだったんですか?」


 先程の話で、彼女も同じことに興味を持ったのか同じ質問を投げかけてきた。

 …昔の話か、まあ、わざわざ中学高校のつまらない話をする必要はないか。


「そうだな。子供のころに仲の良かった女中さんがいたんだ。まあでも祖父母と子供一人しかいなかったからヘルパーさんに近かったけど」

「女中さん?」

「西洋風に言うとメイドさんか?まぁそんな人が一人いたんだよ」

「メイドって…もしかして貴族の方だったんですか!?」


 まさかの勘違いである。いやもしかしたらそういった制度がまだ残っている国の出なのかもしれない、しかし自分が格式ばった西洋の服を着ている姿を想像してしまい思わず吹いてしまった。

 それが、彼女には馬鹿にされたように思われたようだ。

 唇を尖らせて、いかにも私、怒ってますといった体でこちらを見ている。


「いや、ゴメンゴメン。別に貴族なんて大それたもんじゃないよ、昔はそうだったかもしれないけど。そもそもこの国には身分制度なんてないしな。」


 その言葉に衝撃を受けたのか口を開けてぽかんとしている。


「す、すごいですね。それで平和な国を保てるなんて。」

「まあ、その話は置いとこうか、話せば長くなるかもしれないし。」


 そう言って一拍おいて話を戻す。


「その人はいつも『若、若。』ってついてくるんだ。いつでもどんなところでも。一時トイレの中にまでついてこようとした時は焦ったなぁ。それと」


 今は遠い、子供のころの鮮やかな記憶に話が弾みついつい熱く語ってしまう。そんな話を彼女は楽しそうにきいている。



 一緒に笑い、一緒に楽しめるそんな日々はこれからも続いてくそう、心の底から信じてまた願う、そんな一日がまた終わるのだった。

異世界の人や中世以前の人が法律をや制度をみて最初に言う言葉は

「身分制度がないとか何それカオス」だと思う

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