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W・E s ワールド・エンカウント ストーリー  作者: ムラツユ
銀糸を纏いし訪問者
12/46

休みが明けて 下

続きです

今回は試験的に戦闘描写も入っておりますはい

 ―嫌な音が聞こえる。誰かが叫んでいるような、泣いているようなそんな声だ。

 やめてくれ、ヤメテクレ。そんな声が聴きたいわけじゃない。そんな表情(かんじょう)が見たいわけじゃない。

 今すぐ立つから、大丈夫だっていうから。だからそんな目でミナイデクレ。


「ふん、まだ死なないか、生命力はゴキブリ並みとは、よく言ったものだ。」


 声がキコエル。とても耳障りな声ダ。


「まぁ、そこで見ているといい。世紀の瞬間を、新たな世界の始まりを。」


 声が遠ざかる。いやな音も一緒に遠くへと、待テ、待ッテクレ。まだ、何もしてイナイ。何もやってイナインダ。ダカラ―


『なかなか、面白そうなことをしている。誰を呼び出す儀式なんだか』


 また、別の声が聞コエタ。その主はとても愉快そうに、まるで無駄な努力を嘲笑っているかのようだ。


『なぁ、お前も気になるだろう?(わっぱ)。』


 まるで悪戯を見せびらかす子供の様にこちらに向けて問い掛ける。だけど、そんなものにはとんと興味が無カッタ。


『つまらん、だが当たり前か。今は童の女が供物にささげられようとしておるものな…なぁ、悔しいか。恨めしいか?』


 何を言ってイル、口惜シイに、怨メシイに決まってイルダロウ。□したいほどに。


『だよなぁ、なら、俺と一緒にひと暴れしないか。恨みを晴らせてなおかつ、女も手に入る。一石二鳥だ。』


 願ってもない、だがそれにあえて乗ロウ。いったい何が欲シイ?


『オレはテメェの身体を使わせてくれさえすりゃ、何も言わねぇよ。別にずっとってわけじゃねぇ。一寸借りたりするだけさ。それに、さっき飯はたらふく食った。そりゃもうゲロマズな奴をな』


 ナラバ、契約はナサレタ。


『「一緒に暴れようじゃないか。」』



――――――――――――――――――――――――――――

「ええい、うるさいな、活きがいいのはいいことだが。」


 そういって、教主とは別の男が少女を引きずりながら、上へ上へと昇っていく。

 そこは会合の場とはまた違った。さらに邪悪な神殿であった。まるで邪神でも呼び出すために作られたかのようだ。

 そもそも、あの会合の場は、ここをもとにして作られたものではあるが。そのことを知っているのは今ここにいる一人の男だけだろう。

 その彼は奇抜な、おどろおどろしい仮面をつけて、素顔をや表情を垣間見ることはできなかったが、ただ一心不乱に昇っていくのみだった。


「あとすこし、あと少しだ。これであのお方に会える。ざっと何百年ぶりだろうか」


 まるで本当にその時間を過ごしてきたかのような口ぶりで彼は足を動かす。


『「待てよ」』


「誰だ!?…なんだ貴様か、その死にかけの身体で、どうする気だね?」


 彼が振り返ると、先程まで腹を刺されて倒れ伏していた青年がふらふらとこちらに歩み寄ってくる姿が見えた。


『「そいつは(オレ)の大事な女なんだ。勝手につれてってもらっちゃァ困るなア。」』


 今なお倒れそうな歩き方で、一歩一歩踏みしめるように距離を詰める。

 なのに、さながら我が道を行くような錯覚を覚えるほどの異様なほど威圧感を発していた。


「あえて邪魔するか、そのまま動かなければ、しばらくの間は生きながらえたものの、だがこれで仕舞いだ」


 そういうと何事かを口遊み、次の瞬間には青年にめがけて弾幕の嵐が襲い掛かった。


「逃げて!早く!!」


 少女の悲痛な叫びが神殿内をこだまする

―――――――――――――――――――

 目の前は驚異の光に包まれる。この一発一発がそれだけで自らを粉みじんにしてしまうだろう威力を持っているだろうことが容易に想像できた。


『なに、俺にゆだねてくれりゃあ、こんなもんただのそよ風、子供の的当てみたいなもんさ』


 その言葉を証明するように、服にこすれるようわざとギリギリまで寄せて、躱す。当初、蟻一匹通さないかのように思われた弾幕を飄々とまるで遊ぶように最小限の動きで躱していった。

 心なしか口角が吊り上がっているようにも思える。楽しい、とさえも思ってしまった。


『いいねぇいいねぇ、どんなことも楽しまなくちゃぁ。命を懸けてこそ、だ。しかし、味気ねぇ攻撃だぜもっと華やかに見せろっつの。』


 声の主もどこか楽しそうに自らを煽る。

 だけど、そんな愉しい時間ももうすぐ終わる。最後の一波が頭上からなだれ込むようにこちらへ寄せてくる。

 それに合わせて、目一杯前へと飛び、光の波をやり過ごして、煙の中を一気に突き進む。

 嗚呼、奴の驚く姿が楽しみだ。いったいどんな顔をするのだろうか。

 ただ一度飛んだだけなのに、数メートルぐらい一気に進んだことにはまるで意に介さず、すかした仮面を引っ提げる野郎の前までそのまま躍り出た。


『「武器も何もないが、ちょうどいい。そのままそのあほ面をぶん殴れるからなぁ!」』

「な!貴様なぜ生きtぶ!!」


 一発、渾身の右ストレートを先程まで余裕ぶっこいていた男の鼻っ柱めがけて打ち込む。

 反動で、奴から離れるように飛ばされたルーエを、勢いを殺しながら左手で抱きかかえる。


「大、丈夫かルーエ。」


 這う這うの体で、ルーエに話しかけると、彼女は何も言わずただ顔をくしゃくしゃになりながら泣きじゃくった。

 ただ、その泣き声は不快なものではなく、安心と嬉しさから出たものだというのは理解できる。


『おいおい、せっかくの綺麗な顔が台無しだぜ。別嬪さんは笑ってこそだ。』

「!?だだだ誰ですか!?ゆゆ幽霊!?」


 ―それを言ったらお前も似たようなものだろうに―


『イヤイヤ嬢ちゃん、ヒトのこと言えねぇからな?具体的には違うだろうけどさ。』


 声の主も同じことを思ったのか声に出してそれを伝える。

 その言葉を聞いて、彼女は目を点にして首をかしげるだけだがそれがなぜだか無性に笑えた。





「勝手に話を進めるんじゃない…!」


 地獄の底から聞こえてくるような、そんな低い声が殿内に響き渡る。


「貴様らッずいぶんとなめた真似してくれるじゃあないか…!」


 よろめきながらも、恨みのこもった視線で、奴がこちらをにらみつけてきた。

 その仮面は一部が損壊しており、そこから少しだけ素顔が垣間見れる。

 老爺のようなしわがれた声に対して、その顔はまだみずみずしい青年そのもの。

 ちぐはぐに縫いとめられたような、人形のような違和感が付きまとう。


『おいおい、まだやるってのか。そろそろこっちは限界なんだか…。』

「それはいいことを聞いた。貴様が何者で、先程はどうやって生還できたかはわからぬが、これで仕舞いのようだな。」


 確かに、これ以上は無理に動けそうもない。そもそも、先程とは違って守るべきものが後ろにいる。本当の意味で詰みに近い状況だった。

 そんな中、ルーエが俺後ろに匿い、男の前へと躍り出る。


「なんだ貴様。」

「こ、今度は私が守ります。たとえ、この身が果てようと、たった一人の友達ですから。」


 そうは言っても、体の震えは隠せないようで恐怖までは取り除けていないのが理解できた。

 逃げろ、そう言おうとしても、どこに行けば安全かそれ自体が分からないためうかつに口に出せない。そもそも言って聞かないだろう。

 それだけの覚悟を伴った光を、彼女はその瞳に煌々と宿している。

 男も、それを理解しているのかわからなかったが、嘲笑しながらこちらへと這い寄って来た。


『こりゃいよいよ拙いな。呼びだされた途端出戻りとか、ギャグか何かかよ』


 声の主も飄々と言葉を放つが、その声は焦りの色がありありと垣間見える。

―万事休すか―

 男から(いず)るであろう。殺意の伴う衝撃と光の奔流に備え、目つむる。

―わりと短い人生だった。まぁでも綺麗な女の子と一緒に行けるなら悪くはない、かな?―

 なんて普段は思わないような弱気な本音が漏れ出てしまうが、仕方ない。

 最近はいろいろとドタバタが続いたが、人生の最期を彩る一週間としてはなかなか鮮やかな日々だっただろう。

 できることなら、来世も彼女に会えますように―。




 ―刹那、静まり返った殿内に轟音が響き渡る。

 何事かと目を開けると男が大きく後退、否、後ろへとのけぞる姿が見える。

―まさか、ルーエがやったのか?-

 しかし、当の彼女も何が起きたか見当もつかない体で、こちらを見ていた。おそらく俺が何かしたのだろうと当たりを付けたのだ。…残念なことに的外れにもほどがあるが。

 男は低いうめき声をあげながらも、右肩を押さえて今なお立つのがやっとの状態で息を荒らげる。


「今度は何だ!?ええい、無粋な暗殺者め。姿を表わせ!」


 怒り狂ったように、無茶な注文を姿の見えない何者かにつきつける。

 その返答のごとく、彼をあざ笑うかのようにして、轟音の嵐が俺たちを襲った。

 そんな中、男だけは踊るように体を動かされている。その姿を見てようやく気付いた。今放たれているものを、このつんざく轟音の正体を。

 鉄砲、銃火器と言われるそれだ。おそらく遠距離からの狙撃を得意とするスナイパーライフルと言われるものだ。勢いよく吹っ飛ばされるほどの威力を鑑みるとマテリアルライフルかもしれない。

 しかし、その弾丸が男を貫通することは最初の一発を除いてついぞなかった。

 それでも着実にダメージが届いているのはその顔と様子をみてもわかる。


「クソ、小賢しい真似を!これだから人間は!!…今回はこれまでだ。だが次会うことは容赦しない…!」


 その一言を吐き捨て、男はどこからか現れたどす黒い虚空の彼方へと身を投じ。姿を消した。

 途端に銃撃音が鳴りやみ、静寂がその場を支配する。


「生き残れた、のか?」


 あまりに唐突なことが多すぎて、頭が追い付いていない。


『ヒュウ。どこのどいつか知らねぇが助かった。しかしいい腕だ、俺様としたことがついついしびれちまったぜ。』


 声の主は、どこか、抜けたことを言いながら、狙撃手に向けて称賛の声をあげる。


「そうか、一時はどうなるかと思ったけど、助けた人にはあとで礼を言っておかない…とと」


 もともと限界ギリギリまで力を使い果たしたためか、体がぐらつく感覚を覚えた。

 ルーエが、声の主が仕切りに呼びかける声を遠くに感じながら、そのまま崩れるように前に倒れる。

―嗚呼、ほら泣くなって。そんな顔が見たいわけじゃないんだ。ちゃんと起きるから、今はこのまま―

 そのまま、眠るように意識をなげうつのだった。




―――――――――――――――――――――――

『ガガ…こちらシルバー、目標E痛手を伴い撤退を確認。目標Fは沈黙した模様』


「死んではないよね?」


『…先程、対象が光に包まれていたのを確認。バイタリティが異常に低下しているけど、差し迫った危機はなさそう。』


「回復魔法、か」


『今の時勢、無いとは言わないけど、超長距離の回復魔法は今のところ確認されてないはず。』


「いや、側に…そっか見えてないのね。」


『?なにかいる?』


「そうね、それにしても収穫は多いわ。あのすかした仮面に一発どぎついの食らわせられたのはラッキーだったわ。」


『彼のおかげ、あれが無かったら一発も入らなかった。』


「どちらにせよお疲れ様、彼等(・・)を回収して、こっちにもどってきてね。それで任務終了ってことで、魔弾の射手さん、それとも『氷弾』のほうがいいかしら。」


『??…わかった。これより帰投する、それと中二病乙。』


 その言葉を最後に、無線が切られる。その場には一人の白衣を羽織った少女が機械に囲まれた部屋の中で頬杖を突きながら目の前のモニターを興味深げに見つめていた。


「ホントに面白いよ、君は。その体質に憑依顕現、それにエルフの少女、か、ふふ。」


 そのモニターに映った二人の少年少女を、玩具を見つけた子供の様な無邪気な笑みを浮かべて眺めていた。

―――――――――――――



 目が覚めると、一番最初に見た光景は汚れのない真っ白な天井だった。

 というか病院である。


「ようやくお目覚めかい」

「あ、先生。おはようございます。」


 幸いなことに、先生と同じ部屋に入院することになっていたようで、自然に挨拶を返す。

 その返事を聞いて、彼は頭を抱えてため息をこぼした。


「あれほど無茶をするなと言っていたんだけど。」

「聞いてませんよそんなの。」


 そうだったか、と何でもなさそうに彼は答える。


「そんなことより、彼女を安心させてやりなさい。見えはしないんだけど、君が来てから影を落としたかのように雰囲気が暗くてね、僕個人としてはたまったものじゃないよ。」


 そう言って彼は病室を後にする。怪我のほうはよくなってきているようで、ぎこちない動きで足を動かしている。


「彼女?…あ」


 ベッドの隣に備え付けられている椅子にちょこんと、暗い雰囲気を漂わせながら少女―ルーエが佇んでいた。


「お、おはようルーエ。イヤーいい朝だなあ。」

「もう夕方ですよ。」


 容赦のない、抑揚を無視した突込みが心に刺さる。本当に居ずらい空気だ。


「…本当に、心配したんですから。」

「スマン。本当にゴメン」

「もしあのまま、死んでしまったらどうしようかと、思ったんですから。」

「面目次第もございません。というかあんな無茶は金輪際したくないっす。」

「…一人で、どこか手の届かないところへいかないと、誓えますか。」


 真剣に嘘は許さないといったかんじで、こちらを見つめてくる。


「…ああ、誓うよ。それとさ安物なんだけど、この前、ひどいこと言った詫びと仲直りの意味も込めて、受け取ってほしいんだ。ルー。」


 そういって、側に置いてあった荷物をあさっていると、彼女は不思議そうに首をかしげる。


「ルーって、なんですか?」

「愛称だよ、愛称。いやならやめるけど。」


 さすがにまずかったか、そう思ったのだが、ルーエは首をブンブンと勢いよく横に振る。


「い、いえ!…その、嬉しい、です…ありがとうございます!」


 彼女―ルーは後ずさりしたくなるほどの勢いで承諾した

 まだベッドで安静にしていなければならない身ではあるため、その場から動けないのだだが。


「そ、そうか。じゃぁこっちも名前で呼んでくれると嬉しいな。」

「は、はい。…そういえば、まだお名前を聞いてなかったような」


 何度か呼ばれているのを耳にしましたけど、と聞いて、そういえばまだ言ってなかったなと反省することになる。

 本当に、よく悪くもこれから始まるんだな。


常義(つなぎ)。仲秋常義だ。…その、これからもよろしく頼むよ、ルー。」

「…はい、よろこんで、ツナギさん!」


 そう、返事を返す彼女の笑顔は、いままででみた中でも一番の、気持ちのいいものだった。






―そういえば、あの声はいったい何だったのだろうか―

 あれからあの、傲岸不遜な声は聞こえることはなかった。それに、あの仮面の男と、助けてくれた人のこともわからずじまいである。

 しかし今では、夢か何かに思えて仕方ない。あれほどの怪我を負ったはずなのに、そこまで重傷ではなかったのも理由の一つだ。

 まあ、いいかと考えることを放棄する。

 今はようやく手に入れた大切になってしまった人との平穏を楽しむことが先決だ。それにちょうど、退院したころに大学も始まることだし、忙しさにかまけておそらく忘れてしまうだろう。

 一つだけ懸念事項があるとすれば

―お金とバイト、どうしよう―

これにてプロローグ、本当に完結です

長らくお待たせしましたこと心から反省しております(土下座)

ここから彼の最後の青春の物語が始まります。

これからもお楽しみいただければ幸いです。

では、また

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