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W・E s ワールド・エンカウント ストーリー  作者: ムラツユ
銀糸を纏いし訪問者
11/46

休みは開けて 上

まず先に、謝罪をば

投稿が一日遅れた挙句、次で序章終了と言っておきながら前後編に分かれてしまい、申し訳ございませんでしたぁ!


…ええ、はい前後編ですってよ奥さん。書きたいことを詰め込んでたらいつの間にか1万トンで二千文字近く書いていて唖然としました、作者です。

 後編のほうもあらかた終わっているので今日中にあげれるかと思います。

そんな拙作ですが、ゆっくりお楽しみいただければ幸いです。



あ、あと後半残酷な描写注意です。

「悪徳ってことだから、もっとヤの付く人みたいな輩がいると思ったんだが、割と普通な感じなのな」


 それこそ、どこにでもいそうなうだつの上がらないサラリーマンやら学生やらがたむろしている。

 中には幹部クラス、であろうか身なりの整った、スーツを着ているものも何人かいた。

 これなら…




 息をひそめながら、ただ時を待つ。やがて一般人と思われる信者が中に入り、おそらく門番か何かであろう奇怪な服を着た男一人になった。

―しめた、これならもし荒事になっても何とかなりそうだ。―

 少し服装を着崩して、よれよれになってから一人残った門番に話しかける。


「あ、あの~、すいません。」


 いかにも弱気で、人生に疲れているような面持で話しかけると、門番は人の良い笑みで対応してくれた。


「どうなさいました?」 

「こちらが、慶卯会(けいうかい)の会場だと聞いて、伺いに参ったのですが…あってますでしょうか。」


 そういうと、こちらを注意深く見つめ、身ずぼらしい恰好と態度から判断したのか、少し同情的な目線で見てくる。

 よほどその変装?が堂に入っていたのか、割と真剣に見られていた気がする。

 いや確かに一時期人生諦めてたけど。


「そうですが…もしかして新しく入信したいという方かな?」

「は、はい。ネットでここのことを知って、教主様の言葉に心を打たれた次第です。」

「そうか、そうか、辛いことがたくさん合ったのだろう。良ければ相談に乗ろうじゃないか。」


 その心遣いは大変ありがたいのだが、今はそれどころじゃない。

 というかそれでいいのか門番さん。客追い返しちゃあかんでしょう。


「いえいえ、わたしはすでに教主様のお言葉で掬われました。ですから少しでもこの御身が役に立てばとはせ参じたのです。」

「うぬ、そうか。最近少し失敗続きだからとすぐに宗教にはまろうとする輩が多くてな、そういうやつは拙僧が相談に乗って少しでも心を和らげようとするのだが、そこまで言うのならもう止めまい。」


 だからそれでいいのか門番さん、別の意味で仕事しすぎでしょう。

 さぁ、入るがいい、と門を開け中へ導くように指示す。彼はここに留まって番を続けるつもりのようだ。





「すいません、受付はどちらになりますか?」

「受付か?そこに…む?さてはあやつら、儀式見たさに会場に向かったな。」


 仕方ないやつらめ、とあきれたようにため息ひとつ


「儀式、というのは?」

「ああ、何でも面白い供物が見つかった、という話で今からそれを使って行うそうだ。ただなぁ…」

「ただ…? 」

「いや、何でもない。そうさな、まっすぐいくとエレベーターがあるんだがそこから―、」


 そう言って背を向けながら詳細に道を語る。正直、無防備と言っても過言ではないものだった。

 そっと近づき、近くにあった手ごろな鉄パイプで一打。


「むぐぅ!?」


 それだけ残して、彼は夢の中へと旅立った。

 おそらくは死んではいないだろう。もし無事に片が付いたら救急車でも呼んでおこうか。

 …すまない門番さん、いい人っぽかったけど、こっちも切羽詰まってるんだ。

 ともかく。これで逃走経路は確保した。

 軽く黙祷をささげ、先へと急ぐ。先の情報が役に立ち迷うことなく最上階にある儀式会場の前へとたどり着いた。

 その門はどこか西洋中世の雰囲気を醸し出す造りになっていて、側の明かりも電灯ではなく蝋燭を使われる徹底ぶりである。

 誰ともすれ違わなかったのはおそらく、皆が皆儀式とやらに出張っているためか。

 ばれないようにそっと門の隙間から覗いてみる。

 すると





「キェェァァァァァァ嗚呼!!□□様!!おいでませい!!!」


 宗教の儀式、というよりは黒魔術のそれに近い感じの雰囲気の中、もう完全に逝っちゃってる感じの教祖様が、形容しがたい呪文?を口ずさみ、時折奇声を上げながら踊り狂っている姿が見れてしまった。


「アカン、あかんやつやこれ。」


 悪徳宗教じゃなくて、悪魔宗教の間違いだろう。しかも末期なまでにくるっている。

 下手するとヤの付くオッサンの集団よりたちが悪いそれに、思わず後ずさりしてしまう。そういった宗教もあることは知っていたが、この目で見ることになるとは…

 科学技術の発展したこの世界でなぜそんなものに懸想するのかまるで分らないものの、一つ心を入れ替えて他にも何かないか注意深く探すことにする。


「―みつけた!けど、これからどうするか…。」


 それから、一分もかからないうちにお目当ての少女、ルーエを見つけた。

しかし彼女は檻の中に入れられており、さらには神殿の中央部に目立つような場所でとらわれているのが一目でわかる。あれでは見つからずにつれだすことはまず無理だろう。

 だがここで指をくわえて待っているだけではらちが明かない、そのうえいつ儀式とやらでひどいことをされるかもわからないのだ。

―何か、状況を打破できるものは…―



―――――――――――――――――――――――――――――

 儀式が終盤に差し掛かったころ、一人の青年が慌てた様子で中へと入ってくる。

 そのよう様子から何か差し迫ったものを感じさせた。


「た、大変だ!!侵入者だ、侵入者が現れた!」


 その言葉に室内にいた信者たちが一斉にざわめく。その場を教祖と思わしき奇抜な服を着た一人が一喝して場を収める。


「して、状況はどうなっておる?」


 威厳のこもった声で、教主が問うと、先程中へと入ってきた彼は恐縮したように身を固まらせた。


「は、はい。それが先程門番の様子を見に行ってみたら、後ろから襲われたかのようにうつ伏せで倒れていたんです。門は開け放たれていて、そこから何人か入って来たかのようでした。襲われそうだったのでいったん巻いてからこちらへ、戻ってきたのですが…。」


 それだけを聞くと、教主は「そうか」と一言頷いて、真剣な表情で先程は言った青年を見やる。


「その侵入者というのが、貴様ではないのか?」


 その一言で、周りの取り巻きが彼に詰め寄り、瞬く間に取り押さえられる。


「な、何をされるのですか!?私が侵入者など、そんなはずはありません。信じてください!」

「そうであろうとなかろうと、皆そう言う。誰か門番の様子を見てまいれ。全く使えない門番め、せっかく拾ってやったと言うのに。」

「どうか、どうか弁解の余地を!」

「諄い。何、貴様の無実が証明されたらすぐに解放してやる。それに恩賞もやろう。」


 何とか信用を得ようとする青年と、それを聞き入れない教主。

 やがて時間の無駄と悟ったのか青年は取り巻きに別室へと連行される。





 その時だった。

 ジリリリリリリリリリr

 けたたましい電子音がビル内で鳴り響く。

 突然の騒音に緊張が走る室内、やがて誰かが火災報知機の音と気づき「火事だ!」と叫ぶとそれからはもう決壊したダムのように信者たちは慌てだした。

 何せ今は、儀式の最中、今この状況で公僕に立ち入られたら、この場にいる全員がお縄につくことになるるからだ。

 さらに言うとここは最上階だ。出火元によっては逃げることすら困難で、最悪そのまま煙に燻られ業火に焼かれて苦しみながら死ぬ羽目になるだろう。

 誰もが誰も、正気を保つことができないまま(元から狂気にとらわれていただろうが)場は騒然とし、今度ばかりは教主の一言でも収まりはが聞くことはなかった。

 中には我先にと、部屋から出て脱出しようとする輩も見られ、人間の醜い部分が露わになっているかのようだ。


「先に出火元の追及をしないか!…クッ…すまなかったな、あとで何か褒美を取らそう。今は逃げるがよい」

「…イエ、もったいなきお言葉、恐縮です。」


 それだけを言い残して、教主は取り巻きに囲まれながら神殿内を後にし、そこには青年と今なお狂ったように騒ぐ信者だけが取り残された…。

――――――――――――――――――――――――――




 危なかった。あと少し遅かったら、完全に機を逸していただろう。ちゃんと動作してよかった。

 仕掛け、と言ってもそんな大したものじゃない。蝋燭を何本か拝借して、火災探知機の下に燃え移りやすいものと一緒にして、非常口とは真逆の場所に置いただけだ。

 なかなか火が育たないままに儀式がピークに入ったものだから、その場において慌てて中断させたが、ちょうどいいタイミングで鳴ってくれたおかげで完全にマークが外れた。





―今なら、イケる―

 何人かが避難誘導する中、右往左往する信者たちの波をかき分けやっとの思いで神殿の中心部までたどり着く。

 ルーエはひどく驚いた顔で、こちらを見つめてきた


「な、なんで、ここに」


 その問いに、呆れるようにため息ひとつこぼして、こう言ってやるんだ。


「なんでって、そりゃお前がかn…友達だからに決まってんだろう?それに、俺が助けなきゃ誰が助けるってんだ。」


 俺にしか頼れないんだしな。そう付け加えて、何とか檻の扉をこじ開ける。

 危うく彼女、と漏らしそうになったのは秘密だ。彼女じゃないし、何度も連呼したあの二人のせいで移ったんだ。誰にでもなくそう言い訳をする。


「ほら、家に帰るぞ。病院じゃなくてな。あれから考えたんだけどさ、やっぱりあの家に一人でいるのはきついんだわ。辛気臭くてさ。」


 そう言って彼女に手を伸ばす。しかし彼女は泣きそうな顔をするだけでその手を取ろうとはしない。


「でも、わたしがいたら迷惑になります…。あなたに災厄が訪れるかもしれない。今回みたいにまた誰かに狙われるかもしれない。そんなのは嫌なんです。」


「つぎ、またさらわれたとしても、また連れ戻すさ。というかそうそう起きないしここまで来てトンボ帰りはできないって。それにさ人間いつか死ぬんだし、それが遅いか早いかの違いだろう、出来るだけ長生きもしたいけど、それよりは短くても楽しい日々にしたい。そこにお前がいてほしいんだ。」


「私と居たら、不幸になるかもしれませんよ?」


「そんなこと言ったら、ルーエを幸せにできるか俺もわからないなぁ。笑いあう気なら満々だけど。」


 途中歯が浮くような甘いセリフが口から出てしまったがお構いなしに続ける。言外に不幸かどうかは自分が決めると言い含ませて。


「…ついて行っても、一緒にいてもいいんですか?」


「どうぞお構いなく。というか早く、そろそろばれる」


 いくらなんでも時間をかけすぎると異変に気付かれる。必死に焦りを隠しているはずが体全身に現れていたようで、それが滑稽に見えたのか、彼女は笑みをこぼして静かに、それでいて離さないようにこちらの手を取ってくれたのだった。






 走る、奔る。

 早く、ただただ速く

 右手には絶対に離すまいと誓った少女の左手

 後方には今にも襲い掛からんとする追跡者

 前方には―幾度足を進めても終わることのない無間回廊

 それでも、歩みを止めるわけにはいかない。

 少しでも長く生きるため、少女と長く居続けるため。

 ―いったいどうしてこうなった―

 その思いを口に出すことなくただただ懸命に進み続けた。




 状況は人の思いとは裏腹に進み続ける、良くも悪くも。

 無事救出に成功し、俺たちはそのまま儀式場を抜け出し、非難する人々に紛れ、非常口へと急ぐことにした。

 このまま何事もなければ、あとは警察なりなんなりに任せれば―


『なかなか小賢しいことをしてくれるな、小僧。』


 あたり一面に響くかのように聞くものすべてを威圧するかのような声がビル一帯に届いた。

 まさか、もうばれたのか。だがもう遅い。人ごみに紛れた時点でこっちの勝ちだ。さすがにどこにいるかはわからないだろう。


『ふん、人間如きが考えるようなことは手に取るようにわかる。その対処法もな。』


 その一言が聞こえたと同時に視界が暗転して次の瞬間だだっ広い、洋風の廊下が目に映る。



「…は?なんだこれ。」

「これは…」


 周りにも幾人かの信者たちが戸惑いを隠すことなく奇声や罵声を上げている。

 かくいう自分も、突然のことに思考が追い付かない。

 ルーエは何か知っているようだが、それを問いただす余裕も与えてくれないようだ。


『おや、制御が甘かったか。まぁ信者など湧いて出るようにすぐ増える、まとめてやってしまおう。』

「何を言って―!?」


 言い終わる前に、異変に気付く。それは自らのはるか後方から来た。何かがうじゃうじゃとこちらへ近這い寄ってくるのが見える。


「―ッ!!早くこっちへ!」

「え?あ、嗚呼。」


 突然、焦りだしたルーエに引っ張られるように、その形容しがたい何かとは別の方向へと走り出す。何人かは、それにつられて走り出すものの、まだ数人が事態を呑みこめずにその場にとどまっていた。

 ワケも分からないまま、しかしいまだに動けずにいる何人かを心配して見ていると、その何かがついに彼らのただ近くまで迫ってきていた。


「へ、ぁ、なんだよこれ、ギャァァァア痛いイタイいたいイタイ。」


 ―悲鳴が聞こえる。悲痛で耳障りなそんな声が、しかして目に映った光景はそれと比べるのもおこがましいほど凄惨なものだった。

 溶けていく、ナニカに振られたものすべてがどろどろと。それがモノだけにとどまらず生物でさえ容赦なく溶かす。時間をかけて腐らせていくように。

 走り出したものも異変に気づきその様子を目の当たりにしたものから恐怖に染まっていった。

 恐怖が伝染して、あたり一同パニックになる。

 皆が皆懸命に走り出す。ただただ死にたくないがために。





 あれから、いくら走ったかは覚えていない。ただ周りには、誰一人として存在しなく、わかったことと言えば、あのナニカは一定のスピードでしか動けないということ。がむしゃらに走ればすぐに体力がそこを尽きてそのまま…、ということだけだった。


「ハァッ、大丈夫かルーエ。」


 ただ、どちらにせよそろそろ息切れも起こし始め、限界は近いということは何事にも代えられない現実だった。


「は、はい、どこかに、空間の、継ぎ目が、あるんです、そこに、飛び―」


 ルーエのほうはなおのこと早く限界が来そうだ。

 継ぎ目、そういうからにはほかの部位と変わっている場所のことだろう。それならば確かに何度か見た。しかしそのどれが本物なのかそれが見当がつかなかった。しかしこのままではいずれアレの餌食になる。

 ならば、一か八かにかけるしかない。


「ルーエ!次の大鏡で飛び込むぞ。合わせてくれ!」

「は、はい!」


 意を決して大鏡にダイブするように大きく飛ぶ。すると視界が暗転して先程廊下に出たようなときの感覚を覚えて、そして―


「残念、(あたり)れだよ。」


というわけで続くんじゃ。

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