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流浪と混乱の果てに ~ ローマ建国神話 ~

作者: 大平 洋

必ずしも正義が勝つとは限りません。現代の感覚に照らし合わせると謀略的な側が戦いに勝ち、理不尽な理屈がまかり通ってきたことも過去の歴史には多くあります。ローマ建国神話の中の話にも出てきます。ただ、謀略的で理不尽かもしれないやり方の中にも何らかの真実が隠されているような気がして、この小説を書いてみました。

■アイネイアースの放浪


 アイネイアースは、トロイア王プリアモスの従兄弟アンキーセースの子として生まれ、トロイア戦争のときトロイア側の将軍として戦った王族の一人です。伝説では、愛と美の女神ウェヌス(ビーナス)の子とされています。


 トロイア戦争は、トロイアとギリシャのアカイア人の諸都市が約十年間もの間、戦った戦争ですが、有名な「トロイの木馬の計」で、トロイアは陥落し、アカイア側の侵入・殺戮によって多くのトロイア人が命を落としたといわれています。アイネイアースは、年老いた父アンキーセース、息子アスカニオス、さらに部下とその家族らと共に落城するトロイアを脱出。伝承では、女神ウェヌスの忠告で脱出を決意したとされます。


 城を脱出した後、古来、艦船の建造地として名高い小アジアのミュシアの海港都市アンタンドロスで舟を建造し、船で新天地を目指します。まず、プリアモスの娘婿のトラキアの王を頼ろうとトラキアに向かい、海岸で犠牲式を行い、トラキア王の居城に向かいます。


 途中、一行は、奇妙な植物を見つけます。引き抜くと黒い血が滴り落ちてきました。不吉がる一行の前に、昔、トラキア王に養子に出されていたポリュドールの亡霊が現れて告げます。


 トラキア王は、トロイアがギリシャに敗れたことを噂で知り、心変わりしている。もし城に行ってもギリシャ側に引き渡されるだろう。殺されるかもしれない。今すぐ、この地を去るよう。警告にしたがって、舟に戻り、一行はデロス島に向かいます。デロス島は、アポロの至聖所があり、そこの神官は、父アンキーセースの友人アニウス王です。デロス島での目的は、第二のペルガマ(トロイアの首都)をどこにすればよいかについての神託を伺うためでした。


 神託は予言のかまどで与えられました。「いにしえの母を探せ、さすれば、そこでアイネイアースの子孫が世界をあまねく治めることになろう」。アイネイアースは父に問います。父は「トロイア人の発祥はクレタ島だという古くから言い伝えがある。その場所とはクレタ島のことだろう」アンキーセースの推測にしたがって、一行は、トロイア人のクレタ島に向かいます。


 一行は、嬉々としてクレタ島に新しい都を建設し始めます。農耕も始めます。しかし作物はとれません。一行の中には疫病で倒れる者も出てきます。そこで、アイネイアースはデロスに戻って、もう一度神託を聞きなおそうと思い立ちます。


 出発の前夜、アイネイアースの枕元に、トロイアの都ペルガマから運び出した神々の像の中から一人の神が現れます。「古の母とは女神ウェヌスの夫であるウルカヌスの地なり。ウィトゥルス(イタリア)なり」と告げます。トロイア人の祖先は大昔、イタリアに住んでいたのですが、北からの他民族の圧力によってクレタ島に移り住んでいたのです。「古の母」とは、クレタ島に住んでいた時代よりも、さらに古い時代に住んでいた場所を指していたのです。


 枕元での出来事を父に話すと、アンキーセースは、カサンドラがイタリアを口にしていたことを思い出します。「祖先の、またその祖先のことだったのか。イタリアのティレベ川の辺りに違いない」カサンドラとは、プリアモス王とヘカベの娘で巫女。アポロンの求婚を断ったので、未来に起きることを見通す力と、それを誰に言っても信じてもらえないという呪いをかけられた女性です。トロイア陥落後、カサンドラはアカイア兵に陵辱され、ギリシャに連れ去られます。彼女は、もちろん、トロイアの落城と自分の運命は見通していましたが、誰にも信じられないまま、運命に流されていくのです。


 イタリアに舟を進める途中、ストロパデス島に立ち寄ります。島は、半人半鳥の怪物ハルピュイアたちが支配する島でした。一行は、空から襲われ、食料を奪われます。次から次に食料を奪おうとするハルピュイアたちを剣で追い払おうとしても素早い怪物たちです。傷を負わせることもできません。


 ハルピュイアたちを剣で脅かして追い払っている一行の行為を見たハルピュイアの女王ケラエノーが怒ります。ケラエノーは予言の力を持っていました。「お前たちが私たちに加えた不当な暴力の報いがこれから起きるであろう。恐ろしい飢餓がお前たちを襲い、お前たちはテーブルでさえかじりつくことになろう。そして、イタリアにたどり着いても都を築くことはないだろう」不吉な言葉ですが、この言葉は後に吉兆に変わります。


 一行は、ギリシャを右手に見ながら近海を通過し、アクティウムの岸辺に上陸します。トロイアを離れて一年のことです。無事ここまでくることができたことに感謝し、神に祈りを捧げます。トロイア式の競技を行い、一行の流浪の旅の憂鬱さを紛らわします。アイネイアースは、かつてトロイア戦争でギリシャ人から奪いとった鎧を持ってきていました。棒を地面に突き刺し、棒に鎧を載せます。その前で、「トロイの馬の計」故に負けたにせよ、武勇ではギリシャよりも優勢だったことを皆に誇ります。


 一行は、ブトロートゥムにたどり着きます。そこでトロイアの一族であり、預言者でもあるヘレヌスと、アンドロマケに出会います。アンドロマケは、父エーエティオーンが支配していたキリキアのテーベで生まれ育ち、トロイア王プリアモスの子ヘクトールに嫁ぎ、アスティアナクスを生んでいました。トロイア戦争で夫ヘクトールはアキレウスに討たれ、幼いアステュアナクスはアキレウスの子ネオプレモスの手で殺されています。


 ネオプトレレモスは、アンドロマケをめかけとして、ヘクトールの弟ヘレノスを奴隷として連れ去ります。ネオプトレレモスの正妻ヘルミオネーはヘレネーとトロイア王プリアモスの娘パリスとの間に生まれた娘です。いわば、夫が、母方の叔父を奴隷として、母方の叔父の妻を妾として連れてきたのです。最初は、その奇妙な関係に戸惑いながらも、血縁的な関係から親密な関係を続けていましたが、ネオプトレモスとアンドロマケとの間にモロッソスが生まれると、ヘルミオネーは嫉妬に狂います。アンドロマケは、ヘルミオネーに子と共に暗殺されそうになれますが、幸いにも難を逃れます。


 ヘルミオネーの母方がトロイア王の家系であることもあり、ヘルミオネーにとって、トロイアの家系が途絶えることには抵抗がありました。ネオプトレムスが死ぬと、ブトロートゥムの地をヘレノスに与え自由の身にします。さらに妾のアンドロマケもヘレノスに与えます。アンドロマケとヘレノスは、この地で結婚し「小トロイア」を築いていたのです。


 アンドロケがアイネイアースの息子アスカニオスに走り寄ります。アスカニオスに自分の子供アステュアナクスの面影を重ねてみてしまったからです。「戦争で亡くなったお母さんのことを今も気にかけていますか。お父さんや叔父さんの言いつけを聞いていますか」と涙ながら声をかけます。そして「わが子よ」と言って、亡くなったアステュアナクスのために織った布を渡します。


 ヘレヌスは、アイネイアースにメッシーナ海峡ではカリュブディスとスキュッラに注意すること、イタリアに着いたらクーマエの巫女シビュッラを訪ねるよう助言します。また「イタリアでは大きな戦争が待っている」と予言し、「喜んでユーノーに祈れ」と忠告します。このとき一行が、将来、女神ユーノーに悩ませられるとは、予想だにしませんでした。


 アイネイアースは「あなた方は、もう自分たちの不運を十分味わい尽くしました。これからあなた方には平穏があるでしょう。私たちは、別の運命に呼ばれていますので、もう出発します」と別れを告げます。


 ヘレネスの忠告どおり舟を進めますが、イタリアのタレントゥムを目の前にして、メッシーナ海峡のカリュブディスとスキュッラの間を通り抜けようとしたとき、思いがけない大波でシチリア島に押し戻されます。そこは、昔から大きな渦巻きが発生する場所で、数々の船が沈没する激しい場所でした。


 時間を見計らって素早く出航し、アエトナ山の噴火を横目に見ながら、何とか難を逃れます。シチリア島の東側ルートを諦め、西側をたどって進み、ドレパーヌム港に到着します。この港は、近くにトロイアに友好的なアケステス王の都がありますので比較的安全です。なお、この地で年老いた父アンキーセースがその寿命を終えることになります。


 一方、パリスの審判でトロイアを恨んでいた女神ユーノーは、予言でイタリアにトロイアの国が再興されるという報せを聞きます。そこで風の神アイオロスに命じて、アイネスアースの航路上で暴風雨を降らせます。一行の舟は暴風で逆方向に流され、カルタゴに漂着します。


 カルタゴの女王ディドーの歓迎を受けて滞在しているうち、次第にアイネイアースとディドーは愛し合うようになります。カルタゴを離れようとしないアイネイアースにしびれを切らしたオリュンポスの神ユピテルが夢枕に立ちます。「そなたが彼女を愛していることは分かる。しかし、そなたの使命は、イタリアにトロイア再興の都を作ることです。神々との約束は果たさなければなりません」。


 アイネイアースは後ろ髪を引かれる思いでカルタゴを離れ、まずシチリア島に向かいます。一方、ディドーは別れを嘆き、自分を残して行ってしまったアイネイアースを呪って炎の中で自害します。


 シチリア島のセゲスタに到着すると、アケステス王に歓迎されます。父を追悼するための競技祭を開催し、舟のレースも行います。アケステス王の勧めで、女性と老人はこの地に残すことになりました。年老いていない男性だけで、イタリアに向かうことになったのです。


 男たちの舟は、イタリア半島のクーマエに到着します。ヘレヌスの忠告にしたがって、巫女のシビュラに会いに行きます。アイネイアースは、シビュラに冥界に行く方法を教えてもらいます。シビュラと共に、黄金の小枝を使って冥界に行き、女王ディドーと再会し、カルタゴを離れた理由を説明し、自分たちの使命を納得してもらいます。父とも再会します。


 父は、アイネイアースに、今後のローマの歴史について予言し、今後の振舞い方について教えます。冥界から戻ったアイネイアースは、再び舟に乗り、男たちと共に旅を続け、ガヘータ等を経由して、ついに建国すべき約束の地、ティレベ川の河口に到着します。


■先住民との戦い


 ティベレ川周辺は、ラテン民族の王ラティヌスが治めており、自分の娘ラウィニアを外国から来た男に嫁がせなければならないとの予言を受けていました。ラティヌスは、トロイアの王家一族であり、将軍でもあったアイネイアースの堂々とした態度に、ならばこの男にと考えます。ラティヌスは、アイネイアースを歓迎します。そして、アイネイアースにラウィニアを嫁がせることを決めます。


 以前、アイネイアースたちの航海の邪魔をした女神ユーノーはこれを嫌います。これまでラウィニアの婚約者であったルトゥリの王トゥルヌスをそそのかし、アイネイアースに戦いを挑むよう仕向けます。トゥルヌスは第二のアキレスとも呼ばれる頑強な男でした。


 一方、女神ユーノーは、毒蛇を使ってラティヌスの妻アマタにも囁きます。「あのトロイアの男は、この国を乗っ取るつもりで、ここにやってきたのですよ」。トゥルヌスはルトゥリの住民に、さらにラティヌスにもトロイア人と戦うことを提案します。ラティヌスの妻アマタもトゥルヌスに賛成しますが、ラティヌスは首を縦にふりません。


 ハルピュイアの女王ケラエノーの訴えに応えて、復讐の女神フリアエがアイネイアースたちを追跡してきていました。若いアスカニオスをおだて上げ、目の前の鹿を殺すようそそのかします。「君、強い子だよね。鹿を退治できれば、お父さんに褒めてもらえるよ」これが、女神フリアエの陰謀であることを分かるだけの年齢に達してなかったアスカニオスは、フリアエに言われるがまま、鹿を殺しますが、この鹿こそ、ラテン人が飼っていた鹿だったのです。


 ラテン人たちは大騒ぎになりました。アイネイアースの息子アスカニオスがラテン人の鹿を殺したのですから、トロイア人が泊をとっていたテントに押しかけて抗議します。「人が飼っていた鹿とは知らなかった。僕、お父さんに褒められると思って・・・」ラテン人たちには、言い訳としか聞こえませんでした。


 こうしてラテン人とトロイア人との間で、争いごとが多くなってしまいます。ラティヌスも住民やトゥルス、アマタらの意見に逆らえず、アイネイアースらとの戦いを決意します。ラテン側は、トゥルスだけでなく、同盟関係にあった女王カミラやザビニ人らに協力を求めます。


 一方のアイネイアースの夢枕にティベレ川の神ティベリヌスが現れます。ティベリヌスは、将来アスカニオスがアルバ・ロンガを建国することを条件に、ティレベ川流域のギリシャ系の王エウアンドロスと一緒に戦うこと、さらにこれまで邪魔をしてきた女神ユーノーだが、ギリシャ人の女神でもあるから、祈りを捧げることをアイネイアースに指示します。


 夢から覚めたアイネイアースは、神ティベリヌスに感謝の祈りを捧げ、2隻の舟でエウアンドロスの下に参じます。エウアンドロスは、当時強大な勢力を誇っていたエトルリア人を味方に引き込みたいが、現時点ではエトルリアは暴君メゼンティウスが支配しており、支援は困難かもしれない。エトルリア人が暴君に対し反乱できないものかと問います。


 アイネイアースもエトルリアを味方にすべきである。エトルニアには、トロイアに好意的だった王を知っているから、貴殿の望みに沿った行動が可能かどうか、交渉の余地はあると思うと答えます。この言葉でエウアンドロスは、アイネイアースを単なる戦士でなく、将軍たる資格も持った人物として認め、自国の軍勢と息子のパラスを派遣することを決定します。


 女神ウェヌスは、鍛冶の神ウゥルカーヌスに命じて、トロイア人のための盾や武器を作らせます。盾には、将来のローマの歴史が書かれていたそうです。


■トロイア人とラテン人の戦闘


 アイネイアースたちはトロイアに好意的だったエトルリアのカエレ王タルコンに会うことにします。エウアンドロスとの話をタルコンに話すと、暴君メゼンティウスに反感を持っていたタルコンは、アイネイアースが引き連れてきたトロイア人の軍勢だけでなく、エアンドロスの息子パラスとその軍勢の協力を得ることを条件に、暴君メゼンティウスへの反旗を約束します。


 トロイア人とギリシャ人、そしてエトルリア人の連合軍は、暴君メゼンティウスの軍勢を圧倒します。そしてエトルリアからメゼンティウスを追い出します。


 アイネイアースたちがエトルリアでメゼンティウスと戦っている間、女神ユーノーはトゥルヌスに助言します。「今、アイネイアースは留守です。トロイアの陣営には、指導者もいませんし、軍勢も少ないですから、攻めるには今がチャンスですよ」


 トゥルヌスは女神ユーノーの助言にしたがってトロイアの陣営を襲うことにしました。まず、ティベレ川に停泊していたトロイアの船を燃やそうとします。伝承では、船が神聖な木で作られていたので、沈没した船はニンフに変わったとされています。船を沈めたラテン人とルトゥル人はトロイア陣営を包囲します。夜、トロイア陣営のエウリュアロスとニーソスは、ラテン人の包囲網を破ってアイネイアースの下に事態を知らせようと試みます。しかし、二人はラテン人に見つかり、奮戦しますが討ち死にしてしまいます。


 ラテン人とルトゥル人はトロイアの陣営に総攻撃を仕掛けます。トロイア人の見張り塔に火矢を放ち、火災を起こさせます。トロイア陣営との戦闘が始まります。トロイア陣営が門の外に出てきたわずかな隙に、ルトゥル人とトゥルヌスは陣営の門に突入します。しかし、突入直後に門が閉まってしまったのでルトゥル人とトゥルヌスだけがトロイア陣営内に取り残されます。ラテン人は門の外でトロイア軍の一部と戦闘中です。第二のアキレスと呼ばれる頑強なトゥルヌスですが、多勢に無勢、徐々に疲れ、劣勢になり、ティベレ川に飛び込んで逃れます。


 その頃、ユピテルはラテン人とルトゥル人がトロイア人と戦っていることを知ります。この戦いに女神ユーノーが深く関わっていること、トロイア側の指導者アイネイアースは女神ウェナスの息子とされることから、オリュンポスで神々の会議を招集し、この戦争に対してどのようにすべきかを神々に問います。さらに、二女神から事情を聞きますが、二女神の主張は相容れませんでした。結局、神々の会議の結論は、戦争の結果を運命に委ねることになりました。


 エトルリアの暴君メゼンティウスを追い出したカエレ王タルコンと共に、アイネイアースがトロイア陣営に帰ります。タルコンが用意した軍船三十隻に、トロイア人とギリシャ人、そしてエトルリア人の多くの軍勢が乗り込んでいました。エウアンドロスの息子パラスとその軍勢も一緒です。


 岸に上陸した途端、ラテン軍との戦闘状態に入ります。アイネイアースは多くの敵兵を倒します。パラスも奮戦します。


 エトルリアを追放された暴君メゼンティウスはトゥルヌスの下に逃れてきていました。トゥルヌスが戦っている相手が、自分をエトルリアから追い出したタルコンに協力したアイネイアースであり、またここではタルコンがアイネイアースに協力していることを知り、自分や自分と一緒に逃れてきたわずかな軍勢も戦闘に参加したいとトゥルヌスに告げます。トゥルヌスにとっては願ったりかなったりです。


 メゼンティウスの息子ラウススとパラスが戦場で遭遇し、戦っているとき、トゥルヌスがそれを見かけます。トゥルヌスがパラスを槍で刺して殺します。パラスが殺されたことを知ったアイネイアースは、さらに多くの兵を殺し、息子アスカニオスも陣営から出てきて戦います。


 アイネイアースの勢いを見た女神ユーノーは、トゥルヌスを死から救うべくオリュンポスの神ユピテルに相談します。ユピテルは、幻の逃げるアイネイアースを使って戦場から離脱させる方法を助言します。

トゥルヌスは、ユーノーが操る逃げる幻のアイネイアースを追います。停泊する船にトゥルヌスが乗り込んだタイミングで、ユーノーは船のロープを切ります。


 トゥルヌスが乗り込んだ船は漂流し、トゥルヌスは戦線離脱してしまいます。トゥルヌスが乗った船が漂流している頃、アイネイアースはメゼンティウスと遭遇し、重症を負わせますが、メゼンティウスの息子ラウススの手助けで、メゼンティウスを取り逃してしまいます。


 パラスを殺されたアイネイアースは、その葬儀を行うことを決めます。まず、ラテン側に十二日間の停戦と、この戦争の決着をアイネイアースとトゥルヌスの一騎打ちで決めることを打診します。劣勢のラテン側は、この打診を受けます。


 十二日間の停戦が決まり、パラスの葬儀は三日間行われました。パラスの父エウアンドロスも葬儀に参加します。祭壇に向かって「お前が勝利者として凱旋の車駕に乗って、私が待つ王宮に帰ってくるという願いを、運命の女神がかなえてくれなかったとでも言うのか」と嘆きます。また、アイネイアースには「パラスを殺したトゥルヌスはまだ生きている。そなたは、この戦争で手柄をあげ、武運にも恵まれているが、トゥルスに復讐することが未だ残っていることを忘れないでくれ」と復讐への確約を求めます。


 ラテン側では、葬儀後、同盟のディオメーデースから通知が届きます。これ以上の参戦を拒否するとの内容だったのです。この通知で負け戦だったラテン側の厭戦気分が広がります。ラテン側のドランケスは「誰が民衆の幸運をなくしているかを全員が知っているではないか。だが言うことをためらっている。幸運の女神が我が方に向かわないのであれば、和睦を乞おうではないか」と演説します。


 ラティヌスは「神託によりトロイア側が勝つことが分かっている。これ以上の戦いは無意味だ。私はラウィニアをアイネイアースに嫁がせたい」と述べます。ドランケスもラティヌスに賛成します。


 ドランケスはトロイア側に赴き「もし、幸運の女神が我々を導いてくれるなら、あなたとラティヌス王と同盟するお手伝いを進んでいたしましょう。トゥルヌスには自ら同盟するよう説得致しましょう」とアイネイアースに媚を売ります。


 トゥルヌスは反対します。ラティヌスに「私はトロイア人を何人も殺しました。負けるとは思いません。それにラウィニアは、元々、私の婚約者だったのではありませんか。ラウィニアは私の希望です。アイネイアースに取られたくありません」と意見します。ラティヌスは答えます。「諦めてくれ。そなただけでなく誰しも自分の希望を持っていることは分かってはいる。しかし、皆が希望を持っているからこそ、お互いの希望がぶつかり合い、不確実になるということを、そなたも分かっておろう」


 しかし、トゥルヌスの「諦められません。ラティヌス王こそ、私との婚約を勝手に破棄しアイネイアースにラウィニアを与えるとは・・・。王よ、幸運の女神が我々に多くのものを失わせても、第二の女神が我々に多くの幸運を運んで来るであろう」。王は返答ができず、無言で王座を立って、奥に引きこもってしまいました。トロイア側には、ドランケスからラテン側の情報が入っていました。


 アイネイアースは嘆きます。「ラティヌス王の何たる優柔不断な態度。トゥルヌス一人抑えられない、あの優柔不断さがこの戦争を招いたのだ」と。


 休戦期間が過ぎ、トロイア勢は平野部へと進撃を開始します。ラテン側は守りを固めます。都市の近辺は森林です。ラテン兵は、森林に隠れ潜みます。トゥルヌスは、トロイア勢への正面突撃を女戦士カミラの一隊に命令します。森林に潜むラテン兵は、カミラ隊を矢で援護します。


 カミラは多くのトロイア兵を殺しますが、森林に潜むラテン兵が放つ矢は、大軍のトロイア・エトルリア・ギリシャ連合軍の前にほとんど効果がありません。この戦いで、カミラは、エトルリアのアルンスという兵士に槍で殺されます。天上では、神ティーアナがカミラを殺した者に復讐するようオプスに命令していました。オプスがアルンスを殺し、復讐を果たします。


 カミラの死後、混乱するラテン軍は都市内に押し込まれ、多くが殺され、ラテン側の都市は陥落します。この報せを聞いたトゥルヌスは、「最早、これまで」とトロイア側から提案されていたアイネイアースとの一騎打ちを決断します。しかし、ラティヌス王の妻アマタとトゥルヌスの姉妹ユートゥルナは反対します。敗戦状況の中で決闘ですから、不平等だと不安に思っていたからです。


 翌朝、トロイア側とラテン側は草原に集まりました。勝敗が決まったときの約束を交わしたのです。このとき、鷲が白鳥を捕らえ、それを浜辺の鳥が鷲を追い返しました。ラテン側に占い師がいました。トルニスです。「これは、トゥルヌスを助けるべきだという神の予兆だ」と言いながらトロイア兵の中に切り込みます。そして両軍が戦い始めます、


 アイネイアースが叫びます。「やめろ、やめろ」と、叫ぶ中、一本の矢がアイネイアースの足を貫きます。チャンスが訪れたと感じたトゥルヌスは、多くのトロイア兵を斬り殺します。アイネイアースは後方にいたイーアピュクスの治療を受け、傷は癒えます。


 息子のアスカニオスに留守を任せ、アイネイアースは再び戦場に戻ります。アイネイアースは、トゥルヌスを探します。パラスの父エウアンドロスとの復讐の誓いもあります。必死に探しましたが見つかりません。実はトゥルヌスの姉妹ユートゥルナが嘘の情報を流すことによって、トゥルヌスの居場所についての情報を攪乱していたのです。このような中、アイネイアースとトゥルヌスは、お互いの敵兵・敵将を殺戮していきます。


 女神ウェヌスの助言で、アイネイアースはラティヌスの都を奇襲します。奇襲された混乱の中でラティヌス王の妻アマタが自殺します。このことで、トゥルヌスも覚悟を決めます。ユートゥルナの反対を押し切り、アイネイアースの下に向かい、一騎打ちが始まります。トゥルヌスは剣が折れてしまい逃げ惑いますが、ユートゥルナが新しい剣を投げて救います。


 天上界では、神ユピテルが女神ユーノーを説得し、これ以上、人間界に干渉するのを止めさせていました。女神ユーノーは、そのことをユートゥルナに告げ、彼女を制止します。


 二人の戦いは続きます。アイネイアースがトゥルヌスの太股に槍で斬り付けます。トゥルヌスが降伏し、命乞いしますが、パラスの父エウアンドロスとの復讐の誓いがあります。さらに、トゥルヌスが肩にパラスの剣帯を付けていることを見て憤ります。アイネイアースはトゥルヌスを殺します。これで、パラスの父エウアンドロスとの約束を果たすことができたのです。


【伝承】イタリアに辿り着けなかったという説、カルタゴに漂着せず二年間でラティウムに到着したという説、ラティヌスからラウィニアを与えられ、ラウィニウムを建設するが、トゥルヌスが反発・戦争になるという説など、都市を建設するまでの経緯には様々な説があります。また、この戦闘でアイネイアースが亡くなったとする伝承もあります。アスカニオスもラウィニアとの間の子とする伝承もあります。


■建国と歴代のアルバ王


 アイネイアースは、ラティヌスの娘ラウィニアを娶り、妻の名前に因んだ新都市ラウィニウムを創設します。そして妻との間に息子シルウィウスが生まれます。


 アスカニオスの成長に伴い、アイネイアースも年老いてきました。女神ウェヌスは、他の神々と共に、神ユピテルに、アイネイアースの死後、彼を神の一員とするよう嘆願します。ユピテルの了承は得られました。アイネイアースが亡くなると、ウェヌスは彼を神に引き上げるための儀式を川辺で行います。そして、アイネイアースは神となり、天上界に上ります。


 アイネイアース亡き後、中西部のエトルリア人の王、あのメゼンティウスが攻めてきます。敗れたアスカニオスはメゼンティウスに税の支払いを約束し講和しますが、エトルリア人が油断して引き返したところを強襲し、壊滅させます。報復として、メゼンティウスの子、勇壮な戦士に育っていた若きラウススを処刑し、年老いたメゼンティウスに逆に税の支払いを命じます。


 アスカニオスは義母ラウィニアと共に約三十年間、ラウィニウムを統治します。シルウィウスが成人すると、義母と義弟にラウィニウムを譲り、自らはアルバーノ山地に向かいます。一説には、アイネイアース亡き後、シルウィルスは、義兄アスカニオスを恐れ、森に隠れていたとも言われます。


 アルバーノ山地に向かったのは、新しい都市を建設するためです。義弟との関係を保ちたかったのかもしれません。平地でのエトルリア人との戦いで、謀略で逆転できたとはいえ戦闘では負けた経験から、山地に安全な新しい都市を築きたかったのかもしれません。これらの両方かもしれません。動機はさておき、完成した新しい都市に「長く白い都市」を意味する「アルバ・ロンガ」と名付けました。


 アスカニオスには息子ユルスがいましたが、アスカニオスが亡くなったとき、未だ幼少でしたので、義弟のシルウィウスがアルバ・ロンガの王位に付きます。その後、アエネーイス・シルウィウス(三十一年間統治、以下年数は統治期間)、ラティヌス・シルウィウス(五十一年)、アルバ・シルウィウス(三十九年)、アテス(二十六年)、カペス(二十六年)、カペートゥス(十三年)、ティベリウス・シルウィウス(八年)、アグリッパ・シルウィウス(四十一年)、アルディウス(不明)、アヴェンティヌス(三十七年)、プロカ(二十三年)とシルウィウスの子孫が王位を継承します。


 ティベリウムはアルブラ川を渡ろうとして、川に流されて亡くなったという伝承が残っています。このためアルブラ川をティベレ川とも呼ぶようになったとされています。


 アルディウスは、神通力を持っていたとされています。圧制で民衆を苦しめましたが、雷に打たれて亡くなったとされています。


 アヴェンティヌスは、一説にはアクロタに王位を譲られたという説もあります。「アヴェンティーノの丘」は、アヴェンティヌスの名に由来するとも言われています。


 マスカニオスの息子ユルスは、後のユリウス氏族につながるとされ、王位は引き継がなかったものの、有力氏族として後々のローマの歴史に大きな影響を及ぼします。


 プロカには、ヌミトルとアムリウスという二人の息子がいました。兄のヌミトルに王位を譲り、アムリウスには財宝を譲りました。


■アムリウスの王位簒奪


 これまでの王位継承は、多少の感情的なもつれ合いはあったかもしれませんが、それなりに正当な王位継承でした。


 しかし、ヌミトルとアムリウスの年齢が近いこともあり、王位を継承できなかったアムリウスの不満が募ります。父亡き後、アムリウスは、受け継いだ財宝を背景に家臣たちを味方に付けます。そして、ついには兄を幽閉し、ヌミトルを隠棲生活に追いやり、兄から王位を簒奪し、自ら王位に付きます。ヌミトルの息子たちは、アムリウスの命により、すべて殺されます。


 ヌミトルの娘レア・シルウェアを強制的にウェスタの巫女にします。ウェスタの巫女には、処女であることが義務付けられますので、子を産むことは許されません。家臣たちは、自分が不当に王位を簒奪したことを知っています。正当な王位継承権を持つヌミトルの子孫が生まれると、家臣の中からヌミトルの子孫を担いで、我が王位を脅かすおそれがありえないわけではないからです。


 しかし、4年後、巫女の身でありながらレア・シルウェアが妊娠します。シルウェアが聖なる森に水を汲みにいったとき、それを見かけた軍神マルスがシルウェアに一目惚れしてしまいます。シルウェアが疲れて眠っているとき、軍神マルスが襲ってしまったといわれています。一説には、アムリウス自身がシルウェアを犯したとの説もあります。アムリウスは懐妊したシルウェアを幽閉し、監視の下に置きます。


 ともあれシルウェアは双子の男児を出産します。アムリウスは配下に命じ、シルウェアを牢に軟禁します。川に身を投げさせられたという説も残っています。赤子は、ティベリス川に流させます。不憫に思った配下は、乳も食料もなければ死んでしまうにちがいないが、せめて水には沈まないようにと、大きめの駕篭に乗せてあげました。


 赤子を乗せた駕篭は、やがて人里離れた川辺に漂着します。漂着した岸辺の近くにいちじくの木があったとされています。いちじくは聖なる果物といわれ、双子たちが神の加護を受けていることを象徴しています。


 軍神マルスの聖獣は狼です。マルスはメス狼を双子のもとに送ります。駕篭にメス狼が近づき、双子に乳をあげます。そして、軍神マルスの聖鳥キツツキが飛んできて、双子に食べ物をあげます。しばらくしてメス狼は双子の駕篭をくわえパラティヌスの丘の自分の巣に運びます。そしてわが子のように二人を育てます。


 やがて王室の羊飼いファウストゥルスが羊を連れてパラティヌスの丘にやってきました。狼は羊にとって危険な存在です。犬と一緒に羊飼いが狼に近づくと、狼は双子を置いたまま、おとなしく立ち去ります。ファウストゥルスは残された双子を連れて帰ります。


 一説には、双子を川に流しに行かせられた人物がファウストゥルスであり、実際に川に流したのではなく、自宅に連れ帰ったのではないかともされています。ファウストゥルスの名前が狼という意味だったからこのような伝承になったのではないか。ファウストゥルスが住んでいたのもパラティヌスだったという説もあります。ファウストゥルスの妻レンティアの正体は女神だったとの説もあります。


 ファウストゥルスは、羊飼いではなく、王の豚飼いで、双子が捨てられているのを知り、その頃、死産で悲しんでいた妻に育てさせたという説もあります。妻に育てさせたのも神の望みだったとの説もあります。アムリウスの召使が双子の駕篭を流しにいくとき出会い、その駕篭や子供たちの顔を見て知っており、自分が見つけた双子がヌミトルの孫であることを知っていたという説もあります。


 いずれにせよ、双子は、ファウストゥルス夫婦にロムルスとレムスと名付けられ、夫婦のもとで育てられます。遊牧や農耕に精を出し、立派な若者に育ちます。二人は、遊牧民の若者たちと狩に出かけ、あるときは盗賊を襲ったりします。特にロムレスは政治的な素質を備えていたこともあり、周囲の牧夫たちの指導的立場に立つようになります。徐々に若者たちの集団は規模が大きくなり、周囲の人たちにも知れ渡るようになってきます。


 一方、自信は傲慢の裏返しなのかもしれません。二人は、隠棲生活をしているヌミトルの羊飼いたちと、羊を放す土地をめぐっていさかいを起こすようになります。争っていたのは、ヌミトルの羊飼いではなく盗賊だとする説もあります。


 ロムレスらが犠牲式に出かけていた留守に、ヌミトルの羊飼いたちが待ち伏せしてレムスを捕らえます。あるいは、ロムレスとレムスとその仲間たちが、パラティーノの丘でルペルカリア祭を行っていたとき、盗賊たちに襲われ、ロムルスは助かりましたが、レムスとその仲間が捕まってしまったともいわれます。


 ヌミトルの羊飼いたちは、レムスをアムリウスの下に連行し、ロムルスとレムスと、その仲間たちがヌミトルの領地に侵入していると訴えます。隠棲生活に追いやったとはいえ、実の兄の領地内のことです。アムリウスは、レムスの処分をヌミトルに任せることにします。身柄は、ヌミトルに引き渡されます。


 レムスと面談したヌミトルは怪訝に思います。この若者はどこかで見たことが・・・。いや、自分の若い頃とよく似ている。体格も自分と似ている。レムスが捨て子だと打ち明けると、この若者は、シルウェアの子、自分の孫だと確信します。


 ヌミトルはレムスに、これまでの経緯を教えます。そして、駕篭に乗せて流されたことも話します。幼いときより養父ファウストゥルスから聞いていた、流されてきた駕篭の話と一致していますので、レムスもその話を真実だと確信します。


 一方、ロムレスはレムスを奪還したいと、養父ファウストゥルスに訴えます。養父は二人が実はヌミトルの孫であることを打ち明けます。養父から出生の秘密を知らされたロムレスは、アムリウス王を討つことを決意します。そして、実の祖父の下に駆けつけます。


 ファウストゥルスも出生の証拠となる駕篭を持参してロムレスの後を追います。しかし、ファウストゥルスは、アルバ・ロンガに着いたときアムリウスの配下に拘束されます。そして、アムリウスの前に引き出され、アムリウスに尋問されます。「その駕篭は、シルウェアの赤子を流したときの駕篭ではないか。なぜお前が持っている」


 シルウェアの子供たちが生きていることを白状せざるをえませんでした。ただし、アルバ・ロンガに来た理由は、子供たちが生きていることをシルウェアに伝えるためだと言い訳します。そして、二人が、パラティヌスで牧夫を営んでいると言い、すでにヌミトルのところにいることを隠しました。


 アムリウスは二人の居場所を聞き出そうとします。ファウストゥルスは「迎えに行って連れてきます」と言い逃れます。ファウストゥルスは自分の羊飼いです。しかし、裏切るおそれもあります。そこで、配下の者二人と一緒に迎えに行くことを命令します。


 アムリウスは、二人をヌミトルの目の前で処刑しようと図ります。召還すべくヌミトルの下に使者を送ります。しかし、その使者は、「実の兄に、その孫を殺す姿を見せるなどとは」とアムリウスの残虐さにおそれを抱いてしまいました。しかも、穏やかなヌミトルを元々慕っていた者でした。使者はヌミトルに伝えます。「命令は、単にヌミトル様を王宮に呼べということでしたが、シルウェア様の御双子、ヌミトル様の御孫様が見つかったので御座います。そのお孫様の処刑の様子をヌミトル様に見させる計画なのでございます」


 ヌミトルは、既に我が下にいるロムレスとレムスに、使者の話を知らせます。レムスはその仲間たちを、ヌミトルは自分の一族郎党を、ロムレスは、市外でアムリウスに反対する市民を集め百人隊を結成しました。百人隊はアルバ・ロンガの外から攻撃します。レムスの一派が城の門を開けると、百人隊がなだれ込みます。


 王宮に向かったヌミトルらの前に、アムリウスの配下の者が立ちはだかりますが、彼らは所詮、財宝に釣られてアムリウスに従った者たちです。眼前の大集団の前におそれをなし、散々、ちりぢりに逃げ出します。


 ついにアムリウス王を討ち取り、ヌミトルは王位に返り咲きます。シルウェアも牢獄から開放され、勇壮な若者に育った我が息子ロムレスとレムスと再会します。


■ローマの建国


 アルバ・ロンガは今や人口過剰の状態でした。そこで、二人は自分たちが育ったパラティーノの丘に新しい都市を建てることを王に提案します。王の許しを得て、支持者を引き連れパラティーノの丘に向かいます。孫といっても、育っていく過程を見ていないヌミトルにとって、二人は愛情薄き存在です。一説には、アルバ・ロンガから厄介払いしたという説もあります。


 パラティーノの丘で二人は新都市建設の計画を練ります。どの辺を都市にするか、都市の名前をどうするか、どちらが王になるのか、などなど。なかなか二人の意見は一致しません。育ったパラティーノの丘に都市を建設すべきだとするロムルスに対して、懐かしい育った場所の景色は残してアウェンティーノの丘に新しい都市を建設すべきだとするレムス。


 特に「どちらが王になるか」ということになるとお互いに一歩も引きません。新しい都市の名前についても言い争います。次第に二人は仲違いします。収拾が付かなくなり、アルバ・ロンガのヌミトル王に相談します。ヌミトル王は、鳥占いで決着を付けることを提案します。「最初により良い鳥が飛んで来た方が王になると決めたらどうだろう」


 ロムルスはパラティーノの丘に、レムスはアウェンティーノの丘に登ります。一説には、二人ともアウェンティーノの丘に登ったともいわれます。そして鳥を待ちます。


 最初、レムスが待つアウェンティーノの丘に六羽のハゲタカが来ます。その直後、ロムルスが待つパラティーノの丘に十二羽のハゲタカがやって来ます。レムスの支持者は、早く鳥が飛んできたからレムスを王にすべきだと主張します。ロムレスの支持者は飛んできた鳥の数が多いからロムレスを王にすべきだと主張します。


 「早く来たから」、「数が多いから」と相容れません。あげくの果てに、両者が戦闘を始め、レムスが命を失います。養父ファウストゥルスとその弟プリティヌスが争いを止めさせるべく、武器も持たず争いの中に飛び込み命を落としてしまいます。


 別説には、鳥占いが引き分けになり、別々に都市を建設しますが、ロムルスが建てた都市の壁をレムスが嘲笑って飛び越えたので、怒ったロムルスがレムスを殺したとの説もあります。


 レムスの息子セニウスとアスキウスは、父を殺されたので、二頭の馬で北方に逃れ、新しい都市を建設します。その都市は、セニウスの名に由来して「シエナ」と呼ばれています。セニウスとアスキウスが乗った白馬と黒馬は、二人を救うため神から与えられたとの伝承が残っています。


 ロムレスは、パラティーノの丘に新しい都市の壁を建設します。牧畜の神パレスの祝日、パラティーノの丘に深い穴を掘り、果物や土を投げ入れて埋め、その上に神殿を建て、神ユピテルに祈りを捧げます。紀元前七五三年四月二十一日だとされています。その後、二頭の牛を引いて都市境界の基準となる溝を掘り、市民に壁を作らせました。


■ロムレス王とザビニの女たちの略奪


 ロムレス王は、新しい都市の政治を行うために、元老院を創設し、法律を制定します。周辺の部族からの侵略から都市を守るため城壁を徐々に拡大します。


 都市は主に男たちの手で建造され、万全の体制にあるように思われましたが、将来に不安がありました。それは女性がわずかで子孫が望めないことでした。このままでは、都市は一代限りで絶滅するとの不安を抱えていました。


 ローマ人は、妻を娶るため近隣国のザビニ人と交渉します。ザビニ人は近隣に新しい都市が出現し、都市の発展と共に競合相手となることを恐れていました。そこでローマ人の申し出を断ります。


 ローマ人たちは、ザビニ人の未婚女性を拉致し、誘拐することを企てます。ロムルスは、海の神ネプトゥーヌスの祭りを開催し、近隣の部族に参加を呼びかけます。近隣の町から多くのザビニ人が参加しました。若い未婚女性も数多く参加しました。


 太鼓などの打楽器に合わせて男たちの戦いの踊りが始まると、珍しさにザビニ人の目は釘付けになります。そんな中、ロムヌスの合図で周りのローマ人の男たちが、一斉に未婚女性たちに襲いかかり、連れ去ります。容姿端麗な女性は有力者の下に連行されます。多くは連れ去った男に強奪されます。


 ザビニの女たちは抵抗しますが、ローマの男たちは強引に女たちの貞操を奪います。囚われたザビニ人たちは、涙ながらに陵辱に耐えます。女たちをこのままにしておいては、ローマの行く末が危ないと感じます。いずれ、女たちは、将来のローマの担い手となる子供たちの母親となり、子供を育てる立場になるのです。都市内のロムヌスは自ら足を運び女性一人一人と話をすることにしました。


 我々が女性たちを掠奪したのは、異民族結婚を拒否したザビニ人のせいである。我々の不法行為はあなたがたの両親に責任がある。と理不尽な理屈を並べます。


 「結婚すれば、この都市における市民権、財産権を与える。あなた方の生活は安定するだろう。さらに、子宝に恵まれれば、自由な人の母親になれる」と説得します。「自分が体を与えた相手に心も与えて欲しい。不法な行為の後にも、時間が立てば和解できることもある。私が、貴女方のふるさとへの思いを埋め合わせる努力をするから、どうか分かって欲しい」と頼みます。王自ら自分たちに頭を下げる姿に、女たちは一抹の安心感を覚えます。


 多くの女性を強奪されたザビニ人は「神の掟、信義にも背く裏切り行為」と強く非難します。しかし、囚われの身となった女性たちの身の安全に配慮し戦闘行為に入ることができません。身柄の解放と謝罪を求める使者を送りますが、要求は拒否されます。望みを絶たれた女性たちは、ローマ人の要求を受け入れざるをえませんでした。強制的に婚姻させられ、ローマ人の子供を産まざるをえませんでした。


 誘拐婚の被害を被った女性たちの両親たちは、涙ながらにローマの不法行為を訴えて、近隣の部族を回ります。カエニナの王がこの訴えを聞き、憤慨します。多くの人質を取られているザビニ人に代わって、軍勢を率いてローマの領土に侵入しました。


 ローマ人はカエニナ軍を迎え撃ちます。カエニナ王は殺され軍は敗走します。ロムヌスは、さらにカエニナに進軍し、これを陥落させます。力なき正義が、力ある悪徳の前に滅び去るのです。ローマに戻ったロムヌスは、ユピテルの神殿にカエニナ王の鎧を奉納します。紀元前七五二年三月五日のことだそうです。


 フィデナエ、クルストゥメリウム、アンテムナエの住民が共同してもローマに侵入します。ローマ軍は、これらを迎え撃って敗走させ、これらの町を征服します。ザビニから拉致された女性たちは、度重なる戦勝を祝うロムルスに対し、自分たちの両親を市民団に受け入れて欲しいと懇願します。願いは簡単に叶い、ローマに入った両親たちもいました。


 ロムルスは、征服した町に入植民を送り込みます。元々の住民もローマに吸収していきますが、拉致された女性たちの家族の持っていた財産は、そのまま所有することを認めます。


 ザビニ人は、本来好戦的でプライドが高い民族でした。城壁のない村に住んでいたのも、そのプライドのせいでした。拉致された人質のため戦いに踏み切れないのが、ザビニ人たちの心の中に屈辱感として積み重なっていきます。拉致された女性の家族までローマの市民団に組み込まれるようになると、ローマとの戦争を望む住民が増え始めます。ついにザビニ人の王ティトゥス・タティウスがローマとの戦争を決断し、戦闘が開始されます。


 戦闘の最中、カピトリヌスの砦を守っていたスプリウス・タルペイウスの娘タルペイアは、ザビニ人の男たちが腕につけている金色の腕輪を欲しがります。ザビニ人の戦闘員は都市の城門を開けてくれれば、腕輪をあげると約束します。


 タルペイアがザビニ人のために城門を開けますが、ザビニ人は金色の腕輪ではなく、盾をタルペイアに投げつけます。タルペイアは盾の重さで圧死します。彼女の亡骸は岩の上から投げ捨てられました。彼女が投げ捨てられた岩は、後にタルペイアの岩と呼ばれています。


 タルペイアの裏切りでタティウスのローマ攻めは、一旦成功します。カピトリヌスの砦を今度はローマ軍が攻めます。ローマ側はホストゥス・ホスティリウス、ザビニ側はメッテス・クルティウスが率います。ローマ側のホスティリウスが敗北し、ローマ側は総崩れとなります。結局、パラティヌスの宮殿の門まで退却してしまいます。ロムルスは、ローマ人の男たちを集め、パラティヌスの丘にユピテルの神殿を建てることを約束することで士気を高めます。


 戦いは続きます。メッテス・クリティウスは馬に乗り、味方の兵より遥か前に進んでいました。ところが馬が穴に落ち込んでしまいます。鞭を振るって繰り出そうとしますができません。馬を捨て、戦場から逃走してしまいます。指揮官がいなくなったザビニ軍は劣勢になります。


 両軍とも戦闘準備をしているとき、髪が乱れ、ぼろぼろの衣服をまとった女たちが、突如、両軍の間に割って入ります。自分の夫や父のところに駆け寄ります。あるものは幼児を抱きかかえています。女たちはザビニ人に、あるいはローマ人に呼びかけます。


 夫に対して「この人は、あなたの義理の父です」、父に対して「この人は、お父さんの義理の息子です」と叫びます。女たちは「義理の父と義理の息子同士が、互いの血で手を汚す争いは止めてください」と懇願します。激情を鎮めようと「互いに殺しあえば、将来にわたってこの汚名が残るでしょう。子孫にも呪いがかかるでしょう」と説得します。


 女たちの悲痛な叫びに、男たちの手が止まります。騒ぎも静まります。戦闘で死んだホスティリウスの妻ヘルシリア(後にロムルスの妻となる)が男たちの間に立ちます。彼女も拉致されたザビニ人の女の一人ですが、将軍の妻となっていたのです。


 もし、親子関係や結婚の絆に我慢ができないのなら、その怒りを私たちに向けてください。戦争の原因は私たちです。父と夫を傷つけ殺された原因は私たちにあります。あなた方のどちらか一方を亡くし、未亡人や親なしになるのなら、私たちは死んだほうがましです。どんなひどいことを、どんな苦しいことを、私たちがやったのですか。なぜ、私たちが惨めにならなければならないのですか。


 最初は、私たちは、今の夫たちに力ずくで無法にも掠奪されました。しかし、掠奪されたまま長い間、父親にも、親戚にも、兄弟にも、私たちは放っておかれたのです。放っておかれたから、最も憎い敵と固い絆で結ばれ、かつては憎かった人が戦えば恐れ、死ねば悲しむようになってしまったのです。


 あなた方は、私たちの処女を守るために攻め込んできたのではありません。私たちに不法行為を働いた人たちに復讐するために攻め込んできたのではありません。


 今や、あなた方は、夫から妻を、子供から母親を切り離そうとしています。あなた方は、惨めな女たちを助けようと思っているのでしょうが、それはとんでもない思い違いです。そんな援助などいりません。私たちは、こちら側の人たちから愛されてきました。配慮がなく私たちを裏切ってきたあなた方は、私たちを憐れんでいるかもしれませんが、とんでもない思い違いです。


 私たちを通じて、あなた方は舅となり、祖父となり、親類となっているのです。身内同士の戦いは止めてください。私たちのための戦争なら、私たちを婿や子供と一緒に連れて行ってください。私たちに父や親戚を返してください。子供や夫を奪い取らないでください。お願いします。またもや私たちを戦争捕虜にしないでください。


 他の女たちも懇願します。女たちの訴えで休戦の誓いが取り交わされることになり、両軍の将軍たちが一同に会します。会談の間、女たちは、父や兄弟に夫や子供を紹介し、食べ物や飲み物を運びます。負傷者の面倒をみます。自分たち女が家庭を取り仕切っている姿を見せ、夫婦がお互いに尊敬しあいながら生活していることを目の当たりに見せます。


 ローマとザビニ人は和解し、合併して新たな国を作ります。ローマが首都になり、タティウスとロムルスは共同君主としてローマを治めます。こうしてローマの人口は二倍になります。市民の階級制度もローマの制度に合わせ、ザビニ人から百人のパトリキ(貴族)が追加登録されます。軍団は歩兵六千百人、騎兵六百人と大幅に増えることになりました。ローマに住む部族を三部族に分け、ロムルスにちなんでラムネンセス、タティウスにちなんでタティエンセス、それ以外をルケンレンセスと名付けました。


 5年後、タティウスが何者かに殺害され、ふたたびロムルスが単独の王になります。そして、在位三十数年後、嵐の中で稲妻と共に忽然と姿を消します。ロムルスは、ローマ人によってクゥイリーヌス神として神格化され、建国の父と呼ばれるようになりました。妻のヘルシリアも神格化され、ホラ神となりました。


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