第5.5話 人生最大の恐怖を感じて
「え?」
希望が絶望に変わり、反射的に瞼を閉じる。
駄目だと思ってゆっくり瞼を開くと、なぜか暗闇が訪れる。
身体を変な感触が包んでいる。
ぬるぬるしていて、気持ち悪い。
呼吸も全然できない。
そして臭い。
そうしていると、下へ下へと押し流されていく。
突然、唐突に、落ちた。
水たまり?。
底が浅いから、水たまりだ。
縄のせいで立つことも出来ずに、ずっと暗黒の世界の中で放心状態だった。
そして落ちてしばらくしたころ、不思議な感覚が体を襲った。
『痛み』だ。
それと、『開放感』。
足を動かしてみると、なかった。
縄が、無い。
立って歩ける。
立ち上がってみると、ぴちゃぴちゃと何かが跳ねているのを見つけた。
まあ暗すぎて見えないけど、凝視して漸く視認した。
そこまでしてやっと解った、これは肉だ。
赤い身の、それも筋肉質な、肉だ。
肉屋で売っているような柔らかい肉じゃない。筋ばかりの肉。
手で掴んでみると、そうやって良くわかった。
感触が面白いのでぐにぐにと玩んでいると、『痛み』が強くなった。
そして全てを理解した。
ここはあの化物の体内であること。
足の縄は切れたのではなく溶けたということ。
この肉は食われた動物の肉だということ。
……今まさに、ボクの足は溶かされているということ!
「ひっ……!」
息を飲んだ。
飲みこむしかなかった。
臭くて戻しそうになるけど、頑張って抑え込んだ。
気持ち悪くて、堪えきれないけど、我慢した。
物凄く我慢したけど、足が徐々に溶かされてくる。
そのたびに痛みに堪えながら、息を飲んで、戻しそうになって、最終的に吐いた。
身体は恐怖で震えて、寒気が押し寄せてきて、倒れて、溶かされて、えづいて、駄目だ、もう、もう、無理だ。堪えきれない、耐えきれない、嫌だいやだいやだイヤダイヤダイヤダ死にたくない死にたくないシニタクナイシニたく……な…………ぃ………………――――――
セクターの意識はそこで途切れた。