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土魔法師セクター  作者: FIIFII
第1章
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第5話 蜘蛛の魔獣、喰らわば

「こいつ倒れていたんじゃあ……リーダー指示を」

「エルとサラはこいつを抱えて離脱しろ。三大魔法師の足止めは任せろ」

「「御意」」


 襲撃者たちは二言三言だけ会話し、セクターを二人が抱えた。

 セクターは混乱しているようで、なぜジェネクスが生きているのかを理解できなかった。

 とにかく激しく動いて抵抗するが、女性二人がかりの力で抑え込まれる。


(ジェネクスさん……)


 口に縄を噛まされていて思うように喋れないので、セクターは心の中で助けを求めながら連れ去られていった。



---



「数は12、男のみ、魔素及び魔力は微量、四肢可動、思考正常、心臓付近に穴、出血多量」


 ジェネクスは現状把握に努めた。

 目の前の男たちはそんなことも意に介さず、問答無用で魔法を放つ。


「一斉攻撃だ、撃つぞ《氷之柱アイスピラー》」

「……《無効化キャンセラー》」


 向かっていた魔法が、勢いよくジェネクスを貫こうとしていた氷の柱が、消える。

 男たちが驚愕している最中さなか、新たに魔法を唱えた。


「《魔素変換コルダート》」


 その魔法により、男たちが放った『氷之柱』が『無効化』されて『魔法』→『魔力』→『魔素』へのプロセスを辿り変換されて霧散し、最終的に空中に漂う。

 ジェネクスは魔力を持たない体だ。

 魔素がなくなれば魔法が使えなくなるセクターとは違い、面倒な手順ではあるが魔素を擬似的に生成することが可能な手段を持っていた。

 厳密に云うと『魔素変換』も魔法であるため、使用に魔力は必要であるため、0からの生成は不可能である。

 つまり魔力を回復・・したのだ。


「こいつ、何をしやがった!? セロ、イオ、カロ、行け」


 リーダーらしき人物が指示し、短刀を構えた三人が突撃する。


「君たちは理解していないだろう。私がなぜ三大魔法師と呼ばれているのかを」

「知るか、よっ!」


 三方向から迫る。動きは高速といっても過言ではない速度の影。

 そこにジェネクスは、一つの魔法を使用した。


「《万力バイス》、《駆動開始スタート》」


 短刀を持った三人の頭部に黒い箱が現れる。

 それが動き始めると、三人の頭を締め付けられた。


「例の古代魔法か、甘いな」


 リーダーと呼ばれている男がそう呟く。

 しかし。


「ぐぅ、うぅっ」

「なっ、なぜ痛覚を遮断しているお前たちが苦しんで倒れている!」

「私の魔法が彼らの脳に影響を及ぼしたからだ。『痛覚遮断』の魔法は古代魔法をリメイクしたに過ぎない。痛みを与える魔法の弱点は痛みが効かない相手だ。まずは痛覚遮断を封じるところから拷問カテゴリーは始まったと本に書いてあるだろうに。これだから無知は怖い。

 さて、セクター君の後を追わなくては。覚悟してもらうよ君たち」



---



 どうしてこうなったのか理解できない。

 落ち着いて考えてみるとおかしいことだらけだ。

 なぜ儀式が失敗してあんな化物が出てきたのか、なぜこの人たちはボクとジェネクスさんを襲うのか。


 今いる場所は不思議な場所だ。

 どこをどう見ても石、石、石。

 石の壁で囲まれている。

 しかもざらざらしていなくてつるつるしている。

 どんな風に切断すればこうなるんだろう?


 そしてボクは縄で縛られたままここに放置されている。

 どうやって逃げようかと考えた結果、縄を切れるところまでは思いついた。

 土魔法は使えるから、地面の石を変形させて尖らせればなんとかなる。

 だけどそこで背を向けて座り込んでいる二人組がいるから難しい。

 監視さえなければなんとかなるんだけどなぁ……。


「リーダー、遅いな」

「馬鹿、口を開くな」


 そんなことを考えながらひんやりとした石の地面で転がっていると、声が聞こえた。

 この人たち、女の人なのか。


「声から人を判別するなんて、噂だろ? 気にしなくていいじゃん」

「魔法の世界は日進月歩だ。侮れん」

「へいへい」

「ふざけるな。こっちは本気で言っているんだぞ」

「わかりましたよ……おっ、あったあった」


 右の人が取り出したのは……箱?


「おい、なんだそれは」

「お菓子。朝ごはんまだ食べてなかったし」

「やめておけ、そこのが起きている。顔を見られたら一大事だぞ」


 確かに、顔の布を取らないと食べられないだろうけど。

 どっちみちここからは角度の問題で見えない。


「大丈夫、あっこからは見えないよ」


 シュル、と布を取った音が聞こえる。

 そして箱を開ける音も。


「この店の肉まん美味しいんだよね、《火之粉ファイヤーパウダー》」


 加熱に魔法を使うなんて、そんなことをしたら……。


「ばっ、馬鹿っ!」

「うわっちゃっちゃっちゃ! あっつ! あっつう!」

「えっと、水の弱いやつ! 《ウォーター》」

「あー……肉まん……高かったのに」


 左の人の水魔法によって消化されたけど、殆ど焼け焦げてしまったようだ。

 肉が焼けたいい匂いが部屋に漂う。

 そのせいで二人のお腹から、空腹を訴える音が。


「ねえ、どっか食べにいかない?」

「任務放棄か? また怒られるぞ」


 おお! 出て行ってくれると脱出できるようになる!

 早く出て行ってくれ!


「でもお腹空かない?」

「それはこの匂いのせいだ。つまりお前のせいだ」

「食糧の備蓄もないしさ、買い出しを口実に行こうよ」

「……金あるのか?」

「あるよー。リーダーの隠していた金貨が」

「……仕方ないな、買い出しだからな?」


 二人が出て行った。

 数分後、ボクは土魔法を使った。


「《石之柱ストーンピラー》」


 土魔法は大地に関する物を操作したり、生み出したり出来る。

 これで地面の意思を変形させて、尖った柱を作る。

 まずは手首に巻かれた縄を切って……。


「よし!」


 小声で成功を喜ぶ。

 この調子で足も切っていこうと思ったその時。


「あっれー、この子起きてるよ?」

「そうだね」


 入口から、声がした。

 なんでここに、今、なんで。


「気絶させよっかー」

「逃げられなくしよう」


 このままじゃ、本格的に拙い。

 何か、何か手が……!




 バタリ。

 と、音が聞こえた。


「なっ、サラちゃっ――」


 声は途切れた。

 数秒間、この空間を静寂が支配する。


「無事かね。セクター君」


 静寂を打ち破ったその声は、ジェネクスさんの声だった。

 あの人たちを倒して、追いついたんだ!

 ボクは必死に、懸命に、這いずりながら方向転換して、希望に顔を輝かせながら顔を上げると…………――






「ブジカネ? セクタークン」


 ――儀式の時に見た蜘蛛のような化物が、口を開けて待ち構えていた。





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