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土魔法師セクター  作者: FIIFII
第1章
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第2.5話 才能を探して

 私は三大魔法師という不相応な肩書きを持っている。

 国から与えられた役職名みたいなものだ。

 そんな大層なものでは決してないのに、期待が重い。

 役職名のインパクトが大きいだけだと勝手に解釈しているが、周囲の過大評価は留まるところを知らない。


 わざわざ一般人と話すだけでも魔力を帯びなければならないし、面倒なことが多すぎるのだ。

 同じ役職であるバシウムやアルカディアは、その気持ちを共有出来る唯一の友だ。

 いつも共に居たし、情が生まれたのも当然のことだったのだろう。

 私一人だけ年長者として振る舞っていたが、アルカディアは運命の人だと言ってどことも知れぬ奴の嫁にいった。

 必死で引き止めたのだが、結婚をして今は幸せに暮らしているそうだ。

 そのおかげで私の仕事が多くなってしまったが、誰にだって人生はある。

 私からすれば、人という身で寿命が短いからこそ密度が濃い人生を送ってほしいものだ。


 古代という時代の生き残りである私だから、心からそう思える。

 そのことをアルカディアは理解していた。バシウムは……まあいい。


 そんな私も流石に歳だ。

 この技術を失わせないためにどうすればいいのか悩んでいた私に、ある若者が気に掛けてくれた。

 後継者を遺して逝けばいいんじゃないのか? と助言をくれたあの若者には感謝しなければいけない。

 そんな簡単なことも思いつかないのは、歳のせいだろう。頭が固いのはどうしようもない。


 エンドル、ナスハレ、アマンダ、パラノマ、ハルノヤ……。

 色々な街を巡り、弟子となれるだけの者を探した。

 そして私が弟子を探していることは噂になり、志願者ばかりで参っていた。



 多くの人形師、魔法師が集まる街ここドールスに着いたのは昼前。ハルノヤから出たのは五日前だったと、移動時間をメモ帳に記した。このメモ帳のおかげで何度助けられたかわからない。


 町の人に魔法修練場への案内を頼みそこまでの道中で考えていた。

 どこかに魔力を持たない若者でもいないものかな、と。

 路地を抜けて街の端へ、端へ。

 魔法で人が怪我をしないように街から離れているのだろうと推測しながら、進む。

 そして、私のその願いは数分後に成就された。


 ――見つけた。

 この子が、この子供が理想の弟子像。

 一点の穢れもない魔力が使用され、鳥の模型を完成させる子供。

 頑丈な、魔法に耐性をもつ耐魔レンガで造られたこの修練場で、私にはこの子が希望に見えた。

 だから私はお願いした。

 「私の弟子になってくれないか?」と。

 二つ返事とまではいかなかった。

 しかし彼は、セクター君は確かに返事をしたのだ。

 強くなりたいと言ったのだ。


 そこで闖入者が現れた。

 私は使い慣れた魔法で敵を瞬時に無力化するが、その一瞬の隙に親方と呼ばれていた人物が撃たれた。



 背後。

 完全に死角となっている場所から撃たれていた。

 撃ったのは私をここまで案内した男だった。

 怒りがこみ上げ、杖を振った。


「滅びよ」


 唱えたのは、古代魔法42の内の一つ『純粋クリア』。

 使い手が少ない滅属性の魔法で痛みを与える間もなく、一瞬とも呼べぬ時間で男の体は消え去った。

 周囲の人たちは何が起きたのか理解出来なかったようで、通報したり突然消えた男の捜索をしていた。

 慌ただしく奔走する彼らを尻目に、私は撃たれた人物の腹に穴が空いているのを確認する。


「治療をしなければいけない。そこの君ウィルといったね、担架はないだろうか? あればすぐに取ってきてくれ」


 セクター君と先ほど話していた子供は、返事もせずに修練場の裏に引っ込んだ。

 返事をするまでもないということだろう。

 傷を『解析アナライズ』し、適切な治療方法を紙に書きだす。紙を作っている街で買ったこの手帳はなかなか使いやすい。


「ハァ……ハァ……担架ッす」


 しばらく待つと、担架を二つ抱えた少年がそう言いながらその場で倒れこむ。疲れたのだろう。

 今は怪我人を優先しなければ。

 担架に風魔法を掛けて、自由自在に動かせるようにする。

 そして体の下に滑り込ませて、周囲にいる野次馬の一人に話しかけた。


「すまない、病院の場所を教えていただけないだろうか?」

「あ、ああ。あっちだ」


 指を指した方向には、確かに病院らしき建物が見えた。


「ありがとう」


 視認できる距離にあったのかと自分の集中力に呆れつつ、病院までゆっくりと歩く。

 背後に担架を浮かせて怪我人に刺激を与えないようにし、風魔法で傷口に余計なものが入らないようにする。

 この状態なら優に一時間は生命を保てるだろう。

 セクター君も気絶しているし、ついでに運ばせてもらおう。

 人ごみに紛れてまた襲撃されても適わん。


「さて、道を開けてもらえるかね?」


 病院までの道のりが遠い。

 それはこの野次馬のせいだ。

 こちらを視認した者は少なからずいるのだが、状況を理解せずに空飛ぶ担架を追いかける者の方が多いのだ。

 これにはさしもの私もどうしようもない。

 仕方ない、声を出そう。

 腹に力を込めて、声帯に魔素から変換した魔力を叩き付ける。


「道を開けよっ! 怪我人だ!」


 魔力で拡大された声は街中に反響した。

 病院への道が出来る。

 声を聞きつけたのか、病院の者と思われし白衣を纏った人形が病院内から現れる。

 なるほど。だから『ドールス』か。


『病人を、アズカリマス』

「これが最適な治療方法だ。よろしく頼む」


 メモ帳の一ページを破り、人形に手渡す。


『畏まり、マシタ』


 担架を下ろし、病院内から現れた複数の人形が担架を運ぶ。

 さて、ではセクター君の病室も用意してもらわねば。


「済まない、この子の部屋を用意してもらえないだろうか」

『畏まり、マシタ』


 ふむ、良くできた魔法人形だ。

 自律可能の人形が完成したというのはここ最近で話題になっていたが、ここまでの完成度とは。

 『解析』が捗る。


『デハ、此方へどうぞ』

「有り難う」


 ふと思ったが、これから私は教育者としてこの子に教育を施すわけだ。

 三大魔法師の威厳を出すべきか出さないべきか……どうしたものだろうか。


 そんなことを考えながら、人形の後に着いていく。

 病院内はどこもかしこも風魔法により余計なものが入らないようになっている。

 ここまで出来る魔法師はそうはいない。


『着きました、貴方も此処に、イマスカ?』

「そうさせていただこう。この子を見守らねばならないのでね」

『此方、飲み物です。ゴユックリ』


 さて、教育カリキュラムを組んで目覚めを待つとしよう。






 ジェネクスはそれからメモ帳に延々と書きつづけた。

 部屋にはカリカリという音だけが響き……セクターが起きるまでひたすら待つのであった。






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