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人を呪わば…。

その日の帰り道、結季は校門を出たところで足を止めた。正確には止めさせられた。


「待ってたわ。ちょっと、いいかしら?」


不破繭子が結季に向かって微笑んでいた。


「まずはお礼を言っておくわ。今日はありがとう。」

「いえ、あの…私に何か?」


結季は昼に考えていたことを思い出してしまい、ちょっと身構えた。


「運んだの、祐也なんですってね。知り合いだったの?」


思わず肩を震わせてしまったが、二人で保健室に運ぶのは他の生徒にも見られたし、昼休みのうちに噂になってしまっていたのだから、ばれない方がおかしかった。


「知り合いという程では…昨日、相談をされまして…『呪い』のことで。」


『呪い』という言葉に繭子の表情がかすかに動く、がその感情を見極めるよりも早く、繭子は穏やかな頬笑みを見せた。


「そう、祐也も気にしてしまっていたのね。私が呪うなんて言ったから。大丈夫よ。彼を呪ったりしないわ。」

「藤堂先輩、以外は呪ったりしたことが…?」

「誰の事かしら?」


笑顔が深くなった。結季は背筋を駆け上がる悪寒に一歩後ずさる。


「……っぷ、あははは、怯えちゃって、可愛いわ。」


突然繭子の雰囲気が変わった。声をあげて笑い、結季の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「冗談よ。本気で呪ったりできるわけないでしょう。」


そう言って笑う様子は気さくな上級生としか見えない。結季はあっけにとられた。

しかし屈託なく笑う繭子に段々疑ったことが申し訳なくなってきた。


「すみません。不破先輩。私、失礼なことを。」

「祐也があの後保健室まできて、謝られたの。傷つけてごめんって。呪うなんて言って、困らせたのは私の方なのに。」


繭子が切ない笑みを浮かべる。


「今日はお礼と謝罪がしたかったの。下敷きにしてしまったし、色々心配もかけたみたいだから。」

「不破先輩…。」


それじゃあ、と踵を返した繭子を結季は何も言えず見送った。




その夜、結季はテスト勉強をしながらも、昼間のことが気にかかり、なかなかはかどらなかった。


「鷹見さんに相談…でも結局は呪いじゃなかったんだから鷹見さんに話すのは違うよね。」


携帯電話を出してしばし眺めるが、ため息とともにしまい込む。


「呪いじゃなかったとすると、藤堂先輩にまつわる女性の不幸は全部偶然ってことになるのよね。」


偶然にしては噂になるほど不幸が重なっていたりするのが気にかかるが、調べようがない。


「でもなんだかすっきりしないな…。何か引っかかる…。」


結季はブツブツ言いながら空中を見つめる。人が見たら完全に幽霊と会話する霊媒師の図である。


「本当に…偶然、なのかな?」


結季の頭の中で各務の話や青白い顔の祐也、そして繭子の顔が浮かぶ。


「………ん?」


結季の中で疑問が形をなす。


「不破先輩も不幸に遭ってる…?」


不自然に倒れた繭子の背中を思い出す。貧血にしては不自然な倒れ方、まるで何かに押されたような…。


「不破先輩ではない誰かが二人に呪いをかけた…とか?でも不破先輩と藤堂先輩が付き合い始めた頃は何も起きてない…。」


結季は行き詰って机に突っ伏した。


「実際に呪いがあったのかもわからないし、あったとしても呪いをかける理由がある人の方も被害に遭ってる…。どうなってるんだろ?」


それでも偶然で片付けるには違和感が残る。


「うう~気になって勉強が進まない。」


結季の前には手つかずの復習問題とノート。


「呪いじゃなかったら他人のプライベートに首を突っ込むことになるけど、呪いだったら放ってもおけないし…。」


結季は気合を入れ直して、再び携帯電話を手に取った。


『もしもし、晴海か?どうした?』

「あ、鷹見さん、夜分遅くにすみません。えっと…先日お伺いした呪いのお話で気になることがあって…。」


他人の色恋を詳しく話すのも気が引けて、結季は呪いについての質問に絞ることにした。


『…それは構わないが…晴海、お前テストは大丈夫なのか?』


至極もっともな指摘を受けた。


「気になってしまって勉強が手に着かないので…。」


正直に言うと電話の向こうでため息が聴こえた。

呆れられたかな、と結季は今さらながら恥ずかしくなる。

テスト勉強のためにバイトの休みを申請しておきながら、連日テストと無関係の電話をしているとなれば心配にもなるだろう。


「すみません…。やっぱり…。」

『何が気なってるんだ?言ってみろ。』


そそくさと電話を切ろうとすると春希の方から話を振ってきた。声も心なしか優しい。

その声に後押しされるように、結季は口を開いた。


「えっと、呪いをかけた方が不幸な目に遭うことってあるんですか?」

『そりゃあるぞ。人を呪わば穴二つっていうだろ?呪いは掛けた方もかけられた方も不幸を招く。』


結季の携帯を握る手に力がこもる。


『呪いの基本は相手の魂に対する攻撃だ。例えば触れるだけで火傷する毒を相手に浴びせようとして手酌で掬ったら自分も毒を受けるだろ?』

「直接触らないようにすることはできないんですか?」

『道具を使うみたいに、自分だけが毒を受けないようにする方法もある。だがそれができるのはプロの術者だ。』


その言葉が本当なら、繭子の不幸と祐也の体調不良が呪いによるものである可能性がでてきてしまう。


「…呪われているかもしれない人が、本当に呪われているかどうかを確かめる方法ってあるんですか?」

『…俺が直接視るか…もしくは写真でも一応わかるぞ。』

「写真…ですか?」

『ああ、気になるんならメールで送ってくれ。』

「やってみます。ありがとうございます。」


祐也が呪われていないことがはっきりすれば、これ以上繭子を疑わないで済む。

結季はとりあえず解決策を見出したことで、安堵する。


『いや、べつにいいが。お前、本当にテストは大丈夫なのか?』

「……あ。だ、大丈夫です。気になっていたことがすっきりしたので、今から頑張ります!」

『ああ、頑張れよ。』


電話の向こうで苦笑する春希の声に結季は穴があったら入りたい気分になった。


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