序章
「テスト週間?」
「はい、なので今週末と来週の週末まで身代りでの心霊相談ができないのですが、大丈夫でしょうか?」
駅前の静かなカフェ。
いつもの心霊相談終了後、奥のボックス席で向かい合って座る鷹見春希に、晴海結季はそういえば、と再来週からはじまる期末テストの日程の話を切り出した。
「ああ、かまわない。元々相談者と会う日程は学生のお前の休日の都合に合わせるようにしていたからな。」
春希は今日の相談者の話を書き留めたメモやいつも使っている小型マイクなどの機材を片付けながら結季の言葉に了承を返す。
「対面での相談を持ちかけられたらそのままテスト週間で会えないと返事するだけだ。」
そう言いながらスマホのスケジュールに結季から聞いたテスト期間の日程を書き込むと、春希はまじまじと結季を見た。
「…?なんですか??」
「いや、お前は見かけによらず老成してるから、そう言えばまだ高校生だったんだな…と…。」
「…鷹見さん。」
「っ?!!」
しみじみと口にした春希は結季の凄絶な笑顔を見た瞬間、凍りついた。
「今後の為に忠言させていただきますけど、たとえ女子高生相手といえど、女性相手に見た目と年齢の話題は気をつけて口にしていただかないと。」
「…あ、ああ、すまん。失言だった。」
端整な顔を引き攣らせて謝る春希に結季はこれ見よがしのため息をつく。
「…今回は許してあげます。鷹見さんは見た目が細やかそうなのに、性格が少し大雑把だと思いますよ。」
「悪かった。お詫びに何か奢るから頼めよ。」
差し出されたメニューを眺めながら、結季はそっと春希の顔をうかがう。
濃い茶色の髪は清潔感のある長さで自然にセットされ、アンダーリムの眼鏡に切れ長の瞳、高くまっすぐな鼻梁と薄い唇。
見た目だけならクールビューティーなキャリア官僚といった風情だ。
「(見た目のギャップって、鷹見さんも人のこと言えないと思う。)」
とても心霊現象や怪奇現象に興味があったり、ましてや霊能力者なんてものには見えない。
春希はこの見た目で何度か心霊体験の相談者から逃げられているため、『見た目だけなら』立派な霊能力者に見える結季を身代りに立てているのだ。
「(鷹見さんて顔だけ見ると冷血漢っぽいのに、実は情に脆いし、口は悪いし、熱血なところもあるのよね…。)」
結季がぼんやり考えていると、春希が呆れたように溜息をついた。
「そうやってなにもいない空中をじっと見つめるから幽霊が見えるなんて噂されるんだぞ。」
春希を見ていたはずなのにいつの間にか空中を見つめていたらしい。
結季はあわててメニューに視線を落とした。