第二話 ~出会い~
「でさー…」
間を持たせるためだろうか。
俺が話さないのを、きっかけに
ずっとしゃべっている。
だが、俺はついて来てもいいとはいってない。だから、無視するのは当たり前だ
「どう思う?」
だが、必ず何かを問う。
無視すればいいのだが、俺はそこまで酷くは無い。
「それでもいいんじゃないか?」
だから、適当に受け流す。
「えー!でもさー…」
まだ、続くのか。
といっても、やる事が無い。
なにもする気は起きないし、お腹が空くわけでも無い。
時折、眠くはなる。だけど、寝てはいけないと、頭の何処かで静止する。
「寝ちゃダメだよ。」
「え?」
「答えが出るまで、寝ちゃダメだよ。」
この子は、何処まで俺のことを知っているのだろうか。いつから?どこから?
「なぁ、お前は誰なんだ?」
この質問を、何故今までしなかったんだろう。自分でも、不思議に思った。
「私の名前はシキ。ん~、天使かな」
「天使?なんで、天使なんかが死神に…」
「だから、答え待ち。」
「いつから?」
「……ずっと前から。」
とても、悲しそうな顔したような気がした。だが、瞬時にそれは笑顔に変わる。
「君は?」
「……光だ。」
「ヒカルね…死神にしては、明るすぎる名前ね」
「悪かったな。…お前も、天使にしては 死期なんて名前…」
「シキなんて、他にもあるでしょ。」
「まぁ、そうだけど」
「ちなみに、四季のほう。」
「四季ね…」
その瞬間だった。急に立ち上がった自分
不思議そうに見るシキ。
あぁ、末人が呼んでいるんだな。
勝手に体が動く。末人の方向へ。
無意識に身を任せる。
「あと、10分です」
また、ここか。同じ病院。
今回は、50代くらいの女性。
隣に、夫だろうか。寝てしまっている。
「そう……ねぇ、死神さん。」
話しかけて来た。
珍しい、いつもなら、抵抗するのに。
「死神さんに聞くのも変だけど。死ぬことって、どう思う?」
「死ぬこと…。」
嫌なこと?怖いこと?悲しいこと?
いや。
「人は誰だって、死にます。だから、当たり前なことだと。」
当たり前。そう。当たり前なのだ。
「冷たい人ね。まぁ、死神さんに聞いた私も馬鹿だけど。」
笑っている。この人は、死を恐れないのか。
「でも、あなたくらいの…あ、実年齢と違ったらごめんなさい。その…20代くらいの人が、急に死んだら。どう思う?」
「…残念ですね。でも、死期が早まっただけです。」
「そうかもしれないわね。…じゃあ、私みたいな高齢が、死んだら?」
「…あまり、なにも。」
「そうよね。私も少なからずそう思うわ。若くて、まだこれからって人が死ぬのは、凄く悲しいけど。もう、頑張ってもキリがある年齢の人が死んでも、…悲しい、悲しいわよ?だけど、仕方が無いと思うの気持ちもあるのよね。」
仕方が無い。そうだ。仕方が無いのだ。
それが、寿命なのだから。
「でもね、この人ったら、一生懸命世話をしてね。私じゃなくて、貴方が死んじゃうんじゃない?って、思うくらいよ」
隣で、付き添いながら、椅子に座る男を指差して言う。
その疲れなのだろう。ぐっすり寝てしまっている。
「私は、昔から体が弱くてね。心臓も良くなかったの。いつ死んでもおかしくないくらい。でも、この人は、ずっと支えてくれてね…」
懐かしいような顔で、男を眺める。
「そんな、お世話しなくていいのに」
「余計なお世話と?」
「本当。余計なお世話。…だって、死ぬのが怖くなるじゃない。」
視線を俺に直す。少し、涙目になっていた。
「患者にとってね。特に、死が見えそうな人わね。頑張ってとか、付き添うからねとか…それが、一番辛いのよ。世話をすればする程、私は、もう長くないのかなって、そう…悲観的に考えちゃうのよ。」
確かに、心強いかも知れない。
だけど、それと同時に苦痛でもある。
会えば会う程、別れを惜しむように。
優しくされればされる程、傷つけられるのだ。
でも、まだ。自分には、あまり理解できなかった。
「あーあ…昔から覚悟はしてたんだけどな。結婚して、優しくされて。尽くしてくれるのは、凄く嬉しいのに…。怖い。私…死ぬのが怖くなっちゃったなぁ…」
声が、震えている。
だんだん、涙が抑えられなくなっている
死を恐れないのかと思った。
でも、やっぱり同じだった。
でも。強いな。と、思った。
「そろそろ…お時間です。」
「結局、最後まで目を覚まさなかったわね。この人」
苦笑いをしながら、夫に手を差し伸べた
高鳴る、機器の音。一定の音が、部屋中、鳴り響く。
「……!!百子?百子!!」
夫が、手を握って、体をさする。
すぐに、医者や看護婦が来た。
忙しなく、最後の手段をとる。
俺は、泣き崩れる夫を背に、病室から出た。
部屋を出て、扉のすぐ横にシキがいた。
「どうだった?」
「はっ?」
突然過ぎて、声が裏返った。
いつからいたんだ。
「ねぇ、ちょっとついて来て」
そう言ってシキは、俺の手をとる。
温かかった。これが、温もりなのかな。
「走るよ」
俺の手を引き、走り出した。
なんか、久しぶりの感覚だ。




