表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

第二話 ~出会い~

「でさー…」


間を持たせるためだろうか。

俺が話さないのを、きっかけに

ずっとしゃべっている。


だが、俺はついて来てもいいとはいってない。だから、無視するのは当たり前だ


「どう思う?」


だが、必ず何かを問う。

無視すればいいのだが、俺はそこまで酷くは無い。


「それでもいいんじゃないか?」


だから、適当に受け流す。


「えー!でもさー…」


まだ、続くのか。

といっても、やる事が無い。

なにもする気は起きないし、お腹が空くわけでも無い。

時折、眠くはなる。だけど、寝てはいけないと、頭の何処かで静止する。


「寝ちゃダメだよ。」


「え?」


「答えが出るまで、寝ちゃダメだよ。」


この子は、何処まで俺のことを知っているのだろうか。いつから?どこから?


「なぁ、お前は誰なんだ?」


この質問を、何故今までしなかったんだろう。自分でも、不思議に思った。


「私の名前はシキ。ん~、天使かな」


「天使?なんで、天使なんかが死神に…」


「だから、答え待ち。」


「いつから?」


「……ずっと前から。」


とても、悲しそうな顔したような気がした。だが、瞬時にそれは笑顔に変わる。


「君は?」


「……光だ。」


「ヒカルね…死神にしては、明るすぎる名前ね」


「悪かったな。…お前も、天使にしては 死期なんて名前…」


「シキなんて、他にもあるでしょ。」


「まぁ、そうだけど」


「ちなみに、四季のほう。」


「四季ね…」


その瞬間だった。急に立ち上がった自分

不思議そうに見るシキ。

あぁ、末人が呼んでいるんだな。

勝手に体が動く。末人の方向へ。

無意識に身を任せる。



「あと、10分です」


また、ここか。同じ病院。

今回は、50代くらいの女性。

隣に、夫だろうか。寝てしまっている。


「そう……ねぇ、死神さん。」


話しかけて来た。

珍しい、いつもなら、抵抗するのに。


「死神さんに聞くのも変だけど。死ぬことって、どう思う?」


「死ぬこと…。」


嫌なこと?怖いこと?悲しいこと?

いや。


「人は誰だって、死にます。だから、当たり前なことだと。」


当たり前。そう。当たり前なのだ。


「冷たい人ね。まぁ、死神さんに聞いた私も馬鹿だけど。」


笑っている。この人は、死を恐れないのか。


「でも、あなたくらいの…あ、実年齢と違ったらごめんなさい。その…20代くらいの人が、急に死んだら。どう思う?」


「…残念ですね。でも、死期が早まっただけです。」


「そうかもしれないわね。…じゃあ、私みたいな高齢が、死んだら?」


「…あまり、なにも。」


「そうよね。私も少なからずそう思うわ。若くて、まだこれからって人が死ぬのは、凄く悲しいけど。もう、頑張ってもキリがある年齢の人が死んでも、…悲しい、悲しいわよ?だけど、仕方が無いと思うの気持ちもあるのよね。」


仕方が無い。そうだ。仕方が無いのだ。

それが、寿命なのだから。


「でもね、この人ったら、一生懸命世話をしてね。私じゃなくて、貴方が死んじゃうんじゃない?って、思うくらいよ」


隣で、付き添いながら、椅子に座る男を指差して言う。

その疲れなのだろう。ぐっすり寝てしまっている。


「私は、昔から体が弱くてね。心臓も良くなかったの。いつ死んでもおかしくないくらい。でも、この人は、ずっと支えてくれてね…」


懐かしいような顔で、男を眺める。


「そんな、お世話しなくていいのに」


「余計なお世話と?」


「本当。余計なお世話。…だって、死ぬのが怖くなるじゃない。」


視線を俺に直す。少し、涙目になっていた。


「患者にとってね。特に、死が見えそうな人わね。頑張ってとか、付き添うからねとか…それが、一番辛いのよ。世話をすればする程、私は、もう長くないのかなって、そう…悲観的に考えちゃうのよ。」


確かに、心強いかも知れない。

だけど、それと同時に苦痛でもある。

会えば会う程、別れを惜しむように。

優しくされればされる程、傷つけられるのだ。

でも、まだ。自分には、あまり理解できなかった。



「あーあ…昔から覚悟はしてたんだけどな。結婚して、優しくされて。尽くしてくれるのは、凄く嬉しいのに…。怖い。私…死ぬのが怖くなっちゃったなぁ…」


声が、震えている。

だんだん、涙が抑えられなくなっている


死を恐れないのかと思った。

でも、やっぱり同じだった。

でも。強いな。と、思った。


「そろそろ…お時間です。」


「結局、最後まで目を覚まさなかったわね。この人」


苦笑いをしながら、夫に手を差し伸べた



高鳴る、機器の音。一定の音が、部屋中、鳴り響く。


「……!!百子?百子!!」


夫が、手を握って、体をさする。

すぐに、医者や看護婦が来た。

忙しなく、最後の手段をとる。


俺は、泣き崩れる夫を背に、病室から出た。

部屋を出て、扉のすぐ横にシキがいた。


「どうだった?」


「はっ?」


突然過ぎて、声が裏返った。

いつからいたんだ。


「ねぇ、ちょっとついて来て」


そう言ってシキは、俺の手をとる。

温かかった。これが、温もりなのかな。


「走るよ」


俺の手を引き、走り出した。

なんか、久しぶりの感覚だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ