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宝石を飲む

作者: 林代音臣
掲載日:2026/05/29


 早く元気になってねと言われたから、ありがとうと言った。 

 明るく戻ってくれて良かった、君がへこんでいると寂しいよと言われたから、もう大丈夫だよと言った。 

 そうしたら、あの人もこの人も笑ってくれた。


 もらった言葉を飲み込まなくちゃ。

 ルビーのように赤く輝く、早く元気になってね。

 サファイアのように深く光る、明るく戻ってくれて良かった。

 ダイヤモンドのように周りを照らす、君がへこんでいると寂しいよ。

 どれもこれもとっても綺麗で、どれもこれも、とっても硬い。喉を通すのも一苦労だ。


 ふむ。どうやら胃の中でつっかえているみたい、前に飲んだものもそういえばそのままだから。

 胸が詰まったように痛んで、息が上手く吸えなくなる。

 こんなときは、グーッと強く圧縮するんだ。

 押し込むように、宝石を粉々にしながら、ぎゅーっとぎゅーっと……。

 ほら小さくなって、また息が吸えるようになった。


 ある日、貴方の弱いところも見たいと言ってくれる人が現れた。

 私の前では素直で居ていいんだよと。

 だから僕は、胃の中の宝石を少し吐いてみた。

 最早宝石とは呼べないような、圧縮された何かだった。

 その人はその何かを見ると、すぐにゴム手袋をした手でそれを掴んでゴミ箱に捨てて。

 そうして、嬉しそうに笑った。

「良かった。吐き出せたから、早く元の貴方に戻ってくれるね」

 ……僕は笑った、そうだねって。

 もう大丈夫と伝えたら、その人はもっと嬉しそうだった。

 力になれて嬉しい、また頼ってねと言ってくれた。

 だから、僕はときたま、まだ少し綺麗な宝石の欠片だけを吐き出して見せることにした。

 頼られてると、思わせてあげたかった。


 みんなは、世界は、思ったより弱者に優しい面もある。

 でもそれには条件があって。

 元に戻りたい、元気になりたい……そう思って、頑張る弱者に優しい。

 努力も怠る、手を伸ばすこともしない弱者には、手を差し伸べてはくれない。

 掴む手が見当たらないんだから、それは至極当たり前のことだった。


 当たり前のことなのに。

 どうして、目の前の君は僕に手を差し伸べてくれるんだ。

 君の胃には僕と同じくらい……僕以上に、圧縮された宝石が詰まっていそうなのに。

 動くだけで内蔵が重くて、しんどくて仕方ないだろうに。

 驚いて、気が抜けて。僕は胃の中の宝石だった何かを一部吐いてしまった。

 君はぼんやりと、それを見つめた。

 綺麗だとも言わず、かと言って汚いとも言わなかった。ゴミ箱にも捨てなかった。

 ただただ、地面の上の私の何かを見て……そうして、それのお返しかのように、君も何かを少し吐き出した。

 もう何かわからないほど圧縮された、数多の色が混ざり合った灰色の塊だった。

 吐いちゃったねと僕が小さく言ったら、君は、そうだねと言った。

 綺麗じゃなかったと思う。でも、汚くも無かった。


 君が体を揺する度に、また、内側からジャリジャリと、粉々になった宝石が擦れる音がした。

 それなのに君が笑うから。慣れたことのように振る舞うから。

 僕にそんな力ないのに、無茶苦茶なことはわかっているのに。

 君の中の宝石を全部、吐き出させてあげられたらどんなにいいだろう、なんて。

 願わくば、僕の側を吐き出す場所に選んでくれたら、なんて。


 君の胃の中がジャリジャリ鳴って。

 僕の胃の中も呼応するように、ジャリジャリと音を立てる。

 多分この音は、僕らにしか聞こえない。

 苦しいはずなのに、それが嬉しかった。

 君の中で砕けた宝石の音が聞こえる耳を持っていることが、誇らしくて。

 ああ、たくさん宝石をすり潰して飲んできた甲斐があった、なんて。

 そんな馬鹿みたいなことを思うほどに。

 それくらい……君が愛おしいと思った。 





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