宝石を飲む
早く元気になってねと言われたから、ありがとうと言った。
明るく戻ってくれて良かった、君がへこんでいると寂しいよと言われたから、もう大丈夫だよと言った。
そうしたら、あの人もこの人も笑ってくれた。
もらった言葉を飲み込まなくちゃ。
ルビーのように赤く輝く、早く元気になってね。
サファイアのように深く光る、明るく戻ってくれて良かった。
ダイヤモンドのように周りを照らす、君がへこんでいると寂しいよ。
どれもこれもとっても綺麗で、どれもこれも、とっても硬い。喉を通すのも一苦労だ。
ふむ。どうやら胃の中でつっかえているみたい、前に飲んだものもそういえばそのままだから。
胸が詰まったように痛んで、息が上手く吸えなくなる。
こんなときは、グーッと強く圧縮するんだ。
押し込むように、宝石を粉々にしながら、ぎゅーっとぎゅーっと……。
ほら小さくなって、また息が吸えるようになった。
ある日、貴方の弱いところも見たいと言ってくれる人が現れた。
私の前では素直で居ていいんだよと。
だから僕は、胃の中の宝石を少し吐いてみた。
最早宝石とは呼べないような、圧縮された何かだった。
その人はその何かを見ると、すぐにゴム手袋をした手でそれを掴んでゴミ箱に捨てて。
そうして、嬉しそうに笑った。
「良かった。吐き出せたから、早く元の貴方に戻ってくれるね」
……僕は笑った、そうだねって。
もう大丈夫と伝えたら、その人はもっと嬉しそうだった。
力になれて嬉しい、また頼ってねと言ってくれた。
だから、僕はときたま、まだ少し綺麗な宝石の欠片だけを吐き出して見せることにした。
頼られてると、思わせてあげたかった。
みんなは、世界は、思ったより弱者に優しい面もある。
でもそれには条件があって。
元に戻りたい、元気になりたい……そう思って、頑張る弱者に優しい。
努力も怠る、手を伸ばすこともしない弱者には、手を差し伸べてはくれない。
掴む手が見当たらないんだから、それは至極当たり前のことだった。
当たり前のことなのに。
どうして、目の前の君は僕に手を差し伸べてくれるんだ。
君の胃には僕と同じくらい……僕以上に、圧縮された宝石が詰まっていそうなのに。
動くだけで内蔵が重くて、しんどくて仕方ないだろうに。
驚いて、気が抜けて。僕は胃の中の宝石だった何かを一部吐いてしまった。
君はぼんやりと、それを見つめた。
綺麗だとも言わず、かと言って汚いとも言わなかった。ゴミ箱にも捨てなかった。
ただただ、地面の上の私の何かを見て……そうして、それのお返しかのように、君も何かを少し吐き出した。
もう何かわからないほど圧縮された、数多の色が混ざり合った灰色の塊だった。
吐いちゃったねと僕が小さく言ったら、君は、そうだねと言った。
綺麗じゃなかったと思う。でも、汚くも無かった。
君が体を揺する度に、また、内側からジャリジャリと、粉々になった宝石が擦れる音がした。
それなのに君が笑うから。慣れたことのように振る舞うから。
僕にそんな力ないのに、無茶苦茶なことはわかっているのに。
君の中の宝石を全部、吐き出させてあげられたらどんなにいいだろう、なんて。
願わくば、僕の側を吐き出す場所に選んでくれたら、なんて。
君の胃の中がジャリジャリ鳴って。
僕の胃の中も呼応するように、ジャリジャリと音を立てる。
多分この音は、僕らにしか聞こえない。
苦しいはずなのに、それが嬉しかった。
君の中で砕けた宝石の音が聞こえる耳を持っていることが、誇らしくて。
ああ、たくさん宝石をすり潰して飲んできた甲斐があった、なんて。
そんな馬鹿みたいなことを思うほどに。
それくらい……君が愛おしいと思った。




