驚いてあげてください
「う、うわあああ!」
廃病院に侵入した若い男はそんな情けない声をあげて走り出した。その後ろを血で汚れたぼろぼろの入院着を身につけ、長い髪で顔を覆った女性が追いかける。
走っているようには見えないどころか、足を動かしているようにも見えないというのに、全力で走る男との距離がまるで変わらない。
なんとか病院を逃げ出した男は、そのまま外で待機していた車に転がり込むように乗り込んだ。それと同時に車が走り出す。
息を整えた男は、後部座席から助手席に座る女性に話しかけた。
「これで良いんすか?」
「はい、十分です。ありがとうございます」
女性はそう言うと助手席から身をよじり男に封筒を手渡した。厚みからかなりの枚数の札が入ってることが分かる。
男は微妙な表情をすると、こう呟いた。
「簡単な仕事で大金がもらえるから俺は文句ないんすけど、これ本当にやる意味あるんすか?」
「幽霊は驚いてくれる人がいないと消えてしまうんですよ。絶滅危惧種は保護しないといけないでしょう?」