表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/48

17.この夏、君の水着にやられました

 「――あっつ……」


 蓮は玄関先でペットボトルの水をあおりながら、家の中に向かって声をかけた。


「おーい、準備できたか?」


「ちょっと待ってー!日焼け止め、紗耶ねえの借りるから!」


「もうっ、さっき自分の持ったって言ったじゃん!」


 2階からわちゃわちゃした声が聞こえる。

 どうやら、支度はもう少しかかりそうだ。


 蓮はドアの前に立ったまま、スマホで今日行くプール施設のサイトをチェックする。

 屋内外に流れるプール、スライダー、軽食コーナーあり。なかなか広そうだ。


 そんなとき、階段を駆け下りる音。


「おまたせー!」


 一番に現れたのは芽衣だった。白いフリル付きのキャミとショートパンツ。

 元気な雰囲気そのままの夏コーデに、リュックを背負って笑顔。


「お兄ちゃん、今日のテーマは“ギャルでも泳げる”だから!」


「泳ぐ以前に、そのテンションで体力持つか心配だよ……」


 続いて現れたのは紗耶。薄手のブラウスにロングスカート、帽子をかぶって日焼け対策も万全。

 ……が、蓮は一瞬だけ視線をそらした。


 (え、なんか、思ってたより……夏っぽい……)


「何?」


「いや、なんでも……」


 心の中で“かわいい”の四文字が出かけて、慌てて口をつぐんだ。


 


 駅で柚月と合流し、電車を乗り継ぎながら目的地へ向かう。

 到着したのは、市内でも有名な大型の屋外プール施設。ファミリーも学生も多く、夏休みらしいにぎやかさが漂っていた。


「じゃ、女子組は更衣室で!お兄ちゃんはこっち!」


 芽衣に押されるように男子更衣室に入った蓮は、着替えながらひとりごちた。


「……これ、俺なにしに来たんだっけ」


 周囲の男子たちが楽しげに水着姿を見せ合っているのに対し、蓮は黙々とラッシュガードを羽織る。

 それが完成された防御であることを、彼はまだ知らない。


 


 数分後――


「おーい、お兄ちゃん!こっちー!」


 芽衣の声に導かれ、プールサイドに出る。

 そして、目の前に立っていた3人を見た瞬間、蓮の頭が真っ白になった。


 芽衣は元気なビタミンカラーのビキニ、柚月は大人っぽいネイビーのワンピースタイプ。

 そして――


「……っ」


 紗耶は、淡いラベンダーのセパレート。シンプルだけど品があって、ほんの少しだけ肌が見えていた。


 「ど、どうかな……?」


 紗耶が小さく聞いたとき、蓮は一瞬、言葉を忘れていた。


「……似合ってる」


「っ……そ、そっか……ありがと」


 目をそらし合いながら交わされたそのやりとりを、柚月はしっかり目撃していた。


「おっほ〜、何この空気!ウチ蚊帳の外!?どっちも顔真っ赤じゃん!」


「う、うるさいっ!」


 


 その後は、ウォータースライダーを3人に引っ張られながら滑ったり、流れるプールで流されたり、アイスを食べて休憩したり。

 笑って、叫んで、また笑って。まるで小学生に戻ったかのように時間が流れていった。


 その途中、休憩ベンチで、紗耶と蓮だけが並んで座る場面があった。


「なんか……楽しいね、こういうの」


「うん。意外と、悪くなかった」


「意外とってなに。もうちょっと素直に言えば?」


「……めっちゃ楽しいです」


「ふふ、よろしい」


 日差しはまぶしく、けれど風はどこか心地よかった。




 午後も後半に差しかかった頃、蓮たちはプール脇の芝生エリアで休憩を取っていた。


 「ん〜、さすがに遊びすぎた〜……」


 芽衣がタオルを頭からかぶってぐったりしている。

 柚月は自販機で買ったスポーツドリンクを飲みながら、視線を空へ向けた。


「このまま昼寝したら、絶対焼けるよね……」


「そりゃそうだろ。日焼け止め塗り直しとけよ」


「……蓮くん、わたしにも塗ってくれる?」


 冗談めかして言う柚月に、蓮は半眼になった。


「自分でやれ。もしくは芽衣に頼め」


「ちぇー、つれない〜。紗耶なら塗ってくれるのに〜」


「え、わたし!?」


 突然ふられた紗耶は、ペットボトルを持ったまま固まる。

 その様子を見て、芽衣が寝転んだまま手を振った。


「じゃあ、みんな塗り合いっこすれば〜?」


 そんなふうに笑い合っていると、柚月がふと呟いた。


「なんかさ、こういう日が毎年続くといいね」


「……うん。続くといいな」


 紗耶がぽつりと答えたその声は、いつもより少しだけ静かだった。

 横目でその表情を見た蓮は、目を伏せる。


 (“続くといいな”って……何気なく言っただけ、だよな?)


 けれど、心の奥に小さな波紋が広がっていく。

 冷たいプールよりも、ずっと確かに。


 


 帰り道。4人は濡れたタオルをバッグに詰め、疲れた足取りで最寄り駅へ向かっていた。


「今度は……夜の花火とか見たいな〜」


「いいね。次は浴衣だね」


「お兄ちゃん、またラッシュガードで来る気じゃないよね?」


「別に、俺はそれで……」


 そんなくだらないやりとりをしながら、笑い声が響く。


 夏は、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ