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16.水着選びは、恋の作戦会議?

 「お兄ちゃん!明後日、プール行くよ!市民プールのちょっとお高いやつ!」


 リビングに現れるなり芽衣が叫んだ。ソファでスマホをいじっていた蓮は、面倒くさそうに顔を上げる。


「……勝手に決めんな。俺は行くなんて一言も――」


「紗耶ちゃんも柚月ちゃんも行くって!はい、これで3対1ね?」


 そう言いながら芽衣はすかさず紗耶に目配せを送る。

 紗耶は小さくため息をつきながらも、どこか楽しげに言った。


「まあ、夏らしいしね。行きたいなって思ってたところ」


「紗耶までかよ……」


 蓮が頭を抱えていると、柚月からもLINEの通知が届く。


柚月:蓮くん、妹2人+親友の笑顔より大事な予定があるの?

柚月:ないよね?(スタンプ:ねこパンチ)


 ――こうして、プール行きはほぼ強制的に決まった。


 


 「で、問題は水着よ水着!」


 午後。3人はショッピングモールに集まっていた。

 芽衣が腕を組んで、まるで部隊長のように宣言する。


「私のは去年のあるけど……紗耶ねえ、新しいの買お?」


「えっ、別に、去年のでも……」


「ダーメ! 紗耶ねえの“彼の前で着る初水着”、去年のってどうなのよ!」


「ちょっと、何言って……! 別に、そんなつもりじゃ……っ」


 顔を真っ赤にして紗耶が慌てる。芽衣は勝ち誇った顔。


「柚月ちゃんも選ぼうね!あ、でも柚月ちゃん、脱いだらすごい系?」


「ふふ、どうでしょ。期待しちゃう?」


 柚月は余裕の笑みを浮かべながら、鏡に映る自分の髪を直す。

 女子たちのテンションは完全に“試着モード”に突入していた。


 


「ねえねえ、これどう? ピンクのフリルつき!」


「それ、可愛いけど……ちょっとアピール強すぎない?」


「じゃあ、これは? 黒のシンプルだけど、形きれいなやつ」


「……紗耶ねえ、それめっちゃ似合うと思う」


「ふぇっ……!? そ、そう……?」


 次々と試着室から出てくる紗耶に、芽衣が的確にツッコミを入れ、柚月が写真を撮り、紗耶が顔を赤くする。

 完全に“姉妹&親友の女子会”が完成していた。


 


 試着が一段落すると、3人でフードコートに移動した。


「それにしても、あの人……ちゃんと見てくれるかな」


 ふと紗耶がつぶやくと、柚月がニヤリとする。


「“あの人”って誰? 蓮くん?」


「ち、違っ……! べ、別に、そういうんじゃないからっ!」


「嘘つけ〜、試着室で5回はお兄ちゃんのこと言ってたよこの人〜」


「芽衣っ! それ言わなくていいやつ!!」


 夏の午後、冷房の効いたモールの中で、少女たちは笑い合った。

 水着の準備は万端。あとは――プールで、あの人の目にどう映るか、だけ。




 ショッピングモールを出た頃には、空はすっかり夕暮れに染まっていた。

 駅までの道を歩きながら、芽衣が大きな紙袋をぶんぶん振ってはしゃいでいる。


「いや〜、今日も良き買い物だったわ〜。紗耶ねえの反応が全部かわいかった!」


「……はしゃぎすぎ」


 紗耶は疲れたような顔でそう言ったが、口元はわずかに緩んでいた。


「でもでも、柚月ちゃんの水着も最強だったよね。あれ、お兄ちゃん見たら一発アウトだよ?」


「アウトってなにさ。むしろ紗耶のほうが破壊力すごかったし」


「言わなくていいってばぁ!」


 信号を渡るタイミングで、芽衣がふと顔をあげた。


「あれ、あそこの角にさ、かき氷屋できてる……寄る?」


「行く!」


「行こ!」


 秒で意見が一致するのは、こういうときの女子たちの強さだ。


 


 一方その頃――


 蓮はリビングのソファで、アイス片手にのんびりしていた。


「静かだな……」


 昼間から出かけている2人の帰りはまだらしく、家の中は妙に広く感じる。

 何気なくスマホを開くと、芽衣から写真が何枚も送られていた。


芽衣:今日の成果!!

芽衣:どれが誰の水着でしょーか!笑


 ぼやけた鏡越しの写真。さすがに顔は写っていないが、布の色と形はしっかり分かる。


「……あいつ、またこんなもん……」


 呆れつつも、視線が自然と写真に吸い寄せられる。

 ふと、一枚の淡いラベンダー色の水着に目が止まった。大人しめだけど、少しだけ肩を強調するようなデザイン。


(……これ、紗耶のかな)


 無意識にそう思って、慌ててスマホを閉じた。


「いや、考えるな俺……」


 顔を両手で覆って深くため息をつく。

 いつからだろう。妹になったはずの彼女を、妹としてだけ見られなくなっていたのは。


 そのままぼんやりしていると、玄関のドアが開いた音が聞こえた。


「たっだいまー!今日マジで暑すぎた!」


 芽衣の声が弾むように響く。少し遅れて、紗耶のやや控えめな声も。


「……ただいま」


 2人の声と笑い声がリビングに戻ってくると、家の中が一気に明るくなったような気がした。

 蓮はアイスの棒をゴミ箱に捨てながら、立ち上がって言う。


「で、どこでどれ買ったんだよ」


「んふふ〜、それは当日のお楽しみ〜!」


 芽衣が得意げに指を振ってみせる。


 やがて来るプール当日。何がどうなるか、蓮にはまだわからない。

 けれど、その日を少しだけ待ち遠しく感じている自分がいた。

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