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第1章:静かな違和感

第1章:静かな違和感


xx年9月22日


2000年に起きた怖い事件はまだ未解決にあります…犯人は未だ逃走中…


そんな怖いニュースが流れている…この街


霧のかかる街の朝、冷たい風が通りを駆け抜ける。黒髪の少女、シスリアは机に広げた資料を静かに眺めていた。その視線の先には、ここ数か月間で発生した"事故死"の報告書が並んでいる。


シスリア「不可解ですね……」


シスリアの小さな呟きが、部屋の静寂を切り裂いた。彼女の横では、マサトが大きなあくびをしながら、手元の紙をバサバサとめくっている。


マサト「シスリアさん…事故って言っても全部普通じゃないっすか? ほら、車が突っ込んだとか、階段から落ちたとか……」


シスリアは冷ややかな目を向けると、指先で一枚の報告書を示した。


シスリア「マサトさん、これは単なる"事故"でしょうか?」


その一枚には、ある男性が「自宅の階段から転落して死亡」と書かれている。しかし、シスリアの目には"見えない違和感"が映っていた。


マサト「……だって、これ……」


シスリア「彼は"自宅の階段"から転落したということですが、その階段には不自然な焦げ跡が残っていました。さらに、足元には"溶けた靴底"が残されていたんです」


マサト「焦げ……ありましたね…でもなんで階段で?」


シスリア「そこが不可解なのです。普通の転落ではありえません。つまり、これは"人為的"に仕組まれたものである可能性が高い」


マサトはキョトンとした顔をしたが、シスリアは冷静に続ける。


シスリア「これで3件目です。事故死が続いていますが、どの現場にも"痕跡"がわずかに残されている。これが彼…例のTSの仕業だと考えています」


一方、別の場所。灰色のビルの屋上で、一人の男が風に吹かれながら街を見下ろしていた。タースだ。


タース「探偵が動いているか……厄介だな」


彼の手には、シスリアの関わった事件の調査資料が握られている。まだ彼女の名前までは辿り着いていないが、探偵の存在は確実に感じ取っていた。


タース「まぁいい。どこの誰だろうと、こちらに気付いた時点で"排除対象"だ」


タースは低く笑うと、新たな"事故死"のシナリオを頭の中で描き始める。今度は完璧に――痕跡を一切残さない方法で。


物語はここから始まる。

シスリアの冷徹な推理と、タースの冷酷な計画。二人の戦いはまだ静かだが、確実に動き始めている。


第一章 静かな違和感


灰色のビルの屋上、タースは冷たい風に吹かれながら、静かに事件を思い返していた。彼の目は鋭く、まるで獲物を追う捕食者のようだ。


タース「あの事件に使ったトリック……」


タースの頭の中に、つい先日のターゲットの"事故"が鮮明に浮かぶ。


タース「ターゲットの靴底に微細なやすりを仕込んでおき……階段には見えない程度に火薬をつけた。やすりが摩擦を生み、引火する。ターゲットは驚いて足を滑らせ、転落――事故に見せかける計画だった」


彼は目を細める。


タース「……だが、正直あれは無理があった作戦だった。階段の焦げ跡も、靴底の異様な溶け方も目立ちすぎた。排除できるとも思っていなかったが……"できはした"。だが、痕跡が残りすぎた」


タースは舌打ちする。普段は完璧に痕跡を残さず"事故"に見せかける彼にとって、この作戦の"粗さ"は気に入らない。しかし、探偵が動き始めている今、計画の緻密さが以前にも増して必要だと感じていた。


階段に仕掛け発火用のモーター…動線…それ以外回収できるものじゃない


タース「急遽殺すというのはやるものじゃないな…」


タースは少し考えて


タース「…まあいい…探偵め。せいぜい頑張れ…"答え"に辿り着く前に排除させてもらうさ」



一方、その現場―― xx年9月21日


シスリアとマサトは、先日の"事故"が起こった現場に足を踏み入れていた。古びた2階建ての屋敷。その階段は、陽の光を浴びながらもどこか不気味な雰囲気を漂わせている。


シスリア「ここですね、事件が起きた場所は…やはり写真通り…」


シスリアは黒髪をかき上げ、冷静な表情で階段を見つめた。マサトは後ろで首を傾げながら呟く。


マサト「いや~普通の階段じゃん?なんでこんなところで転ぶんすかね?」


シスリア「普通、ですか?」


シスリアは小さな懐中電灯を取り出し、階段の表面をじっと観察し始める。彼女の目には、わずかな焦げ跡と溶けた靴底の痕がはっきりと映っていた。


シスリア「マサトさん、階段のこの部分を見てください」


マサト「ん? うわっ、なんだこれ!……黒く焦げてる?」


シスリア「はい。そして靴底の痕跡も残されています…」


シスリアは手袋をはめると、階段にしゃがみ込み、指先でそっと焦げた部分をなぞった。彼女の目が鋭く光る。


シスリア「……火薬ですね、微量ですが、残っていますね」


マサト「え、火薬? なんでそんなもんが?」


シスリア「ターゲットの靴が何らかの形で摩擦を生み、この階段の火薬に引火した可能性が高いです。そして驚いてバランスを崩し、転落……事故に見せかけるには手が込んでいますが、やや粗い作戦です」


マサトが唸りながら頭を抱える。


マサト「うーん……そんなこと考えつく奴、普通いねぇっすよ…」


シスリア「だからこそ、これは"ただの事故"ではないのです」


シスリアの声には確信が滲んでいた。黒髪が揺れ、静かな空間に彼女の冷静な言葉が響く。


シスリア「……犯人は"事故"に見せかけた完璧な犯行を追求しています。しかし、その裏には"人間らしい焦り"が見え隠れしていますね」


マサトが呆れたように呟いた。


マサト「人間らしい焦り? なんか怖いこと言うなぁ……」


シスリア「次はおそらく、もっと緻密に仕組まれた"事故"が起こるでしょう…ですが……」


シスリアはゆっくり立ち上がり、階段を見下ろす。


シスリア「必ず追い詰めます…相手が誰であろうと」


彼女の冷徹な瞳が、不気味に静まり返る屋敷の中で光った。



タースの仕組んだ粗い計画は、シスリアの洞察によって少しずつ解き明かされていく。そして次の"事故"こそが、二人の心理戦の本格的な幕開けとなるのだった。


タースは屋上で考えを巡らせながら、不敵な笑みを浮かべた。


タースの心の中「排除する前に邪魔をする必要がある……だが、中途半端なことでは意味がない」


彼は自らの計画を練りながら、過去の成功例を思い出す。


タースの心の中「事故死で探偵を始末したい。完璧なシナリオで、疑いの余地を一切残さず…だが今は"近づく"ことが必要だ」


タースはポケットから古びた革の手帳を取り出し、何かを走り書きする。そして心の中で静かに呟いた。


タースの心の中「……よし。昔の方法で近づいてやる。あの探偵には"協力者"という仮面を被って……」


彼の計画はこうだ。 完璧な変装と偽造 によって、刑事としてシスリアに接近すること。捜査の内部に入り込み、真実を歪ませ、探偵を罠に引きずり込む。


名前は スティーブ・ソルツ刑事を名乗るには"いかにも"な名だ。過去に幾度となく使ってきた偽名であり、その信憑性の高さには自信がある。



翌日――現場付近のカフェ


シスリアとマサトは現場での捜査を終え、カフェで休憩を取っていた。窓際に座るシスリアの前には資料が積み重ねられ、マサトは疲れ切った様子でコーヒーをすする。


マサト「シスリア、あの階段のやつ……犯人がわざと仕組んだってことは分かったんですけど…次はどうするんですか?」


シスリア「次は、犯人がこちらの動きに気づいているかどうかを探ります、向こうも次の一手を考えているはずですから」


シスリアが冷静に答えたその時、カフェの扉が控えめに開き、一人の男が姿を現した。


黒いコートにシャツ、無精ひげを整えた顔。落ち着いた様子と、どこか鋭い目つき

タースが"スティーブ・ソルツ"として完璧に変装していた。


ここで初の接触


彼はシスリアたちに歩み寄ると、柔らかな笑みを浮かべて言った。


タース「お二人がこの街で捜査中の探偵ですね? 失礼、"ソルツ刑事"です」


シスリアは一瞬、目を細めたがすぐに冷静な表情に戻る。


シスリア「ソルツ刑事……ですか?」


タース「はい、先日の事故について、私たち警察も不審な点があると感じていましてね。お二人の噂を聞きつけ、協力させていただこうと思いまして」


タース…いや、"ソルツ"は自然な口調で語りながら、内心冷笑していた。


タースの心の中「フフ……探偵よ、俺が目の前にいることにも気づかずに協力者だと信じ込むがいい」


シスリアは一瞬の沈黙の後、ソルツを見つめながら静かに言った。


シスリア「……わかりました。では、ご協力いただけるのであれば、お力を借りることにしましょう」


マサトが驚いた様子でシスリアの顔を見つめる。


マサト「えっ、いいのかシスリア? なんか、ちょっと胡散臭くないっすか?」


シスリア「問題ありませんよ、マサトさん」


シスリアの目は一見穏やかだったが、その奥底には微かな"疑念"の光が浮かんでいた。


シスリアの心の中「……この刑事、"何か"が違う…でももし事件の関係者で…犯人側だとしても…こんな接触の仕方…ありえ…ない?本当にそう…?」


タースは気づかなかった。彼の計画が完璧だとしても、世界一の探偵シスリアの"直感"は、すでに彼に向けられていたのだ。



二人の心理戦が静かに始まった――。

完璧な偽装を試みるタースと、それを冷静に見つめるシスリア。

次なる一手が、この緊迫した舞台で待ち受けている。


「ソルツ刑事」と名乗ったタースは、自分への疑念がわずかでも芽生えぬよう、巧妙に動き始めた。


タースの心の中「まずは、探偵の"足元"を崩すことだ……」


そう考えたタースは、あえてシスリアではなく、あまり頭の良さそうに見えないマサトに視線を向けた。


タース「改めて自己紹介をさせてください…一応これ…警察手帳です」


タースは自然な動作で、黒革の手帳を開いて見せる。そこには完璧に偽造された"スティーブ・ソルツ"の身分証が収められていた。マサトは目を丸くし、感心したように頷く。


マサト「おお~、ちゃんと本物っぽいなぁ。疑ってすみませんね……」


その反応にタースは内心ほくそ笑む。


タースの心の中「ふん、単純な男だ……だが、こういうタイプほど利用しやすい、この男…シスリアの"足枷"として使える」


一方、シスリアは冷静にタースの動きを見つめていたが、何も言わない。ただ視線だけを細かく追っている。


タース「失礼…」


タースはそう言うと、何気ない素振りでシスリアの隣の席に座った。その動きには無駄がなく、自然そのもの。しかし、その理由は明白だった。


タースの心の中「探偵にはなるべく"正面"から顔を見られたくない、僅かな表情の変化さえ、探偵にとっては手がかりとなるからな…」


席に座ったタースは、ウェイターを呼び、コーヒーを自然に注文した。そしてシスリアたちと目を合わせないようにしつつ、静かに言葉を紡ぐ。


タース「実は、今回の事故現場から"ある証拠"を回収しました。おそらく、お二人の捜査にも役立つかと思いましてね」


タースはコートの内ポケットから一枚の写真を取り出し、テーブルに差し出した。それは オイルが染み込んだように見える焦げた階段 の写真だった。


シスリアが写真を手に取り、鋭い目でじっと観察する。マサトは首を傾げて呟いた。


マサト「オイル? でも階段に火薬があったんじゃ……?」


「そうですね」とタースは淡々と続ける。


タース「おそらく火薬とオイルが同時に使われた可能性も考えられます。ですがまだ確証はありません。現場にはこうした微妙な痕跡が複数あり、私たち警察としても頭を悩ませているところです」


偽の証拠…タースはあえて証拠を"ぼやかす"ことで、シスリアの推理に別の方向を植え付けようとする。火薬とオイル…矛盾した痕跡を提示することで、真実への道筋を複雑にする計画だ。


シスリアは無言で写真を見つめたまま、何も言わない。だがその目の奥では、すでにいくつもの可能性が組み立てられていた。


マサト「火薬とオイル……? わざわざ二つを組み合わせる必要があるのか?」


一方で、マサトは頭を抱えながら言う。


タース「えぇ…おそらく引火しやすくするため…でしょうかね…」


マサト「うーん、なんか余計に分かんなくなってきたぞ……」


その様子を見て、タースは心の中で冷笑する。


タースの心の中「いいぞ……少しずつ混乱させればいい。シスリアの足を引っ張るのは、この助手…マサトだ」


自然な会話の流れを保ちながら、タースは計画の第一段階を確実に進めていた。シスリアの冷静な観察力と推理力を打ち砕くために、偽りの証拠と情報を植え付け、そしてその横にいる"マサト"を利用する…。


シスリアはタースの提出した写真を見つめ続けながら、内心、疑念を捨てきれずにいた。


シスリア「……ソルツ刑事、わざわざこの証拠を持ってきてくださり感謝します。しかし、これが"真実"だと断定するにはまだ早いですね」


タース「ええ、もちろん。捜査はこれからですから」


タースはそう答えながらも、心の中では微かな焦りを抱きつつ、冷静を装った。


タースの心の中「なんだこいつ…最初から疑うか…流石探偵…といったところ…」



シスリアとタースの間に見えない火花が散り始めた――。

虚実入り混じる証拠と心理戦。その先に待つのは、探偵と殺し屋のどちらが先に相手を出し抜くかという"静かな戦争"である。


カフェでの会話は自然と雑談に変わり、時間がゆっくりと流れた。タースはコーヒーを一口飲み、穏やかな表情を崩さないよう細心の注意を払う。


タース「それでは、引き続き捜査を進めていきます。また何かあればご連絡を」


そう言い残し、タース…"スティーブ・ソルツ"は席を立ち、自然な歩き方で店を出ていった。


夜、タースの隠れ家 (基地)


暗い部屋の中、タースは机に肘をつきながら静かに次の作戦を考えていた。机には先ほどシスリアに見せた偽の写真、そしてもう一つの偽造警察手帳が並べられている。


タース「次にすることは、俺を刑事だと"より信じ込ませる"ことだ……」


タースはゆっくりと呟きながら、新たな作戦を組み立て始める。


タース「ならば…次は"ソルツの部下"として接触する。完璧な二重構造だ」


タースの考えた作戦はこうだ。

シスリアをバーに呼び出し、新たな"証拠"が出たと伝える。だが、そこで登場するのは "ソルツの部下" という立場の男――タイタン。タースはそのために、二つ目の警察手帳を既に用意していた。



翌日、バーにて――


シスリアは指定されたバーの席に静かに座っていた。いつもと変わらぬ冷静な表情だが、何かを見逃すまいと細かく周囲を観察している。


そこに現れたのは、タース…ではなく、"タイタン"と名乗る男だ。彼はソルツ刑事の"部下"という設定でシスリアに接触する。


タース「初めまして。ソルツ刑事の部下、タイタンと申します。彼から新たな証拠を持ってくるように言われましてね」


そう言って差し出したのは、オイルの件と関連性があるように見せかけた、さらに細工された証拠写真。タースは意識的にソルツとは微妙に異なる雰囲気と口調を使い、"別人"を演じ切っていた。


シスリアは写真を受け取りながら、目を細めて男…"タイタン"をじっと観察する。


シスリア「……ソルツ刑事は、来られないのですか?」


タース「ええ、彼は別件の捜査中です。そのため、私が代理で伺いました」


タイタンは穏やかな口調で答え、シスリアに自然な笑みを向けた。しかし、シスリアの表情は変わらない。


数分後、タースは"タイタン"として演技を続けながら、何気ない素振りで言った。


シスリア「少々失礼します。外で一本、電話をかけなければならないので」


そう言い残し、席を外した。これはタースがあえて仕掛けた罠だ。


タースの心の中「ここだ……シスリアなら、俺が"似ている"と感じているはずだ…つまり…ここで席をはずす=ソルツとしての俺に電話をする…」


タースはシスリアがトイレに行ったのを確認し…静かにスマートフォンを取り出し、マサトに電話をかける。


ソルツ(タース)「やあ、マサト君。明日、少し手伝ってほしいことがあるんだ…シスリアさんにも今メールを送り伝えておいてくれ。あとで詳しい詳細を話そう」


マサトはあっさりと電話に応じ、嬉しそうに答える。


マサト「わかりました!シスリアにもすぐにメールしておきます!」


タースの心の中「ふふ……これでいい」


この電話は、後々"証拠"として機能することになる。もしシスリアが"タイタン"に疑いを抱いたとしても…


タースの心の中「その時間、俺…ソルツ刑事は"マサトと電話をしていた"。つまり俺は"別人"として彼女の目の前にいたことになる…さらに電話に出れなかった理由も…マサトと電話をしていた…という理由になる…」


完璧なアリバイの構築。シスリアが再び席に戻ると、タースは何事もなかったかのように穏やかな表情を作り、話を再開した。


シスリアは無言で"タイタン"を見つめながら、何かを考えていた。


シスリアの心の中「……どこかが"おかしい"」


数分前…


お掛けになった番号は…現在通話中です…


ツー…ツー…


シスリアの心の中「通話中…今…偶然…?」


ピロリン!


シスリアの心の中「マサトさん…」


メールを開くと


「ソルツ刑事から電話がありました!どうやら明日手伝って欲しいことがあるとのことです!」


シスリアの心の中「ソルツ刑事は…マサトさんと電話していた…何故今…」


だが、確信には至らない。タースの演技はあまりにも完璧だった。


キィ…


シスリアは座ってるタース(タイタンを覗く)


シスリアの心の中「…何もアクションしてない…目の前で電話するのが確実だった…でも…もし目の前の人物が変装した何者かなのら…相手の罠の可能性…ここで確定させる必要もない…」



シスリアとタースの間には、ますます静かな緊迫感が漂い始めている…が…


静かな時間が続くバーの中…シスリアは自然な笑みを浮かべながら一枚の写真を取り出した。


シスリア「実は私も新しい証拠を見つけたんです……こちらをご覧ください」


彼女の指先には、一枚の写真。そこには 新品のライター がはっきりと写っていた。


タース…"タイタン"としての顔は変えずにいたが、その心の中では静かに波紋が広がっていた。


タースの心の中「ライター……? ばかめ、この写真のライターはどう見ても新品だ。買ってすぐに写真を撮ったのか? まぬけめ……俺はライターなんて使っていない!」


シスリアは探るような視線でタースを見つめながら、淡々と言葉を続けた。


シスリア「どうですか?」


タースは深く息を吐き、あえて冷静を保ちながら写真をじっと見つめ、すぐに答えた。


タース「……このライターは新品に見えますね。犯行に使われていたとは思えません」


彼の声には一切の動揺がなかった。しかし、シスリアの次の言葉が、その隙間を僅かに突いた。


シスリア「よくすぐ気が付きましたね……そうなんです。新品なんです。何故でしょうね?」


その言葉に、タースの心臓が一瞬だけ跳ねた。冷や汗が背中を流れるのを感じた。


タースの心の中「……ま、まさか……!?」


タースの心の中で焦燥が走る。


タースの心の中「俺の"気付くスピード"を見ていたのか!? そうだ……確かに俺は一瞬で"新品"だと判断した。だが、それは犯人である俺が"使っていない"からだ……!」


本来の刑事であれば、新品かどうかの判断にはもっと慎重になるはず。じっくりと観察し、証拠を精査して初めて答えを出す。だがタースはほとんど一瞬で判断してしまった。


そうだ…


タースの心の中「……俺は、"知りすぎている"」


タースは気付かれないよう冷静を装い、シスリアの目を見つめて言葉を続けた。


タース「……ライターの状態を見ればすぐに分かりますからね。これは新品です」


シスリアは僅かに微笑み、言葉を返した。


シスリア「そうですね……お見事です」


その笑顔には、探偵としての"意図"が滲んでいた。シスリアは確信を持っているわけではない。だが、このライターを使った一手で、タース…"タイタン"の動揺を探り、隠された本性を見抜こうとしていた。



タースの心の中


タース「……やはり探偵…危険だ……だがこの女は、まだ確証には至っていない。今は"疑い"を薄めることが最優先だ」


タースは焦りを悟られぬよう、グラスに口をつける。


タース「……だが、油断はできない。次の一手をさらに慎重に打たねば……」



シスリアは微笑みながらグラスを傾け、その瞳には新たな光が宿っていた。


シスリア「では、そろそろ失礼いたします。また"証拠"が出たらご連絡ください」


バーを後にするシスリアを見送りながら、タースの拳は僅かに固く握られていた。


タースの心の中「……この探偵、やはり厄介だ。だが、必ず始末する……完璧なシナリオで」


探偵と殺し屋の心理戦は、着実にその緊迫度を増しつつあった。


タースの基地


静まり返った暗い基地の中で、タースは椅子に深く腰掛け、天井を見つめながら考え込んでいた。彼の顔には微かな苛立ちが浮かんでいる。


タース「……やられた」


タースの心の中には、焦りと怒りが交錯していた。


タースの心の中「くそ……信用を増させるどころか、逆に疑いを持たれたか……。案外賢いらしいな、あの女」


シスリアが何も言わず、穏やかな表情で写真を差し出した時のことが脳裏をよぎる。あの冷静な態度、探るような視線――彼女の確信のない"疑い"が、タースには重圧のようにのしかかっていた。


タースの心の中「こういうコツコツと積み上げてくる奴が一番厄介だ……小さな違和感を見逃さない。そしてそれを、じわじわと武器に変えてくる」


タースは深く息を吐き、鋭い目つきで手元の警察手帳を睨んだ。


タースの心の中「……こうなったら、次の一手だ」


---


シスリアの事務所


一方、シスリアは事務所に戻ると、椅子に腰掛けて静かに目を閉じた。頭の中で、先ほどの"タイタン"いや、"ソルツ刑事"の振る舞いを何度も反芻している。


シスリア「……あのライターの理解の速度」


一瞬で新品だと判断した彼の様子が、シスリアの中に微かな疑念を生んでいた。


シスリアの心の中「おそらく何かを知っている……もしくは、それ以上の人物である可能性が高い。ただ、頭の回転が早いだけとも考えられる……」


シスリアは小さくため息をつき、目を開ける。


シスリアの心の中「けれど…今回の件で確実に言えることがある。"ソルツ刑事"の周りの人間は、疑うべき…」


彼女は資料を整理し、慎重に次の手を考え始めた。全ての小さな"違和感"を繋げるために。



再びタース…夜の基地


タースはもう一度机に広げた手帳と地図を見つめながら、計画の次のステップを練っていた。


タースの心の中「とりあえず、明日は"ソルツ刑事"としてマサトに接触だ…電話した通りに動かなければ…怪しまれる…」


彼の顔には、今までの焦りは消え、冷酷な笑みが戻りつつあった。


タースの心の中「……殺し屋としての活動はまだしなくていい。ここは事故が起きることが"普通より多い"場所だからな」


つまり…タースが殺し屋として活動していると思わせられる…


その言葉には、長年事故死に見せかけてきた殺し屋としての自信とプライドが滲んでいた。


タースの心の中「ここに来て役立ったか……俺のプライド」


タースはゆっくりと立ち上がり、マサトの顔を頭の中で思い浮かべた。


タースの心の中「明日、マサトにより深く接触し、俺を完全に"信じ込ませる"。あの男を使ってシスリアの足を引っ張らせる……」


彼の目が冷たく光る。


タースの心の中「洗脳することで、シスリアの最大の足枷にする…!」


翌朝――シスリアの事務所


シスリアは椅子に座り、調査資料をまとめながらも、ふと助手のマサトを見つめた。

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