幸せはお金がなくてもやってくる。
魔族を倒してからも、一騒動があった。
まず、私たちが授業をさぼったことを怒られ、何があったか伝えると更に怒られ、聖女様にも危ない橋を渡るなと怒られた。
怒られ三昧を経験したけれど、私たちは何一つ後悔していない。
リリアナを助けるためだったら何度だって同じ選択をしただろうし、二人もかけつけてくれたと思う。
魔族の秘宝ではこの未来が見えていなかったのかなという疑問もあるが、終わりよければ全てよし。
私のゲーム知識のように、完璧な代物ではなかったのだろう。
もちろん、このことは学園長と聖女様に報告した。
危険な行動を怒られはしたけれど、有益な情報をもたらしたと、褒めて貰えもした。
そして、魔族に憑依されていたニールの扱いだけど。
聖女教会に引き取られ、聖女様の監視の元、魔族に取り憑かれた経験のある者として、研究に協力することになったらしい。
長い間取り憑かれていたからか、だいぶ生気の薄い感じではあったけれど、かろうじて受け答えできる中で、そう決まったそうだ。
ただ、意思がはっきりしてないから、扱いにかなり困ったようだ。
ミーシャという前例がいるから、無闇に死刑にはしづらい。かと言って、奴隷にするには本人の意思が薄弱すぎる。
ということで、聖女教会で療養しながら、研究に協力するというところに落ち着いたみたいだ。
一部研究者は過激な実験ができなくて抵抗してきたようだけど、私の貢献の意味がなくなるからと、聖女教会がかなり反対した。
彼も大変だろうけど、死ぬことはなかったのだ。
療養で自分を取り戻して、生を謳歌して貰えたらいいなと思う。
一方、そんなニールを好いていたリリアナはというと――。
「本当に良かったんですか? 結婚したいくらい、彼のことが好きだったのでしょう?」
「その気持ちは確かにありましたが、今は皆さんの役に立ちたいのです」
リリアナは修道女見習いとなり、聖女教会お抱えの商人となった。
家から出て、私の庇護下に入り、付き人という扱いで常に一緒にいることが決まった。
聖女見習いには、修道女見習いを、ということだ。
お互い頑張って、一人前になれたらなと思う。
これで彼女は家から解放され、生きていくことができる。
リリアナの実家の方は、手切金を渡して終わりらしい。
今後彼らがどうするかは分からないが、これで後腐れなく縁を切れたらいいなと思う。
そして、ちょっと変わったことがもう一つ。
「まさかリリアナさんまで争奪戦に参加してくるとは思っていませんでしたわ」
「何人増えようと変わらない。私が全て倒す」
しゅっしゅっとパンチを繰り出すサリアを横目に、リリアナは弁解した。
「そんなじゃないですよ。レイナ様のお付きとして、同部屋は譲れなかったのです」
別に、リリアナが恒久的な同部屋になった訳ではない。
三人日替わりで、私と同部屋となったのだ。
どういことかというと……リリアナは修道女見習いをしながら学園に通うことになったのだけど、学園長から、さすがに一部屋に四人は多すぎると言われ、二部屋に分けられることになったのだ。
恒久的に同じ部屋になるとどの組み合わせでも文句が出たため、こういう形に落ち着いた。
その決定をくだした学園長は、大変疲れた顔をしていたのを覚えている。
だって、三人とも譲らなくて、終わる気配がなかったから。
こんなのが認められるんだと思ったけれど、話を続けるのもめんどくさかったのだろう。
今は落ち着くところに落ち着いたからよかったけれど、まぁまぁ大変だった。
そんな風に、またいつも通りの日々に戻ってきて。
これから皆で楽しく過ごせたらいいなと思っていた頃合いだった。
「レイナ様。私のお願いごと、聞いて貰ってもよろしいですか?」
今日はミーシャが相部屋の日で。
夜、二人で過ごしている時に、彼女は静かに言った。
なんだかとても緊張しているようで、声が震えている気がした。
「構いませんよ。どういうお願いなのですか?」
無理なものではないといいけれど。
そう身構えていると、ミーシャは小さな声で呟くように伝えて来た。
「私は、レイナ様ともっと親しい関係になりたいです」
「親しい関係、ですか?」
すぐに答えが返ってくるものだと思っていたが、ミーシャはしばらく黙ってしまって。
やがて返って来たのは、おそらく最初に言おうとしたのとは違うであろう言葉だった。
「私は、いつまでもレイナ様の側におりたいのです。奴隷ならば、それが叶います。しかし、対等ではありません。望みすぎではあると思うのですが、気持ちとしては同じ立場でいたいと思うのです」
まぁ、ミーシャが奴隷になっているのは、形式上の話だからな。
別に、二人の間の中では、上下なんてなくていいと思っている。
そう思って、彼女の願いを承諾した。
「いいですよ。これからは対等の立場でいましょう」
「でしたら、これからはレイナさんとお呼びしてもよろしいですか?」
「構いませんよ。私も呼び捨てはやめた方がいいですか?」
「いえ、それはそのままで」
なんだかくすぐったい空気になって。
二人でしばらくまごついていると、いきなり部屋の扉が開かれた。
「抜け駆けしようとした泥棒猫に天誅をくだす」
「く、くだすー」
そう言いながら、魔族をしばく時に使った睡眠棒を持って、サリアとリリアナが入って来た。
「な、なんですか、あなたたち! 今日は私の日ですよ!?」
「さっき、お願いと称して告白しようとしていた。それは許されない」
「なっ!? 盗聴していたんですか!? それは約束違反でしょう!」
「……大義の前では細かいことは消え失せる。というわけで、成敗」
「そんなわけ――」
ミーシャが最後まで言い切る前に、サリアに睡眠棒でぶったたかれて、意識を失うように寝てしまった。
それを成したサリアは、満足そうに部屋に戻っていった。それに続いて、何もしなかったリリアナも退散していった。
……なんだったんだ一体。
というか、盗聴してるのかよ。
下手なことできないな。
相部屋を楽しみにしていただろうに、これではミーシャがあまりにも可哀想だ。
……本人は眠っているけれど、少しくらい、役得はあってもいいだろう。
そう思って、静かにミーシャのベッドに入り、自分たちに毛布をかけた。
朝起きた時の反応が、少し楽しみかもしれない。
そんな風に、ちょっと賑やかで、楽しい日々に戻った。
きっと、この日常はお金があっても買えない日々だ。
お金がないと確かに苦しいけれど。
幸せは、お金がなくてもやってくる。
三人といると、そんな気がするのだ。
彼女らのためなら、時間をいくら使っても構わない。
その分だけ、一緒に過ごせる時間が増えるから。
四人で過ごせる日々を、大事にしていきたい。
そんなことを思いながら、ミーシャの隣で眠りについた。
まさか、大事にしたくなる人が、三人で終わりじゃないとは、この時は思ってもいなかった。
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