「ふぅ。良かった。今度は助けられた」
魔族が球体の闇を構えている姿を見て、なんだか不思議な感覚がした。
けれど、その違和感は一瞬で。
そんなことを考えるくらいなら、解決策を見つけなければいけない。
皆で助かるにはどうしたらいいんだ。
解決策を思考していると、魔族の後ろでサリアが起き上がった。
立ち上がったサリアは、魔族が取り落とした棒を握り、すっと彼の足の間に潜らせ、そのまま思い切り引き上げて、股間へ痛撃した。
「っあ……!」
防御魔法が組み込まれた魔道具を身につけていても、致死攻撃ではないからなのか、はたまたサリアが何かしたのか。
魔族は痛がって、内股になっていた。
その間に体勢を整えたサリアは、魔族の首に下がる私たちのペンダントに手を当て――。
――全て砕いた。
なんで、とか考える前にサリアはこちらにやってきて、ありったけの防御魔法を展開。
そうしている間に、魔族は急に苦しみうめき、闇を放出した。
なんでこんなことに? と思っていると、彼の周りに防御魔法陣がいくつも現れて、闇とせめぎ合う。
明らかに勢いは失われているが、それでも闇はしぶとくて。
展開されていた防御魔法を打ち破って、闇が立ちのぼった。
だが、勢いがなかったそれは、サリアが新たに展開した防御魔法で全て撃ち落とされていた。
やがて闇はおさまり、意識を失って倒れ伏すニールがそこにいるだけとなった。
それを見て、サリアは大きく安堵のため息をついた。
「ふぅ。良かった。今度は助けられた」
今度は?
言い回しもよくわからないが、そもそも何が起こったんだ?
「あのー。急に起き上がって魔族のこ……急所を殴ったと思ったら、闇が暴発しだしたり。私たちの大切なペンダントをこわしたと思ったら、防御魔法が発動したり……というか、あなた睡眠棒で眠ったんじゃなかったんですか?」
一気に捲し立てると、サリアは面倒臭そうにしながらも、一つずつ説明してくれた。
「これは『誰でも聖女棒』。文字通り、魔族に対して致死量の聖女魔力を注入する代物。そして、この説明を私がするのは二度目」
私の魔力を使って作ったのはこれか、とも思ったが、今、聞き捨てならないことを言ったな?
「二度目ってなんですか? 私は初めて聞いたんですけど」
「前に言った、人に見せられない魔道具。どうしてもの時になったから、それを使った」
使うなって言ったのに使ったってことは、本当にやばいことが起きたんだろうな。
「……それで? どうして使うことになって、どういう効果があったんですか?」
「本当は、聖女棒でそのまま魔族を殴っていた。その結果、私が急遽展開した防御魔法では防ぎきれなくて、レイナとリリアナは跡形もなく消え去った。蘇生魔法なんて入る隙間もないくらいに。だから、時戻しの石を砕いて、棒で殴るところからやり直した」
時戻しの石。名前は安直だが、その分、効果は明白だ。
「それさえあれば、サリアは好きな未来を選び放題じゃないですか」
「使えるのは一度きり。材料がもう手に入らないものばかりだから、二度と作れないと思う。偶然できたものだし」
一度きり、か。
私を失う未来が、耐えられないくらい嫌だったから、躊躇なく使ってくれたのだろう。
それは素直に嬉しい。
だけど、一つわからない事がある。
「どうして私たちのペンダントを砕いたのですか? サリアにとっては二度目にやったことですから、何か意味があるんですよね?」
何か意味がなければ、我慢ができない気がした。
けれど、当然のように意味はあって。
「ペンダントに内臓された防御魔法を暴発させた。それによって、強力な防御魔法が闇を抑えてくれる算段だった。けど、どこまで闇が強力かはわからなかったから、正直博打だった」
なるほど。それなら仕方ない。
きちんと理由があったなら、ペンダントは諦めよう。
「そういう事情ならいいです。また、四人で買い物に行きましょうね」
「……私もいいんですか?」
横にいたリリアナが、おずおずと聞いてくる。
そんなの、聞くまでもないだろうに。
「当然ですよ。あなたも私たちの大事な仲間です。そう思ってくれているから、危険だと分かっていても私の枷を外したのでしょう?」
そう告げると、彼女は涙ぐんで、嬉しそうに抱きついてきた。
「はい……! 皆さんは、私の大切な友達です!」
サリアはそれを見て引き剥がしたそうにソワソワしていたが、さすがに空気を読んでか、何もしてこなかった。
そうして話していると、遠くにいたミーシャもやってきた。
「本当によかったですわ。お二人を無事に助けられて」
ミーシャが安堵の言葉をこぼすと、サリアが乗っかった。
「そう。私たちは頑張った。だからご褒美があるべき」
「何を言っているのですか? そんなことのために助けたわけではないでしょう?」
「ならミーシャはいらないんだ」
「それは……欲しいですが……」
ご褒美か……そうだな。
今回はかなり危なかった。
本来なら、一度死んでいたと言うし。
サリアには虎の子の魔道具を使わせて、なにも見返りがないというのも可哀想だ。
「わかりました。なんでも言ってください。できることならやらせて貰います」
私が告げると、サリアは間髪入れずに要求してきた。
「じゃあ口付けして」
キスか……。
頬っぺたに、とかやったら怒られるやつだよな……。
ミーシャが私にしていたの、そんなに羨ましかったのか?
……まぁいい。
これくらい、命をかけて助けてくれた代償としては安いもんだ。
今ならミーシャの気持ちがわかる気がするよ。
「ミーシャも同じでいいんですか?」
「わ、私は保留にさせてくださいませ。こんな風情のないところで片付けたくないですから」
そうか。保留が一番怖い気がするけど、いいだろう。
それより、こんな場所でというのは、サリアにも言えることだ。
「サリアはここで口付けしていいんですか?」
「我慢できない。早くして」
サリアは目を瞑り、私が近づくのを待った。
目が閉じられた端正な顔を見ていると、なんだかドキドキする。
その高鳴りをごまかすように、彼女の口元へ自分の唇を近づけ、ほんのりと口を合わせた。
が、その瞬間、がっちりと抱きつかれ、舌を入れられてしまった。
そのまま口内をむさぼられ、息ができなくなるほどに、長く長く絡み合う。
酸欠のせいか雰囲気のせいか、頭がぼーっとして、変な吐息が出そうだ。
様子のおかしい私たちに、ミーシャが慌てて止めに入って来た。
「何してるんですか! やりすぎですわよ!」
ミーシャに無理矢理引き剥がされたサリアは、不満そうに文句を言った。
「なんで邪魔するの?」
「口付けという領分を超えています! ほら、なんだか変な空気になってしまったではないですか!」
荒く息を吐いている私を見て、ミーシャは顔を真っ赤にしていた。
そうね。これはちょっと予想外だったけれど。
不思議と嫌じゃなかったんだよな。
命と貴重な魔道具をかけて救ってもらった恩義があるからだろうか。
……そろそろ、二人に対する向き合い方を変えるべき時なのかもしれない。
そう心に決めて、空気を変えるように仕切り直した。
「さぁ。ご褒美タイムは終わりです。事後処理をしますよ」




