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「汚い手でレイナに触るな、クソ野郎」

 数人の兵士が、一人の少女を拘束しながら部屋に入って来る。

 彼女はごつごつした手枷をつけられており、大変窮屈そうだ。


 少女の状態を意にも介さず、兵士たちは突き動かすように彼女の背中を押している。


 魔族は、そんな彼らを嬉しそうに出迎えた。


「よくやった! これで心配事がなくなるよ」


 彼の前に差し出されたのは、サリアの姿。


 ……おかしい。

 なんで、ただの兵士に彼女が捕まるんだ?

 まさか、リリアナを人質に取られたのか?


 嫌な想像が巡るも、もはやそれに意味なんてなくて。


 魔族はサリアの首にかかっている魔道具を外すと、自分の首にかけた。


 あきらかに一人がつける量ではない、不恰好な数のペンダント。

 サリア、ミーシャ、リリアナから奪った分をつけた魔族は、こちらに寄ってきて、私のペンダントにまで手をかけた。


 胸元から、重さが消える。

 

 これで、全てのペンダントが彼の手に渡った。

 私たちは丸腰になって、守ってくれるものは何もない。


 助けてくれる人も、もういない。


 希望は全て潰えてしまった。


 絶望に打ちひしがれていると、魔族は勝ち誇ったように言った。


「さぁ。大切なお友達をたすけたかったら、僕との子を望むんだ。なるべく下品に、媚びた感じでね」


 悔しい。なんでそんなことをしなきゃいけないんだ。

 感情はそう叫ぶけれど、理性は冷静に、媚びるのを要求していた。


 いくら意識が元男で、忌避すべき行為だろうと、身体を許すだけで、皆が助かる。


 そう思えば、やらない選択肢はなかった。


 恥ずかしさを押し殺して、屈辱的な台詞を口から吐く。


「……私をめちゃくちゃに犯して、孕ませてください」


 魔族は私の言葉を値踏みするように、ひとつ唸った。

 

「うーん。もう少し卑猥に言って欲しかったけれど、まぁ及第点かな。お望み通り、犯してあげるよ」


 そうして、私の制服に手をかけて来る。

 ぷち。ぷち。とボタンが外される音が響いて、私の胸元があらわになっていく。


 ……なんだ? ボタンの音がここまで響くなんて、やけに静かだな。

 そんな疑問を抱いている間にボタンが外される。


 そして、彼はわざと嫌がらせをするように言った。


「さっき、感じるなって言ったのは覚えているよね?」

「……それがなんですか?」

「魔法にも限界があるんだ。本人が求めていれば、解除されてしまうこともある。今から胸を揉むけれど、感じてくれるなよ? もしそんな素ぶりを見せたら、彼女らを殺すから」


 そう言って、私の胸に手を伸ばそうとする魔族。

 

 胸を揉まれてしまう。

 そのこと事よりも、もっと気になることがあった。


 近くで倒れていたミーシャの姿が消えている。


 一体どういうことかと思っていると、魔族の手が私に触れる前に、彼の身体が真横に吹っ飛んでいった。


「汚い手でレイナに触るな、クソ野郎」


 倒れ伏す兵士の中央で、堂々と立つサリアの姿。

 先ほどつけていた手枷は外れ、自由な出立ちをしている。

 隣にはミーシャの姿もあった。


 そして、急に音が戻ったかのように、兵士たちの呻き声が聞こえた。


 吹き飛ばされた魔族が、巻き込まれて散らかった拷問器具をどかしながら、立ち上がる。


「魔道具のおかげでダメージはないけど、服が汚れたじゃないか。そんなに死にたいのかい?」

「余裕ぶってるけど、焦ってる。私が動いたのがそんなに意外? 魔法で場所が分からなかったから、わざと捕まって案内して貰っただけなのに」

「君は、次期聖女の望みには逆らわないはずだ。リリアナが人質になっているはずなのに、動くとは思わなかったな。彼女が殺されても構わないのか?」

「もう見つけてるから大丈夫」


 そう述べたサリアが魔法陣を描くと、そこからリリアナが飛び出てきた。

 一体どう言う仕組みなんだ?


 転移魔法ってやつなんだろうけど、そんな簡単にできるモノなのか?


 そう思っていたら、魔族が小さくつぶやいた。


「……バケモノめ。やはりお前は計算外になりやすい。何度試行しても、お前が邪魔になっていた。最優先で排除させてもらう」


 ぶわりと、魔族の身体から闇がほとばしる。


 それらは、ひとまとまりになっているサリアたちに向かうも、当然のように防がれていた。


 お返しとばかりにサリアが色とりどりの魔法を連発するけれど、魔族は防御する素振りもなく、素受けしている。

 しかし、彼の身体が傷つくことはなく、ぴんぴんしていた。

 サリアの魔道具で、彼女自身の攻撃が防がれている。


「やっぱり特別製は面倒くさい。自分で作ったけど手を焼く」

「ふははっ。自分で自分に苦しめられるとは、間抜けな奴もいたもんだなぁ!」


 魔族は気分が高まったのか、哄笑していた。

 その様子を見て、リリアナは不安そうだ。


「ニール様があんな笑い方をするなんて……それに、なぜ私たちと敵対しているのですか?」


 状況に置いて行かれているリリアナに、ミーシャは簡潔に説明した。


「彼は魔族に取り憑かれています。それも、私たちが学園に入学する前から。だから、魔族から解放してあげればなんとかなります」

「そんな……どうやって!?」


 魔族は殺すしかないという頭があるリリアナは、悲観的な顔をしていた。


 けれど、今ここには、私がいる。


 私が動ければなんとかなる。

 それがわかっているからか、ミーシャもサリアも悲観的ではなかった。


「大丈夫ですわ。私も魔族に取り憑かれたことがありますけれど、こうして元気ですから。元のニール様を取り戻す方法はあります」

「どうすればいいんですか!?」

「まずは、レイナ様を自由にしたいところですが……」


 そう言ったミーシャがこちらを見るも、間に魔族が入ってきた。


「そんなことさせると思うかい? 聖女の魔力を流されなければ、僕は死なない。そして、絶対に彼女を自由にはさせない。君たちに勝ち目はないんだよ」


 魔族がそう宣っている間にも、兵士がぞろぞろと入ってきて、三人を囲む。


 全員目がうつろで、どこか違う場所を見ているような雰囲気だ。

 明らかに操られている。

 そうと分かる様相だった。


「こんな程度で勝ったつもり?」


 サリアが挑発まがいの言葉を吐くも、魔族は態度を変えなかった。


「君たちの攻撃は僕に効かない。頼みの綱の次期聖女は取り返せない。更に、いま君たちを囲んでいる兵士には、君らが売っていた魔道具を複数個装着させている。全て壊れる前に、君たちは大人の男に組み敷かれて終わりさ」


 魔族がそう言った瞬間、兵士たちが一斉に魔法を放った。

 それをサリアが危なげなく防ぐ。


 全てを凌いだ彼女は、ミーシャに向かって珍しい頼み事をした。


「ミーシャ。私があいつを抑えるから、兵士たちを無力化して欲しい」

「でも、私たちの魔道具をつけていますのよ?」

「回数ぶつけてごり押し」

「天才なのに、そんな力任せな策しか出せないんですの?」

「冗談。あの程度のおもちゃ、私が対策を練っていない訳がない」


 そうして、サリアは大きな声で叫んだ。


「あー!」


 それだけで、兵士たちのつけていた魔道具が全て壊れた。

 その様子に、味方であるミーシャも不思議そうだった。


「いったい何をしたのですか?」

「音に魔力を乗せて、魔道具の回路に働きかけて、異常作動させた。回数制なんて、これで一発」

「そんな抜け道があるなんて……バレたら粗悪品と認定されて、売れなくなりますわよ?」

「大丈夫。開発者専用回路だから。私にしか壊せない」

「……まぁそれならいいですけど」

 

 企みを狂わされた魔族だったが、彼はまだ余裕そうだった。


「防御がなくなったところで、彼らは僕に操られているだけの人間さ。果たして、罪のない人間を君たちに殺せるかな?」


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