結局酷い目に遭うんじゃないか。
魔力の巡り……。
ニールはなんで、その話が出たタイミングで無理矢理遮ったのだろうか。
必死に頭を回らせていると、一つの情報を思い出した。
……そうだ。
感情と魔力の話だ。
感情によって、魔力の質が変わる。
これは前に、ミーシャたちが話していたよくわからない事の一つだけど。
感情が昂ると、体内の魔力の流れにも変化があったりするのかもしれない。
ミーシャが伝えようとしたのは、感情が、魔力の質と巡りに関わっているということ。
そうなるとニールの要求は、身体を交えている時に魔力を流すな、ってことだろうか。
そして、私の魔力が巡って困るようなやつなんて、一つしかない。
「肉体接触にわざわざ同意を取る。しかも『感じるな』なんて、意味不明な条件付きで。そして、感じるのは魔力が巡る事という前提から察するに、あなたは私の魔力が流れて来ると困るんです。次期聖女たる私の魔力を嫌うなんて、ただ一種。あなた、魔族が取り憑いていますね?」
私が解を導くと、ニールの皮を被った奴は、それを肯定するかのように答えた。
「はぁ。ただ身体を許しておけばいいものの。無駄に頭を回してくれちゃって」
「やはり、魔族が成り代わっているのですね。いつからなんですか」
「だいぶ前かな。少なくとも君たちが学園に来る前さ」
……それは変だ。そうなると、ゲームのリリアナは魔族と恋愛していることになる。
彼女のルートは覚えていないが、そんなことあり得るのだろうか?
私が転生したことで、なにか変化があったのか?
そもそもなんで今になってこいつは動いたんだ。
様々な事柄が頭から巡って、こぼれ落ちていく。
制御できない思考で出てきたのは、まとまりのない問いだけだった。
「リリアナさんを誑かしたと思ったら、私に近づいて子を産ませようとする。一体何が目的で、どこからが計画だったんですか?」
「そんなことを聞いてどうするんだい?」
「……私がどういうことに巻き込まれているか知っておきたいんですよ。身体を許すのだから、それくらいいいではないですか」
嘘だ。ただ時間を稼ぎたいだけだ。
それと、情報が欲しい。
答えてくれないと思ったが、もう勝ちを確信しているのか、彼は悠々と答えてくれた。
「まぁ、隠すことでもないから答えてあげるよ。リリアナに構っていたのは、資金調達の一環だ。魔族とはいえ、動くには金がいる。恒久的な金づるは貴重なんだ」
「……それならなぜ、今になって彼女に害をなしたのですか?」
「君たちが秘密を明かしてしまったからだよ。繋がりがバレなければ、そのままだったさ。まぁ、こうなる事は分かっていたんだけどね」
「……分かっていた? なにを言っているのですか?」
そんな未来予知みたいなことができるわけない。
そう思ったのだけれど、彼は嘲笑うようにヒントをもたらしてきた。
「おかしいと思わなかったのかい? なぜ、ろくに売れもしない魔石を、金を稼ぎたいはずの僕が、リリアナに融通したのか」
「リリアナさんには商人の勘があります。彼女はそれに従ったものだと思っていましたが?」
「そもそも、なぜ彼女にその道を選び取らせたか、ということだ。それは、君たちとの縁を繋がせるためさ」
まるで本当に先を知っているかのような言い振り。
そんなゲームみたいなこと、あるはずがない。
ここはもう、ゲームとはかけ離れている世界なんだから。
「そんな未来がわかるようなこと、あるはずないでしょう」
「あるんだよ、これが。魔族の秘宝というのかな。いくつもの未来が垣間見えて、選び取ることができる。それがあるからこそ、僕はリリアナの好きにさせたんだ」
なんだそれは。複数の未来が見えて、選び取れるだと?
そんなの、ゲームの世界そのものじゃないか。
……前世のゲームには、魔族に関する情報がほとんどなかった。
しかも、どれもこれも私が排除されるような結末ばかり。
まさか、ゲームとその秘宝が関係している?
でも、それならこの世界はどういう経緯でできているんだ?
ゲームが元になっている訳じゃないのか?
一瞬で濃密な情報をぶち込まれ、考える事を頭が拒否し始めた。
代わりにでてきたのは、重要な情報を、なぜ教えるのか問う言葉で。
「そんな魔族の核心に迫ることを教えて、何がしたいんですか?」
「君が知りたいというから教えてあげたのに。酷い言い草だね」
「その情報が国に伝わったら、魔族は大打撃を受けるはずです。そのリスクをおかしてまで、私に教える理由を聞いているのです」
そう問うと、彼はとてもおかしそうに笑った。
「ははっ。君こそ、無事に表舞台に戻れると思っているのかい? ここで永遠に子供を産む者に、こんな情報を教えたところで意味はないさ」
それも秘宝とやらで見えた事象なのだろうか。
それとも、単なる計画を話しているのだろうか。
どちらかは分からないが、ここにいるのは私だけではない。
「……そこにミーシャがいますが、約束を破るつもりですか?」
「彼女には忘れてもらう処理をする。もっとも、君のことすら忘れるように施すから、何か影響が出るかもしれないがね」
ミーシャの中から私が消える。
その情報に、肝が冷えた。
それだけは嫌だ。
推しに忘れられたくないとか、そういう安っぽい感情じゃなくて、大切な人と築いた絆を、無くしたくない。
彼女をどん底から救って、一緒に過ごすようになって、ようやく分かり合えるようになってきたのに。
それをなかったことにされるなんて、絶対に嫌だ。
「なんで私の存在まで、ミーシャの記憶から消す必要があるんですか!」
「おや。君の柔らかい部分はここかね。そんなにこの娘が大切か」
「だったらなんだって言うんです?」
「……そうだな。未来を確実にするためにも、君には協力的になって貰いたい。もう一人の場所を教えてくれ。そうしたら、三人まとめて飼ってあげよう。お友達も一緒なら、君も満足だろう?」
ゲスが。
結局酷い目に遭うんじゃないか。
……でも、ミーシャは私のことを忘れないし、三人ずっと一緒にいられる。
この運命から逃れられない定めなら、ある意味幸せなのかもしれない。
まぁ、サリアの場所なんて知らないし、そんな運命なんてごめんだが。
だから、彼の申し出には答えられない。
「あいにくと、彼女がどこにいるかは知りません。そもそもミーシャが侵入しているのも知らなかったのですから。知る訳ないでしょう」
「あれ? おかしいな。どの未来でも君は彼女らの侵入を知っていたはずなのに。まさか、勝手についてきたパターンがあるのか? ……困ったぞ。その選択肢は見落としていたから、計画が破綻するかもしれない」
そんなに詳しく細分化した未来が見れるなんて、本当にゲームみたいだ。
ようやく現実世界だと認識できたのに、またおかしな思想に浸ってしまいたくなる。
……やめよう。今は、この危機をなんとか脱することが先決だ。
それには、とにかく時間を稼ぐのみ。
思考が変な方向に行く前に、彼の目的をもっと探ることにした。
「計画って、なにを企んでいるのですか」
「さっきから教えているつもりだけどね。君との子を作りたいんだよ」
率直に気持ち悪い。
けれど、ここまで執着するのには、理由があるはず。もっと深掘りすれば、なにか重要な手掛かりが得られそうだ。
「なんでそこまで私との子にこだわるのです?」
「教えても得はないのだが……まぁ、君が何に加担するか知って、絶望する様も見たいしな。特別に教えてあげよう」
こいつ、さっきからペラペラ喋ってるけど、本当に大丈夫なのか?
敵ながら心配になってくる。
それとも、勝ちを確信している余裕から来るのだろうか。
まぁ、喋ってくれるというなら、ありがたく聞くけど。
「……教えてください。私は何に加担させられるんですか?」
「世界を滅ぼす忌み子の出産。君にはそれを成してもらう」
「忌み子……?」
なんだそれはと思っていると、彼はご丁寧に説明し出した。
「聖女と魔族。その二つの魔力が混じった子が欲しいんだ。そして、やがてその子たちは世界を崩壊させ、魔族の楽園を作ってくれる。そんな未来が見えたのだよ」
魔族の秘宝とやらは、そんな先まで見れるのか。
そして、彼の中では、私が子を産むのは決定事項のようで、こんなことをべらべら話すくらいだから、ある程度は計画通りなのだろう。
まさか、私が助かる未来はないのか?
いや……きっとサリアが助けに来てくれるはず。
そのためにも、まだ時間稼ぎが必要だ。
新たに情報を引き出すため、質問をしようとしたその時――。
「ニール様。不届き者を捕まえたので、連れてきました」
絶望の足音が、鳴物入りでやってきた。




