こんな状態で同意もクソもないだろ。
ひんやりとした空気を感じて、意識が覚醒する。
目に入ってきたのは、薄暗いが広々とした室内。
拷問器具のようなものが立ち並び、薄ら寒さを感じさせる。
ひとまず身体を動かそうとすると、一定のところでつっかえて、それ以上動かせなかった。
上体は起こされているものの、壁に立てかけられているような状態だ。
立ちあがろうにも、そもそも手が上に括られており、枷に繋がれてろくに身動きが取れないようになっていた。
足にも錘がついた枷が嵌められており、逃げることは不可能に近い。
あからさまに捕まったことがわかる構図だ。
今思えば、あの甘い匂いは睡眠香のような何かだったのだろう。
敵地に乗り込んだというのに、まんまと騙されてしまった己の警戒心の低さに辟易とする。
状況を把握していると、頭上から声が降ってきた。
「お目覚めかい、お姫様」
ニールだ。
わざとらしい笑みを浮かべ、こちらを見下ろしている。
どうせ教えてはくれないだろうけど、こいつの目的を探らないと。
「……なにが目的ですか。話し合いたいなんて嘘までついて」
「おやおや、ご機嫌斜めだね。話し合いをしたいのは本当だよ。いや、交渉と言うべきか」
この状態でまともな交渉なんてできるものか。
一方的な要求の突きつけだろうに。
「こんな状況で何を話すと言うのです」
そう問うと、彼はまじめ腐った顔で私の顎を持ち上げ、とんでもないことを言ってきた。
「交渉は交渉でも、君と性交渉がしたい」
「……こんな大掛かりな仕掛けをして、やることが強姦ですか」
「強姦だなんて人聞きの悪い。きちんと君から求めて貰いたいと思っているよ」
「身動きが取れない状態にしておいてよく言いますね」
「寝ている間に犯してはいないじゃないか。きちんと君の同意を取る手順を踏むさ」
こんな状態で同意もクソもないだろ。
枷を外す代わりにやらせろと言われてもおかしくない。
それは同意であって同意じゃない。
「同意なんてするわけないでしょう? 馬鹿なんじゃないですか」
「これを見てもそう言えるかね?」
そう言って、ニールは少し離れたところまで歩くと、地面から何かを持ち上げた。
首根っこを掴まれ、苦しそうにしている女の子。
ミーシャだ。
ミーシャが縄で縛られ、地面に転がされていた。
その胸にあるはずのペンダントはなく、無力化されているのだと証明するかのようだった。
「ミーシャ! なぜあなたがいるのですか!?」
「君を回収するのに部屋へ向かったら、このお嬢さんも部屋に倒れていてね。中から開けられない仕組みになっているから、巻き込まれて倒れていたのだろう。やはりネズミがついて来ていたな」
「申し訳ありません、レイナ様……足を引っ張ってしまいました」
ミーシャが捕まった。
これは深刻な事態だが、まだ希望はある。
サリアの姿が見えないからだ。
確実にサリアも来ているだろうに、彼女はここにはいない。
そして、リリアナの姿もないことから、彼女を探しに行っていると見て間違いないだろう。
その間の見張り役としてミーシャがこちらに来ていたが、巻き込まれて捕まった。
そう考えると辻褄があっている。
ただ、あまりいい状況でないことは確かだ。
向こうの思い通りに事が運んでしまうから。
なるべく時間を稼ぐために、質問をたくさん投げかけることにした。
「ミーシャを助けるために、身体を差し出せというところでしょうか? これが本当に強姦でないかは、疑問が残るところですけど」
「そうだね。この子を助けるか、性行為をするか。その二択ではあるが、我が身が可愛いなら見捨てても構わないんだよ? 強制はしないから、和姦だと思うな」
なにが和姦だ。頭がイカれてるんじゃないか。
そうせざるを得ない状況でする性行為は強姦だろうが。
頭に血が昇りそうになるも、今は話を引き延ばし、情報を得ることが先決だ。
そのためにも、どんどん質問をしなければならない。
「助けるために身体を差し出せという要求はわかりましたが、そこまでして私と交わりたい理由はなんですか?」
「君の子が欲しいんだ」
ニールは単刀直入に、一気に踏み込んでくる。
これが好いた相手の要求なら嬉しかったかもしれないが、よく知らない相手で、しかも卑怯な手段で丸め込もうとして来るやつだ。
嫌悪感ももちろんあるが、それ以上に、なぜそんな事をするのかという疑問が先に来た。
「愛のない子をもうけて、一体何がしたいのですか?」
「次期聖女の子なんて、貴族なら誰でも欲しいと思うけれど」
利権的な話だろうか。
たしかに、聖女協会は独立している。
望まぬ子であろうとも、貴族との間につながりができれば、権力バランスは一気に傾く。
だか、ニールが望んでいるのはそれだけではない気がした。
「子が欲しいだけなら無理矢理犯しても変わらなくないですか?」
「寝ている間に犯して欲しかったのかい? 卑しい性女だね」
「そんなわけないでしょう。ただ、非効率的だというだけです」
「同意の上で子を成した方が、利権が強まるんだよ」
……本当にそれだけだろうか?
なにか、重大な事を隠している気がする。
それを探るためにも、もう一歩踏み込むことにした。
「本当に、私が身体を許すだけでミーシャは解放していただけるのですね?」
「レイナ様!? なにをおっしゃっているのですか!?」
「乗り気になってくれて嬉しいね。本当に解放するとも。まぁ、それには条件があるけれど」
来た。やはり何か企んでいる。
さぁ、腹づもりを明かしてみろ。
「その条件とは?」
「交わっている時に、感じないことだ」
好きでもない相手と交わって感じる訳ないだろ。
それとも、絶頂するまでしつこくいじってくるつもりか?
私を試して、心を揺さぶりたいだけなんじゃないだろうか。
「……執拗にいじって、耐えられるかもてあそぶつもりなんですか?」
「いいや? 感じなくなる魔法をかけるから、ただ君は身体を許して受け入れてくれるだけでいい」
魔法をかけてまで感じさせたくないのか。
……なにかしら目的がありそうだ。
そう思っていると、ミーシャが興味深い事を呟いた。
「……感じるという事は、感情の昂りですわ。それによって魔力の巡りが――」
瞬間、ミーシャの顔が地面にぶつけられる。
女性の顔になんてことをとも思うが、都合の悪い事を言われたのだという事はわかった。
ペンダントの魔道具を取られているからか、今ので鼻血を垂らしていた。
かなり痛そうだが、今は頭を回すことが最優先だ。
考えろ。ミーシャがが怪我をしながらも与えてくれた情報だ。
絶対に無駄にしたらいけない。




