明らかに罠だろうが、行くしかない。
ニールの家が金を貸していた。
それはリリアナにとって相当ショックな出来事だったようだ。
それはそうだよな。
親が好きに使っていたお金の出所が、信頼していた相手のところだったんだから。
今まで支援してくれていたのも、お金を搾り取るためだったと考えても仕方がない。
まるで、リリアナと結婚する気がなかったとも取れる構図だ。
ニールの家がお金を貸していなければ、リリアナは借金の分を持っていかれなくて済んだのだから。
彼女は大分ショックを受けていたようで、学校を休むことにしたようだ。
昨日、一昨日と色々あっても、今日は平日だったから。
普通に学校のある日だ。
私たちは心配ながらも、普通に登校した。
――が、それが間違いだったのかもしれない。
授業が終わるまでは、何事もなかった。
が、部屋に戻ると、しんと静まり返っていた。
おかしい。部屋にはリリアナがいるはずなのに。
人の気配がしない。
「おーい。リリアナさーん。帰りましたよー」
けれど、全く反応がない。
全ての部屋を探したけれど、誰もいなかった。
「おかしいですわね。どこかに出かけているのでしょうか?」
「お腹空いて一人でご飯かも」
「この時間からですか?」
「もしかしたらいるかもしれない」
どうだろうな。たぶんいないと思う。
というか、それよりも……。
「人探しの魔法を使えば一発じゃないですか?」
「そういえばそんなものもあった」
サリアがぽんと手を叩くと、ミーシャが突っ込んだ。
「そんな便利な魔法をなぜ忘れているのです?」
「うるさい。選択肢が多いと、いちいち覚えていられない」
そんな文句を言いつつも、サリアは人探しの魔法を使ってくれた。
だが。
「……またこの展開。妨害されて、探知できない」
「またこの展開とは?」
「どこかの誰かさんも、ドレス探しの時に、同じような妨害してきた。あぁ、あれは魔族が乗り移っていたからだっけ」
あんまり掘り返してやるなよ。ミーシャがすごく申し訳なさそうな顔してるじゃないか。
でも、そうなると、魔族が関わっていたりするのかな?
「また魔族が関係していたりしますか?」
「わからない。でも、確実に誰かが誘拐した」
そうか……だとすれば、学園にいない可能性もあるのか。
これは、私たちだけではどうしようもできなさそうだ。
「……仕方ないですね。あまり気は進みませんが、ひとまず他の生徒に聞き込みをしましょうか」
「……まぁ、それしかないですわね」
「……わかった」
二人とも気が乗らなさそうだけど、皆で近くの部屋に聞き込みをした。
最初は渋い顔をされたものの、私たちが余裕のなさそうな顔をしていたからか、しぶしぶ協力してくれた。
それから同じフロアの人たち全員巻き込んで、ようやくわかった情報が――。
「――私たちの部屋に、普段は見かけない男子生徒が来ていた、ですか。学園内の誰かが関わっていそうですね」
「これはもう、私たちの領分を超えてる。学園長に相談すべき」
「そうですわね。あと、もう一度部屋を探した方がいいかもしれませんわ。何か手掛かりがあるかもしれません」
「なら、私とミーシャは学園長にお願いしにいきます。サリアは、魔法でも何でも使って、何か痕跡が残っていないか探していただけますか?」
「わかった」
「お供いたします」
部屋を後にして、二人で学園長室に向かう。
この時ばかりは会話もあまりなく、二人とも早足だった。
どう考えても楽しくおしゃべりなんて雰囲気ではないものな。
何を話していいかも分からなかったし、会話が弾むはずもない。
しかも、外はもう暗くなっている。
学園長が帰る前に訪ねなければと言う心持ちから、早足になるのも必然だった。
なるべく急いだからか、ほどなくして学園長室に辿り着いた。
ノックをして所在を確認したが、返事が返ってこない。
あまりにも返事がないので、仮に開いたら失礼かとも思ったが、扉に手をかけてみた。
案の定鍵がかかっていて、もう居ない事がわかった。
他の先生を探しに行ってみたけれど、思っていたよりも聞き込みに時間がかかったせいか、教員棟も入れなくなっていた。
これは、今日中に協力を仰ぐのは難しそうだ。
早急の外出許可も取れなさそうだし、今日できる事は少ないだろう。
仕方なく部屋に戻ると、サリアが手紙を持って、私たちを待ち構えていた。
「こんな物を見つけた」
「それは?」
「レイナへの手紙。明日の朝、一人で指定の場所に来いって書いてある」
受け取って中身を読むと、簡潔な内容で、サリアの言う通りのことが書かれていた。
明らかに誘拐犯の仕業だろう。
私たちが見落としていたらどうするつもりだったんだろうな。
「これはどうやって見つけたんですか?」
「入念な証拠隠滅の魔法が使われていけれど、この手紙がある場所だけわかりやすくされていた。これなら辿れないだろと言わんばかりの魔法で、私をおちょくってる。絶対ぶっころす」
サリアでも完全には解明できなかったのか。
相手は相当な手練かもな。
というか、ぶっころすって。
「サリアも行くつもりなんですか?」
「当然」
「でも、一人で来いって書いてありますよ?」
「姿を隠しながら、少し遠くで観察する」
「サリアの魔法でも証拠が暴けないのでしょう? そんな相手に通用しますかね?」
そう尋ねると、サリアはムッとして、パチンと指を鳴らした。
魔法陣が空中に描かれたと思った次の瞬間サリアが居なくなっていた。
「あれ? サリア?」
「ここにいる」
その言葉とともに、手に柔らかいものが触れた。
聞こえた言葉からして、サリアの手だろう。
「そこにいるんですか?」
「そう。これなら見つからない」
魔法を解いたのか、サリアが突然、目の前に現れた。
いや、さっきからずっとここに居たのだろう。
全く知覚できなかった。
これなら、たしかに大丈夫かもしれない。
「わかりました。これならきっと大丈夫でしょう」
「この魔法があるなら、私もいきますわ」
ミーシャが声をあげると、サリアは嫌そうに反応した。
「えー」
「なにがえー、ですか」
「二人にかけるのは疲れる」
「言っている場合ですか。最悪戦闘になるのですよ。戦力は多い方がいいはずです」
「……わかった」
サリアの納得も得られて、明日は二人に監視されながら、指定の場所に行くこととなった。
明らかに罠だろうが、行くしかない。
不安な気持で一杯になったが、なんとか眠りについて、朝を迎えた。




