「……なら、これしかない。ケジメは大事」
一拍置いたミーシャは、切り捨てんばかりの勢いで、豪快に切り込んで行った。
「……そのリリアナさんは、先日、家を追い出されたとおっしゃっていましたが? 稼ぐ者がいなくなって、これからどのように暮らしていくのですか?」
「渡そうとして来た金額が売り上げと比べて過度に少なかったので、頭を冷やさせるために言ったまでですよ。本心ではありません。返済にあてがうのに少し使わせていただきましたが、大部分は手元に残っています。ただの躾のようなものでしたので、皆様の大事なお金なら、お返しいたします」
わざとらしいな。こっちは全部知っているのに。
支援して貰うのにご機嫌取りで言ってるんだろうな。
どうせそれ以上のお金が返ってくると思って。
しかも、色々言っておきながら使ってるし。
私たちが来なければ、全部使っていたに違いない。
……まぁ、そっちは本命じゃないから別にいい。
そこは皆の共通認識だ。
風呂に入る前に軽く話し合って、そこは擦り合わせた。
聖女様が魔石を融通してくださったので、その売り上げでやりくりしていけば良いということになったから、もうお金自体にそこまで執着はないんだ。
リリアナの魔道具さえ取り返せれば、ある程度のお金を渡しても良いというところに落ち着いている。
だから、サリアが現金を持ってきてくれているわけだし。
ほとんどは見せ金だから、最初に出した一束しか渡さない予定だけど。
それもあとで売り上げから補填する話になっている。
話題がお金を奪われた当日に流れたので、ここぞとばかりにミーシャが攻めた。
「お金に困っていると聞いてはいたので、既に使ってしまったものは問題にはいたしません。支援の手始めとして、残りのお金も使っていただいて構いませんよ」
「本当でございますか! ありがとうございます!」
喜んで頭を下げるリリアナのお父さん。しかし、これは罠で。
「ただし、支援にはひとつ条件がございます」
「条件、でございますか?」
「リリアナさんから奪った魔道具を返していただきたいのです。あれは私たち共通の、友情の証とでも言うべきものでして。私たちは、アレを奪われたと聞いて、かなり心を痛めました。ね、サリアさん?」
サリアへ急に話が振られたから大丈夫かなと思ったけれど、流れが理解できていたからなのか、本人はノリノリだった。
「ん。作るのにかなり苦労した。売られでもしていたら、関係した奴らをまとめて潰したくなるかもしれない」
結構簡単にやっていたような気がするけどな……まぁ、それをリリアナのお父さんが知ることはできないから、ここでは二人の言うことが真実となってしまうのだけど。
「と、言うわけですので、既に持っているお金を返していただき、支援の話をなかったことにするか、それとも、魔道具を返して支援を受けるか……さぁ。いかがなさいますか?」
ミーシャは隣に座るサリアのカバンから、札束をひとつ取り出し、仰ぐように見せびらかす。
サリアの手作りという部分におびえたか、金が持っていかれることを恐れたか。はたまた、見せ金になびいたか。
いずれにせよ、彼は急いで立ち上がった。
「も、持っていったのは妻ですから! 私はどうしたか存じ上げておりませんが、すぐに確認して参ります!」
言い終わるより先に奥へ向かい、声を置いていきながらその場から消えた。
次いで奥から微かに聞こえる、怒号のようなやりとり。
なんか穏やかじゃないな。
上手く話がまとまらなかったのか?
そんな心配をしていると、しばらくしてリリアナのお父さんが戻ってきた。
なんだか焦っている?
もしかしてダメだったのかな。
その憶測を肯定するかのように、彼はどもりながら説得するように言い訳してきた。
「えー……その……今は手元にないみたいなのですが、必ず戻させますので、お待ちいただければと……」
「手元にないというのは、売ったということですか?」
ミーシャが片眉を釣り上げながら問うと、彼は慌てたように訂正した。
「いえ、滅相もない! ただ、お金を貸していただいている家がありましてね……そこに預けてしまったらしいのです」
「預けた、ですか。本当に返ってくるかは怪しいところですわね」
「どうかお待ちいただければ幸いです。必ずやリリアナの元に返しますので」
本当かなぁ。
見た目だけ一緒のパチモンとか寄越してきそうだけど。
金を貸している家が、そんなに素直に返すわけがないだろうし。
彼から見れば、貸与より支援の方がありがたいから、私たちに融通したいのかな?
まぁ、そんな悠長に待つわけがないんだけど。
それは私たちの総意なので、ミーシャが代表して、言葉の槍を突きつけた。
「あなた方にお金を貸している家を教えていただけますか?」
「そ、それはできません。あちらに迷惑はかけたくないですし」
まぁ、できることなら事を荒立てたくないだろうしな。
拒否することはわかっていた。
だが、そんなことで引く私たちでもない。
相手の魂胆がわかっているのか、ミーシャはわざとらしくサリアに話を振った。
「サリアさん、どういたしましょうか? 私たちの大切な友情の証が、返ってこないようなのですが……」
「……なら、これしかない。ケジメは大事」
そう言いながら、サリアは親指で首を掻っ切るジェスチャーをする。
随分ノリノリだね、君ら。
楽しそうでなによりだよ。
やられている方は恐怖しかないだろうけど。
「それだけはお許しください! 必ずや取り戻しますから! なにとぞそれだけは!」
「直接取りに行くので、その家を教えていただくだけで構わないのですよ? そうすれば、手酷いことはいたしません」
二人の脅しに観念したのか、ついに彼は口を割った。
「ウ、ウィリアム家です! 彼らにお金を貸していただいております!」
ウィリアム家。
なんだか記憶にあるような気がするんだけど……なんだったかな。
そう思っていたところ、リリアナの顔色がとても悪くなった。
なんだ。そんなに怖い家なのか?
そんな勘ぐりをしたが、実際には違っていて――。
「――ウィリアム家は、ニール様のご実家です……」
もっと厄介な、一筋縄ではいかない話だった。




