「親友だと思っていますよ。これまでも、これからも」
学園長に許可は取れたので、リリアナはしばらく私たちの部屋に泊まることになった。
ついでにサリアもわがままを言って、私たちの部屋で寝泊まりする許可を得ていた。
一日だけでなく、しばらくの間の。
さすが、特別扱いの生徒は違う。
本人は最初からやっておけばよかったなんて言っていたけれど、あまり無茶振りはするものじゃないと思う。
学園長、少し困ったような顔をしていたし。
まぁでも、許可は降りたのだ。
少しの間、四人で共同生活をすることになる。
元々は一人部屋だから少し手狭になるけれど、貴族基準での一人部屋だからな。
私には広いくらいだ。
三人にとってはどうか知らないけど。
きっと狭く感じていることだろう。
ただ、部屋付きの風呂だけは、人数が入れるほど広くないので、順番制だ。
おかげで一緒に入らなくて済む。
同じベッドで寝るのすら無理なのに、裸同士の付き合いなんて、なおさら不可能だからな。
サリアは一緒に大浴場へ行こうなんて誘って来たけど、断固拒否。
さっさと部屋付きの風呂に入って、事なきを得た。
最近はずっと皆と一緒だから、こうして一人で考えられる時間があると、なんだか安心する。
「ふぅ……今日は色々あったなぁ」
頭に浮かぶのは今日と明日のこと。
二人の距離が近い悩みや、明日が上手くいくかの不安。
それらを湯で流すようにして、心を落ち着けた。
前世では、風呂のことを禊なんて言い方をする人もいたけれど、私は、身削ぎの意味もあるんじゃないかと考えてしまう。
表に出てくる余分な感情が、文字通り削がれていく。
もしかしたら、そんな効果があるのではないか。
風呂に入ったときは、いつもそう思うのだ。
汚れも気持ちも洗い流して、新たな自分に生まれ変わる。
毎日の風呂は、きっとそんな意味のある工程なんだ。
なんて、ふわふわとしたことを考えながら、体を綺麗にしていった。
風呂からあがると、サリアとリリアナの姿が見当たらなかった。
一人残っていたミーシャに聞くと、待つ時間がもったいないと言う理由で二人は大浴場に行ったようだった。
ミーシャは奴隷だから、私抜きで大浴場に行くのは危険だ。
そして私が行きたがらないから、いつも部屋付きの風呂に入っている。
本人は奉仕できないのを残念そうにしているけど、勘弁してほしい。
そんなことされたら恥ずか死ぬ。
「それでは、私もお風呂に入らせていただきます」
私と交代するようにミーシャが風呂へ入り、部屋で一人待機する。
さっきまで四人いたから、なんだか広く感じる。
きっと毎日こんなことを思うんだろうなと、少し感傷的な気分になった。
ミーシャが風呂からあがるのを待っていると、サリアとリリアナが帰って来た。
少し遅れて、ミーシャが風呂からでてくる。
あとはもう寝るだけなので、寝支度をしてから、一人ベッドに入った。
隣のベッドでは、三人が寄り添いながら、きゃいきゃいと話している。
いや……リリアナは肩身が狭そうにしているから、二人か。
楽しそうでちょっと羨ましいなと思ったけれど、私が拒んだ事だし。
今更一緒に寝てほしいなんて言えない。
本当に二人と一緒のベッドになったら、何されるか分からないし。
そんな風に考え事をしていると、突然、ベッドの下からリリアナの顔が生えて来た。
にゅっという効果音がつきそうな現れ方だったので、かなりびっくりした。
大きな声を出さなかったのを褒めてほしいくらいだ。
内心かなりびびっていると、リリアナは申し訳なさそうに言った。
「お二人の話が全く分からないので、少しお相手してくれませんか?」
「それは構いませんが……寝ないんですか?」
「明日のことを考えると、なんだか怖くて。誰かと話したい気分なんです」
「なるほど。なら、こっちに来て良いですよ」
布団をあげてリリアナを誘うと、彼女はおっかなびっくり、やんりと否定した。
「え。でも、ベッドに入ったら怒られちゃうんじゃ……」
「二人は話に夢中ですから。どうせ気がつきませんよ」
「お二人の時はあんなに嫌がっていたのに、私はいいんですか?」
「あー……まぁ、リリアナさんなら大丈夫なので」
「どういう意味ですか?」
いけない。口が滑った。
「聞いても怒りませんか?」
「理由によります」
うん……これは素直に言った方がよさそう。
「……私、二人のことをかなり意識してしまっているようなんです。リリアナさんはそこまで親しいわけではないので、平気というか」
「それって、お二人が恋愛対象ってことですか?」
なっ。何を言うんだこの子は!
「ちがっ、そんなんじゃないですよ……!」
「じゃあ、なんなのですか?」
なんだろうな……わからない。
ミーシャのことは推しとして好いていたことがあったけれど、あれは付き合いたいとかではなく、好きなキャラクターやアイドルに認知してもらうような喜びだったし。
実際に付き合って、その……性的な関係になりたかったかと言うと、ノーである。
だから、これは恋愛感情じゃない。
二人と性的な行為がしたいわけじゃない。
……と今日までなら思っていたのだけど。
昼間にあった食べさせ合いで、二人のことをすごくエッチだなと思ってしまったから。
恐らくは、恋愛感情を抱き始めているのかもしれない。
身体に引っ張られて、肉体年齢と同じくらいの相手が恋愛対象になっているのだろう。
でも、今は女の子同士。
きっと幸せにはなれない。
こっちの倫理観はあまり知らないが、同性愛が大変なのはどこでも一緒なはずだから。
ゆえに、二人は何があろうと友達で。
その域を超えてしまったら、きっと何かが壊れてしまう。
そんな思いを込めて、気持ちを口にした。
「親友だと思っていますよ。これまでも、これからも」
二人との関係は、親友が上限値。
それ以上は、何かがおかしくなるから。
そんな私の気持ちが伝わったかは知らないが、リリアナはそれ以上突っ込んではこなかった。
「そうですか。お二人とは、本当に仲が良いんですね」
「リリアナさんとも、仲良くできたらと思っていますよ」
「嬉しいですけど……なんでここまでよくしてくれるのかは、わかりません。時々、怖くなります」
「仲良くなるのに理由が必要なんですか?」
「理由のない施しは怖くありませんか? 私は怖いです。過去のことを考えると、特に」
「過去に何かあったんですか?」
そう聞くと、リリアナは少し言い淀んでから、恐る恐る尋ねてきた。
「面白い話ではありませんが……よければ聞いてくれますか?」
「いいですよ。長くなりそうなら、こちらへどうぞ」
毛布をめくってベッドを叩きながらそう伝えると、リリアナはおずおずと入ってきた。
顔が近づいて、吐息がかかるような距離になる。
整った顔立ちが眼前に来て、一瞬だけ心臓が高鳴った気がしたけれど、すぐに落ち着いた。
やはりリリアナなら、やましい気持ちは起こらないみたいだ。
そんなことを思っていると、やがて彼女は語り出した。




