普段はあんなにいがみあっているのに。
聖女教会を後にした私たちは、魔道具工房で魔石に魔力を込めていた。
言われた通りに一つ一つ丹念に魔力を込め、出来上がったものを職人たちに渡していく。
……はずだったのだけど。
「どうしてサリアは修行に参加していないんですか? しかも私が作った魔石を片っ端からかっぱらっていって……一体何をしているんですか」
「レイナの魔力を、安物の魔道具に使うなんてもったいない。これは私が有効活用する」
「安物って。ちゃんとした売り物ですよ? 真剣に作っている工房の人たちに失礼ではありませんか」
あんまりな言い草なので強く言ったけれど、今回はサリアも譲らなかった。
「失礼なのはレイナの方。こんな上質な魔力を量産型魔道具に使うなんてありえない。最高級の野菜を餌にして、安価な家畜を育てるくらい冒涜的」
言いたいことはわかったけれど、何もそこまで言うことないじゃないか。
言い返そうと口を開きかけたが、先にミーシャが間へ入って来た。
「サリア様も、なにか考えがあるのでしょう。天才の行動を阻害しても、利益になることはほとんどありません。ここは好きにさせておくべきかと思いますわ」
サリアと仲が微妙なミーシャまでそんなことを言うなんて……なんか本当に私が悪いみたいじゃないか。
私が不利な立場に置かれているのを見かねてか、リリアナは慰めるような雰囲気で述べた。
「理解できないことが起こると、否定したくなりますよね。私もその気持ちはわかります。ですが、何事にも意味はありますので、放置するのも手ではないかと」
あれ? 慰めてるようで、諦めろって言ってない?
「リリアナさんはどちらの味方なのですか?」
「私の勘も、サリアさんには好きにさせろと……」
なんだよ。結局リリアナもそっち側なのかよ。
ちょっと拗ねた気持ちになっていると、ミーシャがなだめ混じりで諭してきた。
「まぁまぁ。きっと無駄にはなりませんわ。ね? サリア様には好きにさせておくのがよろしいかと思われますよ」
ふんだ。
どうせ私がわがままですよーだ。
やさぐれた気持ちで魔力をこめていると、サリアから声をかけられた。
「レイナ」
「なんですか? まだ何かあるんですか?」
「集中が乱れてる」
誰のせいだと思ってるんだよ。
率直な注意に対し、表面上取り繕って、貼り付けた笑顔で返すのが精一杯だった。
「……そうですね。おざなりにやっては、修行になりませんものね」
「違う。魔力の純度が落ちてる。修行はどうでもいいけど、質が落ちると困る」
くそが!
魔力の純度にもなにか意味があるんだろうけど、むかつくものはむかつく!
たかぶって罵倒したくなる気持ちを精一杯沈めながら、義務的に魔力を込めるしかできなかった。
最初は鬱憤を晴らすように修行へ取り組んでいたものの、だんだんと気持ちが落ち着きはじめて。
最後にはサリアがどうとか考えなくなるくらい、集中できた。
まるで、魔力が感情までも吸い取っていったかのようだ。
「なんかすっきりしましたね。怒りの感情が、魔力と一緒に流れ出ていったと言うか。集中したおかげなんですかね」
そんなことをぽろりとこぼすと。
珍しくサリアが食いついて来た。
「そう。その通り。魔力は感情が根源と言われていて、精神を研ぎ澄ますと、質が上がる。心が乱れると強い魔力になるけれど、その分、不純物も多い。ただの原動力にするならそっちの方が効率はいいけど、より高価な魔道具を動かすなら、さっきの修行でできた魔石はもってこい」
おわあ。よく喋るね。
何言ってるかはあまり分からないけど、なんか楽しそう。
そんな感想を抱いていると、横にいたミーシャが話に乗った。
「その論は耳に挟んだことはありましたが、本当だったのですね。でしたら、悲しい感情の魔力と、怒りの感情の魔力をかけあわせることによって――」
リリアナと私はぽかんとするしかなかったけれど、ミーシャには分かったようで。
サリアと二人で魔力話に花を咲かせてた。
……まぁ、こんなことでも仲良く話せるならいいんじゃないでしょうか。
私にはさっぱりだけど。
しゃべくり始めた二人を置いて、私は親方に挨拶しにいった。
「今回は場所を貸してくださり、ありがとうございました」
「いいってことよ。商売に関わることだからな。今後も気軽に言ってくれ」
「とても助かります。また頼らせていただくと思います。それから、うちのサリアが失礼しました。せっかく皆さんが手掛けてくれているのに、安物の魔道具なんて言ってしまって……」
本当に申し訳なくて謝ると、親方は少し神妙な顔つきで返して来た。
「まぁ思うところがないわけではないが、制作者だからな。そう思うのも無理はないだろ。あのお嬢さんが作っていたものを見せてもらったが、なにを作っているんだか見当がつかなかった。ありゃ文句を言う気も起きんよ」
「……あれって、そんなに凄いものなんですか?」
魔道具の道で食べている人にそこまで言わせるなんて。
もしかして、とんでもないものを作っているのか?
「機構としては、魔石内部の魔力を増幅させる代物だと教えて貰ったんだが、それを何に使うのかは分からん。唯一読み取れたのは、内蔵魔力を一気に放出するようになっていたことくらいか。しかし、そうする理由が理解できなくてな」
「それって、そんなに変なことなんですか?」
「あぁ。あれから抽出できる魔力は、普通に使っていれば動力源としては最高峰だ。あれひとつで、街一つ分をしばらく維持できるんじゃないか? それなのに、一撃で放出するって言うんだ。本当に、何に使うんだか」
なんだそれ。そんな化け物エンジン積んで、何作るつもりなんだよ。
「それ、武器として使ったらとんでもない威力になるんじゃ……危ないものを作っているなら、咎めなきゃいけないんですけど……本当に何も分からないんですか?」
「さぁな。あれで何を作るのか聞いてみたが、教えてはくれなかった。というよりは、こっちの話を聞いてなかったって感じだな。最初はかすかに応答もあったが、自分の世界に入りはじめてからは、こっちのことは完全に無視だ。というより、隣にいるとすら思われていない。天才ってのはああいうのを言うんだろうな」
あー、まぁたしかに、魔道具作ってる時は、話しかけても無視されること多いかも。
無理矢理気が付かせるために、目隠ししてやっとって感じだし。
それで怒られることもあるんだけど。
そうでもしないと気がついてもらえないから。
きっと集中力が凄いんだろうな。
好きなことはとことん突き詰めるタイプみたいだから。
今もミーシャと楽しそうに話している。
普段はあんなにいがみあっているのに。
いつもこうなら文句はないんだけど。
……今だけだろうなぁ。
これでミーシャのことを認めて、少しは態度が変わったしないかな。
そんな期待を持ちたくなるくらいには、二人は仲良く話していた。
本当はこのまま話させてあげたいんだけど、そろそろ寮に帰らなきゃいけない。
「二人とも、そろそろ帰りますよ」
「もう?」
「明日は大事な日ですから。きちんと備えておかなければ」
「……わかった。帰る」
「……わかりましたわ。また今度お話しいたしましょう」
二人とも少し残念そうだけど、こればかりは仕方ない。
ごめんな、と思っていると、リリアナがおどおどしながら声をあげた。
「あのー……私、本当にレイナさんの部屋に泊まるんですか?」
「野宿なんてさせられませんからね。寝るのはミーシャと同じベッドになるみたいですが」
ミーシャに申し訳ないなと思っていると、当の本人は、急にサリアをからかいはじめた。
「そうですわ。今日は三人一緒の部屋で……あら。サリア様だけ一人で寝るのですね。まぁ仕方ないですわね。別に部屋がありますものね」
さっきまであんなに仲良さそうだったのに。
いきなり煽り出したよ。
一人だけはぶられているのが我慢ならなかったのか、サリアは無茶なことを言い出した。
「私もレイナの部屋で寝る」
「残念ながら、寝るベッドがありませんわよ」
「レイナと同じベッドでいい」
「本人が良いならよろしいのではないですか?」
ミーシャお前、私がなんて言うか分かってて言ってるだろ。
乗るのは癪だけど……一緒のベッドは無理。
「嫌ですよ。私は一人で寝たいです」
「そんな……私が嫌いなの?」
うっ。これだと悲しませてしまう。
本当のことを言うのは恥ずかしいけれど、致し方ない。
私は、絞り出すように、か細くサリアに告げた。
「……むしろ逆ですよ。意識してしまうので、一緒のベッドはダメなんです」
それはミーシャでも同じだ。
前にそれで断ったことがあるし。
二人と一緒に寝るなんて、変な気持ちが湧いて来そうだから絶対無理。
「……わかった。じゃあミーシャのベッドでいい」
私の言葉にサリアはひとまず納得していたけど、斜め上の答えを返していた。
いや……三人は狭くないか?
「あのベッドに三人は不可能ですわ。ご自分の部屋で寝てくださいませ」
同じことをミーシャも思っていたようで、すぐに拒否していた。
が、そこで諦めるサリアでなくて。
「同じベッドならさっきの話の続きができる。なんなら他の理論の話も」
ミーシャをあからさまな餌で釣っていた。
そして、ミーシャも名残惜しかったのか、かなり迷った素振りを見せている。
そして、最終的には――。
「……わかりました。今日だけですわよ」
「やった」
君たち、明日が大事な日だって忘れてないよね?
ちゃんとほどほどにするんだぞ。
それと、間に挟まれるリリアナはご愁傷様……。
よく分からない話が子守唄になって、よく眠れることだろう。




