「わ、私ですかぁ!?」
聖女様から、修行の提案、か。
……ここでノーというのは簡単だ。
明日はリリアナの家に行くし、正直、魔力込めの修行なんてしている暇があったら、準備をしておきたい。
だけど、この人が無駄な話をするとは思えない。
きっと何かあると思った私は、深く聞いてみることにした。
「とても興味深い申し出ですが、私たちは、明日にもリリアナさんの家に伺う予定です。あまり時間がなくてもできることなのですか?」
「えぇ。場所は問いませんから、好きなところでやって構いませんよ。ただし、やる時は精神を揺さぶらず、一個一個、真心をこめてくださいね。売り物としての価値は見出しませんが、修行の成果として、集中した時の純度が高い魔力が好まれますから」
好きなところでやっていい?
それって、できた物が盗まれても分からなくない?
しかも純度が高い魔力のこもった魔石を売り物にしないって……一体どういう意図があるのか不明だったので、詳しく聞くしかなかった。
「……魔力を込めたものはどうすればいいのでしょう? 聖女教会に持って来ればいいのでしょうか?」
「まさか! 今でさえ、魔力を込めた魔石の扱いに困っていると言うのに! 更に増えたら、倉庫に荷物が入らなくなってしまいますよ。出来た魔石はご自分で処理してください」
「どういうことですか?」
別に、売ればいいだけなのに。
と思ったけれど、そう簡単に行く話でもないようで。
「魔力入りの魔石は市に流しているのですが……あまり量を渡すと、市場が崩壊します。しかし、毎日のお勤めなので、売り切れなかった分が倉庫に嵩張っていくのです。今も圧迫していて、扱いに非常に困っているのですが……そういえば、皆さんの事業は、魔力入りの魔石が元になっていましたね?」
まさか……そんなおいしい話があっていいのか?
期待を膨らませつつ、表に出さないように話の接ぎ穂を掴んだ。
「そうですね。今は魔石を買うお金を持って行かれてしまい、非常に困っていたところです」
「でしたら、正式に聖女教会と契約を結ぶのはいかがですか? 利益を上げる商売ではないので単価は下がるかもしれませんが、恒久的に売り上げが入ります。私たちは魔石がはけて嬉しい。あなたたちは、生産元ができて嬉しい。どうです? お互い得だと思うのですが……」
「とても嬉しい申し出ですが、本当にいいのですか? 何か問題が起こったりしませんか?」
あまりにもおいしい話なので、素直に受け取るのが難しくなる。
少し迷っていると、聖女様は、今思い出しかのように付け加えて来た。
「あぁ。そういえば、一つ条件があるのを忘れていました」
「……条件ですか?」
なんだ? やっぱりそんなおいしい話はないと言うことか?
そう身構えていると、聖女様はリリアナを見た。
「聖女教会と懇意にしている商人でなければ、取引が出来ないのですよ。裏があるような者と通じていては、聖女教会の品格が疑われますから」
聖女教会と懇意か……リリアナを見ているということは、何かあるんだろうけど。
意図が汲みきれない。
思い切って、その思惑を聞いてみることにした。
「リリアナさんは善良な商人なので、聖女教会と取引できる素質はあると思いますが、そのように取り次いでくださるのでしょうか?」
「そう簡単に話が片づけばよかったのですが、こればかりは私の一存で決められることではないのです。聖女教会全体として、信頼のおける相手でないといけませんから」
聖女教会全体で、か……難しそうだし、時間がかかるだろう。
そんなに待ってられないし、聖女様もそのつもりで話してないと思うけど……ダメだ、彼女がどういうつもりで話してるのか、全く分からん。
分からないことは、素直に聞くしかない。
「……でしたら、どうしたらいいのでしょうか?」
「例えば、聖女教会に属する修道女、あるいは修道女見習いであれば、やましいところがないと保証できるのですけど……聖女教会は独立している組織なので、出家していないといけないのですよね。鼻のきく商人であり、家にこだわっておらず、人柄に信頼がおける……そんな都合の良い人材がいれば、紹介してくださいませんか?」
それって……。
話を振られたリリアナは他人事のように聞いていたので、その背中をぐいっとおして、聖女様に売り込んでやった。
「ここにいます。このリリアナさんは、その勘の良さで私たちと関係を繋ぐことに成功し、家から追い出され孤独の身であり、短い付き合いであるものの、人の良さが感じられる。そんな人間ですので、是非見習いにいかがでしょうか?」
「わ、私ですかぁ!?」
そんなにびっくりすることないじゃん。
どうみてもそういう流れだったでしょ。
勘は鋭いのかもしれないが、話の流れを読むスキルがないのは商人としてどうかと思うぞ。
ほら、聖女様も、少し心配そうな顔をしている。
本当にこの子で大丈夫かな、って。
仕方ない。もう少し強めに売り込んでおくか。
「……少し抜けているところはありますが、彼女は人の協力を受けやすい人間です。頼りないところは出てくるでしょうけど、きっと聖女教会のためになりますよ」
「……なるほど。そこは実際に、所属してから見極めるとしましょう。本人に、その意思があればの話ですが」
一も二もなく承諾すると思いきや、リリアナはすごく迷っているように、途切れ途切れに言葉をこぼした。
「ちなみに、修道女となった場合、貴族の方と結婚することは……可能なのでしょうか?」
聞いた本人も、無理だとは思っているのだろう。
その顔は、諦めに満ちていた。
そして、その通りに、聖女様は無慈悲な言葉をリリアナに告げた。
「先ほども言いましたが、聖女教会は独立した組織です。貴族の家に嫁ぐことは許されていません。それが許されてしまうと、権力争いに発展してしまいますから」
「わかりました……でしたら、この話はお受けできません」
……そうか。そこまでニールと結婚したいか。
彼女の覚悟を甘く見ていたな。
事情を知らない聖女様も、今のやり取りで悟ったのか、それ以上突っ込んでこなかった。
「そうですか。気が変わったら教えてください。聖女教会は、いつでもあなたを受け入れます」
「ありがとうございます。大変嬉しいお言葉です」
「さて……残念ながら事業の拡大は望めませんでしたが、修行はなさいますよね?」
要は、空の魔石はあげるから、自分で材料にしなさいってことでしょ?
当然やるに決まっている。
「します。皆さんもそれで良いですよね?」
反対する者はおらず、満場一致で魔石修行をすることになった。
商用利用するとはいえ、修行という名目だ。
言われた通り、一個ずつ丁寧にやらなければならない。
大変だろうけど、頑張るぞ。




