こんな気持ちになっちゃいけないのに。
全員で食べさせあいをする流れになったので、まずは順番を決める。
二人が私は最後にして欲しいと言ったので、リリアナもそれに乗ることに。
そして、一番嫌なことは早く済ませたいからと、サリアとミーシャの組み合わせが最初になった。
先攻はミーシャ。
ケーキを食べやすいサイズに切り分けて、サリアの口に持っていく。
サリアはそれを、小さな口で、ついばむように食べた。
なんだか、義務感で飼ってる動物の餌付けを思わせる。
本人たちは不満そうだけど、微笑ましい光景だ。
無愛想に咀嚼しおえたサリアは、粗雑にパフェをすくい、準備が整っていないミーシャの口に勢いよく突っ込んだ。
おいおい。嫌なのは分かるけど、それはあんまりだろ。
あーあ。ミーシャの口の周りが汚れてるし。
しかも本人は気がついてない。
それを見て、サリアは笑いを堪えてるように口をひくつかせてる。
お前ね……。
さすがに可哀想だったので、汚れを取ってあげることにした。
「ミーシャ、こっち向いてください」
「なんでしょう?」
「口の周りが汚れていますよ」
紙でふきとってやると、ミーシャは嬉しそうにはにかんだ。
「ありがとうございます」
これに納得いかなかったのがサリアだ。
彼女は自分のパフェを乱雑に食らい、わざとらしく口を汚して、私の方を向いた。
「私も汚れた」
そんな意図的なやつに乗るか。
故意のことだったので、さすがに拒否することにした。
「自分で汚れてるって気がついているなら、拭いたらいいじゃないですか」
「でも見えない」
「自分から汚したのに……」
「お願い」
はぁ。仕方ない。
甘いとは思うけど、いつまでもこのままな気がしたので、拭いてやることにした。
「次は自分で拭くんですよ」
「できたらやる」
それはしないやつだろ。
そんなことがありつつも、ミーシャとサリアの番はおわり。
次はサリアとリリアナの番だった。
サリアが無愛想に、リリアナの前にスプーンを差し出す。
今度はミーシャの時のようにつっこまず、リリアナが食べるのを待っていた。
その気遣いを少しでもミーシャに分けてやれよ。
その配慮に気がついていたのか、食べ終えたリリアナは、ぽつりと呟いた。
「私も思いっきり突っ込まれるのかと思いました」
「そんなことしない」
ミーシャにはしたじゃないか。
まぁ、ある程度関係ができているからだと思っておこう。リリアナより前に知り合ってるわけだしな。
……いい関係とは言い難いかもしれないけど。
もう少しお互い歩み寄ってくれないかなあとは思う。
そんなことを考えているうちに、今度はリリアナがサリアに食べさせていた。
相変わらず小さな口で、雛鳥のように食べている。
それなのに、食べる量があれだもん。
びっくりしちゃうよ。
こんなに糖分好きな奴だとは思っていなかったが、その割にスタイルいいんだよな。
胸はぺたんこだけど。
スレンダーできゅっとしてる感じだ。
ちょっと羨ましいかもしれない。
やっぱり頭使うと痩せるのかなぁ。
それにしては、いささか食べる量が多いが。
本当に甘いものが好きなのか、サリアは幸せそうにしている。
ずっとこうなら可愛げがあるんだけど。
その愛想の良さを普段から出してくれたらなぁ。
なんて、言っても仕方ないんだけど。
サリアの番が終わったら、次はミーシャだ。
ミーシャは品のある動作で、リリアナの前にケーキを持っていく。
奴隷に落ちても元高位貴族と言うべきか。
所作に美しさがある。
さっきも綺麗な動作だったんだけど、食べる方がぶっきらぼうだったからな。
今回は、没落したとはいえ貴族だったリリアナが食べているから、一枚の絵画のようだった。
私に絵の才能がないのが悔しい。
あったら絶対に描くのに。
私が才能のなさを嘆いている間に、攻守が逆転。
今度はリリアナがミーシャに食べさせる番となった。
さっきは貴族のご友人のたわむれという雰囲気だったが、今回は妹から姉への分け合いという印象を受ける。
リリアナが妹っぽいんだよな。
元気だし、愛嬌があるし。
なんだか可愛がってあげたくなる性格をしている。
心なしか、ミーシャもいつくしむような目を向けている気がするし。
これが尊いという感情か……?
前世では、いわゆる百合というやつに嗜みがあったわけではないけれど、今世ではその良さに浸ってしまいそう。
自分がそうなりたいかと言われると、少し首をかしげざるを得ないけど。
元男だから、百合と言っていいのか怪しいし。
まぁ、もう男だった意識はあまりないのだけど。
強いて言うなら、男であったことを忘れないために、思考を粗雑にしているくらいか。
こうでもしないと、自分が何者かわからなくなるんだよな。
あんまり前世にこだわっても仕方ないのかもしれないけど、覚えているってことは、何か意味があるのかもしれないし。
男であったことは、忘れたくないんだよな。
最近少し危ういけれど。
前に、男であるミリアルドにほだされそうにもなったし。
あれはもう忘れたいくらい嫌な出来事だ。
なんてことを考えていると、肩を叩かれた。
隣にはリリアナの姿。
彼女はケーキの乗ったフォークを構え、準備している。
いけない。目の前のことに集中しないと。
思考を振り払うようにして、リリアナの差し出すケーキにくらいついた。
人から食べさせられるケーキは、なんだか普通よりも甘い気がして。
少しふわふわした気持ちになった。
私のりんごパイはもうないので、リリアナのパフェをすくい、彼女に差し出す。
嬉しそうにぱくつく彼女を見て、こっちも幸せな気分になった。
……さて。残るはミーシャとサリアだけど。
リリアナと食べさせあいをしている間にも、どっちが後かで揉めていたのが、耳に入っていた。
結局ミーシャが先になったみたいだけど。
順番に意味なんてあるのかなぁ。
まぁ本人たちにとっては大事なのかもしれない。
ミーシャがキス待ちのように目をつむって口をあけているので、汚さないように気をつけながら、その中に彼女のケーキをいれた。
なんだか官能的で、一瞬むらっとしてしまう。
だめだめ! 友達でそんなことを考えたら!
でも、なかなか頭から離れてくれなかった。
そんな風にぼーっとしていたからか、ミーシャが口に入れようとしていたのに気がつくのが遅れた。
慌てて食べようとしたから、少し狙いがずれてしまい。
こぼしたわけではないけれど、フォークが口に当たったのを感じた。
申し訳ないなと思っていると、ミーシャが私の口元を指で拭ってきて。
汚れをふきとった指を、嬉しそうにねぶっていた。
なにしてるんだと咎める前に、なんだかえっちだなと言う感想が先に来てしまった。
特に、指を口から抜く時に、一層エロさを感じてしまって。
赤面していると自覚しながら、黙ることしかできなかった。
そして、私の頬についた汚れを舐めるなんて動作に、我慢ができるサリアではなく。
「ずるい。私もやる」
サリアは無理矢理私の口にパフェを突っ込んできて、わざと口周りを汚してくる。
そして、私が咎めるより早く指で拭い、ミーシャと同じようになめていた。
満足げに頷いたサリアは、今度は自分の番とでも言うかのように目を瞑る。
口を開けて待っているその姿に、ただの食べさせあいでは発生しない感情を抱きそうになった。
おかしい。
二人は友達なのに。
こんな気持ちになっちゃいけないのに。
パフェじゃなくて、私の指を突っ込んでみたいだなんて……。
こんなの絶対おかしい。
ミーシャの時も、キス待ちみたいだって思ってしまったし、私の情緒が壊れている気がする。
ダメだ。二人はただの友達なんだから。
こんな目で見ちゃいけないんだ。
己のふしだらな精神を律して、煩悩を振り払うように、サリアの口にパフェをいれた。
……ふぅ。これでひとまず難関はこえた。
精神が擦り切れるような思いがしたけれど、ここを越えればあとは楽しいおしゃべりの時間だ。
だけど、二人のことがなかなか頭から離れなくて。
皆の話している内容が、全然頭に入ってこなかった。
リリアナは二人と仲良く喋っていたようだし、目的は達成できたのかもしれないけれど。
なんだか申し訳ないことをしてしまったな。
今度また、何かで埋め合わせができたらなと思う。
その時は、今回みたいに動揺しないようにしないと。
結局お店を出るまで、ずっともんもんとすることになったから。
一度、二人への気持ちを、よく考えないとダメかもしれないなぁ。




