目的のためとなると、人はこうまでがめつくなるのか。
「とってもおいしいです! レイナさんが説得してくれたおかげです!」
それは良かったね。
幸せそうに食べているリリアナを見ると、こっちまで嬉しくなってくる。
本当に久しぶりに食べるんだろうなぁ。
初めて見るような笑顔で、とっても可愛らしい。
もっとこの笑顔が見たくて、私の分も少し分けてあげたくなった。
「私のりんごパイも少し食べますか?」
リリアナが答えようと口の中のものを飲み込んでいる時、サリアがはしたなくも、咀嚼しながら会話に入ってきた。
「ふふい。ふぁふぁしにもふぁへふへき」
「口の中のものを飲み込んでから喋ってくださいよ。何言ってるか分かりません」
高位貴族は躾も厳しいだろうに。
それを忘れるぐらい、サリアにとっては緊急案件だったのだろうか。
しばらく口をもごもごさせ、ようやく飲み込んだ彼女は、あらためて言った。
「ずるい。私にも分けるべき」
「それだけ食べてまだ足りないんですか?」
「量の問題じゃない。レイナから貰うことが重要」
「でしたら私もいただきたいですわ」
なんて言って、ミーシャまで混ざってくる。
君たち、私が関係するとちょっとおかしくなるね?
なにがそこまでさせるんだろう……不思議だ。
「……三人に分けたら私の分がなくなるんですけど」
「なら交換」
「それがいいですわ。私もりんごパイを食べてみたいです」
「まぁいいですけど……」
『いい』と言った瞬間に二人とも身を乗り出していて、あっという間に私のりんごパイを切り分け、ごっそり持って行ってしまった。
代わりに皿へ乗せられる、同じ量か、それ以上のパフェとケーキの塊。
しかもサリアに至っては、わざわざ食いかけのところを持って行った。
ミーシャはそれを見てなんだか不満そうだし。
これが現高位貴族と、少し前までそうだった者たちの姿か?
目的のためとなると、人はこうまでがめつくなるのか。
はぁ。どうして二人はこう……。
まぁいいけどさ。
二人のことを甘く見ていたのは私だし。
より理解できたと思えば、有意義であろうというものだ。
吐きたくなるため息を飲み込みながら、寂しく取り残されたりんごパイを、リリアナの皿に乗せてやる。
もう端っこしか残っていないりんごパイの残骸を見て、リリアナは遠慮がちに聞いてきた。
「お、お二人とも結構持って行ってしまいましたけれど、私もいいんでしょうか……?」
いいんだよ。元はと言えばリリアナに提案したんだから。
「構いませんよ。もう残りかすみたいなものですし、交換はしなくていいですからね」
「いえ。私もちゃんとお返しします」
「べつに気にしなくていいんですよ」
しかしリリアナはかたくなで、また、別の意思も持っていた。
「貰った物を返したいのもありますが、一度食べさせあいという物をやってみたくてですね。貴族の時ははしたなくてできませんでしたが、今は没落して礼儀について言う人もいませんから。物語でやっているのを読んで、憧れていたんです」
リリアナがそんなことを言うものだから、りんごパイを頬張っていた二人が固まった。
一度注意されているからか、すごい勢いで口の中を飲み込んで、阻止しようとしてきた。
「ダメ。いくらなんでも早すぎる」
「私たちも最近になってようやくでしたからね。サリア様のお気持ちもわかります」
君らには炒飯作った時に一回やってるんだから、そんなに否定することもなかろうに。
二人に咎められてか、リリアナは萎縮してしまった。
「やっぱりダメですかね? 友達ができたらやってみたかったのですけど……」
そんなこと言われて拒否できるほど私も人でなしじゃない。
ここは二人に諦めてもらうしかないだろう。
「いえ。私は構いませんよ。やりましょう」
「ありがとうございます!」
かわいいねぇ。この程度でよければいくらでもしてあげちゃう。
ただ、これでめでたしと収まるなら、最初から二人が阻止しに来ないわけで。
当然のように二人も同じ要求をしてきた。
「私にもして」
「サリア様にするなら、私にもしていただかないと。平等にしていただかないと、軋轢を生んでしまいますから」
やっぱりそう来るよねー。
でも、いつも言うことを聞くと思われても困るから、ここで少しいじわるしちゃう。
「高位貴族がそんなお行儀悪いことしていいんですか?」
先に反応したのは、ミーシャだった。
「私はもう奴隷ですから。むしろ、手ずから餌を与えるのは主人の義務ではありませんか?」
おぉい。プライドというのはないのか?
奴隷に落ちたとはいえ、この間まで高位貴族だったろ。
一人だけ抜け駆けされると思ったのか、サリアがミーシャの邪魔をし始めた。
「主人の手を煩わせるものじゃない。奴隷は自分で食べるべき」
「奴隷もたまには褒美が欲しいのですよ。そんなに高望みはしていないと思いますが……ダメですか?」
なんて、捨てられた動物みたいな目でミーシャはこっちを見てくる。
仕方ないな。あんまり拒否してもこじれるだけだから、このあたりで承諾しておくか。
「わかりました。やりますよ。ただ、いつでも言うことを聞くと思わないでくださいね? だだをこねたら聞いてもらえると思われても困りますから」
「ありがとうございます。嬉しいです」
ミーシャにだけ許可したと思ったのか、サリアが静かに訴えかけてきた。
「私は?」
「……まぁ、前に一度やってますからね。いまさら変わらないといいますか。サリアがよければいいんじゃないでしょうか」
「お行儀よりも大事なことがある。当然する」
二人にもするとなったところで、リリアナがぶっこんだ。
「それなら、私はお二人とも食べさせあいをしたいです!」
「え」
「それは……」
まさか自分たちにも来ると思っていなかったのか、二人は戸惑っていた。
それを拒否と受け取ったのか、リリアナは悲しげに問うた。
「ダメですか……?」
二人とも、本当は私とだけしたかったのだろう。
ただ、断れる空気でもなかったのか、ミーシャが流れで承諾していた。
「私は構いませんが……」
それに続いて、サリアも乗る。
「……ダメではない」
この子も気を使えるようになったんだね。
サリアの成長に思わずほっこりしてしまう。
二人に断られなかったからか、リリアナは安堵の表情をしていた。
「よかったぁ。ありがとうございます、嬉しいです」
ふむ。そこも食べさせあいをするのか。
ちょうどいい機会だ。
せっかくだからこの流れを利用させて貰おう。
「一つ、やってない組み合わせがありますね?」
言った瞬間、サリアが拒絶した。
「それはヤダ」
言われる前から頭にはあったんだろうな。
一拍遅れて、ミーシャも拒否した。
「私もご遠慮したいですわね」
サリアとミーシャの組み合わせ。
二人が仲良くしてくれれば、私の心配も減る。
ここで簡単に諦めるわけにはいかない。
たとえ卑怯な手段を使ってでも成立させる。
「全員平等にできないなら、私はリリアナさんにしかしません」
「ならやる」
「わかりました。レイナ様がそこまでお望みならいたします」
よし。言質はとった。
これで少しは仲が深まるといいけど。




