おい待て馬鹿野郎。お前は糖分の摂りすぎだ。
「さて。せっかくお菓子を食べにきたのですから、何か頼みましょうか」
こじれそうな話はひとまず置いておき、まずは今日集まった目的の一つをこなすことにした。
が、リリアナは少し不安そうにしていて。
家のことが気がかりなのか、彼女は落ち着かない様子で呟いた。
「……私、こんなのんびりしていて、いいのでしょうか?」
「私たちと一緒にお菓子を食べるのは嫌ですか?」
「いえ、そういうことではなくて! 私のせいで大事な資金がなくなったのに、のほほんとお菓子を食べていいのかな、と……」
真面目だなぁ。
それがリリアなのいいところで、商人らしさでもあるのかもしれない。
けれど、少し頭が硬くなりすぎだ。
「こういうのは切り替えが大事なんですよ。くすぶる気持ちを払拭して、明日に備える。そんな心持ちで今を楽しむ方が、引きずらなくていいと思います」
そう説得すると、リリアナは少し悩んだ後、元気をしぼりだすように笑った。
「……なるほど。そうですね。今はいっぱい楽しもうと思います」
よかった。気持ちを切り替えられたみたいだ。
こちらも楽しんでもらえるように、沢山話に巻き込もう。
その前に、大事なお菓子を用意しないとな。
「でしたら、早速お菓子を頼んでいきますか」
「私は家族だんらん果実山盛りパフェ」
えーと。サリアは家族だんらん果実山盛りパフェ、と……ってこれ、四人分じゃないか。
なに? 皆で一緒のパフェを食べる感じなの?
たしかに仲は深まりそうだけど……せっかくなら各々好きなものを食べてもいいと思うけどなぁ。
しかも、何も聞かずに進めるのがいただけない。
あまりにも横暴なので、趣旨は賛成できるものの、注意することにした。
「皆で一緒の物を食べるのもいいかもしれませんが、勝手に全員分を決めるのはどうかと思いますよ」
「? これは私のだから、皆も好きなものを食べたらいい」
は? 私のって……。
「……まさか、これを一人で食べる気ですか?」
「なにかおかしい?」
「いえ……別に……」
おかしいところしかないが、サリアは言っても聞かないだろうし。
せっかく楽しみに来たのに、こんなくだらないことで口喧嘩したくない。
食べたいと言うなら、食べさせればいい。
あまりにも量が多いので、ちょっと心配だけど。
まぁ、好きな物を好きなだけ食べられるのは、若いうちの特権だから。
毎日これだったらさすがに怒るけど、こういう日くらいはいいだろう。
……そういえば、前にペンダントを貰った後に少し買い食いなどしたが、サリアは甘い物ばかり食べていた気がする。
好きなんだろうな、甘い物。
まだ彼女のことをあまり知らないんだなと思うと、なんだか悔しさが込み上げてきた。
サリアの愛情を受け入れるにせよ、しないにせよ、彼女のことをよく知ってから決めるべきだろう。
それはミーシャにも言えることで、二人のことをもっと深く知っていこうと思った。
だから、ミーシャの好きな物も聞いてみることにした。
「ミーシャはどんなお菓子が好きなんですか?」
「そうですわね……お茶の時間は、いつも瑞々しい果物を使ったお菓子をいただいていました。冒険もいいですが、ここは手堅く、季節の果物ケーキを頼もうかと思います」
なるほど。貴族だった時はそんな風に過ごしていたのか。今度からお茶の時間は、果物を出した方がいいのかな?
でも、昔を思い出して嫌な気持ちになっちゃうかもしれない。
そこはあとで本人に聞いてみよう。
今は、全員分の注文が先だ。
「いいですね。リリアナさんはどうしますか?」
「私はお水と、一番安いのでいいです」
おいおい。
気を遣ってるのかはしらないが、それはかえって盛り下げちゃうぞ。
案の定、サリアとミーシャが顔を顰めていた。
「罪悪感があるのでしょうが、変な遠慮の仕方をしていては、皆に気を遣わせることになりますわよ?」
「もう少しわがままになるべき」
「でも……」
二人に諭されても渋っていたので、私も口を挟むことにした。
「私たちは、お互いのことを知って仲良くするためにここにいます。リリアナさんが気遣い屋であることは伝わりましたが、これでは好きな物が分かりません。どうか、何が好きか教えてくださいませんか?」
リリアナは少し黙っていたけれど、やがて意を決したように発言した。
「私はチョコが好きです。いえ、好きだった、が正しいかもしれません」
好きだった、か。
いや、今も好きなんだろうな。
でも、過去形にした。
ということは……。
「それは没落したことが関わっているんですか?」
「そうです。貴族でなくなってからは、滅多に食べることがなくなりました。両親が許してくれなかったので。ですので、またたっぷりとチョコを食べてみたいです」
そうか。なら、今日くらいは贅沢してもらおう。
「でしたら、このチョコレートづくしパフェと、濃厚チョコケーキを頼むのはいかがですか? 私が奢りますよ」
「二つ、ですか?」
「一個じゃなきゃいけない縛りなんてないですからね。好きな物を食べたいだけ食べたらいいんです」
「そんな欲張りなことしてもいいんですか……?」
いいんです。そういう日だから。
あと、二つが欲張りだなんて言うけどね。
「それを言ったらサリアなんてどうなるんですか。四人分を一人で食べるんですよ。二つなんて可愛い物じゃないですか」
「たしかに……」
リリアナが納得していると、サリアがとんでもないことを言い出した。
「私も二つ食べていい?」
「あなたは食べ切ってからにしなさい!」
「……わかった」
まったく。油断も隙もあったもんじゃない。
嫌だぞ、食べきれなくて残したやつを処理とか。
皆は決まったみたいだから、私も決めないと。
あと飲み物も頼まなければ。
「私はりんごパイを六分の一カットで。あと紅茶を頼もうかと思います。皆さん飲み物はどうしますか?」
そう問うと、ミーシャがすぐに答えた。
「私も紅茶にいたします」
続けてリリアナ。
「口が甘くなりそうなので、私はコーヒーで」
最後にサリア。
「ジャンボクリームソーダで」
おい待て馬鹿野郎。お前は糖分の摂りすぎだ。
「サリア……さすがに飲み物は甘くない物にした方がいいですよ」
「研究には糖分が必要。使えば相殺される」
今日は研究しないだろ。何言ってるんだ。
「サリア様……さすがにそれは……」
「そんなに甘い物を食べたら病気になってしまいますよ?」
ほら見ろ。あまりの頼み方に、二人も引いてる。
「……仕方ない。ならクリームソーダにする」
小さくすればいいってことじゃないんだよ。
糖分チェイサーをやめろって言ってんの。
「サリアも紅茶にしなさい。見てるこっちの胃がもたれます」
「……わかった。おかわりで我慢する」
させねぇよ?
絶対にさせないからな?
隙を狙って頼まないように気をつけないと。
そんな一悶着がありつつも、皆が頼むものは決まったので、店員さんを呼ぶことにした。




