二人に愛想をつかされてしまう前に。
「でしたら、私が支援者になりたいと申し出るのはいかがでしょう?」
「……レイナさんが、あの家に支援ですか?」
リリアナの顔が、訝しげに歪む。
酷いことをしてきた家に支援したいと言われたら、そんな顔になるのも分からなくはないけど。
そのままの意味なわけないでしょうに。
「フリですよ、フリ。支援の話をしたいと近づけば、交渉の場にはつけます」
私がそう提案すると、サリアが口添えをしてきた。
「それなら、私の家の名前も使っていい」
サリアの家か。たしかに名が強いからな。
王子と婚約できるミーシャの家と同格の、高位貴族だ。
何か失礼なことをして来たら、無礼打ち的に物品を接収できそうだし。
権威を使った卑怯な手段ではあるけど、先に悪どいことをしたのは向こうだ。
サリアの家を使うのは申し訳なさがあるけれど、かなり心強いし、本人が言い出したことでもある。
ここは力を借りてもいいだろう。
サリアに頼ることを決めていると、ミーシャは物凄く肩身が狭そうに言葉をこぼした。
「申し訳ありません。私は奴隷に落ちたので、家の力は使えないのですが……それ以外で、お力になれればと思います」
「交渉事なら、恐らくミーシャが一番上手かと思いますよ? サリアの代理人として、交渉のテーブルについて貰えればとても助かります」
「そうですわね。相手に奴隷と見下されなければ、ある程度の成果は得られると思います」
「大丈夫です。交渉が決裂したら、最終的には権威と武力ですよ」
我ながら野蛮だと思うが、お行儀の良さだけでは生きていけない。
やり方が蛮族じみているからか、リリアナは乾いたような笑いをこぼした。
「あはは……あれでも一応家族なので、お手柔らかにお願いします……」
本人はそう言うけれど、リリアナの家族は、私たちの努力を無駄にしようとしたんだ。
いかなる手段を使ってでも取り返させてもらう。
いずれにせよ、物事は早い方がいい。
時間がかかると、物がなくなっている可能性もあるから。
そう思って、なるべく早い時間を提案した。
「では、明日、リリアナさんの元実家にお伺いしましょう。その前に、今住むところや、魔石の入荷をどうにかしないといけませんね」
「別に私は野宿でも……」
何を言っているんだ。自分が美少女の自覚を持て。
「ダメですよ! まさか、もう既にしているなんてこと、ありませんよね?」
「家の裏手で、バレないように寝てました。でも、何度もは難しいかも」
そんなことずっとさせられるか。
それなら、私のとこで保護する。
「新たな家が見つかるまでは、私の部屋を貸します。ミーシャもいいですよね?」
「もちろんです。ただし、寝るのは私と一緒にしてください。あり得ないとは思いますが、万が一レイナ様が暗殺されては、自分でも何をしでかすか分かりませんので」
「私もただ殺すだけじゃ済まない」
おぉ、こわ。雰囲気が冷たくなったのを察したのか、リリアナは慌てて弁明していた。
「そんなことしませんよ! でも、気持ちもわかるので、レイナさんのベッドには入りません!」
「私ですら入ったことない。一緒のベッドは許されない」
「私はありますけどね」
ミーシャがそんなことを言う物だから、一瞬で場が凍りついた。
あれは一瞬だから数えないと思うけど。
でも大枠だけ取り出すと、朝まで寝たように聞こえる。
聞いている方はきっと勘違いしていることだろう。
サリアがミーシャを睨むも、彼女はどこ吹く風。
勝ち誇ったように、胸を張っていた。
それが悔しいのか、サリアは昔のことを掘り返した。
「……私は、レイナに抱きついてもらったことがある」
抱きついたって、そんなことしてな……あぁ、魔力供給か。
たしか、ダンスの時間を捻出するのに、交換条件を出された時だ。
私の魔力が気持ちいいから、全身で浴びせろとせがんできたことがあったな。
っていうかそれ、私じゃなくてサリアから言って来たことだし。
それでもミーシャには効果があったのか、見えない火花を散らしていた。
なんでこんなことで盛り上がれるんだろうな?
お互い事実を拡大した誇張表現だし。
その謎マウント合戦はなんなの?
別に優劣はつけてないのに、どうして喧嘩するのかなぁ……。
「くだらないことで争わないでくださいよ」
「くだらなくない。大事なこと」
「そうですわ。どちらがより親しいのかは、とても重要なことです」
はぁ。前にも注意したはずなんだけど。
「いがみ合うのはやめてくださいと、前にも言いましたよね?」
少し凄んで伝えたけれど、なぜか二人して口答えして来た。
「別に喧嘩じゃない。ただの自慢合戦」
「そうですわ。いわば収集品の見せ合いのような物です」
収集品て。私は珍獣かなにか?
「側から見ると喧嘩に見えるんですよ。ねぇ、リリアナさん?」
「へぇっ!? 私ですか!?」
話を振られると思っていなかったのか、リリアナは素っ頓狂な声を上げた。
……この子面白いな。急に話を振るの、癖になりそう。
「そうです。リリアナさんにも、喧嘩に見えていますよね?」
三人に視線を向けられてリリアナは縮こまり、しどろもどろになりながら答えた。
「あー……えと、そういう見方もあるんじゃないでしょうか?」
すっごい曖昧!
どっちにも配慮して、何も答えてない!
これで調子に乗ったのが、当事者二人だ。
「わかりましたわ。喧嘩に見えるなら、原因がなくなればいいのです。私たちが経験したことを、平等に施していただければ全て解決する。そう思いませんか、サリア様」
「天才。レイナはこれから、二人に同じ対応をすべき」
なんでそこは息ぴったりなの?
それで収まるなら別にいいかなと思う気持ちもあるけど……なんかこの子らの言動って、単純な友情に見えないんだよな。
このまま流されると、とんでもないことになる気がする。
別にいいんじゃないかという気持ちと、まだ早いという気持ちがあって。
ここではっきり受け入れてしまうと、逃げ場がなくなる予感がした。
だから私は、ごまかすように逃げるしかなくて。
「つまり、平等な塩対応をすべきってことですね?」
「違う。どうしてそこでふざけるの?」
「私たちにも我慢の限界というものがあるのですよ?」
なんで私が責められてるみたいになるんだ。
……まぁ、変に逃げようとするのが悪いのかもしれないけれど。
でも怖いんだ。
様々な可能性を潰してしまうのが。
例えば、私に恋人ができたり。
あるいは、二人に大切な人ができたり。
はたまた、二人が私のことが嫌になって離れたくなったり。
最後はあってほしくないけれど、それらの可能性を否定してしまうようで怖いんだ。
彼女らの愛を受け入れたら、その後の自由を奪ってしまうかのような、そんな錯覚に取り憑かれている。
だから、今は白黒はっきりさせたくない。
我ながらクズだとは思うけど、まだ責任を取れる勇気がないんだ……。
いつか添い遂げる覚悟が決まったら、改めてお願いする。
でも今は、もう少しだけ曖昧なままでいたい。
そんな心持ちだから、出てくる言葉もふわふわしたもので。
「そのうち平等に対応しますよ。今は無理です」
二人は不満そうだったけれど、それ以上は言ってこなかった。
ごめんね。私が不甲斐なくて。
大事に思うからこそ、及び腰になるんだ。
そんなこと伝えてないから分かってもらえるはずもないんだけど。
それでも、離れてほしくないと思うのは、ただのわがままなんだと思う。
……いつかははっきりさせて、きちんと伝えないといけないんだろうなぁ。
二人に愛想を尽かされてしまう前に。




