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幸せだったはずの日は、一瞬にして最悪の日になった。(リリアナ)

連続二話投稿一話目

二話目は7時40分に投稿します

 やった! やった!

 レイナさんたちから遊びに誘われちゃった!


 皆と遊びに行けるなんて嬉しいなぁ。

 没落してから友達と呼べる人はいなくなって、いつも一人きりだったもの。


 この状況になってから、分け隔てなく接してくれる人は初めてかもしれないなぁ。


 まだ知り合ったばかりだけど、良い人たちなのはわかるし、もうちょっと仲良くしたい。


 だって初対面だったのに、魔石を余らせた私をみかねて、魔道具にしてくれたもの。


 普通なら見捨てていてもおかしくない。

 勝手に自爆した私なんて、助けなくてもなんら支障はないんだから。

 それでも、手を差し伸べてくれる優しさがある。

 レイナさんは、まさに聖女と言うべき人だ!


 助けてもらうきっかけはミーシャさんだったけれど。

 あの三人の中心はレイナさんみたいだから、彼女がダメと言えば、ダメだったはず。


 見ず知らずの相手の事情を聞いて、手助けできる。

 そういう道義心があるからこそ、聖女に選ばれたのかもしれないね。


 その点で言えば、ミーシャさんもすごかった。


 最初にきっかけを作ってくれたのは彼女だから。

 率先して前に出て、人を助けることができる。


 どうやら一緒にいた二人に命を救ってもらった過去があるからみたいだけど、それでも、同じようにしたいと振る舞いを正せる気高さは、すごいと思う。

 

 それに、彼女の地力もすごい。魔道具制作の際には、たった半日で術式を解明してくれたし。


 レイナさんに対する忠義心からだとしても、それくらい力を尽くせる姿が、かっこいいと思う。


 ……まぁ、そもそもその魔道具がなければ、私はこうして救われていなかったけど。


 魔道具の原型を作ったのは、三人の中で一番とっつき辛いサリアさん。


 独特の雰囲気があると言えばいいのか……身内以外に冷たい感じが、少し苦手かな。

 今回も、二人が手伝っていなければ、私に興味も抱かなかっただろうし。


 魔石を買う時も、要る分を好きなだけ買うところが、ある意味芯が通っていると思う。


 彼女の行動原理はわりと一貫していて、ほとんどがレイナさんのためだ。


 ミーシャさんもレイナさんが中心だけど、どちらかというと、彼女に恥じない自分でありたい、という印象がある。


 サリアさんの方は、いかにレイナさんの役に立って褒められるか、という尺度で測っていそうな感じがする。

 

 だから、行動も突拍子がない。

 ニール様に対して、無茶な実演販売をするし。

 

 正直、ちょっとむかつくところはあるかなぁ。


 ……でも、悪い人ではないことは確かだ。


 促されての事ではあるものの、ちゃんと自分の非を認められるし。


 やってることは天才なんだけど……なんだか子供っぽいところが多いと思う。


 今は距離があるから冷たさを感じるものの、仲良くなったらきっと楽しい人だ。


 そう。私はあの三人と、仲良くしたい。

 だから、一緒に遊べることがとても嬉しい。


 魔道具も全部売れたし、今日はいいことづくめ!


 幸せを感じることがあって、るんるん気分で家に帰る。

 

――しかし、楽しい気分はここまでだった。

 


 家に帰ると、待ち構えていたかのように父に出迎えられる。


「おかえり、リリアナ。今日の売り上げはどうだった?」

「……ぼちぼちだったよ。はい。これ生活費」

 

 商品が売れると、父はこうしてお金をせびって来る。

 貴族だった時の贅沢な生活を忘れられないのか、未だに散財してしまうんだ。

 そして、結構な借金をしている。

 それを返すために、私がお金を持って帰ると、必ず徴収してくるのだ。


 だから、稼いでも稼いでも足りなくて。

 稼ぐと使われ、稼がないと文句を言われる。

 貴族に戻るための資金繰りは、火の車。


 でも、今回はかなり大きな額が入ったから、ようやくこのジレンマから抜け出すチャンスなんだ。


 新しく魔石を買うのに必要だから、いつもの金額以上に渡すことはできない。


 このビジネスチャンスだけは、逃せないから。


 そう思って立ち去ろうとすると、父から肩を掴まれた。


「残りも出しなさい」

「もうないよ。あとは次の商品を仕入れる分なんだから」

「そんなことを言って騙すつもりだな! 魔道具で大儲けしたのは知ってるんだぞ!」


 なんで知ってるの?

 魔道具のことは教えてないのに。


「なんで……」


 思わず出てしまった呟きを肯定と捉えたのか、父は無理矢理荷物を奪おうとして来た。

 しっかり持っていたからなんとか保持できているけれど、向こうのほうが力は強い。

 

 このままだと持っていかれちゃう!

 強めに抵抗するけれど、それが気に食わなかったのか、父はすごい剣幕で怒鳴って来た。


「よこしなさい! 誰が今までお前を育てて来たと思っているんだ!」

「貴族に戻るための大事なお金なの! それが無くなったら戻れなくなっちゃう!」

「あんな制度は役に立たん! 一代貴族なのだから、戻れるのはお前だけだろうが! 自分のためではなく、育ててくれた親のためにお金を使いなさい!」

「ちゃんと恩を返すためにも必要なお金なの! ここで全部使ったら、次はないんだよ!?」


 二人で押し問答をしていると、騒ぎを聞きつけたのか、母がやってきた。


「うるさいわねぇ! 何を騒いでいるの!」

「おぉ、お前か。リリアナがお金を渡そうとしないんだ。手伝ってくれないか?」

「なんで渡さないの、リリアナさん!」

「だからこれは、次の魔道具を作るのに必要なお金なんだって! せっかく軌道に乗っているのに、ここで使ったら全部ダメになる!」

「上手くいったら一人だけ逃げるつもりなんだろう!? そんなことはさせないからな!」


 父は引いてくれる様子がなく、母も味方じゃない。

 どうしようかと思っていると、母がぽつりと言った。


「魔道具っていうのは、リリアナさんが首に下げてるそれのこと?」

「これは……ただのペンダントだよ」


 ここで本当のことを言うと、取られるかもしれない。

 そう思って嘘をついたけれど。


「そう。なら、綺麗だから私が貰ってもいいわよね?」


 かえって逆効果だったみたいで。

 最初から分かっていたかのように、ペンダントを狙いに来た。


「ダメ! これは友達から貰った大切な物なの!」

「嘘をつかないで頂戴! 没落した貴族に友達なんてできるわけないわ! 分かっているのよ? それ、自分用の魔道具なんでしょう!?」

「本当に友達から貰った特別な物なの! だからやめて!」

「特別なら、価値があるってことよね? それなら親に渡すべきよ!」


 母の手をなんとか避けようとしたけど、そうすると、父の方が疎かになって。


 力が緩んだところを、思い切り強奪されてしまった。


 その拍子に、尻餅をついてしまい。


 痛みに呻いていると、母が首元のペンダントに手をかけて来た。


「だからダメだってば!」


 抱くように抵抗するも、手が空いた父が、後ろに回って来て、拘束して来た。


 男である父の力に勝てるはずもなく、両手を無力化される。


 そんな状態で、ペンダントも守れるわけもなく。

 あっさりと、母に持っていかれてしまった。


「良いペンダントねぇ。リリアナさんには勿体無いわ。私が有効活用してあげる」

「返してよ! 本当に大切なの!」


 私の叫びを無視して、母は部屋に戻って行った。

 急いで追いかけようとしたけれど、父に足を引っ掛けられて、地面に打ち付けられる。


「親に抵抗するもんじゃない! そんなに歯向かうなら、出て行きなさい!」


 そう言って、大事なお金を奪っていく父。


 地面に勢いよく打ち付けられて這いつくばる私は、その様子を見送ることしか出来なかった。


 そうして、一人取り残される。

 今しがた争ったのが嘘だったみたいに、しんと、場が静まり返っていた。


 それがまた惨めさを際立てて。

 もう我慢できなくて、涙がでてきた。


「うっ……うぅっ……なんで……なんで全部持っていくの……?」


 その問いに答えてくれる声なんてなくて。

 投げかけた問いは、結局自分にしか返ってこず、無慈悲な事実が心に突き刺さる。


――そんなの、わからないよ。


 せっかく、家族が元の生活に戻れるよう頑張ってたのに。

 どうして途中で台無しにするようなことが起きるの?


 いったいなにがいけなかったの?


 なんで少しの不自由を我慢できないの?


 ふつふつと湧き出して来る思いを吐き出しくて。でも吐き出したところで意味なんてなくて。

 外に出せなかった気持ちは、私の中で、ぐずぐずの感情に変わっていった。


 やりきれない思いが、心の奥底から上って来る。

 立ち上がるより先に、足を引きずりたくなるくらい重たい気持ちが溢れた。


 悔しい……!

 悔しい! 悔しい! 悔しい!


 頑張って稼いだのに!

 皆に手伝って貰ったのに!

 大事な友情の証だったのに!


 全部、全部持っていかれた!


「っ……うあああぁぁ!!」


 泣き叫んでも何も変わらない。

 そんなことは分かっているけれど。

 今だけは、どうしても無理だ。

 こんなの、我慢できない!


 家中に響き渡るくらい慟哭していると、父がやって来て――。


「うるさいぞ! 早く出ていけ!」


 泣き叫ぶ私に追い打ちをかけるように、強く蹴りを入れて来た。


「かっ……はっ……」

 

 あまりの痛みに声も出せなくなる。


 静かになって満足したのか、父は部屋に戻っていった。

 母は、何事もなかったかのように、部屋に引き籠ったまま。


 ……どうして、私はこんな人たちのために頑張っていたんだろう。

 早く家を出ていればよかった。

 そうすれば、こんなことにならなかったのに。

 

 幸せだったはずの日は、一瞬にして最悪の日になった。

 


 

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