「なにって、実演販売」
極大火炎魔法。火柱が立ち上り、熱気があたりを包み込む。
ニールの居た場所が、激しく燃えた。
これに動揺したのがリリアナだ。
彼女はサリアに掴みかかり、大声で叫んだ。
「何してるんですか! 人殺し!」
「死んでない。よく見ろまぬけ」
いらいらしているからか、サリアの口が悪い。
ニールがいた場所に目を向ければ、彼はピンピンしていた。地面は焦げついた跡があるので、攻撃はあったようだが、外傷はひとつたりとも見当たらない。
完全な無傷。
変わったところと言えば、彼の手にはまっていた指輪が砕けたことくらいか。指輪の残骸が、彼の手に所在なさげにくっついている。
ニールが無事なことで安堵したリリアナは、少し冷静さを取り戻しながらサリアに詰め寄った。
「いったい何をしたんですか?」
「なにって、実演販売」
などと言いながら、ピースサインまでする始末。
鬱憤を晴らせたのか、今は清々しい顔をしている。
これに怒ったのがリリアナだ。
サリアに掴みかかったまま彼女を揺さぶり、大きな声で叫んだ。
「こういうことするなら、先に言ってください!」
しかし、サリアは動じない。
「売っている物くらい信頼して。売物を信じられなくて、何が商人なの?」
そう言われると弱かったのか、リリアナは揺するのをやめた。
正論を言われて勢いを削がれながらも、ぼやきが収まらない。それだけ動揺したのだろう。
「……それでも、びっくりするじゃないですか! あんな威力の魔法、誰だって死んだと思いますよ!」
「自分の作った物くらい把握している」
理詰めのサリアと、感情論のリリアナ。
このままだと平行線を辿りそうだから、そろそろ間に入ろう。
「サリアがやったことは、売り方としては間違いではないと思いますが、心の準備というものがあります。皆に説明してからやるべきだったのでは?」
「……でも実際に使うなら、攻撃は唐突に来る。それを再現しただけ」
「本当に理由はそれだけですか? むかついたから、という動機は全く含まれていませんか?」
「それは……あったけど」
口をすぼめて、少し拗ねたように呟くサリア。
悪びれているようには見えないけれど……非を認められるようになっただけ、成長してるのかもな。
でも、このままじゃ彼女のためにならない。
余計なお世話かとも思ったが、注意という体で、たしなめておくことにした。
「自分の実績を馬鹿にされたようで嫌だったのかもしれませんが、相手はお客さんで、リリアナさんの大切な人です。もう少し配慮があればよかったですね。それは、人と付き合う上で必要なことですよ」
「……わかった。次からは気をつける」
「反省しているなら、お二人に謝った方がいいかもしれませんよ?」
それとなく促すと、サリアは素直に従った。
「……ごめんなさい」
リリアナはむすっとしていたけれど。
被害者のはずのニールが、サリアに向かって謝罪した。
「こちらこそ、すまなかった。これだけすごい物を作って疑われたら、僕だって似たようなことをしたくなる。君が間違っているとは思えないさ」
「分かって貰えたならいいけど……」
サリアがもにょもにょした様子で答えると、ニールは佇まいを整えて、話を切り替えた。
「さて。あまり無駄なやり取りは好きじゃないから、単刀直入に言わせてもらう。この魔道具を……そうだな。全部は他の人に申し訳ないから、全種類、五十個ずついただけるだろうか?」
「ごじゅっ……!?」
びっくりしすぎて変な鳴き声みたいなのが出てしまった。恥ずかしい。
私が取り乱したからか、リリアナの方はかえって冷静だった。
「そんなに購入していただけるのですか?」
「あぁ。自分用にも欲しいが、私兵にも配っておきたくてな。急な不意打ちに対応できるのは素晴らしい」
「とてもありがたいです! けれど、一度使うと壊れるようになっているので、お守りのようなものですよ?」
「それでも無いよりは安心感がある。特に、常時気を張っていなければならない貴族にとっては、これ以上ない品物だろう。なぜこんなに在庫があるのか不思議なくらいだ」
そうなんだよね。物自体は良いのだ。
原因があるとしたら――。
「――私たちが一緒にいるせいだと思います。あまり良い噂をされていないので」
「あなたはたしか……次期聖女のレイナさんだったかな? となると、そちらにいるのが……」
「奴隷のミーシャですわ。恐らく、私が原因だと思われます」
「……そうか。こんなことで良い品物が売れないのはもったいないな。こちらで宣伝しておくから、売るのはやめないで欲しい」
在庫が沢山あるから、売り切るまでやめないけど。
宣伝して貰ったくらいで変わるのかなぁ。
まぁ、ありがたいことだから、きちんとお礼はするけど。大口の客だったし。
「ありがとうございます。購入していただいただけでなく、宣伝までしていただくなんて」
「その見返りという訳ではないが、僕の部屋まで品物を運んでもらえないだろうか? 一人で持って帰れる量ではなくてな」
「それくらいでしたら構いません。リリアナさんだけ残して、私たちがお運びいたします」
「私もいかなきゃダメ?」
サリアはなんだか嫌そうにしているけど、お前とリリアナを残すと問題起こしそうだからダメ。
「一番軽い指輪でいいから運んでください」
「……わかった」
私たちで一箱ずつ持ち、ニールの自室まで魔道具を運ぶ。
それ自体はすぐに終わったので、リリアナの元に戻ると――。
魔道具を売っていた場所に、軽い人だかりが出来ていた。




